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日本リーダーパワー史(552)「日露戦争での戦略情報の開祖」福島安正中佐➁こそ「日英同盟」締結への井戸を掘った

   

日本リーダーパワー史(552)

「日露戦争での戦略情報の開祖」福島安正中佐➁

―「シベリア単騎横断」や地球を1周した情報諜報活動の

「福島工作」こそ、日英同盟締結への井戸を掘った

 

 前坂 俊之(ジャーナリスト)

この「イギリス、フランス、ドイツの強国にたよって、対ロシアへの世界情報の支援を受けるべきだ」という福島情報は、その直後にわが国では日清戦争が勃発し、続いてロシア、ドイツ、フランスの「三国干渉問題」が起き、結局はドイツ、フランスの線は消えて、その後はもっぱら英国に頼る以外にはなくなった。ここに日英同盟が対ロシア戦での唯一の頼みの綱となったのである。

日清戦争では福島安正大佐はその講和後の明治28年夏、新に日本領土に編入された台湾の処理に忙殺され、やっと東京に凱旋して来たと思ったら、休む暇もなく、すぐ10月5日に、東南アジア、エジプト、中近東、中央アジア、インドの英国関係の情報収集の旅に密かに出発した。これはいかにも、よそ目からは不思議な旅と見られたが、実は最高機密戦略としての『日英同盟の締結』へむけての秘密工作、情報収集の一環だったのである。すでに日清戦争の最中にもその工作の下準備が参謀本部で進められていた。

この秘密工作の旅行は「亜欧旅行」とよばれ、期間は前回の単騎シベリヤ横断をさらに上回る538日(約18ゕ月間)にものぼり、その報告者は「亜欧日記」と称して旅行先から逐次報告され、最後に集成して部厚い報告書として政府高官、各宮家、元老たちの広範囲の要人たちに配布された。これは日英同盟を結ばせるための外交戦略の前提となる情報であったからだ。

実際に日英同盟の締結にこぎつけたのは1902(明治35)年1月30日であり、日露戦争勃発(1904明治37年2月)の2年前の事である。結局、参謀本部の「福島工作」はその約8年前から情報活動が始まり、5年前の明治30年には政府高官たちに広報工作がなされ着々とレベルアップしていくが、その背景には福島の周到な計画と必要な根回し、高度な情報が積み上げられていたのである。

さらにいえば、明治26年の福島中佐の単騎シベリヤ横断の情報成果がスタートであり、通算10年にわたり「井戸を掘った」福島の情報戦略が見事に成功したのである。

 

日露戦争の勝因は日英軍事インテリジェンスーー日英軍事協商の背景

日露戦争でこれまであまり注目されてこなかったのが、日英同盟の陰に隠された日英軍事協商であり、日英諜報の全面協力であり、これを実現した参謀本部の「福島工作」である。諜報という性格もあって、この軍事密約の締結そのものが秘密裏に処理され、その後も明らかにされてこなかった。

当時、世界を支配していた大英帝国「パックス・ブリタニカ」の秘密は、軍事力と同時にインテリジェンス、情報力にあった。世界中に海底ケーブルをはりめぐらせて電信網を築き、情報機関とロイター通信社を持ち、情報を収集分析して世界制覇したのである。

一八五〇年代、英国は、「世界制覇は海底電信ケーブルにあり」と、海底ケーブルの敷設に取り組んだ。半世紀をついやして明治35年、最後に残った南アフリカ連邦とオーストラリアを海底電信ケーブルでつないで、世界中の植民地とロンドンを結ぶ世界電信網(AII Red Route)を完成させた。そして、この年の1月30 日に日英同盟条約が調印されたのである。

超大国英国がそれまでの「栄光ある孤立」政策を捨て去り、アジアの四等国日本と同盟に踏み切ったことに世界は驚いた。「月とスッポン」「王子と乞食」の結婚にたとえられたが、一年半も続いた南アフリカのボーア戦争で窮地に立っていた英国は、極東アジアで日本と手を組むことで、中国でのイギリスの利権を日本を番犬として死守し、一方の日本は英国を対ロシア戦のうしろ盾にしたのである。

同盟の内容は、日本は英国の中国での権益を擁護し、英国は朝鮮、中国における日本の権益を擁護する。日英いずれかが一国と交戦した場合は同盟国は中立を守り、二国以上の場合は参戦を義務付けていた。これが露仏同盟に対抗して、フランスの日露戦争への参戦の歯止めとなり、ヨーロッパへの戦争の波及を防ぐ結果となった。

日本は、日露戦争になった場合に満洲での英国陸軍の参戦を強く要請したが、これは拒否され、英国は中立を維持することになる。

イギリス、フランスとも世界一、二の植民地帝国であり、世界の重要な拠点、港はいずれかががおさえていた。英国はこの全海域に海底ケーブルを敷設したわけで、日露戦争が勃発すると、一応中立を装いながら軍事協商の密約によって諜報面や、ロシア海軍へのサボタージュ、バルチック艦隊の寄港、燃料の石炭の補給などを妨害して、艦隊の日本到着を遅らせた。

フランスも、この条項にしぼられて、同盟国ロシアへの軍事、非軍事の協力にたが、足かせをはめられたため、日英の外交的な勝利につながった。

日英軍事協商の日本側代表の福島安正少将は後年、「この軍事協商こそが陸軍が日露戦争に踏み切る最大のバックボーンになったものであり、英国から提供された対ロシア情報こそ日本が受けた利益の最大のものだった」と述懐している(佐藤守男「情報戦争と参謀本部」芙蓉書房出版 (2011)。

日英同盟成立から約四カ月たった五月十四日、海軍横須賀鎮守府内で英国側からブリッジ東洋艦隊司令長官、日本側から山本権兵衛海相、陸軍からは田村恰与造参謀本部次長、福島安正同第二部次長らが出席して、日英軍事協商の秘密会議が開かれた。

続いて七月七日にはイギリス陸軍省で、伊集院五郎海軍軍令部次長、福島らが出席して日英軍事協商に合意。おもに海軍の協力が中心の、次の「陸海軍協約」八項目を締結した。

(一) 共同信号法を定めること。

(二)電信用共同暗号を定めること。

(三)情報を交換すること。

(四)戦時における石炭(日本炭、カーディフ炭)の供給方法を定めること。

(五) 戦時陸軍輸送におけるイギリス船の雇用をはかること

(六)艦船に対する入渠修繕(にゆうきょ)の便宜供与をはかること。

(七)戦時両国の官報をイギリスの電信で送付すること。

(八)イギリス側は予備海底ケーブルの敷設につとめること。

、協定の過半が通信関連の問題であった、日英の参謀本部のトップは、きたるべき日露戦争は「情報戦争」「インテリジェンス戦争」であるという共通認識を持っていたのだ。

戦争にあたって一番重要なことは、兵力や武器とともに情報とその分析である。情報収集のためには、情報通信のインフラ(海底ケーブル、有線通信) を整備し、通信のプロトコル (通信規約)を決め、暗号を共同化して、諜報した内容(コンテンツ)を通信して送受信する。このインフラとソフト (暗号、諜報) は、インテリジェンスの両面である。

どんな秘密情報をスパイしたとしても、それを速報する通信手段がなくては何の役にも立たない。戦争の歴史は、通信、コミュニケーションの歴史でもある。ノロシ、タイコ、ホラガイ、早馬、伝書ハトなどがいち早く敵情報を知らせる通信手段に使われてきたが、日露戦争を目前にして電気、有線通信、無線通信、電報、電話、写真などの近代電気通信技術が一挙に発達し、通信スピードは飛躍的に向上した。

児玉源太郎の葬儀の際に後藤新平が「百年に一人の知将だった」と述べた。児玉総参謀長は、この情報通信の重要性をいち早く認識していた稀有のインテリジェンスの持ち主だった。「日本参謀本部の父」川上操六も、日清戦争直前に東京・下関間の直通電信線、朝鮮半島では釜山二月城間の電信線を最初に提案し、児玉が先頭に立って敷いた九州-台湾間海底ケーブルも川上が深く関与していた。

日英軍事協商でもう一つのポイントは、諜報の交換である。

<参考、引用文献―島貫重節著「長期戦略のなかの諜報活動-福島安正の先見」(月刊「歴史と人物」1983年7月号)

前坂俊之「明石元二郎大佐―日露インテリジェンス戦争を制した天才参謀」(新人物往来社、2011年)>

つづく

 - 現代史研究

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