前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

<新刊> 前坂 俊之編解説 『軍談 秋山真之の日露戦争回顧録』新人物文庫(2010年2月刊)

   

前坂 俊之編解説
『軍談 秋山真之の日露戦争回顧録』新人物文庫(2010年2月刊)
<目次>
第1章    軍談 海軍少将・秋山真之 
 『黄海海戦の回想』『日本海海戦の回想』『支那と対比して日本国民性の自覚』
第2章 海 軍

 
『開戦以前の海軍の動静』開戦の大命は降る』東郷元帥と鯛釣り』旅順港外へ夜襲』『旅順港外の監視戦』戦艦「初瀬」の沈んだ時』旅順の閉塞(第1回および第二回)』

旅順攻撃の海陸聯合作戦』蔚山沖の海戦(八月十四日)』東郷・乃木両将、涙の会見』大海戦を予想し各艦を修理』日本海の大海戦を語る』「三笠」艦橋の東郷司令長官』戦いすんで』その夜の夜襲戦』敵司令官を捕獲する』『ついに講和談判開く』休戦条約と島村司令官』日露大海戦の教えた訓練』

第3章 陸 軍
『総司令部秘話』児玉源太郎大将の思い出』『児玉総参謀長の旅順行秘話』大山総司令官と児玉総参謀長』秋山・豊辺両将の逸話』旅順攻略の跡を偲ぶ』当時の日本軍の兵器』奉天城を落とすまで』明治天皇と日露大戦』
 第4章 ロシア
『旅順攻防』『日本海海戦』
 
 
<解説>
 
                 前坂 俊之
               (静岡県立大学名誉教授)
 
本書の採録した記録は順番に上げますと
① 秋山真之「軍談」(大正6年、実業の日本社)の中から、「黄海海戦の回想」「日本海海戦の回想」「支那と対比して日本国民の自覚」の3文章。
② 「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」(現・毎日新聞)の「参戦二十提督日露海戦を語る」「参戦二十将星日露大戦を語る」(いずれも昭和10年、同社刊)の中から、なぜ、日露戦争が起きたのか、開戦から陸上、海上での戦闘の実態、その知られざる戦闘の内幕、大山巌、児玉源太郎、東郷平八郎らの指揮のぶりやエピソード、裏話、最後にはロシア側からみた開戦当時の旅順、日本海海戦の模様は「ナヒモフ」観戦記などを紹介し、開戦を両側から浮き彫りにしました。
 
「黄海海戦の回想」「日本海海戦の回想」は、戦機は「これを謀るは人にあり、これをなすは天にあり」と言われるように、天佑も重なって奇跡的な大勝利となった海戦を簡潔、的確に総括しています。
 
また、「支那と対比して日本国民の自覚」は秋山が支那を視察した体験をもとに両国の国民性、民族性を比較、その感情,思考形態、行動様式の違い、コミュニケーションギャップ、パーセプションギャップを冷静に指摘しており、秋山の中国認識の高さがうかがえる一文です。
 
本書の大部分か「参戦二十提督日露海戦を語る」「参戦二十将星日露大戦を語る」の証言から採録しましたが、これは昭和10(1935)年に日露戦争30周年の大座談会として企画され、単行本として刊行されたものです。

日露戦争30周年のこの年は、①国際連盟脱退が発効、正式に断絶する、②ワシントン、ロンドン両軍縮会議が同11年に期限切れとなる海軍無条約時代に突入し、“昭和10、11年危機”が声高に叫ばれ年でした。このため軍部が旗をふって軍拡建艦競争、大艦巨砲建造のキャンペーンを開始し、各新聞社は大々的にこれに協賛して軍首脳による日露戦争回顧を企画しています。

朝日は「日露戦争回顧座談会」「回顧30年日露大戦を語る」などを紙面で連載、それを単行本「名将回顧日露大戦秘史、陸戦篇、海戦篇」で刊行、時事も「日露戦争を語るー 陸軍,海軍,外交、財政の巻」として出版しています。
中でも、この毎日の2冊は証言者も、ボリュームも一番多く、知られざる日露戦争の真実を30年後に「今だから話そう」的に語ったものが多く、本書に採録しました。
 
この毎日本では30年経過した直接当事者の思い出話であるために比較的自由に日露戦争の内幕を語っており、今、読み返しても直接当事者の語る迫真性が伝わってきます。
上泉徳弥中将(日露戦当時・大本営運輸通信部参謀)の開戦以前の海軍の動静、三国干渉の時に、露国軍艦に敬意を表せといわれて涙した。その悔しさを忘れないために髯を生やしたことなど陸海軍将校の無念さを語っています。
 
海陸軍の開戦促進論者が集まって秘密結社『湖月組』を結成、この中には秋山真之も加入していたが、外務省の山座円次郎政務局長、本多熊太郎らもはいっており、徒党を組んで山本権兵衛海軍大臣のところにも押しかけて開戦を談判したり、東奔西走して開戦へ導いたことなどをことなど述べています。
 
開戦には慎重で、恐露病のレッテルをはられた伊藤博文枢密院議長にたいして山座が酔っ払って「伊藤公を暗殺しちまえ』と公言、それを伝え聞いた伊藤が激怒して山座を「首にしろ」とどなり、山座が平謝りに謝ってことなきを得たこと、

開戦前に、東郷平八郎が九十九島付近で鯛つりに漁船で出かけて2人で二百数十匹も釣りあげる大漁で、これは吉兆だといったエピソードなども興味が尽きない。

戦場での大山厳、児玉源太郎、乃木希典、東郷平八郎、秋山らリーダーたちの態度を直近でみた部下たちの証言にはそれぞれの人間性が映し出されている。100年に一度の戦略家といわれた児玉は月給袋を受け取らず、それで部下への食糧や衣服をかって与えていたこと、外国の観戦武官に懇切に対応して、「毛唐」と呼んだ部下を激しく叱責したりで叱り飛ばしたり、大連では「火葬場や墓地をりっぱにせよ」とか数十項目にもわたって的確に指示するなど民政に通じていたと証言しているのも面白い。
 
また大山厳は戦場でも毎日きまったように昼寝する悠々迫らぬ態度で、部下にすべて任せきるという大度量の統帥ぶりで、戦後に凱旋した時には、「戦というものはつらいものじゃ」「戦後のお祝い酒は戦死者の血のようだ」と息子に吐き出すように話していた、という。
(以下省略)・・・・

 - 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報(275) ◎『除染作業を見た双葉郡広野町_』 『原発事故1年_Jビレッジ周辺_』 『2号機水位 格納容器底から60センチ 」

 速報(275)『日本のメルトダウン』  ◎『除染作業を見た …

no image
『リーダーシップの日本近現代史]』(23)記事再録/日本リーダーパワー史(76)辛亥革命百年(14)中国革命の生みの親・孫文を純粋に助けたのは宮崎滔天

    2010/07/20 /日本リーダーパワー …

 ★5日本リーダーパワー史(776)ー 『アジア近現代史復習問題』 福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(9)『金正男暗殺事件をみると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」● 『(日本軍の出兵に対して)彼等の驚愕想ふ可し』は現在の日中韓北朝鮮外交 に通じる卓見、戦略分析である』★『近年、日本のアジア政略は勉めて平和を旨とし事を好まず、朝鮮は明治十七年の甲申事変以来、 殆んど放擲し、清国関係には最も注意して事の穏便を謀り、言ふべきことをいわず、万事円滑 を旨としたのは、東洋の平和のため』★『傲慢なる清国人らの眼を以て見れば、日本人は他の威力に畏縮して恐るに足らずと我を侮り、傍若無人の挙動を演じている』

  ★5日本リーダーパワー史(776)ー   ★『アジア近現代史復習問題』 福沢 …

「Z世代への遺言」★「日本を救った奇跡の男ー鈴木貫太郎首相①』★『昭和天皇の「聖断』を阿吽の呼吸でくみ取り、『玄黙戦略」でわずか4ヵ月で80年前終戦を実現』★『太平洋は神がくれた平和の海でトレード(貿易)のためのもの。これを戦争の海に使ったならば、両国ともに天罰を受ける』

  2024/08/16   記事転載再編集」   …

「世界最先端技術<見える化>チャンネル」『TSMC関連最新動画ニュース』★『半導体受託生産の世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)はソニーグループの半導体製造小会社の横の熊本県菊池郡菊陽町に建設予定。熊本空港、熊本市、阿蘇山との地理的関係などを現地レポートする。

「世界最先端技術<見える化>チャンネル」   工場建設のための造成工事 …

no image
日本リーダーパワー史(353)野田総理のリーダーシップ>『石原氏の尖閣発言なぜ首相は止めぬ』『日本は15年はかかる』(キッシンジャー)

  日本リーダーパワー史(353)              …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(128)/記事再録★『明治のトップリーダーのインテリジェンスー日露戦争開戦前の大山厳、山本権兵衛の「軍配問答」(出口戦略)にみるリーダーパワー(指導力)』★『アベクロミクス、地球儀外交には出口戦略があるのか!?』★『日韓衝突は近衛外交の「国民政府は相手にせず』の轍を踏んではならない』

 2009/08/21  日本リーダーパワー史 ⑩ …

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(152)』『イスラエルに魅せられて再訪(2016/1)」(2)『聖ペテロ教会 とケドゥミーム広場』(ヤッフォ・テルアビブ地区)

『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(152)』  『イスラエルに魅 …

『Z世代のための<憲政の神様・尾崎咢堂の語る「対中国・韓国論⑦」の講義⑮』★『本邦の朝鮮に対して施すべき政策を論ず』★『朝鮮の独立を認め、日本を敵視せず、トルコ、ベトナム、清仏戦争の失敗に学ばねば、清国は滅亡する(尾崎の予言)』

    2018/02/14  『本邦の …

★『明治裏面史』 -『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊺★『世界史を変えた男・明石元二郎』-『日露戦争勃発。児玉から「至急、ストックホルムに行き、ロシア反体制革命家を扇動して、ポーランド人と一体となって武力闘争を起こせ」との秘密命令を受けた』★『ロシアの植民地なった周辺各民族の革命家を一堂に集めて組織、資金提供、武器援助をしてロシア革命に火をつけた奇跡の男』★『「明石一人で20万人の兵に相当する」とドイツ皇帝は驚嘆した』

 『明治裏面史』 ★ 『日清、日露戦争に勝利した明治人のリーダーパワー, リスク …