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池田龍夫のマスコミ時評(29) 「普天間基地移設」棚上げの混乱-―「沖縄の民意」に応えない菅政権―

   

池田龍夫のマスコミ時評(29)
 
「普天間基地移設」棚上げの混乱
―「沖縄の民意」に応えない菅政権―
ジャーナリスト・池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
「菅直人・再改造内閣」が一月十四日発足したが、通常国会を控えて野党攻勢を封じるための政略的改造の臭いふんぷんである。

相次ぐ失言によって参院でボイコットされた仙石由人官房長官を枝野幸男氏に交代させざるを得なかったことは仕方ないにしても、反民主党の急先鋒だった与謝野馨氏(『たちあがれ日本』を突然離党)を内閣の主要ポスト・経済財政相に起用したことに衝撃が走った。政権浮揚のため、なりふり構わぬ菅首相の狼狽ぶりを示すもので、「政治の劣化」を危惧する声は高まり、年明け早々の日本に暗雲が垂れ込めている。

 
菅首相が改造政権誕生の会見で強調したのは、①社会保障と税制を一体的に改革する、②環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に参加して経済成長の基盤を整える――の二点。普天間基地や防衛問題などへの言及は一切なく、再スタートの決意表明としてはまことに物足りなかった。在京六紙を見る限り、内政問題を中心に論評しているので、手詰まりの「日米関係」など、最近気になる動きを点検して、考察してみたい。
 
「辺野古移設はベター」「いや、バッドだ」
 
菅首相は十二月十七~十八両日、沖縄県を訪問、仲井真弘多知事と会談した。仲井真氏は十一月の県知事選で「条件付きで普天間基地県内移設容認」の立場を変え、「基地負担を全国で分かち合うべきだ」として県外移設を公約して再選を果たしたばかり。

沖縄には在日米軍の74%が集中しており、普天間基地を県外移設したとしても、集中度が72%に下がるだけなのに、沖縄県民の悲願を逆撫でするような首相発言が飛び出した。「県外・国外移設が実現できず、申し訳ない」と儀礼的に述べたあと、「普天間の危険性除去を検討した結果、県民にとって辺野古への移設はベストではないが、ベターな選択ではないか」との発言に仲井真氏は絶句した。

 
会談後叫んだ「ベターというのは(首相の)勘違いだ。県内移設はノーだ。バッドの世界だ」という言葉に、多くの国民は共感し、「沖縄の民意を背に、対米交渉に全力を挙げ難局を打開する」との決意表明がなかったことに失望、「沖縄差別」の怒りを増幅させたに違いない。
「菅首相は『普天間移設を強引にするつもりはない。しっかり誠意を持って話し合う』と強調したが、時間がたてば、容認に変わると思っていたら大間違いだ。沖縄を説得する誠意とエネルギーは、米国に向けて使うべきだ」(琉球新報12・18)……「菅政権の思惑と沖縄の現実の隔たりは大きくなるばかりである。にもかかわらず、普天間問題について首相は今回も、打開に向けた方向性を県側に提示することができなかった。
 
近い将来、沖縄が『県内移設』受け入れに転換するとは考えにくい。残るのは普天間飛行場周辺の危険性の固定化である」(『毎日』12・18)と述べた両社説の趣旨を、しっかり受け止めてもらいたい。
 
米国主導の日米韓「共通戦略目標」
 
日米両政府首脳が年末から年始にかけ相互訪問し、「沖縄問題と防衛論議」を頻繁に話し合っている。手詰まりの外交関係修復を模索しているに違いないが、「日米同盟深化」の名のもとに、強引とも思える取り決めが罷り通っていないか。
 
菅内閣は十二月十四日「在日米軍駐留経費の日本側負担」(思いやり予算)について、「二〇一五年度までの五年間、現行水準を維持することに日米双方が合意したと発表した。思いやり予算は二〇〇〇年度から減ってきたものの、一〇年度の総額は一八八一億円。この額を一一年度から一五年度まで日本側が負担するとの取り決めである。

そもそも、民主党は野党時代の〇八年「思いやり予算特別協定」に反対し、参院で否決に持ち込んだ前歴を持つ。与党になった民主党が、米政府から「日本周辺の安全保障環境の悪化」を理由に〝削減〟はおろか、「五年間、現行水準維持」という約束を呑まされてしまったのである。国会で真剣に論議した形跡もないまま、このような重大決定に踏み切った民主党の〝外交敗北〟は明らかだ。
 

キャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は一月十三日、ワシントンで朝日新聞の単独会見に応じ「普天間移設問題について、我々は再び期限や時期を設けることはしない」と明言した。『朝日』1・15朝刊によると、「我々は昨年、普天間問題に焦点を当てすぎたために、日米間の多くの課題を進展させることが困難になった。沖縄問題について前進を続けるが、より緊急性の高い戦略的で地球規模の問題にも目を向ける必要がある」と、キャンベル氏は語っている。
 
一方、ゲーツ国防長官は一月十三日来日、菅首相、前原誠司外相、北沢俊美防衛相と相次ぎ会談。先のキャンベル氏と符節を合するような発言を繰り返した。「米国は日本の防衛問題ばかりでなく、東アジア地域の事態も計画する。米軍の軍事力を北東アジアで維持し、東南アジアで拡大する」と言い切ったが、日米韓の防衛協力を強化し「共通戦略目標」の構築を米側が急いでいる証拠である。

そこには「14年の普天間移設完了の見込みはなく、日本の国内問題」との米側判断の冷徹さが透けて見える。こんな状況なのに、「海兵隊のグアム移転に伴うインフラ整備の出資枠について日米政府が合意した」(『朝日』12・21夕刊)という。

 
日本政府が国際協力銀行(JBIC)に出資、低利の貸し出しで合意したもので、11年度予算案に出資金約370億円が計上されている。12年度以降の出資金額は改めて検討するとのことで、肝心の「普天間移設は棚上げ状態」なのに、米国側へカネが流れるとは、とんでもない話である。
 とにかく、共通戦略目標も沖縄基地問題も米政府が描いたシナリオ通りに動いており、日本外交の主体性は感じられない。「日米両政府は菅首相訪米の際、同盟深化に関する共同声明発表を目指しているが、中国・北朝鮮情勢など安全保障環境の変化に合わせた共通戦略目標の更新を優先させ、普天間問題の進展は棚上げする方針だ」との指摘(『毎日』1・15朝刊)は、残念ながら〝米国追従〟の日本外交の姿であろう。
 
 さらに付け加えれば、北沢防衛相がゲーツ米国防長官との会談で、14年をメドに共同開発中の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」の日米以外の国への移転について、今年中に結論を出す考えを表明、ゲーツ氏も「第三国移転は有意義だ」と各紙が伝えているが、これまた米国の強い要請に応えたものに違いない。

米側はイランの弾道ミサイルに備えて欧州輸出を狙っているとのことだが、「武器輸出三原則」に抵触する重大問題であり、これを突破口にして〝武器輸出解禁〟に道を開く愚は阻止しなければならない

 
「海兵隊の任務は終わった」
 
 最後に、「経済危機が揺るがす在外米軍体制」と題する論稿(『世界』2月号=与那嶺路代・琉球新報ワシントン特派員)の鋭い指摘に刮目したので、『軍事環境に改善の嵐』という項の一部を紹介して、参考に供したい。
 
 「ゲーツ米国防長官は軍事費について、今後五年間で一〇〇〇億㌦を削減すると発表。さらにはその延長線上で、軍の役割についても手を付けようとしている。最近のイラク、アフガニスタンでの戦いにおける海兵隊の『第二の陸軍化』に対してだ。海から敵地に乗り込み、機動性に富む能力は『殴りこみ部隊』と呼ばれる海兵隊の特徴である。

だが、最近の彼らといえば、軍用機で空から入国し、身軽に移動できない重装備で陸上で戦うなど、本来の性質からずれてきている。部隊は肥大化し、経費も右肩上がりだ。そんな状況に懸念を抱いたゲーツ長官は昨年五月、陸軍に向けた演説でこう本音をぶちまけた。『海兵隊の役割は、陸軍と何が違うのか』。海兵隊が最後に海から奇襲攻撃をかけたのは、朝鮮戦争の仁川上陸作戦。以降六〇年もの間、海兵隊が『殴りこみ』をしたことがないと説明し、シンプルにこう疑問を投げかけた。

『海兵隊の任務って何?』。その後ゲーツ長官は八月の講演で、世界を取り巻く脅威の変化や兵器の革新などを踏まえ、海外遠征軍を含めた海兵隊の体制を見直すよう、海軍と海兵隊の指導者に指示したことを明らかにした。…9・11事件以降肥大化した軍事費と軍の役割、特に海外駐留の意義について、本格的に議論されようとしている」。
 

 海兵隊の任務が終わったのに、「抑止論」を徒に喧伝して、「普天間基地撤去」に向けた対米交渉をためらう弱腰外交が情けない。「従属国家」からの脱皮こそ、「日本再生」の道である。
 
        (池田龍夫=ジャーナリスト)
 
 
 

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