前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『日中韓150年戦争史』㊲ ロシア皇太子暗殺未遂事件(大津事件)英紙『ノース・チャイナ・ヘラルド』1891(明治24)5月

      2015/01/01

  

『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』

日中韓のパーセプションギャップの研究』

1891(明治24)年515日 英紙『ノース・チャイナ・ヘラルド』

 

ロシア皇太子暗殺未遂事件(大津事件)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B4%A5%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 

 

日本政府は大きな痛手を被った。昨日の本紙号外でお伝えしたように,本社横浜通信員の電報によれば,京都の北琵琶湖の南端に位置する繁華な町大津で,津田三蔵という名の巡査によるロシア皇太子暗殺未遂事件があった。

 

皇太子は顔に負傷したが,幸い大事には至らなかった。皇帝はこの知らせを受けると直ちに現地へ向かった。この卑劣な企てが成功していたら.この国にとって拭うことのできない汚点となっただろう。しかし未遂に終わったとはいえ,日本がこの痛手から立ち直るには相当時間がかかるだろう。

 

 この知らせを受けたペテルプルグの驚愕が想像される。皇太子が今回の旅行に出発するにあたってはその身の安全について重大な不安があり,ロシア皇后の懸念をおもんばかって計画は中止寸前まで行った。本紙の知るところでは,旅行中の皇太子の動向は深い憂慮と共に見守られていた。皇太子の所在と体調に関する報告が毎日ぺテルプルグに打電された。

 

1度,報告が何かの都合で遅れたことがあり,大騒ぎになったと聞いている。インド訪問中の皇太子の身の安全について不安があったことは当然だ。イギリス政府ができる限りの配慮をすることは確かだが,インドには宗教的狂信者や政治的狂信者がいっぱいいる。

 

どこかのアフガニスタン人か中央アジア人が.自分か家族か部族がロシア人に迫害されたと思って,ロシア皇帝の長子にその復讐をしようとする可能性は常にある。ロシア皇帝の法定相続人である皇太子が無事にインドを離れたと知ったときは,イギリスもロシアも安堵の胸をなでおろしたに違いない。

 

海峡植民地,ジャワ,シャム,フランス領インドシナ,香港では危険はそれほど大きくなかった。だが中国では再び,皇太子の身の安全にいささか不安があったはずだ。まず第1に,中国が皇太子にまともな礼を尽くすかどうか疑わしいということがあり,それが妃憂に終わったとしても今度は,中国人がロシア人を天敵とみなしているということがある。

 

ロシア人は北から中国に攻め寄せて中国の属国である朝鮮を奪おうといっも機会をうかがっている,と中国人は信じているのだ。中国人は政治的動機から暗殺に走ることはあまりないとはいえ,われわれが覚えている限りでは.ある監督が南京の衝門で暗殺された事件が思い出される。

 

しかし,ロシア皇太子は中国旅行を無事に終え,漢ロでの歓迎と武昌での総督主催の歓迎式は,皇太子の今回の旅行で最も華やかなものだった。

 

 皇太子がアジア大陸を発って,ロシア皇室は大いに安心したに違いない。皇太子は日本ではきわめて友好的な歓迎を受けることがわかっていた。日本人は式典や祝賀会が大好きで,日本を訪問する外国の賓客を礼を尽くしてもてなすことにとりわけ熱心だ。

 

外国の賓客をこれほど盛大に歓迎する国はない。日本政府の大きな狙いと目的は日本が西洋諸国と対等の扱いを受ける権利を持っていることを示し,西洋の国と同じく,自国領土内での主権を認めるような条約改正を実現することにある。

 

日本中どこでも外国人の生命と財産はイギリスやフランスと同じように安全であることを見せようと,日本政府はあらゆる手を尽くしてきた。30年前,外国人襲撃事件を引き起こす原因となった「接夷」の感情.つまり外国人に対する憎悪は完全に払拭され.治外法権はもう必要でないと示そうとしてきた。

 

日本を訪れる外国人旅行者は政府の努力の成果を大いに認め,日本人は皆礼儀正しく親切だという評判ができた。学生や壮士がときどき東京で騒ぎを起こしたり,あちこちで外国人宣教師が襲われたりしてはいるが,全体として見れば日本は外国人旅行者にとって全く安全な国になった。ロシア皇帝が.ある意味で日本政府に十分満足のゆく日露条約改正に同意したとの見方がもっぱらなだけに,今回の皇太子襲撃事件はきわめて不幸なことだ。

政府は友好的であっても.残念ながらまだ日本には狂信的な排外主義者がいる。津田三蔵がその1人であることは疑いない。

 

この件に関しては日本の現地語新聞にも責任がないわけではない。ロシア皇太子の訪日よりだいぶ前に一部の現地紙が,今回の皇太子の訪問は伝えられているような無害なものではなく,本当の目的は日本の国土の無防備さを偵察することにある,と警告した。

 

中国と同じく日本はロシアの侵攻に対して漠然とした恐怖を抱いているから,

津田三蔵がこの話題を耳にしていろいろ考え,祖国のために自分の命をささげるのは名誉あることだとの結論に達したこともあり得なくはない。

 

こうした狂信者は,自分の行為が祖国に致命傷を与えやことがわからない。皇太子は散であり,これを抹殺するのは愛国的行為だ.と津田は信じたのだろう。これまでのところ事実関係の情報はほとんど入ってきてト、ないため,以上のことは主に推測であるが.かなり確率は高いだろう。

 

 ロシア皇太子が命に別条なかったことは本紙としても喜びに堪えない。これほど人なつこく,実際に接しただれからも好かれる前途洋々たる若い皇太子が,一生の思い出となる旅行,この先2度と実現できないに違いない旅行の終り近くになって,自分が悪いわけでもないのに,ただロシア皇帝の息子だからという理由であたら暗殺者の手にかかって命を落としたとしたら悲惨なことだったろう。

 

また,日本政府と日本国民に対して,本紙は同情に堪えない。文明国の仲間として受け入れられるにふさわしい国民であることを示そうと日本が続けてきた努力が,気の狂った一巡査の行動によって,このように半ば相殺されてしまうとは悲惨なことだ。

 

もちろん.ロシアが日本に報復するおそれはないが,事件が日本の自尊心に与えた打撃は大変深刻だ。国の財力との比率で見れば,東洋諸国の中で最も力を傾けてロシア皇太子にふさわしい歓迎をしたのは日本だった。しかも.皇太子が命を狙われた国は日本しかないのだ。

 

 - 現代史研究 , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(127)/記事再録★『「長崎の平和祈念像」を創った彫刻家・北村西望(102歳)★『わたしは天才ではないから、人より五倍も十倍もかかるのです」★「いい仕事をするには長生きをしなければならない』★ 『たゆまざる 歩み恐ろし カタツムリ』★『『日々継続、毎日毎日積み重ね,創造し続けていくと、カタツムリの目に見えないゆっくりした動きでも、1年、2年、10年、50年で膨大なものができていくのだ。』

     2018/01/17百歳学入門 …

no image
★『地球史上最大級か? 台風19号の勢力に世界が注目(米航空宇宙局(NASA)と海洋大気庁調べ)』★『緊急スーパー台風19号の進路速報!★【動画解説】台風19号 東海・関東に上陸の見込み(10/12/am7/09)★『10/11/am730の稲村ヶ崎ビッグサーフィン動画公開』★『地球史上最大級か? 衛星写真に騒然』

2019年9月23日、国連で開催された「国連気候行動サミット」では若者世代の代表 …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース]④」『開戦32日前の「英タイムズ」―『日英同盟から英国は日本が抹殺されるのを座視しない』●『極東の支配がロシアに奪われるなら、日英同盟から英国は 日本が抹殺されたり,永久に二流国の地位に下げられる のを座視しない』

    2017/01/12  『日本戦 …

no image
日本リーダーパワー史(763)今回の金正男暗殺事件を見ると、130年前の「朝鮮独立党の金玉均ら」をバックアップして裏切られた結果、「脱亜論」へと一転した福沢諭吉の転換理由がよくわかる➀『金正男氏“暗殺”に「北偵察総局」関与浮上 次のターゲットに息子の名前も…』●『狂乱の正恩氏、「米中密約」でささやかれる米軍斬首作戦 正男氏毒殺の女工作員 すでに死亡情報も』

日本リーダーパワー史(763) 今回の金正男暗殺事件を見ると、130年前の「朝鮮 …

no image
速報(173)『日本のメルトダウン』『明日の日本の現実!ーギリシャ国民を待ち受ける苦難』【社説明責任を回避する日本企業』

速報(173)『日本のメルトダウン』   『明日の日本の現実!-ギリシ …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(137)』「VWの新会長人事に関して、痛烈に罵倒。ドイツ人の内奧の闇を見る思い、日本人はここまで悪にはなれないのでは?」(エコノミスト誌)

   『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ウオッチ(137)』   Can …

no image
記事再録/2008年3月15日/『藤田嗣治とパリの女たち』①「最初の結婚は美術教師・鴇田登美子、2度目は「モンパルナスの大姉御」のフェルナンド・バレー、3度目は「ユキ」と名づけた美しく繊細な21歳のリュシー・バドゥ』★『夜は『エ・コールド・パリ』の仲間たちと乱ちきパーティーで「フーフー(お調子者)」といわれたほど奇行乱行をしながら、昼間は、毎日14時間以上もキャンバスと格闘していた

    2008年3月15日 藤田嗣治とパリの女たち     …

no image
知的巨人の百歳学(163)/ー人気記事再録/『笑う門には福来る、ジョークを飛ばせば長生きするよ』★『昭和の大宰相・吉田茂のジョーク集』 ③ 吉田首相は五次にわたる内閣で、実数79人、延べ114人の大臣を『粗製乱造』した。その『吉田ワンマン学校」で、「果たしてステーツマン(真の政治家、国士)を何人つくったのか?」

2016/02/10/日本リーダーパワー史(663) 『昭和の大宰相・吉田茂のジ …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉙』ロボット開発に必要な要素技術は日本に一番集中しており、医療、介護ロボットが 現実化

    『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉙ …

no image
速報(199)●『小出裕章さんの北九州市での講演』◎『上関の町長選挙の結果』★『裁判官の世界も、国を困らせない』

速報(199)『日本のメルトダウン』 ●『小出裕章さんの北九州市での講演』◎『上 …