梁山泊座談会『若者よ、田舎へ帰ろう!「3・11」1周年――日本はいかなる道を進むべきか④終』『日本主義』2012年春号
《日比谷梁山泊座談会第1弾》
超元気雑誌『日本主義』2012年春号(3月15日発売)
若者よ、田舎へ帰ろう!「3・11」1周年―
―日本はいかなる道を進むべきか④
―日本はいかなる道を進むべきか④
問題点ははっきり分かっている。今の政治経済社会システムが機能不全に陥り、どうしようもないというのは、みんなはっきり分かっている。残されているのは行動である。若者は田舎に帰り、田畑を肥やし山河を守れ! 老人は都会に残り法匪(ほうひ)と戦え!
[出席者(五十音順)]
石飛仁(出雲古代史研究者)
岡敬三(航海史研究者)
楠原 佑介(地名研究者)
小宮 義宏(プロデューサー)
西来路秀彦(近代アジア史研究者・法政大学講師)
長沼 節夫(ジャーナリスト)
前坂 俊之(ジャーナリスト・静岡県立大学名誉教授)
本誌編集長・司会 (山岸修)
地方の自立なくして日本の再生なし
本誌 先ほど、岡さんから大阪の橋下さんの話が出てきましたが、今日の日本の混迷は、政治的なリーダーシップの不在・貧困による所も大きいとい思うのですけれども、その辺について少し話をしたいと思います。
楠原—-大阪の橋本市長の「府市合わせ」政策は、いずれ道州制にまで行くだろうなと、すでに出ている道州制論議にたどり着くだろうという予感を私は思っています。しかし、橋本市長の着眼点はよしとしても、道州制にもっていっ
たら、これは、一極集中のこれまでの日本社会を、8つなり10いくつなりに小分けするのと同じで、結局地方の活性化にはつながらない。ミニ東京が8つやら、9つやら、10いくつできるというだけの話で、僕はそうではなくて、極
論を言いますと、今回の津波で三陸地方でもいっぱい出てきておりますけれども、合併した市役所が決めるのではなくて、それぞれの大字、集落ごとの住民が決めなさいと、
自分たちの運命を。市役所というのは、これはミニ県みたいなもので、こんなところがあらゆることを決定するというシステムは住民自治に反するし、やがて地震・津波より大きな被害、マイナスを引き起こす、と予言しておきます。
現地の住民の生活に即して、住民の底力を出せるような単位にすべきだと。つまり、江戸時代でいえば藩政村、今の大字に相当するものが一応自立しておったわけですけれども、もっと小さく集落単位に戻すべきだ、というのが私の主張です。
小宮— 個別の、大阪とかということではないのですけれども、僕は自分の経験からしてやはり、今まで色々な意見が出てきたのですけれども、日本人は、個人レベルで言うと、事実として非常にすぐれたものをつくっていますし、潜在的な能力を持っていると思っています。だけど、結局、日本は、駄目なのは、そういういいものを発明したり、面白いアイデアを持っている人たちを、ことごとく潰してきたわけです。
日本は、結果として資本主義を選択しているにも拘らず、市場に置けるフェアな競争ができる環境が充分ではない。だからこれからの橋本新党というか、大阪がどうなるかというときに、まずいちばん僕がこうしてほしいということがありまして、それは何かというと、やはり民間から出てきた色々なアイデアというものを、とにかくフォローして生かすようにする。いいものが生きれば、それなりに市場経済は活性化していくわけですけれども、日本の市場経済が全然健全でないのは、いいものが競争で勝ち残れない。そういう仕組みになっているということが、僕はいちばん大きい問題だと思います。それを見ていきたい。
本誌—- 楠原さんが、道州制に対する反対論を出されましたが、地方分権制の考え方の大元というのは、防衛と外交は国家に任せて、その他の行政的なことは全て自治体が主体的に運営するのだという考え方ですね。そのときに、楠原さんの言われる、方や個々の小さな自治体があり、かたや国政府の大枠の存在だけで、果たして政治がうまく運営できるのか、その辺りはどうなのでしょうか。
楠原— それはシステムを再構築する過程の中で、問題は解決できると思います。それから、東京都の猪瀬副知事あたりは、田舎は非生産的で、厄介物で、東京のシステムを第一義的に考えるべきだという。推測すると、戦後すぐの時
代、たぶん彼のお母さんか誰かが、食糧買い出しに行った農家か農村でひどい目にあったのかもしれませんが、彼の農村蔑視の発想は容認できません。今、都会、東京こそ解体すべき、というのが私の原理です
本誌— そこは異論はないです。
楠原 —知恵や資産、資力、済活性化の元になるもろもろの原資を東京から地方へ移すべきだ、と。ついでに指摘しておきますと、国会議員は与野党とも揃いも揃って役立たずの金太郎飴ばかりですが、県会議員、市町村議会議員も、
これはほとんど中学校の生徒会レベルの議論をやって高給を頂戴している。もちろん地方議員にも国会議員以上の素質を持った優秀な人もいるはずで、中央・地方を問わず、一回ガラガラポンをすべきではないか。各レベルの議会選
挙の得票数だけが基準ではなく、首長も議員も、調整力に加えて構想力・想像力が評価される基準があってよい。それはジャーナリズムの果たすべき分野ですが、日本のマスコミはご存知のように、中央・地方の役所の広報機関になり下がってしまっている。活字・映像の複数のメディアで、よりマイナーなメディアが活躍できる場が保証されてよい。「権威」に対しノ―を突きつける言論が出てこないと、日本の政治の未来はない、と断言できます。
本誌— だから解体して、道州制というのはあり得るのですか。
楠原— 権力を集約したら、だめです。政治統括単位を生活レベルに小さくしてゆかなければ、民主主義は成り立たない。大きな権力、中央集権は効率的ではあるけれども、少数派は切り捨てられ、限りなく独裁に近くなります。
本誌— もちろんです。先に小さな自治体の強化あり、だと思います。
1000兆国債は、国民の大きな武器
西来路— 楠原先生の刺激的なご意見は非常に面白いと思います。結局これまで今の政治家は、道路や公共建築とか、ああいう大きな再分配構造の中で動いてきてしまいましたので、文化行政にしても、大きな流れの中にあるのです。
ですから発想としても、非常に後ろ向きだという点が一つ。それからも一つは、国家の組み立てのもとでいうと、むしろ国民がもっと自信を持つべきではないかと思います。
それはなぜかというと、今1000兆の国債があるといわれます。これを最近は中国が少し買い出していますけれども、ほとんど日本国の中にあって、政府は、だからヨーロッパの国債のようにならないのだと片方で言いつつ、そ
の1000兆円の借金が大変なのだというプロパガンダを張っているわけです。
ということはどういうことかということをよく考えてみると、日本国民というのは、1人何百万の借金を持っているのではなくて、国債を持つということによって、1人何百万かの国への債権者なのです。実際はわれわれの郵便貯金や銀行預金から国債が買われているわけで、われわれ国民は、自分たちの今の暮らしを支えるために、国が、つまり親が借金をしたのを、われわれが受け継がなければならないと思っているのだけれども、実はそうではない。
われわれの金は、財政投融資などで、郵便局や銀行から国債を買うことに使われている。われわれは、今の国債1000兆円のうち外国が買っていない分の900兆円の債権者だということを考えると、国に対する発言は、もう少し変わってくるのではないかと思うのです。「お前ら俺らから金を借りて、どうしてそんな補助金を出しているんだ?」という追及もあるべきです。国債というのは元々はナチスが軍資金を稼ぎ出すのに、銀行に買わせるという仕組みあたりが、きっかけの一つになっているわけですが、日本国民は今、そういうことで国債を買わされているわけです。だから逆に、日本国民が今持ってる郵便貯金をみんな一斉に引き上げようという運動を例えば一つ起こしたら、国はもうもたないのです、例えば。そういう大きな武器を国民は持っているということについて、考えを持つべきではないかということです。
岡— その通りですね。貿易、貿易と言っていますけれども、本音は貿易の話ではないのです。国内需要が経済の半分以上を占めていますし、日米貿易は貿易全体の10%もシェアがありません。一方、50%以上が対アジア関係です。関税は今日ではせいぜい数%以下程度ですが、それよりも為替変動の方がはるかに大きな影響があります。
長沼— そうですね。
岡— 地方自治のことですが、実は流行りの「指定管理者」というのを私自身が努め、5年間横浜市行政を間近で見させていただきました。結論は、現状のまま国の権限を右から左に地方自治体に渡しただけではまったく機能しそうにない印象です。なぜかというと、地方自治というものの、何十年ものあいだ国からひも付きで交付金とか補助金とか様々な名目で流れてくるお金が大半を占めています。だから地方官僚は自主的に判断する経験がありません。市や町
役場の職員は手続き書類をつくって、それを県を通して国から金を引き出す類いのことばかりやっていますから「自治」ではないのです。
自治を始めるなら最初は失敗するかもしれませんけれども、それこそ小さなコミュニティ単位で自分たちの金をどう使うかを決め、結果責任も持つことからやれば、割合上手くいくかもしれません。霞ヶ関を解体して道州制にすればいいというものでもないでしょう。
がんじがらめに押さえつけられたはずの徳川幕府のお膝元の、例えば江戸湾の漁民たちの漁業権の争いとかをみても、幕府に対して遠慮せず訴えて漁民同士が主張を戦わせ、最後は自治で棲み分けをしていました。自治能力というものは、国がどうかに関わらず本来市民が持っている感覚です。自分たちのお金
ではない国の金をただで持ってくるのが地方行政だと思われているところに不幸があると思います。
形式民主主義にいつまでも溺れているな
石飛 今日の政治は、自治体も含めて民主主義の政治としてやられているということになってはいますが、実際は%官僚による政治ですよね。日本は明治以降、明治4年ぐらいから大久保利通を中心にして、幕藩体制を支えてきた者たちを食わせていかなければならないとして、そういう官僚国家を作っていった。その後、国が新政策を繰り出すたびに、実行部隊となる官僚がつくられ、またその官僚たちを何とか食わせていかねばならないとして新官僚が増殖していくわけです。表の政治屋の騒がしい動きとは別に静かに官僚は増殖していった。
このことが今日まで延々と続いているのです。これに抵抗するのが政治家というもののはずですが、結局のところ官僚がその政治家を動かして、国の運営は官僚なくして出来ないようになっている。国民に選ばれた政治家が国の経
営ビジョンも法案を作り、政治をやっているかのように言われているが、実際には、不動の省庁勤めの官僚が全部、プログラムからそのシナリオ作り、さらにデーターの収集から政治演説までつくってやっているのが現実です。政治家の後ろの官僚が、永田町が全部やることになっているのです。
なぜかと言うと、予算をどう使うかは、省庁の問題です。大蔵省、今は財務省と名は変わったそこが中心となって、超エリートの道を歩んできた、頭のいい人たちが予算を組み、それの分配先まで全部彼等がやるわけです。戦後ずっ
と官僚による経営でやって来た。戦争責任の問題も何もかも全部、彼らが全部考えること。地方への補助金分配も、中央へ出た政治家が利権を取って地方に持ってきたことにはなっているけれども、実は分配は全部官僚の手の中にあ
り、そこですべてが出来るのです。
日本国の会計は二重帳簿にしていまして、特別会計というのと、一般会計を分けて、やっている。こんな国は他にないのですよ、全部、使い放題、やりたい放題やっているのが永田町官僚国家の現実なのです。
ですから、根本的に考えなければいけないというのは、形式民主主義にいつまでも溺れていてはいけないということです。自分たちの幸せは、自分たちが築いていかねばならないと思いますよ。何でもかんでも補助金頼みで国にす
がるやり方は、変えねばならないと思います。本当に細かい計算から始めて、自分たちとしての幸せをつくり出していかねばならないと思います。国から補助金をもらわなければ何もできないというような奴隷根性ではこれからはやっていけないし、そんな体制はつぶれていいと思います。
岡—- そのための具体策として、私はこんなことを考えています。村から国まで会計は基本的に家計簿と同じ単式簿記で金の出入りを中心にみます。それを企業会計と同じ複式簿記に変え、借金(国債、地方債等)を負債として計上し負債の償却計画も義務づけなければなりません。今の予算編成はそういう部分が欠落しています。だから借金(国債)も税金も、全部収入だと思い込んでいる。まず複式簿記に変えなければ本当の自治は生まれないでしょう。
前坂—これまでの議論ではっきりしたように実は、問題点ははっきり分かっているわけです。問題点がはっきり分かっているし、今の政治経済社会システ
ムが機能不全に陥り、どうしようもないというのは、皆さんはっきり分かっているわけです。だからもう、残されているのは行動です。自分自身の立場で判断して、行動あるのみです。
例えば税金の場合であり、電気料金でも、一方的に召し上げる制度に、ノ―を突きつけて、高杉晋作の奇兵隊ではないですが、ネットで連携して「ネット奇兵隊」を作る以外に、突破口はないんじゃないか(笑)。そういう面では
既得権に汲きゅうきゅう々として既存の制度、法律を守るだけの法匪(政治家、官僚)と戦っているのは、問題児・橋下さんだけという印象ですねよ。だからもう、問題点ははっきり分かっているわけです。今の中央集権、封建的官僚支配体制をぶっ壊すということです。
未だに日本は昭和・平成封建幕藩体制が徳川幕府崩壊後、150年も続いているのですから。
小宮 ―――日本人がなぜそういうふうな動きをしないかということが、いちばん問題だと僕は思います。今に始まった話ではないじゃないですか。それを突き詰めていくと、それは、権力とは何か? いかに人間は、飼いならされ、支配されることを欲するようになるのか、それに、如何にメディアというものが加担しているのかということを考えないとダメでしょう。でも、行動あるのみというのは、大賛成です。
前坂―― 日本人は、自分で変えられないのです。自己改革できない民族ですね。「他人と過去はかえられない。しかし、自分と未来は変えられる」という至言がありますね。これを「今やらねばだれがやる。ワシがやらねば誰がやる」と1人1人が革命を起す、海に飛び込んで逃げ出すしかありません。浸水している「タイタニック」が沈没するのは時間の問題ですから。
楠原――― アメリカのウォールストリートでも、ヨーロッパ諸国でも、弱者=貧者の反乱が起きています。ところが日本では、全く起きない。これはどういうことなのか。私は先ほどの前坂さんの話で言えば、去年までNHK料金
は不払いをやっていました。だけど、ある番組についてクレームを申し立てたいことがあり、ついに陥落して基本料金を払うことにしました。本当は、電力会社とも喧嘩をしたいのですけれども、電気を切られるので、これはきっち
り手当てをしてからではないとできない。そういう状況です。だから、一人一人がそこまで考えましょうよ、と。
本誌――― ずっとやっていたのですか。
楠原――― まあ年近く。昨年、過去の未払い分には遡及しない、という約束で払うことにしました。
本誌―― 話は尽きませんが、時間がまいりました。今日の結論を標語的にまとめると、「若者よ、田舎に帰れ! 老年よ、街に出よ!」ということになりましょうか。今後も毎回「梁山泊」誌上座談会を行いますので、引き続き、スリリングで刺激的な問題提起をお願いいたします。
( 2012年1月、日比谷にて)
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