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『新型コロナパンデミック講座』★『歴史の教訓に学ばぬ日本病』★『水野広徳海軍大佐が30年前に警告した東京大空襲と東京五輪開催の「スーパースプレッダー」(感染爆発)発生の歴史的類似性』

      2021/07/03

           

明治を代表する軍事評論家となった水野広徳海軍大佐は1816年(大正5)7月、 第一次大戦中の欧米へ1年間の予定で軍事視察旅行へ出かけた。

第一次世界大戦(1914―1919)は死者約1千万人、負傷者2千万人、副産物としてスぺイン風邪のパンデミックを生み、全世界で約5億人が感染,死亡者数は5千万から1億人以上で、日本でも約39万人が亡くなった。約四百年の栄華を誇ったヨーロッパを没落させた。

第一次世界大戦中の西部戦線は両陣営が全長約 500キロにおよぶ長大な塹壕を築いて対決した。この“三密・密ペイ塹壕”がパンデミックの原因となった。また、同大戦では初めて飛行船(ツェッペリン号)や飛行機が登場し、ドイツ軍によるロンドン空襲(75回)が行われた。ロンドンっ子は恐怖にふるえ上がりパニックに陥ち入った。

水野はロンドン滞在中、ホテルで空襲を被災した。水野は無事だったが、約六百人の市民が犠牲となった。

水野はこの空襲体験をもとに「もし、日本のような貧弱なる木造密集家屋や、地下室、地下鉄もない都市環境ならば、空襲によって火災が頻発、東京はひとたまりもなく灰塵(かいじん)に帰すだろう」と予言した。東京大空襲の26年前のことである。

それまで軍国主義者だった水野大佐は1921年(大正10)八月、軍服に永久の別れを告げた。剣をペンにかえて軍事評論家・ジャーナリストに転身、「中央公論」「改造」などに軍備撤廃論や軍縮・平和論、日米非戦論などのを精力的に執筆した。


一九二二(大正十一)年にワシントン軍縮会議が締結され、海軍主力艦の保有量が日本は英米の六割に制限された。その後、米国で日本人移民を排斥する「排日移民法」が可決されると、反米感情が一挙に高まり、日米戦争が大きくクローズアップされてきた。

一九二三年(大正13)二月、加藤友三郎首相、上原勇作参謀総長らはアメリカを仮想敵国とする新国防方針を作成した。

水野は早速、日米戦争を分析した「新国防方針の解剖」を「中央公論」(同年6 月号)に発表した。「戦争では空軍が主体となり、東京全市は米軍による空襲によって、一夜にして灰塵に帰す。戦争は長期戦と化し、国力、経済力、軍事力の国家総力戦となるが、日米の資源格差は石油エネルギーでは100分の1、総合的な国力格差は10分の1以下なので、日本は敗北して国家破産するしかない。

当局者が発狂しない限り、英米両国を同時に仮想敵国として国防方針を策定することなどはあるまい」と詳細なデータをもとに主張した。太平洋戦争が起きる二十年前のことだ。

その後、世界大恐慌(1921年)の影響でロンドン軍縮会議(1930)、満州事変(1931)、満州国建国(1932)へと日本は軍国主義に流される。日米英の対立は一層エスカレし、日本国内では防空演習がはじまった。

 一九三三(昭和八)年8月9日から、関東防空大演習が人口五百万人の東京を中心に一府四県にわたって実施された。陸海軍の航空部隊や航空母艦の艦上機、陸軍の戦闘機三個中隊が参加する史上空前の防空演習となった。

「信濃毎日新聞」(八月十一日付)は演習二日目の模様を報ずる第一面に桐生悠々執筆の社説「関東防空大演習を嗤う」を掲載した。「大演習に想定している敵機襲来という事態になれば、木造家屋の密集した東京は一大火災になり、関東大震災以上の惨状になり、防空演習など全く役立たない。さらに、夜襲に備えて、電灯を消せよというのは混乱を招き滑稽(こっけい)以外の何物でもない。、敵機を断じて領土内に入れてはならない」と主張した 

この社説はたちまち軍部から怒りを招いた。

信州在郷軍同志会は一斉に反発、大演習を「あざ笑う」とは何事か、と抗議。同新聞の不買運動を起こすと脅迫した。『信濃毎日』は約一ヵ月間抵抗したが、ついに屈服し九月八日、桐生は退社に追い込まれた。桐生悠々はその後、個人ミニコミ誌「他山の石」(今ならばブログ、SNS)を発行し、言論抵抗を続けた。

大平洋戦争末期、絶対国防圏が崩壊、サイパンが陥落(44年7月)後には、米大型爆軍機(B29)による日本空襲は日常茶飯事となった。全国の主要都市113か所に延べ17,500機のB29が来襲し、焼夷弾(しょういだん)を476万個以上を投下した。このため、日本の都市は焦土と化し、死者数24万人から100万人 負傷者35万人以上、被災家屋230万件に達した。

そして、75年後の今、世界は新型ウイルス「COVID-19」 との第3次世界大戦に突入している。すでに、世界の感染者は1億7600万人、死者386万人を突破した。「インド型変異種(デルタ株)」は感染力、ワクチン突破力が強く若者が多く感染するの変幻自在な難敵であり、各国でも苦戦している。

 ブラジルでは6月19日に前日からの感染者数が8万人以上も増え、累計死者数も50万800人となった。同国では国民の約1割しかワクチン接種を完了していない。国民の反対にもかかわらずサッカー南米選手権(コパ・アメリカ)が強行され、各国代表やスタッフ計65人の感染が確認され、パンデミック第3波が起きている。

一方、東京五輪(7月23日開幕)での観客数は約1万人、開会式に限ってはIOC,大会関係者を含めて約2万人とする政府方針が決まったようだが、従来の2倍の脅威のインド型変異株(デルタ株)が東京に集中するリスクヘッジはまだできていない。

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