日本リーダーパワー史(174)『侠客海軍将校・八代六郎―海軍の父・山本権兵衛をクビにした男』
前坂 俊之(ジャーナリスト)
「おれは必ず入学してみせるが、もし不幸にして合格しなかったならば、新門辰五郎のところにいって、侠客になる」かれは少年時代から、好んで遊侠伝を読み、遊侠の徒が一獲千金、強きをくじき、弱きをたすけ、常に義を守ったその態度を愛していたが、仁と、節と、義とは、かれの生涯を通して、咲き続けた花であった。(松下芳男『近代日本軍人伝』(柏書房、1976年)まさに任侠の海軍将校である。
部下思いと豪胆無比な性格。
彼は水泳の達人でもあった。「あっ艦長殿が海に飛び込まれた」というので、軍艦は速力を落とす。ポートはきりきりと降ろされた。その間に艦長は抜き手をきって泳ぎ出した。力泳また力泳、ようやくおぼれた水兵の所に泳ぎついて「おいっ、しっかりせい」と声を掛けたが、大分水を飲んでいるらしく、もう声さえ出なかった。
艦長は横から水兵の腕を持つと、片抜き手で悠々と艦へ向かって泳ぎ出した。
艦長はそれを軽く受けて「まあいい、まあいい、貴様のお陰で、久しぶりに泳いだぞ。いい心持ちじゃった」「はっ、相済みません」と水兵がまた手をあげようとすると「以後気をつけろよ。鱶(ふか)にでも食われたらふかばれないぞ」という冗談に、並みいる士官水兵達はみな笑った。おぼれた水兵も、もう笑っていた。
のちに参謀少佐森山慶三郎が、「あのときは実に悲壮だった」というと、八代は平然として、「おれは後ろを見なかったから知らんよ」と、ケロリとしていた。
この山本内閣に代わって立ったのが、大隈重信内閣であって、その海軍大臣に就任したのが、舞鶴鎮守府司令長官海軍中将八代六郎である。八代は海軍の名誉のために、海軍の廓清を期して、山本、斎藤を予備役に追いこみ、財部を海軍将官会議議員の閑職に左遷した。
大正四年三月の総選挙で、内務大臣大浦兼武の選挙干渉が問題になり、大浦が辞職したとき、かれも連帯責任というたてまえから、外務大臣加藤高明と行動をともにして、八月に辞職したことは立派な態度であった。辞職後待命となったが、同年十二月復職して、第二艦隊司令長官、ついで佐世保鎮守府司令長官になり、五年には男爵を授けられ、七年七月大将に昇り、十二月軍事参議官、八年十一月に待命となり、これで軍職が終わった。十四年枢密顧問官に任ぜられた。武人らしい立派な一生であった。
関連記事
-
-
岡崎選手の気合に学ぶ!「神風パイロット”のよう」「フィニッシュ」を決める岡崎 スプリットは「“常に違う色”を出す」
日本リーダーパワー史(470) 岡崎選手の …
-
-
知的巨人の百歳学(163 )記事再録/『京都清水寺の貫主・大西良慶(107歳)』★『人生は諸行無常や。いつまでも若いと思うてると大まちがい。年寄りとは意見が合わんというてる間に、自分自身がその年寄りになるのじゃ』
2018/01/28   …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(11)記事再録/副島種臣外務卿(初代外相)の証言④ 『甲申事変後の対清政策意見』1885年(明治18) ★『➀日本で公法(万国法、国際法)をはじめて読んだのは自分 ②世界は『争奪の世界(植民地主義』で、兵力なければ独立は維持できない。 ③書生の空論(戦争をするな)を排する。 ④政治家、経済人の任務は国益を追求すること。空理空論とは全く別なり。 ⑤水掛論となりて始めて戦となる、戦となりて始めて日本の国基(国益)立つ。』
日中,朝鮮,ロシア150年戦争史(52) 副島種臣・外務 …
-
-
記事転載/1895(明治28)年1月20日付『ニューヨーク・タイムズ』 ー 『朝鮮の暴動激化―東学党,各地の村で放火,住民殺害,税務官ら焼き殺される。朝鮮王朝が行政改革を行えば日本は反乱鎮圧にあたる見込』(ソウル(朝鮮)12/12)
: 2014年11月4日/「申報」や外紙からみた「日中韓150年戦争史 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(268)★「昆虫記(全10巻)を完成したファーブル(91歳)は遅咲きの晩年長寿の達人』★『56歳で第1巻を刊行、生活苦と無名の中で全10巻を30年かかってやっと完成した』★『どんな虫にも役割と価値があり、無駄な死などない』★『死は終わりではない、より高貴な生への入り口である』
2013/07/30 / 百歳学入門(79)記事再録 ▼「 …
-
-
『オンライン/現代版葛飾北斎の富嶽三十六景動画版』★『地球環境異変で鎌倉海から見る富士山の映像も変わってしまったよ』★『 鎌倉サーフィン(2021 /08/08/pm600)-ある夏の夕暮れの鎌倉材木座海岸の潮騒のセレナーデ,黄金色の夕焼けがまばゆいばかりの美しさ』
鎌倉材木座海岸からみる富士山(2021 /08/07/pm500 -江の島上空の …
-
-
日本リーダーパワー史(974)ー『中国皇帝の謁見儀式と副島種臣(初代、外務大臣)の外交インテリジェンス➀『中国の近代化を遅らせた中華思想の「華夷序列・冊封体制」の弊害が今も続く』★『トランプのプロレス流、恫喝、ディール(取引)外交は対中国の旧弊行動形式に対しては有効な方法論である』
中国皇帝の謁見儀式と副島種臣の外交力➀ …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(117)/記事再録☆「国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」から学ぶ』★『⑩学問に凝り固まっている今の人は、声ばかりは無暗に大きくて、胆玉(きもったま)の小さい。まさかの場合に役に立つものは殆んど稀だ』
2015/01/01百歳学入門(92) 勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬1 …
-
-
『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座㉟」★『120年前の日露戦争勝利の立役者は児玉源太郎』★『恐露派の元老会議に出席できなかった児玉源太郎』★『ロシア外交の常套手段の恫喝、時間引き延ばし、プロパガンダ、フェイクニュースの二枚舌、三枚舌外交に、日本側は騙され続けた』
元老会議の内幕 (写真右から、児玉総参謀長、井口総務部長、松川作戦 …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(963)ー2019年は『地政学的不況』の深刻化で「世界的不況」に突入するのか』②『米中貿易戦争は軍事衝突に発展する可能性はないのか?・』
世界/日本リーダーパワー史(963) 米中貿易戦争は軍事衝突に発展す …