前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

「みんなで『百歳学入門』へ・・・超高齢社会を元気に長生きする『長寿脳』を鍛えるために』

      2016/02/02

みんなで『百歳学入門』へ
超高齢社会を元気に長生きする『長寿脳』を鍛えるために
天才老人・「センティナリアン・パワー」(百寿者)から学ぶ

静岡県立大学国際関係学部教授・前坂俊之
 
「60、70はなたれ小僧、男盛りは百から、百から」「今やらねばいつできる、おれがやらねばだれがやる」(107歳・木彫家・平櫛田中)、『人間いつかは死ぬんやから、死ぬことなんか考えないの』(107歳・禅僧・大西良慶)、「60代までは修行、70代でデビュー、百歳現役」(105歳・日本画家・小倉遊亀)―
などなど、老後に不安を持つ高齢者にとって元気と勇気のわいてくる名言、名訓を集めた『百寿者百語―生き方上手の生活法」(海竜社、1500円)をこのほど出版しました。
現在、日本人の平均寿命は女性約86歳、男性約79歳で、100歳以上は3万6千人を突破しています。65歳以上の高齢者が人口の22%、70歳以上は2000万人を突破するなど、世界一の高齢化社会を迎えています。
このため、今後の「超高齢化社会」のモデルとなるような、生涯現役で90歳、100歳近くまで活躍した人物について調べてみました。
日本でも老年学、抗加齢医学など長寿者の医学的な研究は盛んですが、どのような長寿者がいたのかという長寿歴史学や、百歳学などはありません。そのため、各種人物事典、データーベースなどを調べて、生年、没年月日が正確に記録されている90歳以上500人の著名人をまずリストアップ。
『長生きの秘訣は百寿者の口ぐせに聞け』というわけで、実践に裏付けられた健康法や本当に役立つ養生訓を残している人を調べました。このうち、70人の名言百語を並べました。百寿者の言葉だけに、説得力があり千鈞の重みを感じます。
「百寿者」は英語で「センテナリアン」と言いますが、日本の「センティナリアン」「ノナジェリアン」(卒寿者)にはいくつかの興味深い特徴が浮き彫りになりました。⇔⇔<写真は松原泰道師(100歳)で、現役バリバリで、元気に講演
        職業では、芸術家、画家、彫刻家、音楽家らに長寿者が多い。とくに、小倉遊亀、北村西望(彫刻家105)、片岡球子(同・102)ら画家、芸術家には長寿で、90歳代は多すぎて困るほど。昔から絵描きは長生きするといわれているが、好きなこと、創造的な仕事をやっていると年も忘れる典型です。
        成功した経済人にも長寿者は少なくない。岩谷直治(岩谷産業創業者・102)、岡野喜太郎(スルガ銀行創業者・101)、中山素平(日本興行銀行元頭取・99)、御木本幸吉(ミキモト創業者・96)、松永安左エ門(電力の鬼・95)、瀬島竜三(伊藤忠元会長・95)、出光佐三(出光石油創業者・95)、松下幸之助(パナソニック創業者・94)、土光敏夫(東芝会長、経団連会長・91)ら日本の財界をリードした錚々たるメンバーです。こうした長寿経営者の健康法は経営学、企業長寿学と共通する部分が多く、不況にあえぐ経営者にとって大いに教訓となるものです。
        大西良慶、松原泰道(100、現役)ら禅僧、仏教者に長寿者が多いのは宗教心と日ごろの修行、簡素な生活のなせるわざであろう。
 
また、環境農業との関係で注目されるのは農業、食品企業の創業者に長寿者が多いことです。江崎利一(グリコ創業者・97)、杉山金太郎(豊年製油(現・J-オイルミルズ創業者・97)、蟹江一太郎(カゴメ創業者・96)、三島海雲(カルピス創業者・96)安藤百福(日清食品・96)、黒沢酉蔵(北海道酪農の父、雪印乳業創業者・96)、茂木啓三郎(2代)(キッコーマン発展者・94)、美智子皇后の父である正田英三郎(日清製粉発展者・95)、プリンスメロンやアンデスメロンを作った坂田武雄(サカタのタネ創業者・95)、文化納豆など納豆研究の先駆者・半沢淘(まこと)(東北大教授・94)ら、あげるときりがないくらい長寿者が多いのです。
こうした創業者は食の研究と、生涯現役をつらぬくことによって長寿を達成したわけで、農林漁業(食品)と環境とは健康で長生きすることにつながることを示しています。
本書で取り上げた人物の1人1人の具体的な健康法については、本を読んでいただくことにして、「センティナリアン」の一般的な健康、病気、食事、信条などについては次のような予想外の事実がわかりました。
 
① 元気に生まれ育った人よりも、病弱だったが何とか病気を克服して、養生法を工夫した人のほうが意外に長生きして、天寿を全うした例が多い。
② 食事は粗食で腹7分、「カロリーを減らせば寿命は延びる」。少食にした方が長生きして、創造的な活動を続けることができるのです。
③ 脳や心こそが体を支配しており『脳も筋肉は鍛えるほど強くなる』のです。年をとっても脳は必ずしも衰えないのです。プロスキーヤー・三浦敬三(101・三浦雄一郎の父)のように100歳でスキー滑走をしたり、百歳でゴルフを続けた医師・塩谷信男(105)らはこれまでの老人観を覆しており、「センティナリアン・パワー」、精神力、気力の大切さを示しています。
④ 口ぐせを変えれば意識が変わるのです。老後を肯定的に考える人は否定的な人より長生きです。楽観的で前向きな人、明るく陽気な性格の人、クヨクヨ考えない人のほうが長生きするのです。
⑤ 「大豆は長寿王様」日本の伝統食は世界一の長寿食であるのです。
 
 今、日本では老いも若きも「アンチエイジング」「ダイエット」ブームですが、日本社会の底流には年をとることに否定的な、老後を不安視する「嫌老社会」の風潮があります。国の高齢者対策もどちらかというと年金、医療問題、寝たきり、認知症、介護問題など後ろ向きで、消極的な面が目立ちます。
 米国のセンティナリアンは日本以上にたくさんいますが、日本のように寝たきり長寿(日本では百寿者で元気なのは3割)は少なく、米国人の性格、お国柄の違いもあるでしょうが、ジョギング、筋トレを続けるアグレッシブなシルバーが多いのです。
日米の違いについては、米国で明るい老後を考えている高齢者が多いのに比べて、日本では老後の不安を訴える高齢者が多いのです。これは米国の統計ですが、「老いることに肯定的な見方をしている人は、否定的な人よりも平均7年半も長く生きた」というデータがあります。
 この本の結論は「長寿の秘訣は食事、遺伝もありますが、それ以上に生涯現役を通す気力、精神力である」ということです。年をとっても現役で仕事を続けると、精神的な緊張がうしなわれず、困難を乗り越えようとして脳は絶えず活発に働き、心身両面で生きる力がわいてきて、長寿となるのです。足と脳はつながっており、歩くことによっての脳力は鍛えられます。脳は老いることはなく、創造的な仕事を続けられることを今回のセンティナリアンを見るとよくわかります。
日本だけではなく、世界の高齢者にとっても、また若い人にとっても「センティナリアン・パワー」(百寿者の口ぐせ)から学ぶことは大いに役立つことと思います。
 

 - 人物研究, 健康長寿 , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(703)★100全リーダー必見、全国民必見の感動ビデオ★『佐藤 康雄東京都緊急消防援助隊総隊長: 3・11いかに原子炉災害の冷却作戦に臨んだか』(動画26分)

日本リーダーパワー史(703) 全リーダー必見、全国民必見の感動ビデオ &nbs …

no image
 日本リーダーパワー史(769)『金正男暗殺事件を追う』●『金正男暗殺は10名が関与、4人は国外へ 現地警察が初会見』◎『金正男殺害を中国はどう受け止めたか―中国政府関係者を直撃取材』★『  邪魔なら兄をも殺す国を隣に、韓国の絶望的な危機感欠如』★『北朝鮮軍「処刑幹部」連行の生々しい場面』◎『「粛清」で自壊する北朝鮮、金正男暗殺で得た唯一の政治的利益とは』◎『日本リーダーパワー史(768)『金正男暗殺事件にみる北朝鮮暗殺/粛清史のルーツ』福沢諭吉の『朝鮮独立党の処刑』(『時事新報』明治18年2月23/26日掲載)を読む②』

  日本リーダーパワー史(769) 金正男暗殺事件を追う   金正男暗 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(85)陸軍反逆児・田中隆吉の証言⑤『ガダルカナルの惨敗、悲劇ー 敵を知らず、己れを知らず』

終戦70年・日本敗戦史(85) 敗戦直後の1946年に「敗因を衝くー軍閥専横の実 …

『ベートーベン生誕250周年』★『ウイーンぶらぶら散歩でべートーベン記念博物館「ハイリゲンシュタットの遺書の家」で、デスマスクや遺書の真筆、葬儀の模様、最後の部屋のデッサンなどを見ることが出来る。

   2016年5月16日の記事再録 『F国際ビジネスマンの …

no image
片野勧の衝撃レポート(57)戦後70年-原発と国家<1941-45>封印された核の真実②幻に終わった「日の丸原爆」(下)

  片野勧の衝撃レポート(57)  戦後70年-原発と国家<1941~45> 封 …

no image
日本リーダーパワー史(575)明治維新革命児・高杉晋作の「平生はむろん、死地に入り難局に処しても、困ったという一言だけは断じていうなかれ」①

 日本リーダーパワー史(575) 明治維新に火をつけたのは吉田松陰であり、230 …

no image
『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー,リスク管理 ,インテリジェンス㊶★『明治37(1904)/2/4日、日露開戦を決定する御前会議が開催』●『明治天皇は苦悩のあまり、10日ほど前から食事の量が三分の一に減り、眠れぬ日が続いた。』★『国難がいよいよ切迫してまいりました。万一わが軍に利あらざれば、畏れながら陛下におかれましても、重大なるご覚悟が必要のときです。このままロシアの侵圧を許せば、わが国の存立も重大な危機に陥る(伊藤博文奏上)』

  『明治裏面史』 ★ 『「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、 …

『オンライン昭和史講座/昭和国難突破力の研究』★『最後の元老・西園寺公望、「護憲の神様」・尾崎行雄は敗戦を前にどう行動したか』★『「いったいどこへこの国をもって行くのや、こちは…(西園寺の臨終の言葉)。』

2011/05/12 /日本リーダーパワー史(151)記事再録 前坂 俊之(ジャ …

no image
国際ジャーナリスト・近藤健氏が<2016年アメリカ大統領選挙>について語る≪60分ビデオ)

  近藤健氏は元毎日新聞ワシントン支局長・外信部長・元国際基督教大学教 …

『日本の運命を分けた<三国干渉>にどう対応したか、戦略的外交の失敗研究』⑰』★『なぜ「黄禍論」は「日本禍」となったか 』★『W・K・フオン・ノハラ著、 高橋輝好訳『黄禍論-日本・中国の覚醒』(2012年)二冊を読んで、大変啓発された』★『三国同盟の主犯は在日ドイツ公使「マツクス・フオン・ブラント」だった』

 逗子なぎさ橋珈琲テラス通信(2025/11/17am700) なぜ「 …