日本風狂人伝(23) 日本『バガボンド』ー永井荷風散人とひそやかに野垂れ死に ③
前坂 俊之
さいわい、米軍人の無妻軍曹が船橋駅ホームに捨てられているのを見つけて、警察に届けでて、荷風の手に戻った。荷風は謝礼金5000円を払ったが、この思わぬ出来事で、荷風の全財産が一挙にばれてしまった。このため、荷風には借金の依頼や保険の勧誘が殺到し、女性からの再婚の申し込みが相次いだ。
荷風が三味線のけいこをする家に下宿していた時、荷風は三味線の音が嫌いで、けいこが始まると、その音を消すために、ハシで机をたたいて、けいこがすむまでたたき続けていた、という。三味線の音が小さくなると、ハシの音も小さくなったが、やめるまで続けていた。
なくなるまで浅草ロックのストリップ小屋通いに傾斜し、若い踊り子に囲まれ、その裸を嬉々として楽しみ、「先生、先生」とチヤホヤされるのを喜んだ。好色な魂そのままである。女性遍歴の最期にたどりついたのが私娼窟であったのじゃよ。金子光晴が晩年、ストリップ小屋に入れ狂ったのと同じ、色情狂、日本のインテリの悲しい1つの末路じゃ、本人は最高の幸せだったんだろう。
1本を注文して、トマト1個に食塩をたっぷりかけて、これをおつまみにして、ビールを飲んだ。この後、肉をやわらかむ煮た料理を必ずとって、終わり。荷風は水を一切飲まなかった。
孤独な心象風景をうたう「草の花」
荷風の孤独な心境がありのまま出ている。
ききし時の心地はそれならずや。
戦争中に「偏奇館」が焼けませんようにとお祈りしながら、引いたオミクジは「凶」と出て、空襲で焼失してしまった。このため、おみくじを信じ、ポックリ死ねるように観音さまにお祈りしていた。それも7月9日に必ず亡くなるように願をかけていた。
尊敬する上田敏、森鴎外がいずれも、この日に亡くなっていたからだ。「この日でなければ、どの月の9日でもいいから死にたいね。観音さまにいつも祈っているよ」と友人に言っていたが、その希望が半分かなって9日でなかったが、「ポックリ」と昭和34年4月30日に81歳で誰に看とられることもない孤独に亡くなった。「大吉」のオミクジは胸のポケットに入っていた。
願望通り、孤独にタタミの上で死んだよ・・・・・・81歳で。
その日朝、お手伝いさんがきて,裸電球のクモの巣だらけの6畳間の万年床の中で洋服を着たまま死んでいるのを発見した。
胃潰瘍で火鉢の中に吐血するなど3回吐いて,最後に喉に詰まって死んだのである。
フトンの横にはいつも持ち歩いていた2300万円入りの預金通帳が入ったボストンバックがポツンと置いてあった。
荷風のダンディズムとは耽美主義であり、貴族主義であり、反俗主義である。
「裏道、横道、回り道、日蔭の道を愛好する」「好きなようにいきる」『自遊人』「個人主義」「快楽主義」[隠棲者のストイシズム]金持ち独身男の快楽主義者から、金持ち爺さんの何ともわびしい、いかにも日本のわび、さび、うらぶれ文化、バガボンドの野垂れ死に願望の、荷風らしい末路であった。
関連記事
-
★5『生涯現役/百歳学入門<161>』●「平均寿命」と「健康寿命」 その差が大きい日本の課題』●『「1日1万歩」は間違い? 5000人研究で判明! 「1日8000歩」と「20分の中強度運動」が運動の黄金律』●『なぜイギリスの老人は「貯金140万円」で楽しく生きていけるのか 日本人は定年後を心配しすぎ!?』●『カークダグラス100歳ー未来への道』●『 スウェーデンにはなぜ「寝たきり老人」がいないのか 幸福度世界1位「北欧の楽園」に学ぶ老いと死』
生涯現役/百歳学入門<161> 「平均寿命」と「 …
-
『オンライン講座/独学/独創力/創造力の研究②』★『『日本の知の極限値』と柳田国男が評したー地球環境問題、エコロジー研究の先駆者・「知の巨人」南方熊楠のノーベル賞をこえた天才脳はこうして生まれた(中)』
2009/10/02 日本リーダーパワー史 (23)記事再録 『ノ …
-
『リーダーシップの日本近現代史』(192)記事再録/『一億総活躍社会』『超高齢/少子化日本』のキーマンー「育児学の神様」と呼ばれた小児科医 内藤寿七郎(101)「信頼をこめて頼めば、2歳児でも約束を守る。子どもをだます必要などありません」
2015/11/15知的巨人たちの百歳学( …
-
『リーダーシップの日本近現代史』(295)★『芥川龍之介の文学仲間で、大正文士の最後の生き残り作家・小島政二郎(100歳)の人生百歳訓ー 『足るを知って分に安んずる』★『いつまでもあると思うな親と金、ないと思うな運と借金』★『起きて半畳、寝て一畳、天下取っても、二合半』
2012/11/23 百歳学入 …
-
日本メルトダウン(1002)-ー [FT]トランプ政権の陣容は大いに疑問(社説)」●『米中関係:嵐の前の静けさ? (英エコノミスト誌)』●『トランプ経済で大打撃を受ける2つの国 通商・貿易政策を見ていくと』●『トランプ政権誕生という「逆説的外圧」は日本を変える大チャンスだ』●『中国一の富豪、トランプに先制口撃「2万人の米国人が失業する」』●『「2025年問題」をご存知ですか?~「人口減少」「プア・ジャパニーズ急増」 …9年後この国に起こること』
日本メルトダウン(1002) [FT]トランプ政権の陣容 …
-
『オンライン太平洋戦争講座/ガダルカナル戦の研究』★『敗戦直後の1946年に「敗因を衝くー軍閥専横の実相』で陸軍の内幕を暴露して東京裁判でも検事側証人に立った陸軍反逆児・田中隆吉の証言⑤『ガダルカナルの惨敗、悲劇ー敵を知らず、己れを知らず』』
2015/05/25 終戦70年・日本敗戦史(85)記事 …
-
村田久芳の文芸評論『安岡章太郎論」①「海辺の光景へ、海辺の光景から』
2009,10,10 文芸評論 『 …
-
日本リーダーパワー史(656)「大宰相・吉田茂の見た『明治』と『昭和前期』のトップリーダーの違い」日本は、昭和に入ってなぜ破滅の道を歩んだのか。 『栄光の明治』と、『坂の上から転落した昭和の悲惨』
日本リーダーパワー史(656) 「大宰相・吉田茂の見た『明治』と『昭和前期』 …
-
日本リーダーパワー史(66) 辛亥革命百年⑦犬養毅と孫文について①<鵜崎鷺城「犬養毅伝」誠文堂1932年>
日本リーダーパワー史(66) 辛亥革命百年⑦犬養毅と孫文① <鵜崎鷺城「犬養毅伝 …
-
日本リーダーパワー史(157)『江戸を戦火から守った西郷隆盛と勝海舟、高橋泥舟、山岡鉄舟の(三舟)の国難突破力①』
日本リーダーパワー史(157) 『江戸を戦火から守った西郷隆盛と勝 …