前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本敗戦史(52)A級戦犯指定の徳富蘇峰が語る 『なぜ日本は敗れたのか』④「東亜民族指導の資格欠如」(大東亜共栄圏盟主のお粗末)

      2015/04/08

 日本敗戦史(52)

マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る
『なぜ日本は敗れたのか』④

「大東亜共栄圏盟主を果すには、余りにお粗末であったこと」

 

① 自民党女性局長の三原じゅん子氏が3月16日の参院予算委員会の質問で、『日本が建国以来、大切にしてきた価値観に八紘一宇がある。「世界を一つの家とする」という意味で、この「八紘一宇」の理念のもとに、世界が一つの家族のようにむつみあい、助け合えるような経済、税の仕組みを安倍総理こそが世界中に提案していくべきだと思う』との発言を行った。

●「三原じゅん子氏「八紘一宇は大切な価値観」予算委で発言http://www.asahi.com/articles/ASH3J6R68H3JUTFK00N.html

 

②大東亜戦争については『東南アジア各国で英国などから独立を促した』という点を積極的に評価をする向きが増えている。しかし、その精神の推進者だった徳富蘇峰はこの点を批判して、日本人の異文化認識能力の欠如、異文化コミュニケーションギャップ、過度な自民族中心主義(エスノセントイズム)などについて、次のように指摘している。

③三原氏の「八紘一宇」発言と『大東亜共栄圏』の実態にはこのような大きな認識ギャップがある。

 

『なぜ日本は敗れたのか』④

「東亜民族指導の資格欠如」(大東亜共栄圏盟主を果すには、余りにお粗末であった)

 

前には人物欠乏について語ったが、日本人は遺憾ながら東亜の盟主(大東亜共栄圏のリーダー)を果すには、余りにお粗末であったと、言わねばならぬ。大和民族(日本民族)がアジア諸民族の指導者たる資格がなかったという事を、しみじみ痛感される。

これは今度の戦争(大東亜戦争)に限らず、奈良朝以前において、朝鮮半島から、引揚げねばならぬ始末となり、また壬辰の役〔秀吉の朝鮮出兵〕でも、足掛け七年の戦争中、個人としては、加藤清正のように、すべての韓国・朝鮮人とはいわないが、一部の韓国・朝鮮人よりは、愛慕された者もあったものの、人心を承服させ、永く日本人への親愛を勝ち取った者は絶無か、わずかという有様だった。

翻って明治維新以来、台湾統治五十年、朝鮮統治四十年の歳月に、日本は何事をしたかといえば、台湾では現地ゲリラ,菲族を駆逐し、疫病を駆逐し、平和と健康とを台湾にもたらし、更に米、砂糖、材木、茶、その他において、多大の進歩を遂げたことは事実だが、果して台湾人の心をつかんだか否かという事については、極めて疑わしきものがあった。

つまり、物では成功がいくつかったが、

人については、むしろ一大失敗という方が、適切であった。

更に朝鮮半島では、最初は伊藤博文のように、賢明なる政治家が、統治方針を定め、むしろ朝鮮における内地人(日本人)の人望を失っても、まず朝鮮人の心を得ねばならぬとして、果然とことにあたり朝鮮人より、いかなる程度の感謝を勝ち得たるかは知らぬが、少なからず日本人より怒りを買った。

そして寺内正毅までは、やや伊藤の根本原則に遵守した積りであるらしかったが、その後の総督は、方針もなければ、経倫もなく、全くその日暮し、行当りばったり、そのために、いよいよ、ついに朝鮮が、日本の手を離れるという時になっても、誰れ一人(朝鮮人として特別に日本人によって利益を得た若干者を除く外は)涙を流す者はなかった。

もし物質的に観察すれば、日本の統治四十年間は、決して無意義ではなかった。はげたる朝鮮の荒れ果てた朝鮮の田畑には、排水も出来、かんがいも出来、立派な穀倉となった。

地下資源も、まだようやく初歩と言ってもよいが、前途洋々の望みがもてるに至った。水力電気の利用に至っては、今日でも、世界に誇るに足るものがある。将来は更に驚くべきものがあって、北朝鮮方面の、これまで未開発の地方は、立派な工業地帯となりつつある。

日本人は決して朝鮮の天然を蹂躙し、奪掠し、放擲するような事はなく、最善の努力を以て、朝鮮の天然を善導し、かつ利用せん事を努めた。

しかし、韓国・朝鮮人は誰れ一人、日本に向って感謝する者もなく、常に日本人の手から、自由になることを、祈ってやまなかった。日本人は朝鮮から、取る事も取ったが、与える事も与えた。しかし韓国・朝鮮人は誰れ一人、日本人に対して感謝する者もなく、日本人の評判は、終始一貫悪かったといわねばならぬ。一言にしてこれを言えば、物質的には成功に近かかったが、精神的には、全く失敗した。

このように台湾や朝鮮で、小手調べをした日本人は、すでに立派な黒星を取っていた。それが今度は、中国大陸よりアジア大陸、及びその諸島にかけて、戦争を拡大していく際に、人心を収攫するなぞということを、期待するのは初めめから出来ない相談であったといえる。

つづく

(昭和二十二年一月九日午前、晩晴草堂にて)

 

 - 戦争報道

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(115)/記事再録☆『百年先を見通した石橋湛山の大評論』★『一切を棄てる覚悟があるか』(『東洋経済新報、大正10年7月 30日・8月6日,13日号「社説」)『大日本主義の幻想(上)』を読む②『<朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟をしろ、中国や、シベリヤに対する干渉もやめろーいう驚くべき勇気ある主張』

    2012/08/27 &nbsp …

「オンライン・日本史決定的瞬間講座④」★「日本史最大の国難をわずか4ヵ月で解決した救国のスーパートップリーダー・鈴木貫太郎首相(78歳)を支援して、終戦を実現させた昭和傑僧、山本玄峰(95歳)とは一体何者か?(上)』 

  第2章―昭和傑僧、山本玄峰(95歳)とは何者か ★『力をもって立つ …

no image
日本リーダーパワー史 (25) 中国建国60周年のルーツ・中国革命の生みの親・宮崎滔天に学べ②

日本リーダーパワー史 (25)   中国建国60年・中国革命の生みの親・宮崎滔天 …

no image
日本リーダーパワー史(857)ー『今回の「北朝鮮有事危機」は真に国難に該当するものなのか』★『「北朝鮮危機」こそが自民党圧勝の最大要因だ 英メディアは日本の総選挙をどう分析したか』★『トランプの強気が招く偶発的核戦争』★『衆院選で明白、政治家のレベルの低さこそ本当の「国難」』

日本リーダーパワー史(857) 日本史における「国難」4戦争と 『朝鮮有事』『朝 …

no image
『 地球の未来/世界の明日はどうなる』-『2018年、米朝戦争はあるのか』⑥『「米朝戦争」の可能性は、なくなっていないこれから考えられる2つのシナリオ』★『 焦点:消えぬ米朝戦争懸念、トランプ政権にくすぶる先制攻撃論』★『元自衛艦隊司令官が警告「米朝戦争、空爆はこの時期に実行される」そのとき、在韓邦人は…』★『「米朝開戦の可能性は100%」元外交官がこう断言する理由金正恩政権「滅亡の日」は近いのかも…』

『2018年、米朝戦争はあるのか』⑥ 「米朝戦争」の可能性は、なくなっていないこ …

no image
イラク戦争報道―米軍前線指令本部の発表はどうだったのか 03 年8月

n1 ――太田阿利佐・毎日新聞サイバー編集部記者に聞く‐‐ 前坂 俊之 今回のイ …

no image
『オンライン講座/太平洋戦争の研究』★「生きて虜囚になることなかれ」の戦陣訓こそ日本軍の本質』★『「戦陣訓」をたてに、脱走事件を起こした「カウラ事件」もあまり知られていない。』

    2015/06/01 &nbsp …

no image
「20世紀/世界史を変えた『日露戦争』の研究」- 「日露開戦までのいきさつ」①★『ロシアは再三再四の遅延、引き延ばし、恫喝外交を展開、 日本側は妥協し、忍耐して交渉を続けるが、ロシア軍が鴨緑江岸 に侵攻した時点で、ついに堪忍袋の緒をきって開戦に踏み切った。』●『安倍プーチン会談の外交交渉の参考にせよ』

  ★「20世紀/世界史を変えた『日露戦争』の研究」- 「日露開戦まで …

no image
『2018年、米朝戦争はあるのか➈』-『トランプ大統領の「認知症騒動の顛末」★『銃乱射の被害者を訪問したトランプ、ご機嫌で大顰蹙(ひんしゅく)。この男に心はあるのか?』★『米副大統領、平昌五輪で北朝鮮と会談予定だった 北朝鮮がドタキャン』

トランプ大統領の「認知症騒動の顛末」 前坂 俊之(ジャーナリスト) CNNは1月 …

『オンライン/昭和史の外交大失敗から学ぶ講座』★『山本五十六のリーダーシップー日独伊三国同盟(今から80年前の1940年の大外交失敗)とどう戦ったか』★『ヒトラーはバカにした日本人をうまく利用するためだけの三国同盟だったが、陸軍は見事にだまされ、国内は軍国主義を背景にしたナチドイツブーム、ヒトラー賛美の空気が満ち溢れていた』

2012/07/29 記事再録・日本リーダーパワー史(288) <山本五十六海軍 …