『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑩ 『英タイムズ』報道ー『日露開戦半年前ー(日本の不安)もし満州が強力で侵略的な西洋の1大国.特にウラジオストクを制している国(ロシア)の手に渡るなら,朝鮮は遼東-ウラジオストク間の連絡路上に位置しているため,結局はその大国の支配下に加えられるに違いないと.日本の多くの政治家には映る。』
2016/12/29
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』⑧
『英タイムズ』報道ー
1903(明治36)年7月13日『英タイムズ』『日本と英仏接近』
(本紙通信員記事)東京 6月6日
イギリス国王のパリ訪問と,ルーべ大統領のロンドン訪問の予定のニュースに接した日本は,満州情勢の複雑化で外交問頴に高い関心を払っている最中にある。
満州については日本は冷静な力と自制の態度をとってきたと認めなければならない。この問題には1つの苦い要素があって,それをまのあたりにし,直接煮え湯を飲まされた現世代の記憶にまだ新しいため,それが過去2か月間に不満の声になって表れたこともある。
日本人は次のように言う。
「勝者の権利としてわれわれは盛京沿岸地方を1895年に占領した。われわれをそこから追い出したロシア,フランス,ドイツは,満州の一部たりとも外国が保有するならば,われわれが朝鮮の独立のために戦ったにもかかわらず,その朝鮮の独立を危うくすると明確に申し入れてきた。
ところが1903年になった今,ロシアが満州全土を保有しても,そうした危険は起こらないとわれわれに信じろと言っているではないか。あんまりだ。
もし,今われわれがロシアの全面的な侵略に対して,ロシアが9年前にわれわれが戦勝によって得た,満州のごく一部に対し唱えたのと同じ反対を唱えても,不当呼ばわりされるのか?」。
折に触れてこうしたつぶやきが聞こえ,それをロにする者が政府に対し,1895年にロシアから寄せられた申入書を,あて名など必要な箇所だけを変えて,そのまま先方に送りつけろと要求したこともある。
だが全体としては.荒々しい興奮からはほど遠かった。由々しい事件が続発するのを前にしながら,国民が平静を保っていることは,英日同盟締結当時にロシアとフランスの観測筋が流した意地の悪い予言にとどめを刺すものだ。
当時ロシアとフランスでは,日本が急に成り上がったからといって,その地位をそれほど仰々しく認めるなら,日本をいい気にさせて,手に負えないほど増長させるに決まっているという意見が出された。
西洋最大の国の1つが,日本が国際的尊敬を受ける権利にそんな太鼓判を押したからには,日本は自信過剰になって,極東の平和を守るどころか,それを危うくすることになりかねないと両国は思ったし,率直に公言もした。
こうした予想を現在の事実と比べると興味深い。
イギリスとの親交は日本を落ち着かせる効果を上げたというのが本当のところだろう。それまでは日本は,得たばかりの国際的威信に伴う責務について.だれの助けも借りずに評価しなければならなかった。
だが英日同盟により,日本は証明済みの,信頼するIと足る判断力を備えた友を得たのだ。
かくて,ロシアの満州侵略のうわさに対し強硬な反発の兆候が最近1,2度表れた際,東京の有力紙は英日同盟を引合いに出し,それこそ武力抗争の後ろ盾としてではなく,日本政府が何をするにせよ,しないにせよ,イギリス政府の支持と協力があると思ってよい保障であるとした。
一言で言えば,同盟は自信を生み.自信は当然,落着きを生むのだ。これに対し.英仏接近のニュースは一部に不安感を生じさせた。
日本には親ロシア派がおり,単に反ロシアの著作や演説に反対するだけでなく,ロシアとの同盟を唱えている。この一派は大きくはないが,指導者に1,2の非凡かつ精力的な人物がおり(伊藤博文ら),ことに尾崎行雄氏がそうで.同氏は進歩党の元幹部であり,最近までは政友会の中で頭角を現していた。
要約すれば,この少数グループの主張は,ロシアと衝突しないうちに,できるだけ早く不一致をなくすことが,日本の最も賢明な道だというものだ。ロシアの着実で絶えざる南進は彼らの想像力に一種の催眠術的な効果を及ぼしている。
感銘と脅威の点では,ロシアの壮大な成果を上げつつある活動とイギリスの受身の保守主義とは比較にならない。したがって,親露派が,受身のイギリスとの同盟のあいまいな可能性をあてにするよりも,この侵略大国と明確な取決めを結ぶことの方が安全と思うのは
不自然ではない。だが彼らは,その理論を実際的なものに煮詰めるにあたって困難を覚えている。
朝鮮はもとより日本の注目の的だ。中国の東三省における日本の物質的利益はイギリスに似ている-つまり,その市場が自国の通商に,またその国境が自国からの居留民に開かれていさえすればよいので,同地域の主権の所在がどこになろうと,たいした問題ではない。
日本は満州を,自国の余剰人口が暮しを立て,自国の工業製品のはけ口の場になればよいと見ている。しかし政治的には,問題の根はもっとはるかに深い。
もし満州が強力で侵略的な西洋の1大国.特にウラジオストクを制している国(ロシア)の手に渡るなら,朝鮮は遼東-ウラジオストク間の連絡路上に位置しているため,結局はその大国の支配下に加えられるに違いないと.日本の多くの政治家には映る。
しかも,ロシアがヨーロッパで海への出口を持たないという異常さも,同国がアムールおよび遼東という沿岸地帯を保有しながらも接近がままならず,両者の中間に良港を抱え交通も容易な朝鮮が位置
しているのに.これに対し帝国主義的な企図を封じられていることに比べれば,ものの数ではあるまい。
しかしロシアが朝鮮を手に入れれば,その大砲は日本の沿岸をほぼ射程内に収めることになる。
この確実性の回果関係を理解した故に,日本は1895年,遼東に兵を進めたのだし,鴨緑江河口から旅順に至る朝鮮の湾岸地帯を制するために必要な犠牲もいとわなかったのだろう。その立場から追われ,かつ満州のロシア領への吸収という恐れに見舞われて,日本は政策の二者択一を迫られている。
1つは中国帝国の保全を維持して,朝鮮の独立を北の攻撃から保障することであり,もう1つは満州の犠牲により朝鮮の安全を購うことができるなら,満州を放棄しその運命にゆだねることだ。
後者が尾崎行雄氏とその同調者の政策だ。彼らは大筋はしっかりつかんでいる。だが実際の細かいことになると,不都合に突き当たる。一時,彼らはバーター取引を率直に唱え,ロシアが朝鮮から手を引くなき,満州では自由にさせるがよいと提案したことがある。
だが仮にそうなった場合,どんな意味が生じるのか?
もし,ロシアの満州併合に異議を唱えないことの見返りに,日本がロシアから,朝鮮の独立を尊重する旨の約束しか得られないとするならば,それは代償と呼べるのか?
かつてはそう思うこともできたろうが,最近の事態に照らせば,ロシア政府の約束の信頼性は地に落ちている。
しかし2年前,まだロシアに信用があったとき.同国は.おそらく日本の親露派の勧めによって,朝鮮の中立化を提案してきたことがある。その提案のしかたには外交的気配りに欠けるところがあったが,その種の些細な欠点が結果に支障をきたしたとは思えない。
東京政府の回答は簡単で.その内容は,ロシアが朝鮮の独立に配慮していることは,1895年の遼東事件に照らしても,これを疑う理由は見当たらないし,ロシアの満州における存在は一時的なものだとの保障の有効性を疑う理由もない。
したがって朝鮮を脅かすものは何もなく,あるとすれば約束違反だが,日本はそれを予期するいわれもないから,朝鮮中立化の協定はあらずもがなであろう,というものだった。
(中略)
英仏協商近しとのニュースにより,一部に気がかりが生じた。親露派は,こうした動きは仏露同盟を弱める-考えられないが,英露間の溝に橋渡しをするかのいずれかだと論じるかもしれない。
だがイギリスがロシアに1歩でも近づけば,それだけ日本から離れたと思う者もいるわけで,そうした見方からするなら,これから
3年もたたないうちに英日同盟の更新か廃止かを決める際,イギリスの政策が変わってしまい,日本は置去りにされるだろうと結論を下すまでに,たいした距離はない。
両国接近は過去半世紀の最も顧著なできごとの1つとして重視されている。イギリス国王の訪問の土壇場まで,そんなことは決してあり得ないと思われていただけに,これが日本の観測筋の想像力を刺激しているのは明らかだ。
実際.ある新聞は,このできごとの根本的理由が見えたと言い,ドイツとロシアは徐々に接近するだろうと推測し,英仏が文明的な自由で結ばれているのに対し,ドイツとロシアは専制政治と軍事独裁主義の共通点があると論じている。
だがこの論調は孤立したものだ。一般的な意見は,英仏とも,これまで両国を隔ててきた相違を,今両国を近づけつつある利害に比べれば取るに足らないと認めた点で,深い賢明さを示しており,したがって,両国の接近は平和の新たな保障となる.というものだ。
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