『Z世代のための日中韓外交史講座』㉓」★『第一次トランプ暴風で世界は大混乱、日本も外交力が試される時代を迎えた。日清戦争の旗をふった福沢諭吉の「外交論」を紹介する」』★『外交の虚実』『時事新報』1895年(明治28)5月8日付』★『虚々実々の手段をめぐらし、百難を排して、国の光栄・利益を全うするは外交官の仕事。充分に任務を果たせるのは実に朝野一般の決心如何にある』
2025/04/01
2017/02/23 /日本リーダーパワー史(771)日清講和条約(下関条約)から3週間後の福沢諭吉の外交論
『外交の虚実』 『時事新報』明治28年5月8日付
外交交渉は虚々実々、テクニックを弄して他を制するにあるという。此一点より見るときは、外交とはただ虚を事とするものように思われるが、決してそうではない。虚の中に自ら実をとって始めて目的を達するものである。商売(ビジネス)のかけ引きも千差万別で売るようで売らないように見せかけて、容易に実(値段)を言わない間に利益を計算しながら、いよいよ最終場面に至れば、この値段以下では断じて売らない決心が必要だ。
この際の押間答を一見すれば、駆け引きの虚のようにも見えるが、実際に売るべき値段はのあらかじめ商人の胸の内でに確定している。
外交もこの商人のビジネシとおなじ。例えば、一方にはしきりに強硬論を主張して、今にも戦争を始める如きケンカ腰の態度をとる一方で、戦争の用意はどうなのかとその内幕を探ってみると、その強硬的態度も虚(うそ)で実際には用意はしてないよう見える。
さらに突っ込んで微妙の点に立入れば容易ならざる事実を発見して、さては強硬論も事実無根でないことがわかり、形勢逆転か思った途端、更に深く調べる(インテリジェンス)と何ぞ図らん、徴妙なる事実は全く虚(ウソ)にして、相手を謀略にはめてだます手段に出でものであるとの眞相を看破するに至る。
紆余曲折、容易に端侃すべからざる(あらかじめ予想することのできない)の技量をみる。
いわゆる虚々実々の妙處(いうにいわれない味わいのあるところ)なれども、凡そ天下の事は単に虚のみを以て見る可らず、実ありて始めて虚の用を為すことなれば、外交官が他に対して虚術を弄する考えの底には常に決心の実を控え、緩急の場合に臨んで動揺することなく、縦横無尽に技量を振うことこそ大事である。
雙刀(中国の武具で、刀の一種。特徴として一つの鞘(さや)に二つまたは複数の刀身が入っている物)を帯したる武士が人と争っていよいよ打果すべしと言放すの時となり、対手の者がその一言に畏縮して自から屈服すれば刀を抜かなくても済むこともあるといえども、最初に武士の一言をロより発するにあたりては必ず他を斬るの覚悟を決するべきである。もしも単に虚喝(虚勢をはっておどかすこと)を以て、他を屈せしめんとして自から決心せず、いやしくも油断するときは、かえって他より斬られて案外の不覚を取ることある。
要はただ最初の決心如何にあるのみ。これを決断するには、先づ物の数を比較して、あらかじめ事後の得失を考えるべきはいうまでもないが、又一方より立言すれば、およそ一国をあげて空前の大功を成さんとするには、もとより非常の危険を冒さざるをえない。
古来、人生の成功は、その過半は冒険の結果でないものはない。王政維新の前、西郷隆盛翁が勤王討幕の主義を唱へてまささに起らんとするや、一部の人々はこれに反対して、今度の挙兵は、島津家の存亡に関する一大事にして実に容易ならず、勤王は敢えてダメとはいわないが、現在の主家(島津)の大事には換へ難しとして躊躇する声があった。
西郷翁は断然これを排斥していわく、
『吾々の事を企るのは眼中島津なし、運拙(わる)くして事成らざるときは、身を以て主家に殉ずるの覚悟のみ、若しも主家のために憂いて、飽までもその安全を謀らんとならば、速に勤王を止めて佐幕の実を行うに如かず、
依然、膝を幕府に屈して二百幾十年来の昔に安んずるときは、島津家の安全は必ず疑なし、単に主家の安全のみを謀るものは、宜しく国に留まるべし』
同志の人々と共に奮然出発したるの結果、ついに維新の大業を致したりという。今後日本の外交も次第に多難に赴くは勢の免れざる所にして、今回の戦勝について収めたる利益を失うのみ.に止まらず、時としては更らに一段の難局に陥ることなきを期さねばならぬ。
国際風雲の変化は朝にあって夕を図る可らず。今日の順風も明日の逆潮に変化するその間に立て、虚々実々の手段をめぐらし、よく百難を排して、国の光栄利益を全うするは外交官の技量にして、充分に技量を振わせるものは実に朝野一般の決心如何に在るのみ。我輩は唯その決心の確実ならんことを折るものなり。〔五月八日〕
関連記事
-
-
ジョーク日本史(5)西郷隆盛の弟・西郷従道は兄以上の大物、超人だよ 『バカなのか、利口なのか』『なんでもござれ大臣」「大馬鹿者」と(西郷隆盛は命名)『奇想天外』「貧乏徳利」(大隈重信はいう)
ジョーク日本史(5) 西郷隆盛の弟・西郷従道は兄以上の大物、超人だよ 『バカなの …
-
-
『MF・ワールド・カメラ・ウオッチ(12)』 「フィレンチェ散歩(4/19-4/28)「ウフィッツィ美術館」、「「パラティーナ美術館」 を見て回る
2015/06/12 『世界美術館めぐり』転載、再編集 …
-
-
知的巨人の百歳学(162 )記事再録/「昆虫記を完成したファーブル(92歳)は遅咲き晩年長寿の達人-海、山を観察すれば楽しみいっぱい
2013/07/30 / 2015/01/ …
-
-
日本リーダーパワー史(47) 辛亥革命百年①現代中国の国父・孫文を助けた日本人・梅屋庄吉「我は財を挙げる」
日本リーダーパワー史(47) 現代中国の国父・孫文を助けた日本人・ …
-
-
世界を制した日本人ー『映画の都「ハリウッド」を制したイケメン・ナンバーワンは-「セッシュウ・ハヤカワ」とは何者か①』
世界を制した日本人 映画の都「ハリウッド」を制したイ …
-
-
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟はなぜ結ばれたのか」⑥1902(明治35)年2月19日『ノース.チヤイナ・ヘラルド」『日英同盟の内幕』●『西太后が信頼した外国は①米国②日本➂英国で『日本は血縁関係の帝国同士で、 中国に対する友情をもって決して外れたことはない』★『袁世凱とその同僚の総督たちは日本派で日英同盟を 結ぶようイギリスに働きかけた。』
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟はなぜ結ばれたのか」⑥ …
-
-
最高に面白い人物史⑧人気記事再録★日本風狂人伝⑩ 尾崎士郎-「人生劇場」を書いた男の中の男
日本風狂人伝⑩ 尾崎士郎-「人生劇場」を書いた男の中の男   …
-
-
『Z世代のための初代総理大臣・伊藤博文の明治維新講座』★『○<切腹覚悟でイギリスに密航し、ロンドン大学に留学して、西欧文明に衝撃を受けて攘夷から開国派に180度転換、アジア全土が植民地支配を受ける中で、唯一独立を保ち西欧列強の仲間入りを果たした>』
明治時代は<伊藤時代>といって過言ではない。   …
