前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『Z世代のための日本興亡史研究④』★『日本海海戦完勝の<東郷平八郎神話>が40年後の<太平洋戦争開戦と敗北>の原因の1つになった』★『ネルソン神話と40年後の東郷神話の同一性』

      2025/03/02

 
第2次近衛内閣(1940年7月22日から1941年7月18)の和戦決定のとき、陸軍は海軍に対して、「海軍は戦えぬ」といってくれ、と申し入れたのに対し、海軍はそれをいえなかった。その原因はさかのぼって、この東郷元帥の一喝からきている。
日本を滅ぼした東郷平八郎元帥の「「トラウマ面罵事件」
https://www.maesaka-toshiyuki.com/person/57320.html

和戦決定の重大間題に直面しながら海軍部内では、軍令部も海軍省も「近衛から下駄をはかせられるな」ということになった。
このため、及川海相は近衛首相に対して「海軍によって陸軍をおさえ得ると思われているかも知れないが、閣内一致して、総理が陣頭に立って抑えなければダメである」との態度に出た。荻外荘会見の2日前、鎌倉の近衛の別荘に及川海相が呼ばれたときのこと。
東条英機陸相から海軍に対して申入れがあった時、及川海相は、「海軍として返事すべきではない。首相が「解決すべきものである」と逃げた。

●「なぜ、戦えぬといわなかったか? いかにも残念である」


太平洋戦争が惨敗に終った1945年(昭和20)の暮から翌年にかけて、海軍で生き残った最高首脳者が何回か集って、日米戦争を検討する会を開いたとき、井上成美大将が及川大将に食ってかかった。
「全責任は私にある」と及川大将は答えた。そして、それがいえなかった2つの理由をあげた。
第1の理由は満州事変当時の東郷元帥のどなりこみ事件であった。東郷元帥は日本海海戦では英雄ではあったが、この言動は日本海軍に大きな災いとなった。

ロンドン軍縮会議のとき、東郷元帥は海軍の最長老として、海軍の軍紀(軍は政治に干与せず)について厳守すべきなのに、単純な東郷元帥は部内の一部の強硬派と、部外の右翼の策動にのり、事態を紛糾させて、非常な問題を起した。

第二次世界戦争の発火点となった満州事変に際しても、前途を憂慮する首脳者にたいしても強権的な言動を繰り返し、「戦艦大和の建造」(1937年、昭和12年)、ついには太平洋戦争の開戦にまで響いた。

●第2の理由とは―

さらに、さかのぼっていえば、日本海海戦の勝利は、いかにも東郷艦隊の猛訓練」で鍛えられた「百発百中神話」によってロシア艦隊を撃滅したように宣伝きれ、「訓練」ということが日本海軍の「神話」になったことである。
日本艦隊の大砲の照準装置にはレンズが入っいたが、 バルチック艦隊にはクロス・ヘアの照準器しか持つていなかった。その事実をいわずして、ただ「東郷精神」のみが強調された。
これはネルソンの場合と同じである。1805年10月21日、トラファルガルの海戦でネルソンはフランス艦隊を撃滅し、ナポレオンをして、永久に英本土上陸を断念させた。以来、今日にいたるまで世界海軍の英雄に祭り上げられているが、ネルソンの勝利も、たまたま英艦隊が風上にあって敵と対戦したことが決定的な勝因なのである。日本の場合は、蒙古襲来(1266年など2回)を防げたのは台風のおかげであり、太平洋戦争でも「神風」が吹くことを期待して、最後まで特攻隊をで戦った。

●英国魂と大和魂の類似性

だが、それがいわれずに、ただ「ネルソン魂」だけが強調、賛美された。トラファルガル海戦(1805年)のちょうど100年後の「日本海海戦」(1905)で東郷神話が生まれ「大和魂」が強調されたのは国家興亡史における両国の類似性を痛切に感じる。

英国は大西洋上の海洋国家、日本は太平洋上の海洋国家である。英国はいい意味でも悪い意味でも「ジョンブル精神」(英国魂)があり、日本の大和魂と共通する面が多い。

トラファルガル海戦(1805年)によって、フランス・ナポレオンのイギリス本土侵攻を抑え世界中の7つの海に広大な植民地を広げ「大英植民史地帝国」を築いた。日本は米国の黒船来航によって明治維新(1868年)で開国し、西洋に追いつけと「富国強兵」「殖産振興」政策の国づくりにまい進した。

 500年にわたってユーラシア大陸の寒冷地の領土拡張・植民地政策を続けた「ロシア・侵略主義」に対して、弱小国家日本は日英同盟を結び、英米の支援によって日露戦争(1905)でからくも勝利した。アジア、中近東の有色人種で唯一独立を守った。こうして、日本興亡史の「坂の上の雲」を登ったのである。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本風狂人伝(28) 大預言者(?)で巨人の大本教の開祖・出口王仁三郎のジョーク

日本風狂人伝(28) 大預言者(?)で巨人の大本教の開祖・出口王仁三郎前坂 俊之 …

no image
知的巨人の百歳学(142)明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75歳)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」★『人間、長寿の法などはない』★『余裕綽綽(しゃくしゃく)として、物事に執着せず、拘泥せず、円転・豁達(かったつ)の妙境に入りさえすれば、運動も食物もあったものではないのさ』

明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」 ① …

no image
記事再録/日韓歴史認識ギャップの本人「伊藤博文」について、ドイツ人医師・ベルツの証言『伊藤公の個人的な思い出』

  2010/12/05 の 日本リーダーパワー史(107) …

『オンライン死生学入門』★『中江兆民(53歳)の死に方の美学』★『医者から悪性の食道ガンと宣告され「余命一年半」と告げられた兆民いわく』★『一年半、諸君は短いという。私は極めて悠久(長い)と思う。 もし短いと思えば五十年も短なり。百年も短なり。生命には限りがあり、死後には限りなし」(『1年半有』)』

      2015/03/19/『中江兆民(53歳)の死生学』記事転 …

no image
日本リーダーパワー史(106)伊藤博文③エピソード、女に殺された日本一の宰相

日本リーダーパワー史(106) 伊藤博文③エピソード、女に殺された宰相      …

no image
日本新聞史<満州事変から太平洋戦争までの戦時期の日本の新聞>

1 =戦争と新聞を検証する= 1995年2月15日 前坂 俊之 静岡県立大学国際 …

no image
★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」/「日英同盟の影響」⑬1902(明治35)年10月22日『英タイムズ』『満州におけるロシア人ー占領の結果』●『日露戦争開戦3ゕ月前には三国干渉で日本から奪った満州は5年間でロシアの1州になっていた』

     ★「日本の歴史をかえた『同盟』の研究」- 「日英同盟の影響」⑬  19 …

日米野球史「ベーブ・ルースを超えた二投流・大谷翔平」と「日本の野球の神様・川上哲治監督の「巨人9連覇達成」

  エンゼルスの大谷翔平選手のペースがますます上がってきた。6月は月間 …

『日本史人物クイズ? /歴代弁護士で奇人ナンバーワンは誰でしょうかー米国伯爵?自称した山崎今朝弥(やまさき・けさや)はハチヤメチャ弁護士人生』

  奇人弁護士のナンバーワンは誰だ・・山崎今朝弥 山崎今朝弥(やまさき …

  日本リーダーパワー必読史(746)歴代宰相で最強のリーダーシップを発揮したのは第2次世界大戦で、終戦を決然と実行した鈴木貫太郎であるー山本勝之進の講話『 兵を興すは易く、兵を引くのは難しい。』★『プロジェクトも興すのは易く、成功させ軟着陸させるのは難しい』●『アベノミクスも、クロダミクスも先延ばしを続ければ、 ハードランニング、亡国しかない』

  日本リーダーパワー必読史(746) 歴代宰相で最強のリーダーシップを発揮した …