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『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座㉟」★『120年前の日露戦争勝利の立役者は児玉源太郎』★『恐露派の元老会議に出席できなかった児玉源太郎』★『ロシア外交の常套手段の恫喝、時間引き延ばし、プロパガンダ、フェイクニュースの二枚舌、三枚舌外交に、日本側は騙され続けた』

   

元老会議の内幕

 
写真右から、児玉総参謀長、井口総務部長、松川作戦部長、戦場での総参謀長室で)
一〇月一二日に就任した児玉次長は元老たちの不決断にイライラしながら、その内幕を二〇日、部長会議でもらしている。
「伊藤侯は、故田村中将より聞いたが、わが国の軍備いまだ充実していないので、戦争に決することを蹄躇しているという。田村中将は今日のように事態が切迫していなかった時期だから、満州問題を利用して軍備の充実を図ろうとしたが、その意図は伊藤候に通じず、伊藤侯爵はこれを真面目に解釈して、わが国の軍備はいまだロシアに対抗するに足らずと思ったのであろう」と説明した。
「しかし、軍備の充実も程度問題である。われわれが充実しないものがあれば、ロシア側にもまた不充分な点もある。パワーバランスであり、現在のわが兵力をもってロシアと対戦しても、必ずしも必勝の計算が立たないわけではない」とも話していた。
しかし、元老たちは田村前次長の戦力比較を信じており、開戦には二の足を踏んでいた。一〇月二四日の元老会議では、伊藤・山県・黒田・井上・松方、大山、西郷らの元老の外、桂首相、寺内、山本陸海相、小村外相のみが列席し、児玉次長も蔵相も伊東軍令部長も列席を許されなかった。
 元老会議という最高の国家意思決定機関で、世界の大勢に通じた政軍戦略の決定時期を調査研究してきた参謀本部の統括責任者の児玉次長が出席できないとは一体何たることか。参謀本部は不満が渦巻いた。この欠陥制度と運用不備によって、開戦のタイミングはズルズルと先延ばしされていった。 一方、ロシアの軍事、外交は着々と進められており、日本外交の拙劣さが一層際立った。

 

この頃の内閣の不決断、元老の優柔不断、軍事当局の繁忙、動員準備、大臣らの往来などは、日々の新聞紙上に刻々と掲載された。軍事外交の必要性については戦争前から指摘されていたことだが、当時は軍事外交の思想は日本では全く理解されていなかった。陸軍唯一の智謀・児玉参謀次長でさえ、元老会議や閣議から除外されることが多かったので、陸軍は国策決定の成否、決定を知ることはできなかった。
ようやく一〇月三〇日になって、参謀本部各部長は児玉次長から、日露交渉の進展について説明があった。しかし、この説明は日本側の単なる希望的な観測で、事実とは全く違っていた。当の児玉次長にさえ、こんな情報を間に受けていた。
児玉は「日露の談判は、平和に傾きつつある。政府の提出した鴫緑江を中心として双方五〇キロを隔てた地域を中立地帯とする案は、ロシアも承認するかも知れない。しかし、その代償としてロシアは、朝鮮南岸において日本が自由航行を妨げるような施設を建設しないように要求している』と説明した。
これを聞いた各部長は、「ああ、大事は去った」と胸をなでおろした。部長からは「この際わが国としては、少くとも満州に対する軍事の均衡を得るため、兵力をもって朝鮮を確保しなければならぬ。協定上この余地を存してあるだろうか。」など質問が出た。

この重大時局に総理自ら進んで児玉次長に情報を全面的に開示し 児玉次長は「それは必ずあるだろう」と答えたが、事実は全く違っていた。児玉自身がこの外交交渉の詳細は知らさていなかった。このとき、小村外相がローゼン公使と第六回の会見を行なった時期だが、ロシア側の回答書は、児玉が自ら総理官邸からとってきて謄写するような有様で、常識では考えられないお粗末な情報不共有であった。て、外交と軍事との一体性をはかるのは当然の義務だが、それさえやっていなかった。「桂総理の態度は機密確保の必要とはいっても度が過る!」と参謀本部員からは批判が噴出した。

 

●『ロシアの常套手段の恫喝、武力行使、プロパガンダの三枚舌外交』

 

一九〇三年(明三六)一二月一〇日、外務当局はロシア・ペテルブルグ発の粟野公使の「交渉は日本の主張をロシア側が受け入れる見込み」という電報を信じ、希望的な観測による平和を夢みつつあった。

児玉次長もこの電文にホット一安心したのか,参謀本部員に内容をしらせた。「ロシアは財政窮乏のために戦争開始に踏み切れず、日露問題は多分平和的な解決をみるであろう。ただこれにより、戦機を三年ほど延期せざるを得なくなり、日本側の不利はかえって大きくなる。いかに対処すべきか」と聞いた。
 各部長は「万一、平和的な解決をみるにいたっても、禍を残す結果となることを、日本は覚悟しなければならない。そのための戦略として

海軍を拡張して常にロシアに対抗する勢力を維持する。

②同時に兵力をもってする朝鮮の占領を確実にし、京釜鉄道を完成させて、馬山の経営に着手する。―など意見具申した。ところが、この二日後に事態は急変した。児玉が平和的な解決がまとまるとみた日露外交交渉は不調に終わった。

一二月一二日夕、児玉次長は、寺内陸相の緊急呼び出しで急きょ大山総長邸に出向いた。深刻な顔をした寺内陸相は外交交渉の結果を告げた。

 ロシアがローゼン公使を通じて日本政府に通知した最終回答は、一歩も譲歩したところはなく、満州については一言もふれていない。満州は従来通りロシアのものとしていた。そのほか、韓国南岸に自由航行を妨害するような施設を建設してはいけない。韓国北緯三十九度以北の地を中立地とすることなどが、含まれていた。政府、外務省、児玉らの参謀本部の平和の望む希望的な観測は見事に砕かれた。

 結局,交渉で折りあわなかった主要点は
,①韓国領土を軍略上の目的で使用しないことと中立地帯を設定することは日本が拒絶した。
②満州の領土保全と「韓国及その沿岸はロシアの利益範囲外であること」を承認はロシアは拒絶した。
この間の八月十二日から一二月一二日までの五ゕ月間の日露外交交渉の経緯を振り返ると、日本政府は、最初から譲歩に次ぐ譲歩を重ねて、やっと一〇月三〇日になってさきに最終案を提出したが返事がない。何度もロシアに早急な回答を求めたが、ロシア政府は、言を左右にして、何等の回答も示さず、回答期日すら明示しなかった。
この裏で、ロシア当局は時間稼ぎをしながら、ひそかに満洲への兵力増強を続けていた。表面ではしきりにロシア側が大いに譲歩するという説を流して他国の同情を買い、また平和的な解決になるというプロパガンダ偽装工作を行っていた。
ロシア外交の常套手段である恫喝、武力行使と同時に、それと並行してのプロパガンダ、メディア工作の二枚舌、三枚舌外交に、みごとに一杯食わされた。

 

児玉次長はここに至ってロシアと断絶し帝国の既得権益を守る開戦を決断した。

 
翌一四日、児玉次長は外交交渉決裂の情況を各部長に説明し「もはや軍事外交に移るべき時期に到来した。断固たる内閣の決心を促していく」と述べ、一六日に元老会議が開催され、大山巖参謀総長は「シベリア、東清鉄道はほぼ完成しているものの、今の段階ではロシアの軍隊輸送能力はいまだ十分ではなく、また海軍をみても、現在四対二の比率で日本に有利である。しかし、開戦を遅らせれば遅らせるほど、日一日と状況は日本に不利になる」と主張した。

 

しかし、元老会議ではロシアの先延ばしに怒りながらも伊藤、山県の二大元老は開戦には依然慎重だった。同二十一日、小村外相は第二次修正案をロシアに再提出。しびれを切らした児玉は桂首相にハッパをかけた。二十四日、桂首相は寺内正毅陸相を従えて伊藤、山県元老をその逗留地の大磯に訪ね、開戦理由と陸海軍の戦闘能力を説明した。伊藤、山県はおおむね了承し二九日に、参謀総長、軍令部長に出兵準備を通告された。

翌明治三七年一月六日になって、ローゼン公使からロシアの最終提案が提出された。しかし、内容的には「中立地帯を設ける」点は取り下げたが、これ以外は一切譲歩していなかった。一月七日、内閣会議に参謀総長、軍令部長、各次長を伴って列席することが初めて認められた。

小村外相は十一日、ローゼン公使に三度目の日本本側最終対案を提出したが、二月四日、ロシア政府の回答がいまだ来ないことを理由に、ロシァとの外交断絶を閣議で決定、翌五日、小村外相は栗野公使に対露交渉断絶の通告訓令を発し、翌六日、栗野公使はロシア政府に通告した。

 

ところで、断交直前の二月二日、ロシア前蔵相ウイツテ(首相)がペテルブルグの日本公使館を密かに訪れて、栗野公使に内密の会談を申し入れた。ウイツテは「ロシア政府のなかでは私とラムズドルフ外相、クロパトキン大将の三名を除いて、他はことごとく対日強硬派になってしまった。これら強硬派は、新参の弱小国日本のごときに譲歩することはロシア帝国の威厳を損なうばかりか、ロシアの東洋制覇の阻害となる。ロシアは断じて一歩たりとも譲ってはならぬと主張している」と告げた。

ロシアは日本の宣戦布告をまったく予想していなかった。

弱小国日本がまさか大国ロシアに戦いを挑むなどありえない、という情報判断の甘さ、油断であり、超えがたい両国のパーセプション(認識)ギャップがあった。その背景に大国ロシアの驕り、ロシア宮廷の傲慢さ、内部分裂、対立抗争が、日露戦争となって大爆発した。

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