『オンライン講座・日本戦争外交史②』★『日露戦争・ポーツマス講和会議②―戦争で勝って外交で敗れた日本』★『今も外交力不足の日本が続いている」★『樺太はこうしてロシアにとられた。ロシアの恫喝・強権・フェイク外交に騙されるな』
第ゼロ次世界大戦としての「日露戦争」
前坂俊之(ジャ-ナリスト)
会議はほぼ一カ月にわたって非公式もふくめて十六回開かれた。日本側の講和条件の提示に対して、ロシア側は素早く回答し、甲の絶対的条件についてはウィッテは比較的すんなりと認めた。しかし乙の賠償金とサハリンの譲渡については最後まで頑強に拒否した。ウイツテは米国出発前にニコライ皇帝から「いかなる場合も一銭の賠償金も一趣の領土も譲渡しない」とクギを刺されていた。その後、交渉で出された賠償金請求についてのウィッテの問い合わせにも、ニコライ皇帝は二度にわたって拒否を言明したため講和は決裂寸前となった。
●ウィッテは逐一情報をリーク、メディア操作を行った。
ポーズマスには世界中から数百人の新開、通信記者が集まっていた。交渉の経過は日本側は籍口令(かんこう)をしいて一切もらさなかったが、ウィッテは逐一漏らし続けた。特に、影響力の大きいAP通信社には特別にリークして、「日本は韓国、満州を征服するのが目的なのだ」などと歪曲して伝えた。日本側から何の情報も入らず、お手上げの記者たちはこのロシア側の情報に飛びつき、AP配信をさらに誇大にしたニュース、解説にして伝え日本にも転電された。
例えば、「東京朝日新聞」(十月二十七日付)は「日露談判の不成功は新間政略の失敗に起因す。日本委員の秘密主義と外紙記者の反感」の見出しで「わが政府は新聞紙を軽視し、殊に外交政略中に新聞操件の方法なく、先ず眼中に置かざるを常とす……ある有名通信員は当初十二回全権に面会を求めたるに……謝絶されたるは事実なり。新聞の操縦を誤りたるは、日本全権の一大失策と言わざるを得ない」と報じた。
こうした両全権の情報操作の巧拙が勝負を分け、最初日本側に圧倒的に有利だった国際世論もだんだんロシア側に傾いていった。
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ウィッテの交渉術にはまった小村全権
難航した賠償金の交渉は八月十七日の第六回会議で、小村が「払い戻し金要求は戦争の直接実費のみに制限されたものだ」と発言したのに対し、ウィッテは「軍費払い戻しなど征服された国のみがやること。ロシアは領土の一部がわずかに攻撃されたにすぎぬ。」と拒絶し、賠償金も樺太の割譲もニコライ皇帝はあくまで反対なので、二十二日をもって会議を打ち切ると宣言した。
小村も妥協が難しい情勢となったので、ポーツマスを引き揚げると、十七日夜東京に打電した。十八日の十一回会議は決裂を何とかさけるため非公式会議として、ウィッテは樺太の二分割を持ち出し、小村も軍事費払いにかえて「樺太北方を譲る代りにその代金十二億円をロシアが支払ってはどうか」との新提案を行った。
ルーズベルトは日本を応援
この間、ルーズベルトは交渉決裂を心配して、ニコライ皇帝とドイツ皇帝に何度も電報を送り、かつて米露間でアラスカを米国が金
で買い取った方式に学んで樺太の北半分をロシアが買い取ってはどうかと説得し、一方、金子特使を呼んで「日本に巨額の償金の要求を下すよう」に勧告して、講和成立に向けてぎりぎりまで調整した。賠償金の支払いは拒否していたニコライ皇帝も、態度を少し和らげ、金の支払い、樺太の日本の帰属はやむをえないとの柔軟な姿勢を見せはじめた。
いよいよ決裂か、の瀬戸際の交渉となったが、ここでウィッテは日本が賠償金目的にこだわったために交渉がまとまらないと世界に宣伝するためにトリックを仕掛けてきた。
ウィッテのトリックにひっかかった小村
八月二十三日の会談で、ウィッテは「十二億円の大金は支払えない」と最終的な拒否を伝えた後、「わが国が樺太全部を割譲するなら、貴国は支払金の要求を撤回されるか」とそれとなく探りを入れてきた。
真正直な小村は「わが国民は、初めより領土と賠償金を期待しているから、一方のみでは満足するはずがない」ときっぱりと答え、ウィッテの落とし穴に見事にはまってしまった。
もし、この時、小村が賠償金の放棄を認めてもよいと言って、揺さぶりをかけておれば、局面は変わり、樺太全土は日本のものになったかもしれない。
小村の言質(げんち)を取ったウィッテは喜び勇んで、AP通信にリークし「日本は金欲しさのため血を流そうとしている」と悪宣伝をした。「交渉決裂、賠償金が目的の日本」「人類の敵日本」などアメリカの各新聞から対日非難の声がごうごうとあがった。
窮地に追い込まれた日本政府は八月二十八日の最瀞会議を一日延長するように訓令し、閣議、御前会議を開いた。これ以上戦争を継続するための兵力も予算もないことを理由に、小村の折衝によって「甲」の開戦日的の満州、韓国の権益は確保したため、「乙」の樺太の割譲と償金の二つの問題は放棄しても講和成立が急務であるとの結論に達した。
八月二十八日午後八時三十五分に小村に最終訓電した。
「仮令(たとえ)償金、割地の二間題を放棄するの巳むを得ざるに至るも、この際講和を成立せしむることに議決せり」
このぎりぎり段階の二十八日、英国マクドナルド駐日公使から、ニコライ皇帝が樺太南部の割譲を認めたとのと極秘情報が寄せられ、日本政府は、最終訓電を「樺太全島要求を主張することを断念し、最後の譲歩として其の南半の割譲を以て満足するに決したり」と訂正した続報を打った。これは会議約30分前にやっと届いた。
勝利の代償は「樺太の南半分」
いよいよ八月二十九日がきた。ウィッテは、勅命により最終回答を提出するとして、フランス語の正式文書を小村に手渡した。
「十二億円で樺太北半を還付するという条項は拒否する。樺太南部を日本に割譲する」。ウィッテは「もし、この時、小村がこんな馬鹿げた提案に同意できるかと、席をけって立ったら、待たれよとその腕にすがって引留ようと思っていた。日本政府は大負けに負けて償金は放棄しても樺太全部はよこすがいい、と出てくるのではないか、内心では不安と怖れで、前夜も眠れなかった」と回想録に内幕を書いている。
小村は文書を凝祝して約五分間、長い長い沈黙と緊張と静寂が会場を包んだ。小村がその無表情な顔をいささかも変えず朗々たる音声で口を開いた。
「ロシアが償金を支払わずに樺太の南部を日本に割譲するという提案に対し、日本政府は平和の克復を切望し、講和談判を円満に結了する趣旨をもって同意を表する」
小村の受諾宣言にウィッテは一瞬、信じられないという表情で口がきけず、隣室に駆け込んで「平和だ。日本は全部譲歩した」と歓喜を爆発させた。「こうなろうとは夢にも思わなかった。われわれは一文も払わないで、樺太の北半を得た。外交的大勝利を博したのである」(同回想録)各新聞は「ウィッテの凄い腕、外交的大勝利」と称えた。
「ニューヨーク・タイムズ」は、「当地にいる評論家ら-ロシアびいきであれ、日本びいきであれーはこの条約の勝利を外交史上での驚くべきことと見ている。各戦闘で惨めなほどに敗北を喫し、その海軍は撃滅された国家が、その勝者にたいして休戦条件を押しっけた」と論評した。
最後まで日本のために奔走したルーズベルト大統領も「日本が樺太の北半を還付したのは、捨てずに済むものをわざわざ棄てたもの。たしかに予が日本のために取ってやることのできたもので、取れぬ場合でも、予の力でロシアをして多少の代償を払わせることができたものと確信する」と駐露英国大使に送った九月一日付の手紙に書いている。
日本は武力では勝ったが、外交で負けたのである。こうしてポーツマス講和会議は日本が償金支払い要求を放棄し、ロシアが樺太の南半分を日本に割譲することで妥協が成立、九月五日に正式調印された。
日比谷騒擾事件発生―米英キリスト教会も被害を受けた
この日、東京では日比谷公園で講和反対の国民大会が開かれ、集まった三万人が暴徒化して国民新聞社などを襲撃し、東京中の八割に当たる交番三百六十カ所が焼き討ちにされた。一方のウィッテは、帰国したモスクワで凱旋将軍のように大歓迎された。ニコライ皇帝は個人的に嫌っていたウィッテに伯爵位を授けた。
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