前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

中国の沙漠をよみがえらせた奇跡の男・遠山正瑛

      2015/01/02

世界が尊敬した日本人(50)
 
中国の沙漠をよみがえらせた奇跡の男・遠山正瑛
                                     前坂 俊之
                             (静岡県立大学国際関係学部教授
 
地球温暖化、沙漠化対策が世界の緊急課題となっている今、中国・ゴビ沙漠の不毛の大地に300万ものポプラの木を植え、緑をよみがえらせた奇跡の男・遠山正瑛が注目されている。
         
 
遠山正瑛は1906(明治39)年12月、山梨県富士吉田市に生まれた。1934年、京大農学部を卒業後、外務省の国費留学生として中国に農業研究にわたった。広大な沙漠を知るとともに、黄河の大洪水で農地も家屋も流された農民の悲劇に衝撃を受けた。一九三七(昭和12)年、北京郊外で日中戦争が勃発した。遠山は中国軍からスパイ容疑で拘束されたが、車で命からがら脱出して帰国した。
 
 帰国後は、鳥取大学農学部教授となり、鳥取砂丘で砂地農業に取り組んだ。「不毛の沙漠で農作物はできない」という常識を打ち破って、スプリンクラーを日本で初めて導入し、メロン、イチゴ、ブドウなどの高級果物の栽培に成功した。「国立沙漠研究所」を設立して所長を務め、日本の砂地農法、砂漠緑化の第一人者となった。
 
 1972年、65歳で同大学を退官した遠山は中国の沙漠緑化に本格的に取り組んだ。人口13億の中国は国土は日本の25倍だが、耕地面積はわずか11%しかかない。しかも沙漠面積は日本の4倍、毎年、東京都の面積が沙漠化しており、100万人以上の農民が土地を失い、食糧難が年々深刻化していた。 
遠山の沙漠緑化への情熱は2千年以上の日中友好の歴史ともに、日中戦争などの侵略に対して賠償を一切求めず、逆に旧満州の残留孤児を親身に養育してくれた感謝と贖罪、恩返しの気持ちからであった。
 
遠山は中国に何度もわたり、「砂漠緑化は食糧増産につながり、戦争を防ぎ、世界平和への道だ」と要人たちを説得して回ったが、「不可能ことだ」と相手にされなかった。「やれば、出来る。やらなければ、出来ない。続けさえすれば、いつかは成功する」と遠山は日本でボランティアを募り、募金を集めて、苗を買って独自に植栽に取り組んだ。
 
昼は気温40度を突破する沙漠は、夜はマイナス10度にもなって凍てつく。沙漠に強く根が短期間に1mも伸びるくずを黄河流域に何万もタネをまいたが、遊牧の羊に食べられて失敗した。今度は成長の早いポプラの木を植えて牧柵をつくって、羊を防ぎ、砂防と緑化の1石3鳥の作戦を考えた。内蒙古自治区のゴビ沙漠に1本1本、ポプラ木を植え続けた。これには中国人も驚き、アリがゾウに立ち向かうようなものとあきれて見守っていた。
 
1991年、やっと中国科学院も協力を示し、遠山も「日本沙漠緑化実践協会」を設立し、内蒙古自治区クブチ沙漠で本格的にモデル地区を作って取り組むことになった。この時、遠山は84歳。1年のうち300日近くも現地でテントに寝泊りしながら毎日10時間以上も黙々と植え続けた。「地球環境も食糧問題も日中は運命共同体」との遠山の熱心な呼びかけに、日本側のボランティア、献金が続々集まり、10年間に延べ7千人が砂漠との戦いに海を越えた。1995年8月にポプラの植林は累計でついに100万本を突破、98年には200万本、2001年12月には300万本を達成し、不毛の地は立派なポプラの並木と緑の農地によみがえった。
 
まさに、「愚公、山を動かす」、奇跡がおこったのである。江沢民前国家主席は、遠山と二度にわたり会見し、砂漠緑化への貢献を高く評価した。現地では遠山に感謝して銅像が建てられた。中国で、生前銅像が建てられたのは毛沢東と遠山の2人だけという。その台座には「90歳の高齢ながらたゆまず努力し、志を変えなかった。」 と讃えている。
 
2001年、国連「人類に対する思いやり市民賞」を、2003年にはアジアのノーベル賞「 ラモン・マグサイサイ賞」を相次いで受賞した遠山は「満足とは、自分が金持ちになり、財産や、名誉、地位を持つことではありません。生きている間は世のため人のために尽して、一人でも困っている人を救うことです」。と語っている。「奇跡の人」遠山は2004年2月、97歳で亡くなった。
 
                                    
 

 - 人物研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『地球環境大異変の時代へ②』ー「ホットハウス・アース」(温室と化した地球)★『海面がそびえ立つほど上昇する地球の気温の上昇がギリギリの臨界点(地球上の森林、海、地面が吸収するCO2吸収のフィードバックプロセス)を超えてしまうまで、あとわずかしかない』

  「ホットハウス・アース」の未来   世界の気候科学者は現 …

『スゲーぜよ!」今季最高の稲村ジョーズ❣の出現だ。稲村ケ崎サーフィン名場面集/決闘編⓵ (2022/4/16/am700)、台風1号の小笠原を直撃の余波のジョーズ。ビッグジョーズが楽しみだ。

『鎌倉サーフィンチャンネル11年」(前阪俊之チャンネル)   &nbs …

百歳学入門(150)『 日本最長寿の名僧・天海大僧正(107)の長命の秘訣は『時折ご下風(オナラ)遊ばさるべし』●昭和爆笑屁学入門『『元祖〝ライオン宰相〃浜口雄幸・・国運をかけたONARA一発『ぶー,ブ,ブーブゥー』『屁なりとて、徒(あだ)なるものとおもうなよ、ブツという字は仏なりけり(仙崖和尚)

  百歳学入門(150) 長命はー① 粗食②正直③日湯④陀羅尼⑤時折ご下風遊ばさ …

no image
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊸』『韓国・朴槿恵政権との向き合い方』◎「中国が「反日宣伝」を強化、習主席訪独で」

 『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㊸』   ◎『韓国 …

『Z世代のためのオープン講座』★『2022年の世界情勢はどう変化したのか(上)』★『米中間選挙の結果は?下院は共和党、上院は民主党が維持へ』★『トランプ氏が機先を制して出馬表明』

  前坂俊之(静岡県立大学国際関係学部名誉教授)   202 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(193)記事再録/<クイズ>-今から160年前の1860年(万延元年)2月、日米通商条約を米ホワイトハウスで批准するため咸臨丸とともに米軍艦の蒸気船『ボーハタン号』で太平洋を渡たり、全米の女性から最もモテたイケメン・ファースト・サムライはだれでしょうか?!

    全米女性からラブレターが殺到したファースト・サムライ …

百歳学入門(215)-「ジャパンサッカー『新旧交代の大変身』★『パスは未来(前)へ出せ、過去(後)でも、現在(横)でもなく・』(ベンゲル監督)★『老兵死なず、ただ消え去るのみ、未来のために』(マッカーサー元帥)

2018/10/31 日本リーダーパワー史(951)再録、改変 老生はもうとっく …

『オンライン講座/日本興亡史の研究⑧』★『児玉源太郎の電光石火の解決力④』★『明治32年1月、山本権兵衛海相は『陸主海従』の大本営条例の改正を申し出た』★『この「大本営条例改正」めぐって陸海軍対立が続いたが、児玉参謀次長は即座に解決した』

 2017/06/01  日本リーダーパワー史(8 …

no image
日本リーダーパワー史 ⑨若き日の昭和天皇の海外旅行とホームステイ―体験は・・

日本リーダーパワー史 ⑨若き日の昭和天皇の海外旅行とホームステイ―体験は・・   …

no image
明治裏面史――三浦観樹将軍が『近代日本の黒幕』頭山満を語る

明治裏面史――三浦観樹将軍が『近代日本の黒幕』頭山満を語る 前坂 俊之 (ジャー …