明治裏面史――三浦観樹将軍が『近代日本の黒幕』頭山満を語る
2015/01/02
明治裏面史――三浦観樹将軍が『近代日本の黒幕』頭山満を語る
前坂 俊之
(ジャーナリスト)
三浦 梧楼は弘化3年(1846)、長州萩城下郊外の中津江に生まれ。のちに三浦道庵の育みとなった関係で三浦姓になり、藩校明倫館に学ぶ。文久3年(1863)奇兵隊に入隊し、四境戦争(幕長戦争)、戊辰戦争では各地を転戦する。
明治維新後は陸軍大佐、陸軍少将等を経て、明治9年(1876)広島鎮台司令官、萩で起きた前原一誠の騒動の平定にあたる。同11年陸軍中将に昇進したが、北海道開拓使官有物払下げに反対し、同15年陸軍士官学校長に左遷された。さらに、その後陸軍改革を主張して山県有朋や薩摩派と対立、同19年熊本鎮台司令官に左遷され、赴任を拒否したため免職となる。 その後学習院長、貴族院議員を経て、1895. 8.(明治28)、朝鮮国駐在特命全権公使として9. 1着任。大陸浪人・日本軍守備隊らを指揮し、10. 8朝鮮王高宗の妃(閔妃<ビンビ>)をソウル(京城)の王宮(景福宮)内で暗殺(乙未<イツビ>政変)。国際世論の批判によって召還されるが、1896. 1.20(明治29)免訴となった。
明治政界の黒幕的な存在となる。明治43年枢密顧問官となり、大正政変後は政党勢力を重視し、大正5年(1916)第一次三党首会談(原敬・加藤高明・犬養毅)を斡旋、同13年第二次三党首会談(高橋是清・加藤・犬養)を仲介した。昭和元年(1926)没、享年81歳。なお、主著に『観樹将軍回顧録』がある。
この回想録は大正14年、三浦が亡くなる前年に出版された本であり、明治維新をともに戦った元老たちも亡くなっており。長州出身者でありながら、生涯薩長藩閥政治に反抗した気骨の軍人政治家が、戊辰戦争から護憲運動までを縦横に語る痛快無比の回想記となっている。
その黒幕が黒幕を語った珍しい一文が次のもの。
頭山満は奥行が深い
三浦 梧楼
頭山は普通の奴のように、新聞や雑誌に書いたり、本に書いたりしてエラクなるという人物ではない。頭山の真価は書くに書けないところにあるのじゃ。
何しろ見様のむつかしい人間さ。奥行きがどれほどあるか、とても一通りのことでは眼が届きはせんよ。俺と頭山とは三十年あまりの交りだが、彼の表も裏も知っているだけに、近頃のように何か事があるとすぐ頭山を担ぎ出そうとするし、又本人もああいう情の厚い人間だから、頼みさえすれば出るという風じやから、俺など一日として陰ながら心配せぬことはない。
そこで俺も時々忠告はするが、今日いっても、明日頼みに来ればまたイヤとはいわぬ性分だから、それを奇貨として頼み込む横着者があり、そうして色んなことに彼を担ぎ出そうとする。
俺は遠方から見て気の毒でならぬ。いつかも土用の暑い日に車へ山程色々な道具を積ませて、俺の家にやって来たというのに、「支那で仕事をする奴が金が要るといふから、これでも売ろうと思うが、俺は一向こういうことが分らぬが、物になるだろうか。」との話。
何でもある支那浪人が頼んだのらしいが、すべてかういふ風に、あの豪傑に古道具屋の真似までさせるとは、何という気の毒なことかい。何とかして折角の豪傑をしてその終りを全うせしめねばならぬ。
頭山は俺などに比べると、俺が多年苦労して修業したところのものを、俺ほどの苦労なしに自然に備えている。彼が炭坑をはじめた頃、ある日不意に訪ねて来て、「銭があるまいか。」という。幸いその頃、俺は金を持っていたから貸してやったら、又二三度続けて借りに来た。その次ぎ来た時、「今日はないか。」というから、「もうないぞよ。」
というと、彼は一言、「ウン、あるとエーがな。」といったきりであった。これが頭山でなくちやいえぬことだ。
こ
これが頭山の善いところで、この中に彼の精神といふものが現われているよ。俺も相手が頭山だから、「俺は今ないぞよ。」といったのだが、「あるとエーがな。」とは頭山以外の者のいえることかい、問題はそれで一切済んでしまう。
一体普通の人間という奴は、そのあとで言葉を次いで、何とかカンとかいふものだよ。頭山を豪傑と呼ぶのは世間月並のことだが、実はかかる平凡なところに、頭山の頭山たるところがある。本当に頭山を知った奴はありやせんよ。
一体普通の人間という奴は、そのあとで言葉を次いで、何とかカンとかいふものだよ。頭山を豪傑と呼ぶのは世間月並のことだが、実はかかる平凡なところに、頭山の頭山たるところがある。本当に頭山を知った奴はありやせんよ。
いつかも朝、突然、頭山が俺の内へやって来た。その時、俺は今熱海へ出掛けるというところだったが、「一緒に行こうか。」といって、その足で熱海の俺の別荘へ行って、十日か二十日泊っていた。
その時、高島嘉右衛門も熱海に居って、俺のところに話しに来たが、頭山が「高島は易が上手じゃというね。」、「ウン、さうじゃ。」、「易を見てもらおうか。」、「何を見て貰ふか。」、「僕の事業が成功するかどうか見てもらう。」やがて見てもらって帰って来たから、「どうぢやった。」、「エイというた。」まあ考へても見よ。
あの豪傑の頭山が易を見てもらうなどとは想像もつくまい。思いも付かぬことで、ここらが彼として豪傑ならざる点だ。ところがじゃ。
彼の見てもらうのは、自分が金儲けをしてどうの、かうのというのではなく、「金をつくって皆を喜ばせてやろう。飽きるほど皆に呉れてやろう。」といふ考えからじゃ。こういうところに頭山というものがあるのじゃ。
又、ある日のこと、俺が頭山に「金儲けをしてどうするか。」と聞くと、「二三千万円儲けて、議員の奴等を一まとめにまとめてしまいたい。」、「そうしてどうするかい。」、「だから、永生きしてもらわにゃならぬ。」そこで俺は、妙なことをいうなと思いよったが、その後いつか彼が山を売って何十万かの金を得た頃、彼と会った時、「俺はまだ生きているぜ。」というと、「ウン、はいりゃ端からなくなる。」といった。つまり天性執着心がないのだ。
表から見ると、金に執着心があるから易を見てもらったように見える。ところが、そこが無執着の執着といふ奴で、己れ一個の執着が極く薄く、そこで人が何か頼むと、「オーそうか。」といふ。つまり俺などが一生懸命になって勉強したところを、彼は生れながらに備へているのだ。
要するに頭山の奥行きの深さを見ることはむつかしい。無執着の頭山を見るには、やはり無執着の眼で見なくてはならぬ。さうでないと頭山というものは結局分らずじまいになる。頭山の伝を書くのはむつかしい。原や犬養の伝を書くようには行かぬ。
鵜崎鷺城著『奇物凡物」より『三浦楼梧論』
http://book.maesaka-toshiyuki.com/book/detail?book_id=13
関連記事
-
-
★『 地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(1071)>★『北朝鮮の暴発による第2次朝鮮戦争の危機高まる!?』★『「クリスマスまでに…」トランプが安倍首相に告げた北朝鮮危機限界点 【特別レポート】電話会談で話された事』◎『「米中が組んで北朝鮮を討つ」そんなシナリオさえ現実味を帯びてきたーー利害は案外一致している』★『あまりに幼稚な左派の「北朝鮮核容認論」これでは日本が滅びる』☆『北朝鮮の暴走が止まらない‥だがそのツケも出始めて』
★『 地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(10 …
-
-
日本リーダーパワー史(617)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑪日中歴史インテリジェンスの復習、5年前の民主党政権下の尖閣諸島問題での外交失敗を振り返る。 リーダーなき日本の迷走と没落、明治のリーダシップとの大違い
日本リーダーパワー史(617) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑪ 『日中 …
-
-
知的巨人たちの百歳学(174)記事再録/日本最長寿の徳川家三代指南役・南光坊天海(108歳)の養生訓ー上野公園内の「墓碑」で長寿健康を祈る―『 養生法・長命には粗食、正直、湯、陀羅尼(だらに)、御下風(ごかふう)あそばさるべし。』★『養生訓「気は長く 勤めは固く 色うすく 食細うして 心ひろかれ」
2015/02/05/百歳学入門(102)・ 日本最長寿の徳川家三 …
-
-
『わが書斎の窓から』ーわが夏のエンターテーナー/ミンミンゼミ君が桜の古木で発啼きじゃ( 2012/07/30))★『2023年夏はアブラゼミも、ミンミンゼミも、ツクツクボウシも全く来ない、地球環境異変じゃ!』
わが書斎の窓からー わが夏のエンターテーナー/ミンミンゼミが桜の古 …
-
-
日本リーダーパワー史(727)★(記事再録)『アジアが世界の中心となる今こそ120年前の 大アジア主義者・犬養毅(木堂)から学ぼう 』一挙、25本の記事全部公開する!
日本リーダーパワー史(727) アジアが世界の中心となる今こそ12 …
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と日露戦争の共通性の研究 ⑨』★『日露戦争勝利と「ポーツマス講和会議」の外交決戦②』★『その国の外交インテリジェンスが試される講和談判』★『ロシア側の外交分裂ー講和全権という仕事、ウイッテが引き受けた』
以下は、 前坂俊之著「明治37年のインテジェンス外交」(祥伝社 2 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(315 )★『コロナパニック/国際舞台で戦う方法⓹』「MBAでレッドソックスを優勝に導いた守護神・上原浩治投手の<セーブ完勝力>「どんどん行く、結果がどうであれ、1日ごとに気持ちを リセット、真っ向勝負<瞬殺>する精神力もスイッチ!」
2013/10/29 日本リーダーパワー史( …
-
-
「Z世代のための台湾有事の歴史研究」➂★『2023年台湾有事はあるのか、台湾海峡をめぐる中国対米日台の緊張はエスカレート』★『日清戦争の発火点となった「長崎清国水兵事件」の顛末(てんまつ)』★『同事件の死傷者は日本側は死者2、負傷者29。清国側は死者8、負傷者42』
日清戦争の発火点となった「長崎清国水兵事件」の顛末(てんまつ) …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(103)記事再録/『日露戦争の勝利に驚愕したヨーロッパ各国』★『ナポレオンも負けた強国ロシアに勝った日本とはいったい何者か、パリで最高にモテた日本人』★『「あの強い日本人か」「記念にワイフにキスしください」と金髪の美女を客席まできてキスを求めたかと思うと、店内の全女性から次々にキスの総攻撃にあい、最後には胴上げされて、「ビーブ・ル・ジャポン」(日本バンザイ)の大合唱となった、これ本当の話だよ』
2017/06/16 /日本リーダーパワー史(826)『明 …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(962)ー『2019年は『地政学的不況』の深刻化で「世界的不況」に突入するのか,米中貿易協議(3/1)の行方はどうなる!?』➀
世界/日本リーダーパワー史(962) 前坂俊之(ジャーナリスト) 2018年12 …
