日本リーダーパワー史(652) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(45)日清戦争勝利、『三国干渉』後の川上操六の戦略➡『日英同盟締結に向けての情報収集に福島安正大佐をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ長期秘密偵察旅行に派遣した』
日本リーダーパワー史(652)
日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(45)
日清戦争勝利、『三国干渉』後に川上操六はのような戦略を立てたか
『日英同盟締結に向けての情報収集に福島安正大佐
をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ
長期秘密偵察旅行に派遣した』
前坂俊之(ジャーナリスト)
『三国干渉』の後、川上操六はどのように戦略を立て直したか
『三国干渉』という一大国難に張り倒された日本はこの失敗を猛反省して、西欧各国への視野を拡大、情報収集を強化、今後の防衛政策と長期の国家戦略の構築が緊急の課題に掲げた。その戦略情報の元締めは、いうまでもなく陸軍参謀本部・川上操六次長である。
「戦争に大勝して外交で負けた」―川上はその責任を痛感、苦慮していた。凱戦後の第一声が『臥薪嘗胆、遺恨10年』であったことは前回紹介した。』(薪の上に寝、胆を嘗める。すなわち辛苦穀難して復仇に備えること)が国の合言葉になり、対ロ露戦争はもちろん、この3か国に復讐する決意を川上は固めていた。そのためにはどうすればよいのか。
腹心の福島安正大佐を呼び、早速、協議した。
川上「露独仏の三ヵ国の威力の前に屈服させられたわが国が、これに対抗するには英米の二ヵ国と組んでいく以外にはないとみるがどうか」
福島「そのとおりと考えます」
川上「しかし、英米とわが国が何を条件に協力できる可能性があろうか」
福島「たしかに容易ではないことは明瞭です。しかし、目標を定めて方法を考えてみることが参謀本部の責任でありますので、まず日英両国の協力態勢を獲得するための戦略企画のため、その戦略情報を集めてくることが先決と信じます」
川上「君の単騎シベリヤ偵察の報告では、すでにシべリヤにも英独仏の各国が日本に先んじて入り込み、情報収集に努力していると申していたが、これから日本がやるのではおそ過ぎるのでなかろうか」
福島「私の考えでは2,30年の長期情報でないとものになるまいと体験上からも言えると思いますが、今からでも発足しないことには、さらに手遅れとなります」
川上「そうか、シべリヤ鉄道建設予定が今後10年先と考える場合、どうしても対露較略上からみて欧米強国の戦略情報支援を仰がずしては成立しない」
(以上、「島貫重節『戦略・日露戦争【上】』原書房、20P)
福島大佐のアジア、中近東、アフリカの長期偵察計画―
『情報とは平和時における軍人の命をかけた戦闘である』
すぐさま、福島は戦略を立案した。約1年半かけて、イギリスのアジア、アフリカ、中近東における実態を調査し、特にロシャに対するイギリスの弱点を探し、イギリスを日本に振り向かせるためには何が必要かを探る。
―その最終目的は「日英同盟締結」に導くための情報収集、関係ある諸情報を取得し、これらの情報収集要領について現地を踏査していく極秘偵察旅行であった。
もともと、川上は福島安正を参謀本部のエースにして、国際的にも一流のインテリジェンス・オフィサーに育てあげた。川上の片腕というよりも『長耳』であった。英、仏、独、ロシア、中国の五ヵ国語を自由にあやつる語学の天才の福島を見込んで明治18年、ベトナムをめぐって清仏戦争が起きた際、ベトナム、インドに派遣し詳細な調査報告書を提出させた。
明治20年にはドイツ公使館付武官としてベルリンに赴任させ、ロシアの東方進出の意図や進捗状況について情報収集を命じた。かさらに、ロシアに侵略、圧迫されていたポーランドや周辺国、露(ロシア)、墺太利(オーストリア)、土 (トルコ) がしのぎを削る「火薬庫」のバルカン各国を調査させた。
明治25年、福島は破天荒な1年4ゕ月にも及ぶ単騎シベリア横断冒険旅行(ベルリンからウラジオストックまで約1万8000キロ) に出発するが、その狙いは川上の指示による対ロシア戦争に備えた軍事情報収集、特にシベリア鉄道建設情況の把握であった。
ただし、今回は無名の福島の「単騎シベリア横断」(1年4ヶ月)の時とは違い、日清戦争勝利後の諸外国の日本に対する関心は飛躍的に高まっている。『ビッグネーム』となった福島大佐の行動を各国はきびしく監視している。この亜熱帯、熱帯、乾燥、砂漠、酷暑地域の偵察難行は果して身の安全と危険が保障されるかどうか、危惧の年もよぎる。
、福島大佐は明治28年9月初旬に川上次長にこ次の詳細なプランを提出した。三国干渉から3ヵ月後、前回の単騎シベリア横断からかえって、わずか1年半後のことである。時に福島大佐は43歳である。
福島が亜欧旅行と呼んだこのプランは明治28年10月5日に東京出発ー明治30年3月まで18ヵ月間。
上海―香港―サイゴン一カイローアレキサンドリーベイルートーコンスタンチノーブルーポートサイト―スエズ運河―コロンボ―ラングーンーカルカッタ―カラチ(五・二)、ボンベィーマスカットーテヘランーカスピ海、―コーカサスースカパット(中央アジア)-サマルカンドータシケントーコーカンド―テヘランーバグダットープシールーボンベイーカルカッタ―ラングーン―シンガポール―バンコク―ハノイー香港―上海―長崎に帰国。東京帰着(明治30年3月25日)
以上、全行程、約7万キロ、全日数は538日という壮大、破天荒なものである。
この亜欧旅行の主な視察目的とその行動はー
- 上海、香港、シンガポールはイギリスをはじめ欧米列国が、まさに東洋の国際都市として、この地に最も有力な極東情報の収集機関を設けており、これら先進国の情報員と連絡してその取得した情報をすみやかに東京に報告している。
- サイゴン、バンコック、ラングーンは東南アジア諸国のこの長期18カ月にわたる情報はそのつど、各種の方法で参謀本部に報告されており、大佐もまた写真機(コダック)を利用して適確な資料を送っていた。これらの資料は甲乙丙の三種類に分けられた。
- 甲は最も機密度の高い情報として参謀本部の川上次長宛に送致、乙は政府高官、陸軍省、参謀本部等の重要幹部に配布されていた。特に政府高官たちにも配布された乙情報の部に亜欧日記と題する放行日記式に紹介したものが現在も残っている。
この福島大佐の超人的な体力と知力によって成し遂げられた『長期秘密亜欧旅行』は日本のインテリジェンス史上に輝く、明石工作と並んで最高度の情報収集成功事例であろう。なぜなら、これが日英同盟締結につながったからである。
同時に、福島の「シベリア単騎横断」とこの『亜欧旅行』さらに、このほかの短期の偵察旅行による情報の収集結果が、日清、日露戦争のインテリジェンスのべースになった点も考慮すると、改めて参謀本部をドイツ流に改革した川上操六こそ「日本インテジェンスンの父」であることがわかる。
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