前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉒ 『大日本帝国最後の日 (1945年8月15日) <かくして「聖断」は下った!>

      2017/07/13

 

『ガラパゴス国家・日本敗戦史』㉒

 


『大日本帝国最後の日―

1945815日)をめぐる攻防・死闘

終戦和平か、徹底抗戦か⑦』

<かくして「聖断」は下った!>

       

 前坂 俊之(ジャーナリスト)



天皇は白い手袋の指はしばしば眼鏡拭われながら、とぎれとぎれに・・

 

 ここまで発言されたが、そのおことばは、とぎれとぎれで、腹の底からしぼり出されるようなお声だった。

 

陛下の苦悩がどんなに深く、大きなものであるかが最後列にはべっているわたしにもよくわかった。陛下はまっ白い手袋をはめておられたが、その手が何度となくほおのあたりへあがり涙を拭っておられるようだった。列席した一同もたまりかねたのか、みんな泣いていた。わたしも泣いた。

  堪えがたきを耐えよう

 陛下は、みんなをさとすような口ぶりで、ゆっくりとつぎのような話をされた。

「三人が反対する気持ちはよくわかるし、その趣旨もわからないではないが、わたしの考えはこのまえいったのと変わりがない。わたしは、国内の事情と世界の現状をじゅうぶん考え合わせて、これ以上戦争をつづけるのは無理だと思っている。

国体護持の問題について、それぞれおそれているようだが、先方の回答文をよく読んでみると、悪意をもって書かれたものとは思えないし、要は、国民全体の信念と覚悟ができているかどうかに問題があると思うので、このさい、先方の回答をそのまま受け入れてもよろしいと考えている。

陸海軍の将兵にとって、武装解除や保障占領ということはたいへん辛く、堪えがたいにちがいない。それはよくわかっている。

また、国民が玉砕して国のために殉じょうとする心持ちもよくわかるが、わたし自身は、じぶんの身はどうなってもよいから、国民のいのちを助けたいと思う。このうえ、戦争をつづけたら、結局のところ、わが国はまったくの焦土となり、国民はさらに苦痛をなめなければならない。

わたしはそんな惨状をまのあたりするわけにはいかない。このさい、和平の手段に出ても、もとより先方のやり方に全幅の信頼はおけないかもしれないが、日本という国がまったくなくなってしまうという結果にくらべて、生き抜く道が残っておるならば、さらに復興という光明をつかむこともできるわけである。

わたしは、明治天皇が三国干渉のときになめられた苦しいお気持ちをしのびいまは堪えがたきを耐え、忍びがたきをしのんで、将来の回復に期待したいと念じている。

これからの日本は、平和な国として再建しなければならないが、その道はたいへんけわしく、また、長いときを貸さなければならないと思うが、国民が心を合わせ、協力一致すれば、必ず達成できると考えている。

わたし自身も国民とともに努力する覚悟である。今日まで、戦場に出かけて行って戦死したり、あるいは内地にいて不幸にも亡くなったものやその遺族のことを思うと、悲嘆に堪えない。

戦傷を負ったり、戦災をこうむったり、家共を失ったもののこんこの生活についてわたしは心を痛めている。このさい、わたしにできることならなんでもするつもりでいる。

国民はいまなにも知らないでいるので、和平を結ぶことをきくと、きっと動揺すると思うが、わたしが直接国民に呼びかけるのがいちばんよい方法なら、いつでもマイクの前に立つ。

ことに陸海軍の将兵の動揺は大きく、陸海軍の大臣はかれらの気持ちをなだめるのに相当の困難を感ずるだろうが、必要があるなら、わたしはどこへでも出かけて行って、親しく説きさとしてもよい」

みんな泣いていた。

だれもが大きな声を張りあげて、思い切り泣きたかったにちがいないが、陛下の前なので、声を押えていた。鳴咽(むえっ)が大きな波のうねりのようにわきあがり、消えかけては、またわきあがっていた。陛下は最後にこうつけ加えられた。

 「内閣は、これからすぐ終戦に関する詔書の準備をしてほしい」

 陛下のおことばが終わると、鈴木総理が起ちあがって、おわびを申しあげた。

 「われわれの力が足りないばかりに陛下には何度もご聖断をわずらわし、たいへん申しわけないと思っています。

臣下としてこれ以上の罪はありませんが、いま、陛下のおことばをうけたまわり、日本の進むべき方向がハッキリしました。このうえは、陛下のお心を体して、日本の再建に励みたいと決意しております」

 陛下は蓮沼侍従武官長の合図によって、しずかに退席された。一同は泣きじゃくりながら最敬礼し、陛下をお送りした。


下村宏国務相(情報局総裁)はつぎのように書き残している。


「陛下の白い手袋の指はしばしば眼鏡拭われ、ほほをなでられたが、私たちはとて正
視するに堪えない、涙に眼鏡もくもってしまった。御定が終りて満室たゞすすり泣く声ばかりである。しやくりあげる声ばかりである。

やおら総理は立ち上がった。至急詔勅案奉仕の旨を拝承し、くり返して聖断を煩わしたる罪を謝し、うやうやしく引き下がった。
陛下は席をたたれた、皆は涙の中にお見送りをした。泣きじゃくり一人々々椅子を離れた」(『終戦記』)


御前会議が終ったのは正午である。ついに聖断は下った。

(迫水著「大日本帝国最後の四か月」オリエント書房,1973年刊、233239P

 

 

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究 , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報『日本のメルトダウン』(3・11)を食い止めるぞ、10日目ーガンバレ・日本!④

速報『日本のメルトダウン』(3・11)を食い止めるぞ、10日目ーガンバレ・日本! …

no image
速報(200)『日本のメルトダウン』●『冷温停止宣言のウソを許すなー「ニューヨークタイムズ」の疑問は当然』

速報(200)『日本のメルトダウン』   ●『冷温停止宣言のウソを許す …

no image
 生涯現役/百歳学入門<162>『101 歳よく食べ歩く、記憶鮮明「おしゃべり好き」』●『人間の寿命は125歳が限界? 世界で長生きする長寿5カ国の秘密』●『平均余命は世界的に伸び、経済的豊かさとは合致せず=研究』●『長生きをする30の方法』●『人類が完全なる人工心臓を手にする日はどこまで近づいた?』

    生涯現役/百歳学入門<16 …

no image
日本メルトダウン脱出法(764)『日本独立の選択ー在日米軍基地・施設は日本全国131ヵ所。東京ドームで2万個分」「焦点:南シナ海で高まる中国のプレゼンス、米軍を「量」で凌駕」

  日本メルトダウン脱出法(764) 日本独立の選択 http://www.j1

日本リーダーパワー史(386)児玉源太郎伝(8)川上、田村、児玉と歴代参謀総長はそろって日本救国のために殉職した。

 日本リーダーパワー史(386) 児玉源太郎伝(8) ① & …

no image
日本メルトダウン(928)『東京にはもっと集中と成長が必要だ 「保守・革新」というアジェンダ設定は終わった(池田信夫)』●『 “IoTの勝者 ARM”買収でソフトバンクが狙うもの (1/2) 』●『中国が「島ではなく岩」と抗議の沖ノ鳥島に、日本が100億円を注ぐ理由』●『「中国依存度が高い国」ランキング、5位に日本』●『温暖化で仁義なき海に…北極海と日本の戦略』●『高齢者の「貧困率が高い国」1位韓国、日本4位』

 日本メルトダウン(928)   東京にはもっと集中と成長が必要だ 「 …

no image
『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』⑯「朝鮮で起きた騒乱(甲申事変)」(「ノース・チャイナ・ヘラルド」

    『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』 日 …

no image
知的巨人の百歳学(142)明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75歳)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」★『人間、長寿の法などはない』★『余裕綽綽(しゃくしゃく)として、物事に執着せず、拘泥せず、円転・豁達(かったつ)の妙境に入りさえすれば、運動も食物もあったものではないのさ』

明治維新/国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・修行・鍛錬10ヵ条」 ① …

「オンライン決定的瞬間講座・日本興亡史」⑭』★『尾崎行雄(96歳)の「昭和国難・長寿突破逆転突破力』★『1942年、東條内閣の翼賛選挙に反対し「不敬罪」で起訴された』★『86歳で不屈の闘志で無罪を勝ちとる』★『敗戦後、86歳で「憲政の神様」として復活、マスコミの寵児に』

  ★「売り家と唐様で書く三代目」で不敬罪で82歳で起訴される。 衆院 …

『リーダーシップの日本近現代史』(339)<大経営者の『座右の銘』―人を動かすトップリーダーの言葉>『明治以来の日本経済を昭和戦後期に<世界1、2位の経済大国>にのし上げた代表的な起業家たち80人のビジネス名言・金言・至言を一挙公開』

 2011-04-29 記事採録  新刊発行<『座右の銘』― …