前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

総合ジャーナリズム研究

   

1
『総合ジャーナリズム研究』  2004年冬号  <NO187 号>   掲載
イラク戦争報道・始末/現地取材・中乗衛星メディアの「戦場」から
アルジャジーラ・アルアラビアTV・アブダビTV の場合
前坂俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
イラク戦争開始からまもなく一年を迎える。1991年の第一次湾岸戦争ではブッシュ
前米大統領が「CNN の戦争だ」と慨嘆したが、今回のイラク戦争は正しく「アルジャジ
ーラの戦争」であったといえよう。
オサマ・ビンラディンのビデオ映像をスクープ放送して以来、中東カタールの衛星
TV放送『アルジャジーラ』は、イラク戦争では米軍のプロパガンダや情報操作を暴き、
長年続いてきた国際メディアでの英米一極支配の構造を初めてつき崩した。
世界で最も有名になったアルジャジーラは今回のイラク戦争をどのように報道したの
かー2003年8月末、中東衛星メディア調査団(団長・天野勝文日大教授ら五人)の
一員として、灼熱のアラビアに調査に出かけた。
関西国際空港からジェット機で約11時間、アラビア半島のイラクの2つ隣に位置す
る人口約60万の小国・カタール。その首都ドーハの土漠の中に巨大なパラボナアン
テナが林立する「ビッグボイス・タイニーカントリー」(ちっぼけな国の大きな声)といわ
れるアルジャジーラの白亜の本社がある。
アルジャジーラは1966年、英国
BBC のアラビア語放送部門をカター
ルの国家元首・ハマド首長がアラブ人
スタッフごと買収して、中東で初のア
ラビア語による24時間ニュースチャ
ンネルとして立ち上げた。それまで中
東地域では言論、報道の自由は全く
なかったが、アラブ地域で初の検閲
のない自由なメディアとしてスタートし、         <写真  筆者は右>
中東に一大旋風を巻き起こした。
アラブ各国の非民主的な政治体制や社会問題を真正面から取り上げる客観報道、
討論番組では反体制派を出演させ歯に衣着せぬ批判を展開して、隣国から数百件も
2
のクレームや抗議が続出し、支局閉鎖もたびたびあった。9・11 テロ後は「中東メディ
アの革命児」「中東のCNN」から世界的なメディアにのしあがり、イラク戦争では英米
の視線しか伝えないCNN や西欧メディアに対して戦争の真実を知るのに欠かせな
いメディアとなった。
① アルジャジーラの成功の方法・アドナン・シャリフ編集長は語る
8月26日昼、気温四五度の炎暑の中、私たちはここを訪れた。中に入ると、円形の
放送センターがあり、中央の大画面にモニター画面が並び、記者やレポーター、アナ
ウンサーがそれぞれのパソコン画面を見ながらニュース編集や放送に忙しそうに働
いていた。
その一角にバクダッドで現地リポート中に米兵の銃撃で犠牲になったターレク・アユー
ブ記者の等身大の遺影が飾られていた。編集長室に現れた新任のアドナン・シャリフ
編集長は、愛想よく迎え入れて、ざっくばらんに答えてくれた。
われわれが「編集方針は『一つの意見も
あれば、もう一つの意見もある』ということ
でしたね」ときりだすと、
「『でした』ではなく、今でもそうなのです。そ
れが私たちの会社のロゴ (社標)です。ロ
ゴになっているから、双方から攻撃される
のです。どこかで紛争があった際には、双
方から反対されるのです。私たちの究極の
関心は人々に真実を与えていると信頼され
ることだからです」      
アドナン・シャリフ編集長

―イラク戟争報道で最も力を入れたのはどの点ですか? いろいろな記事を書いてこ
られましたが……。
「いや、私たちは記事は書きません。そこで起こっているありのままの姿、真の姿を撮
影していたんです。どれがスクープというわけでなく、撮ったものがすべてスクープで
す。戦争では次に何が起きるか予測できないし、私たちの記者も危険だった。事実、
特派員の一人が亡くなっています。
公平性や中立性を保とうと追求し続けて、「ONE OP-NION THE OTHEROPIN
3
-ON」を報道していたので、イラクの旧政権からもアメリカ政府からも同様に脅され
ました。編集方針や批判精神にこだわり続けたからなんです。私たちは映像を通して
信頼性を追求しているのです」
-そうやってアルジャジーラは成功したんですね。
「そうです。自分たちの一つの意見があれば、他の意見もあるというやり方がメディア
界で成功する方法だと思います。真実を隠そうとしても、過去には隠すことができたが、
今ではインターネットなど自分たち以外の媒体から情報を得ることができてしまう。
報道の狙いはすべてのことについて正しい答えを出すこと、世界で起こっていること
に関して確実なイメージを与えることです」
-アルジャジーラの報道で一番重要だったものは何ですか。
「戦争報道で自ら危険を冒したこと、それが民衆に起こっていることを正確に伝える第
一人者であったこと、起こっていないことは伝えなかったこと、を誇りに思っています。
私たちはニュースにはすぐには飛びつきませんでした。例えば、放送でこんなことが
起きましたと伝えて、その5分後に、やはり違いました、と後悔するような真似はしたく
ないからです。現場に向かい一〇〇%確実だと思った事実を伝えることで報道の信
頼性を追求しています。それが私たちが考える信頼性です」
-アルジャジーラのライバル局としてアルアラビアTVが登場したと私たちは考えてい
ますが、そのような認識は正しいのでしょうか。
「BBC やCNN は競争会社として意識しているが、他の局は違う種類のものです。私
たちの後にきた人々(TV 局)は、明らかな目標を持っています。その目標はアルジャ
ジーラを倒そうとすることです。
彼らはアルジャジーラの編集方針が嫌いで、彼らの多くは今もって政府のために発言
しています。私たちは違います。報道の自由の限界は100%以上で、報道の自由に
天井はありません。
そういう意味で、他の局は競争相手だと私たちはみていません。なぜなら先程いっ
たように政府の代弁をしているにすぎないからです」
-アメリカのFOXTV との違いは?
「FOXTV は偏ったテレビ局です。CNN のような国際的な放送サービスをするチャン
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ネルではありません。FOXTVは自分たちと異なる意見を持っている人がいるというこ
とを気にしていない」
-じやあ、あなたがそういうことは、FOXTV をよく評価していないんですね。
「評価しないといっているわけではありません。BBC は国際的な問題について非常に
強い関心を持って世界中をカバーしていますが、FOXTV は国際的なサービスをして
いません。ローカルなワンサイドの放送局なのです」
-アルジャジーラの財政的な状況を知りたい。
「私たちはCM はあまり持っていない。幾つかの国からボイコットされているからで
す℃それらの国のCM は95%を占めていますが、私たちの報道を好まなかったから
です。しかし、経済的には決して悪い状態ではありません。実際、さらにスポーツ、子
供チャンネルなど四つ増やす予定です」
シャリフ編集長は最後に「間もなく東京支局を開設します」とも、話した。
② モハマド・ハサン・グラブ編集デスクは語る
次に質問したのは「アルジャジーラネット」を立ち上げたモハマド・ハサン・グラブ編
集デスクで、一っ一っていねいに答えてくれた。
-アルジャジーラの組織が大きくなるにつれて優秀なジャーナリストを探すのは大変
だと思いますが、どうやって見つけ出すのですか。
「ジャーナリストを正式に採用するかどうか決めるのは、第一にアラビア語から英語へ
の翻訳能力、二つ日は連載記事を書く力があるかどうか、三つ目はアラブのニュース
の編集テクニックを見ます。
アラブ世界の現状では、現に活躍しているジャーナリストには今より高い給料を払わ
ないとジャーナリストをリクルートできません。だからアルジャジーラがスタートした段
階ではスタッフはBBC を辞めた人、AP などから多く来ています。
私たちのシステムは彼らに自由に取材させよい仕事をするよう励まし、勇気づけるこ
とです」
-アルジャジーラのジャーナリストはすべてアラブ世界の出身でなければならないと
5
思っていますか。
「一般的にはアラブ人がいいでしょう。なぜならアラブの世界を取材しているからです。
実際に米・英国籍を待ったジャーナリストはアラビア語で話すこともできないし、書くこ
ともできないでしょう。ですから、アラ
ブ世界出身者が私たちの記者にな
ることは自然のことです。
アフガニスタン国内で良いジャーナ
リストを私たちの通信員として探そう
としました。見つかったのはアラブ
人で、この国をよく知っているので
歓迎されました。彼はアフガニスタ

の人々に自分の感じたことをアラビ
ア語で語りかけることができるからです」      <アルジャジーラの放送センター>
アルジャジーラは放送開始以来、自由な報道ゆえに中東各国からボイコットされ、
9・11 以降はアメリカやヨーロッパからも、「テログループの代弁者け‥」と批判されて
きた。
イラク戦争後の二〇〇三年五月には、アルジャジーラを立ち上げここまで発展させて
きたアル・アリ編集長が突然、辞任した。イギリス紙などは「アルジャジーラの記者や
キャスター三人が旧イラクの情報機関と関係していたという疑惑が発覚して、解任さ
れた」と報じていた。このアル・アリ氏辞任の事実確認も今回の調査の重要なポイント
であった。
その点を質すとシャリフ編集長は、「その質問に答えることはできませんが、アリは
五年の任期できており、イラク戦争も一段落したので国営カタールTV に帰っただけ
です」と言葉をにごした。
③ アルアラビアTV の報道姿勢・サラ・ナジム編集長に聞く
次は、ペルシャ湾岸都市で最も発展し、貿易、金融、メディア、情報のアラブでの一
大センターになりつつあるお隣の国UAE(アラブ首長国連邦)のドバイに飛んだ。
湾岸諸国ではアルジャジーラの成功に刺激されて、衛星放送が増え、メディア戦争
が勃発している。過激? な放送に手を焼いたアラブ各国は、アルジャジーラの代替
物として、バランスの取れたお手柔らかな報道を目的としたニュース専門チャンネル
6
『アルアラビアTV』 (UAE・ドバイ本拠)をサウジやレバノン、UAE など各国の民間
資本が出し合って設立、イラク戦争直前の三月初めに放送を開始した。
また、ニュース専門チャンネルではないが『アブダビTV』(UAE・アブダビ本拠)が、
ニュース枠を大幅に充実させて、アルジャジーラと三つ巴で、イラク戦争やテロ報道で
激しいスクープ合戦に突入している。
8月31日にインタビューしたアルアラビアTV のサラ・ナジム編集長(SALAH NA
GM)同本社でこう語った。
―アルアラビアはアルジャジーラTVのバランス感覚のある対抗馬といわれますが、
編成方針を教えてください。
「アルジャジーラTVに対抗するつもりでスタートしたのではありません。ほかの放送局
と同様の一TV局のつもりです。中東のメディア・マーケットを考えた場合、3 億人の人
口があって、その半分は若者です。しかも、いくつかの戦争を経験して政治情勢も変
化しており、ニュースが山ほどあります。
中東や北アフリカでは悪いニュースだけでなくて、平和的なニュースもあります。です
から、新しいニュースTV局が存在する余地があると考えて設立したのです。私たちは
アルジャジーラに対抗するつもりはありません。私たちの局が力を入れているのはニ
ュースです。
中東と世界のニュースを偏らずバランスのとれたスタンスで分かりやすく伝えていま
す。私たちはTVの真価(TV Value)と質に力を入れています。このことは中東では新
しいことです。これまでのTV局のやり方は昔ながらのものが多いのです。それをこう
いった報道を最新のテクノロジーを使って革命を起こしたいと思います」
―創設の理念は?
「アルアラビアは24 時間のニュースチャンネルです。毎日、15 時間から16 時間はニ
ュースだけを流しています。…これまではキャッチしたニュースを中東で放送するまで
は大変時間がかかりました。私たちはハードでヘビーな素材をエンターテイニングな
方法で視聴者に届けています。
一番大切なことは、視聴者を引きつけておくことですから。価値あるニュースの素材を
手短に、いち早く、興味深く伝えるのです。先程も申し上げましたように、一番大切な
7
ことは視聴者を引きつけておくことですから、ただ単に事実を報道するんじゃなくて、
日々の暮らしに密着した番組をお届けしています。それがとても大事なトピックスにな
っています」
―放送開始以来最初で最大のイベントはイラク戦争だったわけですが、視聴者の反
応はどうですか?
「私たちが放送始めた1週間後の3月3日にイラク戦争が始まりました。ですから正直
に申し上げて、準備が整っていなかったことは認めざるを得ません。社内でも社外で
もやらなければならないことが沢山あったにもかかわらず、一番大きな挑戦に直面し
てしまいました。
技術的な準備を完全には終えていないにもかかわらず放送がスタートしたので、社内
外でてんてこ舞いでした。
とにかく出来ることしかできないので技術的な準備を可能な限りやりました。イラク戦
争は始まることは最初から分かっていたんですから、視聴者の関心はむしろ戦争が
終わったあとどうなるのかという点にありました。ですから戦争報道より戦後の私たち
のイラク報道がアラブ地域の視聴者を獲得することに成功しました。
視聴者はただ机の上に素材を提供するだけでは満足しません。ですから、私たちが
放送したニュースに対する抗議もありました。ただ、私たちは事実だけを報道して、事
実をゆがめたり誇張したり、偏見を加えて放送したことはありません。いつでも中立を
保つようにしています。

視聴者は時々、怒ることがあります。イラクで私たちのテレビ局の取材チームがはっ
きりとした理由もないのに襲撃されたこともあります。そのような反応にぶつかることも
あるのです。私たちのテレビ局に対して怒っているのではなくて、メディア全体に対す
る怒りをぶちまけているのです。その一方で、好意的な反応もありました。良い反応も
あれば、悪い反応もありました。
AFPの記者がイラク市民に「どこのTVの報道を見たいか」とインタビューしたとこ
ろ「真実を知りたければアラブのチャンネル、例えばアルアラビアを見るといい」と言っ
ていた。
この街頭インタビューはやらせではなくて、本物です。マーケットシェアは発表できな
いことになっています。しかし、大きなシェアをもっているはずです。アルジャジーラTV
8
によると、8,000 万人の視聴者がいることになっています。とにかく、ごく短い期間にア
ルジャジーラに匹敵する放送局になったわけです」
―あなたがたの番組の特徴はなんでしょうか?
「他のTV局はニュースの歴史や背景などを報道しますが、私たちはニュースが将来
的にどのような影響力を与えるのかという点を報道します。私たちは資料フィルムを
使わず、現場で撮影したフィルムを使います。私たちの報道姿勢は将来の展望を重
視していますが、彼らは発生したことだけを放映しています。
アルジャジーラがそうなんです。私たちはバックグラウンドの報道はしないけれど、事
件の経緯とか発生した原因、つまりなぜそのような事態が発生したのか、ということに
ついて報道します。
ショートプログラムは、画像の質、作品の質、スタジオの質、報道に携わっている人間
の質にこだわった番組です。番組の内容は事実を重視し、事実に基づいたものになっ
ています。「意見と歴史」の番組の最初のコラムのところは、最初のコラムのところの
50 分だけで、私たちは放送していません。
アルジャジーラは放送しています。こういう番組はドバイではなくて、中東の他の国々
から、例えばエジプト、レバノン、クウェート、サウジアラビア、そして時々モロッコから
……」
―検閲はありますか?
「私たちは民間放送ですし、フリーゾーンにいるので、検閲はありません。ここはメディ
ア・フリーゾーンです。検閲されることはないけれど、衛星などの技術的な問題が起き
ることがあります。現場に取材に出ているときに、その現場はフリーゾーンではありま
せんから、報道が禁止される、そのような直接の検閲があることがあります」
―それは例えばCMへの圧力のことですか?
「フリーゾーン内での取材に関しては一切の制約はありませんが、例えば、イラクのよ
うなところで取材した場合に検閲があることがあります」
―外部からベテランのジャーナリストを引き抜くつもりなのか?
9
「9 月から3 月までがパイロット・プログラム期間で、私たちは集中トレーニングを行な
いました。6 人が経験者で、17 人が未経験者でした。それなのに……。
中東戦争のときに、中東のマスメディアが一方の側に肩入れしている、中立的ではな
いという批判が強かったので、報道の中立を維持しなければならないと考えました。
そこで中東の出身ではない記者を短期間雇ってその人たちの視点を取り入れてみま
した。そうしたら自分たちがやろうとしている報道と違いはなかったので、協力して報
道し、成功しました。もし、同じような機会があればやってみたいと思います」
―ジャーナリストのトレーニング体制はありますか?
「ちょうどやっているところです。15 人が参加しています。7階でやっています。「シック
スティー・ミニッツ」のプロデューサーがうちのプロデューサーに取材の方法などを教
えています。これ以外にもサブトレーニングがあります。他の中東のTV局の、名前は
申しませんけれど、スタッフが30 人います。今後3 ヶ月間に17 人が受講します」
―MBCとの協力関係はどうなっていますか?
「MBCとはまったく別の会社で、編集方針もまったく違います。ただ、テレビの放送に
は膨大な経費がかかりますので、自社だけでは賄いきれないのでこの建物にある三
つの放送局が、お互いに協力し合っています。
ニュース取材を担当しているのがMEN(ミドル・イースト・ニューズ)です。中東のニュ
ースを三つの放送局の支局や特派員に送稿して、それぞれの支局からそれぞれの
編集部門に送稿されています。MENには各TV局が手数料を支払うかたちになって
います」
―MBCから財政的な支援はありますか?
「 三つの局はそれぞれが独立した利益を上げるようにしているので、それぞれ別の
組織です。MBCはエンターテインメント、MBC2はソープオペラ(昼間のメロドラマ番
組)、アルアラビアがニュースチャンネルです。アルアラビアは利益確保を目指してや
っています。広告市場は大きいので利益を上げやすいのです。三局でやる方が一局
でやるよりコストが節約出来るからいいのです」
―アルジャジーラの前編集長アルアリ氏の辞任についてはどのようにお考えです
か?
「アルアリ氏はアルジャジーラの創設時のメンバーの1 人で、優秀な人物でした。私は
彼とは7 年間一緒に仕事をしましたが、とても仕事の出来る人物でした」
10
―最近はどのような特ダネがありますか? いくつか教えてください。
「私たちはスクープよりもニュースの質にこだわった仕事がしたいのです。スクープは
スピードと取材、ロディスティックスの三拍子そろって初めて生まれますが、私たちは
そのために仕事をしているわけではありません。
視聴者に満足してもらえるような質のよいニュースを提供したいのです。スクープは私
たちの最大の関心事ではありません。私たちの取材源はどんどん広がっています。
ですから、視聴者にもいろいろなことが分かってきているのではないでしょうか。いず
れにせよ、皆さんにもいずれお届けしますよ。
例えば、イラクの人たちがパイプラインに細工をして原油を盗んでいます。そうした犯
罪組織ができているので、今、取材をしています。盗んだ原油は船で国外に持ち出し
ています。私たちは今、その問題を取材しています。喫煙率は世界の国々の中でアジ
アが一番高く、その分健康を害する人が多くなっています。
この問題も取材で得られるデータだけでなく、世界中の公表されている情報と併せて
お届けします。シリアの大統領との独占インタビューもスクープの一つです。4 ヶ月前
にはサダム・フセインの娘との独占インタビューもものにしました。これは皆さんが言う
スクープではないと思いますが、大きなスクープでした」
―特派員は何カ国に出していますか?
「22 の中東諸国を含めて45 カ国に出しています。アメリカ、ドイツ、ロシア、アフリカ。
アジアは今、広げつつあります。今はマレーシアまで行っています。将来は東京にも
特派員を派遣したいと考えています」
④アブダビTV の編集方針・・モハメド・ドラチャド副局長に聞く
九月一日、ドバイから車で三時間のUAE 首都・アブダビへ向かった。アブダビTV
本社では機関銃をもった兵士が厳重に警戒している中、カメラ、テープの取材は禁止
となったが、モハメド・ドラチャド副局長にインタビューできた。
-基本的な編集方針・報道スタンスについてお聞かせください。
「われわれの編集方針は、最も早く、公正な立場で、正確にバランスを保った報道を
することです。戦争報道についてのガイドラインはありません。もともとニュース専門
チャンネルではないのですが、臨機応変に対応し、報道しています。最も重視してい
11
るのは、一方に偏らないことです。
今回のイラク戦争について、イラク、アメリカ双方の立場に立って起こっていることを、
ありのままを伝えること、いろいろな視点、多様な見方、考え方を多角的に伝えること
です」
-アルジャジーラの成功をどう見ていますか。
「アルジャジーラは民衆の知りたいという強い関心に焦点を合わせ、自由聞達に発言
し、「ノーセンサー」(無検閲)「トークフリー」(自由討論)の方針を貫いています。自由
に発言している「フリー・コミュニケーション・メディア」といえます。
報道においてすべてが自由であるということです。いかなるジャーナリストも自由を奪
われれば死んでしまいます。圧力は世界中から加えられます。自国政府からも、中東
地域の諸国からも、海外の政府からも来ます。圧力に屈して、報道の内容を変えるこ
とはありません。
アルジャジーラTV はアラブ地域のテレビとして必要な存在です。同じ中東地域の衛
星テレビとしてわれわれも一緒に生き続けることを願っています」
-アルジャジーラTV の前責任者だったアル・アリ氏の辞任をどう見ていますか。
「米国はアル・アリ氏を標的にして圧力をかけました。われわれが米国に行き、『CNN
の放送内容はおかしい』と抗議したとしても、米国政府は『自分の知ったことではな
い』『CNN には報道の自由があり、政府は介入できない』と答えるでしょう。
ところが、米国はわれわれには容赦ない圧力をかけてきます。「言論の自由」を強調
しながらです。米国の偽善です。二枚舌の論理です。アル・アリ氏はそのスケープゴ
ート(生贅のヤギ)となりました。米国の主張する「自由」とは結局、自分たちのための
「自由」であって、こちらの「自由」ではないのです。
二枚舌です。ある日、米国人がきて、「イラクのサダム・フセインがアルジャジーラTV
に金を出している」といいました。
「誰からそのような話を聞いたのか」と問い質すと、イラクの情報機関の情報だという
のです。情報機関が流す情報が正しいはずがないでしょう。ところがそれをみんな信
じてしまう」
12
ここで、はからずもアル・アリの辞任劇のウラを知ることができた。米国による「アル
ジャジ-ラ潰し」の一環だったのである。
続けて、アブダビ市内の情報文化省でイブラヒム・アルアベド氏(同省アドバイザーを
訪ねたが、「メディアによる民主化についてどう思いますか」と質問すると、激昂し大声
で米国を批判した。
「私たちは『民主化』という言葉は好きではありません。誰かが外から価値や見解を押
し付けるからです。米国はアラブに民主化をもたらそうとして、これまでに二億ドルも
の資金を投じた。だが全く無意味なものでした。民主化は外からもたらされるものでな
く、内側から自然に生じるものだ。
どんな社会でも自らの文化や特有の価値を持っています。アラブのメディアは自分
たちの地元のあらゆる問題を取り上げ、議論している。それが民主化という概念を育
むのに役立っているのです」
⑤グローバルメディアの今後
今回、十数人のジャーナリスト、政府関係者から取材したが、いずれも米国に対して
は、アラブに自分たちの価値観を強引に押し付けようとする態度、行動を強く批判し
た。
アラブの自由のシンボルとしてアルジャジーラがターゲットにされ、米国から攻撃さ
れていると同時に、アルアラビアなどとのメディア戦争よって、アルジャジーラ包囲網
は一層狭まりつつあるな、との印象を強く受けた。
帰国後すぐ同社のスター記者タイシール・アッルーニ氏が休暇でスペイン・バロセロ
ナの自宅に帰郷中にスペイン警察に逮捕されたというビッグニュースが飛び込んでき
た。アッルーニ記者(四八歳)はビンラデインのビデオ映像をスクープし、アフガン戦争、
イラク戦争で活躍した最も有名な従軍記者である。「アルカイダのメンバーと接触し、
資金援助したという共犯容疑」に問われたものだが、同社は「でっち上げ」と強く反発。
しかし、アッルーニ記者は起訴され、裁判が始まった。アルジャジーラ潰しがここまで
きたのか、と惜然とした。
一九七〇年代、国連で国際情報秩序をめぐる論争が西側先進国と旧ソ連、第三世界
との間で激しく戦わされた。英米などの四大通信社(AP、UPI、ロイター、AFP)が世
界の情報量の大部分を牛耳っており、途上国を支配する一方的な情報を流している
13
という「文化帝国主義」「情報帝国主義」という観点からの批判であった。これを相互
の情報の流れに変えるための「マクブライド委員会」の提言があり、西側メディアは強
く反発して、八五年には米国がユネスコから脱退する事態に発展した。
その後、十数年間、情報格差は依然として続いてきたが、今や、衛星放送、インタ
ーネット、IT 技術の飛躍的な発展で、グローバルメディアの誕生を阻んでいた情報技
術、地域格差はなくなった。西側先進国以外で初めてアルジャジーラはグローバルメ
ディアにのし上がったが、それだけにバッシングが強くなっているのである。中東への
アメリカの軍事介入は今後も続くだけに、アルジャジーラ、中東衛星メディアの動向か
ら目を離せない。
静岡県立大学国際関係学部教授
(以上は『総合ジャーナリズム研究』の論文に現地での関係者へのインタビューを大
幅に加えて、再構成したものです)
http://www.u-shizuoka-ken.ac.jp/~maesaka/maesaka.html
<著作権法により禁転載>

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