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真相究明に〝新聞力〃を  = 「旧石器発掘ねつ造」スクープの教訓=

   

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平成16 年3 月1 日          新聞通信調査会報     <プレス・ウオッチ>

池田龍夫(ジャーナリスト)
世の中には不可解なことが多い。疑わしい現象に肉薄、究明するのが、「新聞」の
責務だろう。-分からないことだらけのイラク報道を考えていた折、「旧石器発掘ねつ
造の取材三年半、終止符」の紙面(毎日1・2 6 朝刊)が、感動の記憶を呼び覚まし
た。
筆者は二〇〇一年一月号の本欄で「スクープ記事紙面化に至る約三カ月は、『新聞
の原点ここにあり』との手本を示してくれた」と、賛辞を呈した。
〝神の手″と称された旧石器発掘の達人の現場を追い続け、実は〝悪魔の手〃だ
っことを暴いた大特ダネ。さらに当事者の藤村新一・東北旧石器文化研究所副理事
長にダメ押し会見したうえで紙面化に踏み切った慎重な判断が素晴らしかった。
1・・特ダネから結末ま筋を通した報道

旧石器考古学学界への衝撃は大きく、五十万年前にも遡ると喧伝された〝新発見″
が次々否定され、前期旧石器研究は白紙からの再出発を余儀なくされた。
研究書・教科書を全面改訂する波紋も巻き起こした。このスクープがなければ、歴史
ねつ造に気づかず、永久に「正史」と位置付けられたわけで、新聞の力を実感するの
である。
毎日一月二十六日朝刊によると、藤村氏は二〇〇〇年十一月四日、ねつ造を告白
したあと精神疾患で入院、昨年七月退院したものの、入院中に再婚し、名前まで変え
て の蟄居生活の身。
まことに気の毒な境遇だが、取材班は、ねつ造問題の締め括りの意図を本人に説得
し続け、今年一月やっと再会見にこぎつけた。藤村氏は「私の口から本当のことを話
す義務がある」と応じ、取材時間は計五時間にのぼったという。
2
「二十代後半、一九七四、七五年ごろから、同じ風景のところから石器が出てくる夢を
見た。そこは実在し、掘ると石器が出る。今から思えば幻聴、幻覚なんです」と語り、
「周囲の人やマスコミの注文でエスカレートし、二十万、三十万年前となる。どうやって
埋めたのか分からない。病気のために当時の記憶がない」と告白する姿が痛々しい。
聞き出す記者も辛かったに違いないが、ここまで努力してフィナーレの紙面を作成し
た熱意に、「新聞の真の姿」を再発見した思いである。
日本考古学協会の調査で藤村氏の関与した162遺跡の価値が否定されたという。藤
村氏をここまで追い込み、旧石器研究の成果を誇大に発表した一部学者の罪こそ大
き いと思うが、それを煽ったとみられるマスコミ報道にも反省すべき問題を残した大
事件だった。
2・・自衛隊派遣の〝ナゾ〃に迫れ
そこで今回の論考は、新聞の姿勢という観点から、最近の報道で、もと深層に迫っ
てもらいたい点の幾つかを取り上てみたい。
〝仕方がない症候群〃が最近の世相を汚染している。自衛隊がイラク入りした現実
のインパクトが大きく、「今さら反対しても…」とのムードが怖い。
日本の針路の大転換なのに、小泉政権は、野党や国民の意見に聞く耳を持たず、既
成事実の積み重ねで難局を突破する強権的手法に凝り固まっている。
国会のテレビ中継をじっくり聞いて、真剣な論議を通じて国政の方向を決める民主主
義のルールが無きに等しいとの感を深めた。
新聞に不満を感じるのは、大事な論点を峻別して読者に届ける努力が不足していな
いかという点である。野党側の質問に傾聴すべき問題があるのに、すれ違いだけの
紹介記事が多くないか。
例えば、共産党議員が追及した「陸自先遣隊のサマワ情勢報告」。同党が入手した
内部文書によると、隊員の帰国前に文書が作られていたとの指摘だ。わずか一日半
の現地調査に疑いを抱いていた筆者も「あり得る」と感じた。
しかし、この質問内容は十行足らずの報道、石破防衛庁長官の「その内部文書の真
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贋は確かめられない。調査報告に間違いはない」との返答で蓋されてしまった。
この関連で言えば、「サマワには、住民の意向を反映した市評議会などの存在で治
安は安定している」という小泉首相の説明。
野党の追及で、市評議会がいま存在していないことが判明、発言を撤回せざるを得
なかった。「現地との情報連絡の不備」で終わらせてしまっていいのか。自衛隊員を
〝戦地″に派遣するのに、お粗末な情報収集では心許ない。新聞独自に追及すべき
課題だ。
陸自宿営地の借地料について要求年額は五〇万㌦、陸自提示額が7000㌦」の報
道にはびっくり。小麦畑を提供する農民への補償は必要だが、そもそも復興支援に携
わる日本側がカネをだすこと自体に疑問があるのに、この高額は何だろう。
バクダッドを占領し、旧大統領官邸などを使っている米英軍が賃貸料を払っていると
は考えられない。サマワの借地料は、戦争を始めた米英軍が支払うのが筋だ。値引
きさせたとしても、陸自がカネで解決するのは間違いだと思う。他国軍のケースも含
め、徹底調査してもらいたい。
外交官二人の射殺事件は、二ヵ月も経つのに誰が撃ったかの解明が進んでいない。
被害を受けた車もまだ日本に移送されず、遺体の解剖結果も発表されていない。唯
一、防衛庁から「カラシニコフ銃の弾とみられる」との発表があったものの、同口径の
銃もあるためテロの銃弾と確定できない。
民主党議員は、被害車の写真を示して「銃弾の貫通具合から、かなり高い位置から
撃ったと推定できる」と迫った。米軍誤射説うんぬん以前に、科学的解明を急ぐべきな
のに、政府側は「調査しているが機密に属する問題もある考慮して…」と、極めて消
極的な答弁だ。この件の新聞報道にも問題意識の欠如を感じた。
3・・「市民の声」を、もっと幅広く伝えよ

自衛隊派遣をめぐって投書欄で取り上げてはいるが、全国各地の市民集会やデモ
などの記述が軽視されていないか。
一例をあげれば、二月六日の日本ペンクラブの緊急集会。「いま、戦争と平和を考え
る」と銘打ったものだが、新聞はほとんど無視している。在京六紙の中で、朝日・毎日
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が豆記事で報じたものの、単なる集会情報に過ぎない。
良識派文化人のアピールに関心を持たないことが不思議でならない。一枚岩でない
ペンクラブだから、いろいろな論議が交わされたに違いないが、簡単な記事ではニュ
アンスはつかめない。じつくり取材すれば、国会論議より密度の濃い問題点が浮かび
上がったはずである。
「武力にたよらないイラクの復興支援を求める」5358人の署名簿を内閣府に提出
した18歳少女の行為に感動した。
毎日2月2日夕刊社会面トップ、特ダネ的に報じたもので、他紙の問題意識の無さに
むしろ驚いた。宮崎県の高校三年の女生徒が昨年十二月から一人で署名を集めたと
いうから凄いことだ。
「これ以上イラク国民を傷つけないよう、そして、日本国民一人一人安全に責任を持
つべき一国の首相として、勇気ある行動をしてください」と請願書に記されている。こ
の純粋な少女の心を吸い上げることが政治の要諦ではないか。
ところが、「署名を読みましたか」との記者団の質問に小泉首相は「読んでません」と
答えたあと、「自衛隊は平和貢献するんですよ。学校の先生もよく生徒さんに話さない
と。この世の中、善意の人間だけで成り立っているわけじやない。なぜ警察官が必要
か、なぜ各国で軍隊が必要か」と、驚くべき返答。
その後の参院特別委では「日教組には『イラク派遣は憲法違反だ』とデモしている人
もいる。先生は政治運動に精を出すよりも生徒の教育に精を出すべきだ」と、お得意
の〝すり替え″論を展開した。
首相には「民の声を聞く」姿勢などさらさら無く、教育にまで筋違いのクチバシを入れ
てきた姿勢には警戒を要する。新聞は、一少女の署名問題に壊小化することなく、二
の矢、三の矢を放って追及してもらいたい。
一方、旭川市で始まった「黄色いハンケチ」運動を、各紙とも大きく報じている。
イラクへ送られた自衛隊員の無事を祈る市民の気持はよく分かる。だが、「お国のた
め」と信じさせられながら作った「千人針」に、夫や息子の無事を祈る切なく悲しい六
十年前が蘇えってくる。
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戦前も今も、犠牲を強いられるのは庶民だ。戦争の悲劇を繰り返してはならないと、
つくづく思う。イラク問題の指摘だけになってしまったが、改憲への動きなど国内問題
にも課題は山積している。
追うべきテーマは多岐にわたっており、現役記者の苦労は並大抵でなかろう。
しかし乱世の今こそ、新聞記者が実力を発揮できる好機と認識して欲しい。新聞社間
の姑息な足の引っ張り合いなどは止め、正々堂々と紙面の質で競い合ってもらいた
いと願っている。
(池田龍夫=ジャーナリスト)

 - IT・マスコミ論

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