前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

<書評>田中等著『仏像経験―おもい出の古寺紀行、つれづれの古仏随想』(展望社 1600円)

   

<書評>田中等著『仏像経験―おもい出の古寺紀行、つれづれの古仏随想
  (展望社  2010年2月刊  1600円 270頁)
 
         前坂 俊之(ジャーナリスト)
 
著者の田中さんとは20年も前からの知り合い。シャープな編集者としての印象が強く残っていたが、その後、ハンセン氏病の患者の支援運動や市民運動に地道に取り組んできたのも陰ながら注目していた。
 
その田中氏の最新刊がこの1冊。人間ある年齢に達すれば、寺社仏閣、仏像へ関心が向かうのは世の常だが、田中さんが「中学生のころからの大のお寺好きで、出身地の北九州で近くのお寺、仏像を見るのを楽しみしながら、『大和古寺巡礼』『続日本の彫刻』の写真集を愛読していた」とは知らなかった。
 
その半世紀にわたるウンチクを傾けて全国48ヵ所の古寺社の仏像を訪ねた歩いた思い出の巡礼記であり、イラストレータとしての達筆なイラストとともに、軽妙なエッセー、紹介記を綴っており、どこからめくってみてもほどよくまとまっている。
 
昨今のマスコミによる寺社や仏像、日本美、日本美術への見直ブームは「美しい国日本」と言う保守回帰、伝統復活と国民精神の内向き傾向と軌を一にしたものではないかと思う。
コマーシャルベースにのった大量の観光ガイドブックも仏像案内も『過去百年の日本古美術賛美のルーツである明治の岡倉天心の『日本美術史』、大正の和辻哲郎の『古寺巡礼』、昭和の亀井勝二即の『大和古寺風物誌』、
平成の白洲和子の仏像もの流れの中に、仏像鑑賞の狭い言説は閉じ込められたままであって、いまのフツーの仏教美術愛好家たちも、これを無批判的に受け入れている』という田中さんの指摘は的を射ている。
宗教も芸術も美術も仏像も何も拝み奉る存在ではない。その時の人間の叫びであり、悲しみであり、喜びの表現形式の1つである。仏像もその人間の表情を当時の技法にのっとって刻んだもの。
「顔はその人間の履歴書』とはお互いさまで、仏像も『日本人の表情の1つ』として年輪を積んだ鑑賞者として、ガイドブックに全面的に頼らず、とくと心眼から拝顔、勝手に解釈すればよいのではと思う。
もっとそれぞれ自分流に散歩かたがた訪ね歩き、イラストまで書かなくともデジカメで表情をとらえて、勝手に自由に解釈すればよいことを教えてくれる。
取り上げられた仏像は以下の通りで、ぶらり散歩ででかけてください。
真木大堂 大威徳明王騎牛像金剛宝戒寺 大日如来坐像大船観音寺 大船観音、興福寺 旧山田寺仏頭鶴林寺 聖観音立像円成寺 大日如来坐像、東寺 不動明王坐像、山神社 山の神像、 羅漢寺 五百羅漢像(北条石仏)、浄土寺 阿弥陀如来立像 相国寺 釈迦如来坐像、願成就院 衿掲羅童子・制托迦童子立像、大安寺 楊柳観音立像、向源寺 十一面観音立像、熊野神社 熊野磨崖仏、臼杵石仏 大日如来坐像(臼杵磨崖仏)光台院 阿弥陀如来立像、法性寺 千手観音立像 、観世音寺 馬頭観音立像、新大仏寺 重源上人坐像、金色院 金色堂堂内諸像、般若寺 文殊菩薩騎獅像、深大寺 釈迦如来僑像 など48体>
田中 等(たなか・ひとし)
1947(昭和22)年、福岡県八幡市(現北九州市八幡東区)生まれ。高校卒業後、会社勤務などを経て、1989年からフリーのイラストレーター・デザイナー。その間、職場の労働組合活動や障害者・ハンセン病問題などの運動にかかわり、現在に至る。著作は、各種新聞・雑誌への寄稿のほか共編著として『レラ・チセヘの道-こうして東京にアイヌ料理店ができた』(現代企画室)、『ある「超特Q」障害者の記録』(千書房)、『ハンセン病問題これまでとこれから』(日本評論社)などがある。
 
 
 

 - IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『オンライン講座/新聞記者の冤罪と死刑追及の旅①』全告白『八海事件の真相』(上)<昭和戦後最大の死刑冤罪事件はこうして生まれた>①

   「サンデー毎日」(1977年9月4日号)に掲載  前坂 …

no image
世界/日本リーダーパワー史(963)ー2019年は『地政学的不況』の深刻化で「世界的不況」に突入するのか』②『米中貿易戦争は軍事衝突に発展する可能性はないのか?・』

 世界/日本リーダーパワー史(963) 米中貿易戦争は軍事衝突に発展す …

no image
池田龍夫のマスコミ時評(51) ●孫崎亨氏のツイッターによると、『尖閣問題 歴史的事実位は勉強して下さい』

 池田龍夫のマスコミ時評(51)   孫崎亨氏の「尖閣問題」ツイッター …

no image
日本メルトダウン(904)『消費増税延期でアベノミクスは再起動するか』●『アベノミクスは大失敗」と言える4つの理由ー今すぐ総括を行い経済政策を修正すべきだ』●『今の経済政策を続けて何一ついいことはない』●『外国人投資家が安倍政権の「敵」になる時―』

   日本メルトダウン(904) 消費増税延期でアベノミクスは再起動するかー「円 …

no image
池田龍夫のマスコミ時評⑯ 「沖縄密約文書開示訴訟」の結審 4月9日の「判決」の行方を注視

池田龍夫のマスコミ時評⑯「沖縄密約文書開示訴訟」結審 4月9日「判決」の行方を注 …

『リーダーシップの日本近現代史』(157)再録/『日本一『見事な引き際・伊庭貞剛の晩晴学②『「事業の進歩発達を最も害するものは、青年の過失ではなく、老人の跋扈である。老人は少壮者の邪魔をしないことが一番必要である」』

    2010/10/25 &nbsp …

no image
『世界サッカー戦国史』➈『ガラパゴス/ジャパン/サッカーの未来を開く』★『日本人監督にして科学的トレーニングを強化する』

『世界サッカー戦国史』➈ 日本サッカーの強化法―科学的トレーニングの必要性 前坂 …

葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をまねして『江の島沖の富嶽』★『逗子なぎさ橋珈琲テラスから富士山を眺めながらのスマホで撮影」(25 /12/06/am700)』

「逗子なぎさ橋珈琲テラスから富士山を眺めながらの講座」(25 /12/06/am …

no image
日本メルトダウン(957)『討論初戦はヒラリー圧勝、それでも読めない現状不満層の動向』●『「日本のせいで巨額の金を失った」とトランプ氏、ヒラリー氏と初の直接対決で日米安保に言及』●『戦略なき日本の「お粗末」広報外交』●『安倍首相の呼びかけで自民議員が一斉に起立・拍手 「北朝鮮か中国」と小沢一郎氏が批判』●『東大、またアジア首位逃す 世界大学ランキング』

   日本メルトダウン(957)   討論初戦はヒラリー圧勝、それでも …

『Z世代のための百歳学入門』★『物集高量は(元朝日記者、大学者、106歳)は極貧暮らしで生涯現役、106歳の天寿を果たした極楽人生の秘訣③』★『物集高量の回想録②、大隈重信の思い出話』★『大隈さんはいつも「わが輩は125歳まで生きるんであ~る。人間は、死ぬるまで活動しなければならないんであ~る、と話していたよ』

    2021/05/28 &nbsp …