わが「古本狂」の愛読 『一読両断』書評ー『刑事裁判を問う』下村幸雄著◎『殺さなかった』五十嵐二葉著
2015/01/01
わが「古本狂」の愛読、乱読、速読、つん読、捨読の
『一読両断』の<書評300冊ギリ>
ー「週刊大衆」で、5年間連載したすべてを紹介する②
◎『刑事裁判を問う』下村幸雄著 勁草書房 4800円
<戦後30年,病める一方だった日本の刑事裁判。自らの体験と反省から病巣を指摘>
先日、島田事件の再審無罪判決があった。死刑確定囚が一転無罪のケースは、免田、財田川、松山事件に次いで4件目だ。いまや、わが国の刑事裁判は根底から問われている。
本番は裁判官生活30年の著者が自らの体験、反省の上に刑事裁判の病根を一つ一つ摘出したもので、刑事裁判の危機的状況が浮き彫りにされている。
昭和30年に司法修習生となった著者。その頃の司法研修所はリベラルな雰囲気に包まれ、「刑事裁判の目的は無罪の発見にある」と教えられた。これをモットーに、大阪地裁で裁判官となり、青法協に入会。だが、筆者を待ち受けていたのは、青法協パージであり、「刑事裁判はやらせない」という圧力であり、左遷であった。そして弁護士になる。
―内容は、接見交通権、証拠開示、自白の任意性、代用監款、勾留など刑事裁判の最重要部分であり、冤罪誤判を生む病根を指摘する。いまや暗黒ともいうべき部分に人権尊重の視点から光を当て、その論旨の一貫性には目をみはる。
「刑事裁判の本質は検察批判である」と明言する本書は、固くるしい論文集と思われがちだが、誤判、冤罪を再生産する現行刑事裁判を知るうえで最適の書といえよう。
(1989年4月3日掲載)
◎『殺さなかった』五十嵐二葉著 恒友出版 1600円)
<下腹部切り取り殺人の容疑者は犯行を否認した。主任弁護士が冤罪を訴えた!>
本書は昭和58年9月におきた東京杉並の看護学生殺人事件のドキュメントである。この事件はマンションに住む若い女性が強姦され殺された上、下腹部をえぐり取られたという猟奇事件として、当時センセーショナルに報道された。約1カ月後に逮捕されたA(被告)は「強姦はやったが、殺人、切り取りはしていない」と公判で否認したが、第一審で無期懲役、二審は控訴棄却、目下上告中だ。
「犯人は2人いる」「強姦はしたが、殺さなかった」という推理小説以上に謎にみちた事件だが、主任弁護士の著者の〝冤罪〃の手口の見事な分析と説得力のある推理に、こなれた文章で読ませる。
暴力団員とまるで同じの刑事がドナリ、脅し、暴力をふるい、長時間、密室の
取調室で責め立てる。自白調書は刑事との共同作業、都合のよい証拠をちりばめた作文が作り上げられる。
同事件では、凶器とされたナイフに血痕はなく、遺留足跡もAのものでないなど物証がことごとく否定されながら、状況証拠だけで無期懲役が下された。
わが国の刑事裁判がどんなに病んでいるか、本書はそのカルテである。先進国ではわが国にしかない代用監獄が日本型冤罪の根源であることを徹底して解剖した迫力あるドキュメントである。
(1989年9月5日号掲載)
関連記事
-
-
日本リーダーパワー史(692) 『中国/朝鮮行動学のルーツ⑦』中国紙「申報」の論説から日中韓150年戦争史の原因を読み解く(連載70回)①第1回-10回まで、福沢諭吉の『脱亜論」の理由、中華思想、小中華と日本主義の対立の背景
日本リーダーパワー史(692) 『中国/朝鮮行動学のルーツ⑦』中国紙「申報」の論 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(101)』「パリぶらぶら散歩(2015 /4/30-5/3)★『パリ・オペラ地区の大衆レストラン、シャルティエは 百年以上パリ市民から愛されてきた名店,銀座にこんな居心地のいい親しみやすい店はない』
逗子なぎさ橋珈琲テラス通信(2025/10/11/am700) &n …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(19』『オーストリア・ウイーンぶらり散歩④』『旧市街中心部の歩行者天国を歩き回る』★『旧市街の歴史に彩りを添えるのが観光馬車フィアカー(Fiaker)で1622年以来蹄の音を響かせている。』
2016/05/18 2016/05/26『F国際ビジ …
-
-
日本リーダーパワー史(715)★『財政破綻必死の消費増税再延期」「アベノミクス大失敗」 「安倍政権終わりの始まり」を議論する<君よ、国をつぶすことなかれ、子供たちに大借金を残すことなかれ>これを破ればレッドカードだ。
日本リーダーパワー史(715) <『財政破綻必死の消費増税再 …
-
-
『Z世代のための戦争報道論』★『ジャーナリストからみた日米戦争』★『太平洋戦争直前に日本人記者としてただ一人、ルーズべェルト米大統領の単独会見に成功した毎日新聞欧米部長(主筆)の楠山義太郎(90)氏から取材した』★『ジャーナリストは「言いたいこと」ではなく、「言わねばならぬこと」を書くことだ(「他山の石」の桐生悠々の弁』
2009/02/10 /『ジャーナリストからみた日米戦争』記事再録再編集 静岡県 …
-
-
お笑い日本文学史動画編『 直木三十五の「芸術は短く、貧乏は長し」と詠んで『直木賞』に名を残した。』◎『借金の天才の「借金取の撃退法はダンマリ作戦」』◎『流行作家となり、湯水のごとく原稿料を散財した、 無駄な出費が大好き」』
お笑い日本文学史動画編 直木三十五-「芸術は短く、貧乏は長し」 と詠んで『直木賞 …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評(118)●『高速増殖炉「もんじゅ」撤退は当然』(9/29)『安倍首相の言動に警戒信号』 (9/26)
池田龍夫のマスコミ時評(118)   …
-
-
池田龍夫のマスコミ時評 ⑥「集団的自衛権」見直しを—武器輸出三原則緩和の報告書に驚く
池田龍夫のマスコミ時評⑥「集団的自衛権」見直しを 武器輸出三原則 …
-
-
記事再録/世界を魅了した日本人ー『エ・コールド・パリ』・パリ画壇の寵児となった『世界のフジタ』藤田嗣治②
2010/01/01   …
