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野口恒のインターネット江戸学講義(19) 『エピロ-グ 江戸のネットワ-ク社会に学ぶ 日本のノマド学』(終)

      2015/01/01

日本再生への独創的視点<インターネット江戸学講義(19)

 
●『エピロ-グ 江戸のネットワ-ク社会に学ぶ
日本のノマド学』(終)
 
野口恒著(経済評論家)
日本人の生き方や日本の社会の特色というと、長年の土地神話の影響もあって、2000年以上の歴史を持つ農耕定住民族、農耕定住社会、土地に縛られ、土地に執着し、土地に価値をおく社会であると考えられてきた。バブル経済が崩壊するまでは、ほとんどの人たちがこうした考えを持っていたと思われる。
 
しかし、バブル経済を支えた土地神話がみごとに崩壊したことにより、日本の歴史や社会に関して人々がこれまで抱いてきた見方や常識にさまざまな視点から疑問や問題点が提起された。
 
日本人の生き方や日本の社会には、土地に執着し、土地に価値をおく農耕定住社会とは別に、土地に縛られず、さまざまな境界を自由に移動しながら生活し、むしろ移動することに価値をおく非農耕・非定住のノマド(移動)型社会の歴史や活動があった。
 
ノマド(移動の民)といわれる人たちは決して日本の歴史や社会の主流ではなかったが、彼らのパワ-とエネルギ-は日本の社会に変化と活力を与え、目にみえない形で社会の底流を動かしてきたのである。
 
江戸時代というと、一般に土地に縛られ、土地に執着し、土地に価値をおく農耕定住社会の典型的な社会だと考えられてきた。もちろん江戸時代は農耕定住社会が社会の主流ではあったが、しかし江戸の庶民社会を底流で動かし、変化と活力を与えてきたのは非農耕・非定住のノマド社会であった。
 
江戸時代はそれまでの日本の歴史の中で人々の移動がもっとも激しかったノマドの時代であった。当時は封建時代なので人の移動がほとんどなかっただろうと考えがちである。しかし、それは長年信じられてきた大きな誤解である。
 
上は大名の参勤交代から下は庶民のお伊勢参りまで、そして菱垣廻船・樽廻船・北前船に見られる海の物流航路も含めて、江戸時代はそれまでの日本の歴史の中で「人と物の移動」がもっとも活発な時代であった。
 
江戸時代の庶民社会には、座や連、講や結など様々なネットワ-ク組織が無数に作られ、比較的自由に活動し、庶民の生活や経済活動を支えていた。「すべての江戸の講はしばるべからず」という幕府のお触れがあったほどである。
 
それらは、庶民が智恵を出し合って助け合い、身分の区別なく付き合い、交流するヒュ-マンネットワ-クとして機能した。
 
注目されるのは、江戸の庶民はこれらのネットワ-ク組織に関して、中央集権的な封建時代には考えられないほど「自由で、オ-プンで、分権的で、水平的な」運営や活動を行っていたことだ。
 
身分や家柄の違いを超えて自由に付き合い交流し、目的や状況に応じて柔軟かつアドホックに組織やネットワ-クを運営し、人と人を自在につないでその輪を広め、様々なビジネスチャンスをつくり、新たな価値を生み出していく。
これらは、厳しい身分制が支配する封建社会のもとで、江戸の庶民が助け合いながら生き抜くための生活の智恵とアイデアであった。
 
 ところで、21世紀は人々が地球規模で移動するノマドの時代であるといわれる。
事業家、ビジネスマン、学者、芸術家、芸能人、スポ-ツマンなど、人生や仕事のチャンスを求めて、国境に縛られず自由に移動する人々。
 
あるいは貧困や生活苦、戦争や動乱から逃れ、生き延びるために移動を強いられる人々。さまざまな理由や背景があるにせよ、21世紀は人々がグロ-バルに移動する時代になるだろう。とくに、インタ-ネットの爆発的な普及によるネットワ-ク社会の実現により、情報も物も人も地球規模で活発に移動する本格的なノマド時代が到来する。
 
 グロ-バルなネットワ-ク社会の実現やノマド時代の到来は、人々の生き方や生活に大きな変化をもたらすことになる。それは人生やビジネスに様々なチャンスをもたらすと同時に、他方で人々は厳しい生存競争を強いられる。
 
競争社会に付き物の勝者と敗者の格差がはっきりする。グロ-バル競争ばかりが強調されて、弱者や敗者を救う助け合いや相互扶助の精神が失われる。ハイテク社会の進化に依存するあまり、より人間的なハイタッチ社会の側面が稀薄になっていく。
 江戸の連に参加した武士や町民たちは複数の「ペンネ-ム」を持ってそれぞれ使い分け、
身分や階級の差別なく付き合い、自分たちの趣味や嗜好を通じた自由なサ-クル活動に参加し、人間的な交流を広めて分度に応じた生活を楽しんでいた。
 
 江戸町民によるネットワ-ク社会の特色は、人と人とのつながり、お互いの信頼感の絆、助け合いと相互扶助を社会の基本においていることだ。そのために、江戸の町民は様々な智恵とアイデアを出し合い、緩やかな組織と柔軟なネツトワ-クを作り、庶民の生活と経済活動を支えていた。
 
江戸町民のムダの少ないシンプルな生き方と生活、弱者にも優しい緩やかで柔軟な社会の仕組みは、日本における21世紀のネットワ-ク社会やノマド社会を考える時、大いに参考にすべき先進モデルとなる。
とくに、移動することに価値をおき、移動しながら様々な価値を作り出していくノマド社会の生き方や働き方は、“江戸のノマドたち”から学ぶべきところが非常に多いのである。
 
 21世紀の日本は、かつてのような高度経済成長の時代とは異なり、緩やかな成長の中で自分たちの充実した生活を営んでいく“定常社会”の生き方やライフスタイルが求められる。
 
日本の歴史の中でもっとも安定した定常社会であった江戸から学ぶべきものはたくさんある。シンプルで、スロ-なクウォリティライフもそのひとつであろう。
  

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