「百歳・生き方・死に方-臨終学入門(118)酒で蘇生した「酒仙」横山大観(89)の「死而不亡者寿」(死して滅びざるもの寿)
2015/08/31
「百歳・生き方・死に方-臨終学入門(118)
酒で蘇生した「酒仙」横山大観(89)の「死而不亡者寿」
(死して滅びざるもの寿)
「富士山は無窮の象徴である」と富士山を中心に描いた。
絶筆も『不二』だったが、一度も富士山に登っ
たことはなかった。
前坂俊之(ジャーナリスト)
wiki 横山大観
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A8%AA%E5%B1%B1%E5%A4%A7%E8%A6%B3
横山大観は、明治初めに岡倉天心の理想を受け継ぎ、日本画の近代化を行うと同時に、明治・大正・昭和の三代にわたって、日本画を革新し続けてきた、わが国、画壇の最高峰である。
大観は生涯、「富士山は無窮の象徴である」として、富士山を描き続けた。絶筆も『不二』だったが、一度も富士山に登ったことはなかった。日本精神の原点として、富士山の美姿に打たれ、描き続けたのである。終生、在野精神を貫き、昭和十二年(1937)、第一回の文化勲章を受章したものの芸術院会員は断った。
九十歳の長寿を全うし、最後まで旺盛な創作欲は衰えなかった。そのエネルギーの源泉は日本酒。それも広島の銘酒「酔心」以外は一切飲まなかった。
「酒仙大観」といわれ、若い時は毎日二升(3・6リットル)は軽く飲み干し、八十歳を過ぎても一升は欠かさなかった。御飯はほとんど食べず、朝から2合(0,リットル)を飲み、昼は三合、夜は残りを飲んだが、それでも足りなかった。
酒の肴は肉や魚は全く口にせず、オカズはもっぱら野菜やウニ、カラスミ、果物などで、静子夫人は「ウグイスのように、ナッパぽっかり食べています」と。固形物をとらないため、大観の胃は普通の半分ぐらいに小さくなってしまったという。
「酒は米のジュースなので、米食しなくても同じこと……」
と、大観はすましていた。
昭和三十一年二月、八十八歳の大観は辻政信参議院議員の仲立ちで、不和だった中村岳陵(日本画家)との和解の宴を築地の料亭で催した。
この時、大観は飲み過ぎて、下痢が続いて病にふせった。それでも連日、「酔心」を飲んでいたため突然、危篤状態に陥った。
三月十九日、日本美術院の重鎮たちに危篤通知が出されて、友人や弟子がかけつけた。病床でお別れに「先生は酒がお好きだから、最期はお酒を飲ませて送ろう」
と目覚めた瞬間に吸飲みで「酔心」を一合飲ませた。ところが、これで再び意識がよみがえり、翌朝には快方に向かって危機を脱した。元気になった大観は再び、二日に一升近くの酒を飲み始め、翌32年11月には病床から完全に離れ、画筆を持つまでになった、という。まるでウソのような本当の話である。
「堂々男子は……」
「世間では私を大酒飲みと思っているが、私はただ酒を愛するだけです。酒徒なのです。だがいくら酒が好きでも寝床で飲むんじゃまずい。とくに吸飲みなんかではね」と大観。
最晩年には「酔心」を、酒七分、水三分、または半々に薄めてちびちび飲んでおり、主治医は「大観は飲むと心臓の働きも活発になり、酒は強心剤とも言える。長年の習慣が酒に適した身体を作ったのではないか」とあきれる。
飲んで興にいると、岡倉天心作の「日本美術院歌」を朗々と大声で歌い、「堂々男l子は死んでもよい」の「よい」に、なんとも言い表わせない味と調子をにじませた。
大観がこの歌を歌いだすと、主治医らは体調のよい証拠として喜んだ。この美術院歌を大観がレコードに吹き込んだ時のこと。しらふではなかなか歌えない。ずっとできないまま、二週間ほど経ったある日、制作者が「レコードができました」と突然、持ってきたので、大観は「俺は吹き込んだ覚えはない」と驚いた。
よく聞いてみると、ある晩、隣室にそっとテープコーダーが持ち込まれ、大観が酔って歌い練習していたところを録音したのだった。「油断もスキもありません」とぼやいた。
晩年、大観は老子の言葉の「死而不亡者寿」(死して滅びざるもの寿)を好んで、揮号していた。
関連記事
-
-
記事再録/知的巨人たちの百歳学(137)ークイズ<超高齢社会>創造力は老人となると衰えるのか<創造力は年齢に関係なし>『 ダビンチから音楽家、カントまで天才が傑作をモノにした年齢はいずれも晩年』★『 ラッセルは97歳まで活躍したぞ』
クイズ<超高齢社会>・創造力は老人となると衰えるのか <創造力は年齢に関係なし、 …
-
-
百歳健康超人たちの長生き生活訓―天海(108歳)・平櫛田中(107歳)・三浦敬三(101歳)・三島海雲(96歳)
百歳学入門(32) 百歳健康超人たちの長生き生活訓― 天海(108歳)・平櫛田中 …
-
-
『Z世代のための百歳女性学入門(65)」★「女性芸術家たちの長寿/晩晴学」★『宇野千代(98歳)の晩晴学「何事も、くよくよしないこと、いつもヨーイドンの姿勢をとること。トシのことは一度も考えたこなんかないわ。イヤなことがあってもすぐ忘れれば、気持ちが明るくなる。失恋したって、くよくよしないから別の男がすぐ見つかるのよ。もう一度結婚したいわよ』
2019/12/05 『リーダー …
-
-
『オンライン/新型コロナパンデミックの研究』ー『「withコロナ宣言」でポストコロナの世界はどうなるか』★『GAFAを生み出した「デジタル・ネーティブ/パソコン第一世代」(ミレ二アル(Y)世代(25ー40歳))とすれば,「スマホ第2世代」(Z世代)がwithコロナ社会の未来を拓く』(5月27日)
「withコロナ宣言」―Z世代が未来を拓く 前坂 俊之(ジャー …
-
-
『オンライン鈴木大拙講話』★「東西思想の「架け橋」となった鈴木大拙(95歳)―『★『禅は「不立文字」(文字では伝えることができない)心的現象』★『「切腹、自刃、自殺、特攻精神は、単なる感傷性の行動に過ぎない。もつと合理的に物事を考へなければならぬ」
★『死を恐れるのは仕事を持たないからだ。ライフワークに没頭し続ければ死など考える …
-
-
百歳学入門⑦<クイズ>長寿で最後までリーダーパワーを発揮した日本の政治家は誰ですか①!?
百歳学入門⑦<クイズ>長寿で最後までリーダーパワーを発揮した政治 家は誰ですか① …
-
-
『Z世代のための最強の日本リーダーシップ研究講座(48)』★『地球環境破壊(SDGs)の足尾鉱毒事件と戦った公害反対の先駆者・田中正造①』★『鉱毒で何の罪もない人が毒のために殺され、その救済を訴えると、凶徒という名で牢屋へほう込まれる。政府は人民に軍を起こせと言うのか。』
2021/08/16 世界が尊敬した日本人(54)記事再録 (古河市兵衛)こんな …
-
-
『Z世代のための<日本安全保障史>講座⑦」★『ウクライナ戦争と日露戦争➅』★『英国の歴史家H・G・ウェルズは「明治の日本がなしとげたほどの超速の進歩をした国民はどこにもいないと賞賛した』★『日本の奇跡」の日露戦争完全勝利』は川上操六プロデューサー、児玉源太郎監督、主演は情報参謀の福島安正、柴五郎、明石元二郎、海軍は山本権兵衛、東郷平八郎、秋山真之らオールキャスト』
2022/04/21 『オープン講座/ウクライ …
-
-
『女性百寿者の長寿名言②』毎日を創造する気持ちで過ごす生活に飽きはこない」「生涯勉強です」
『女性百寿者の健康長寿名言②』 前坂 俊之(ジャー …