前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

「日本スタートアップ・ユニコーン史」★『アメリカ流の経営学を翻訳・マネする前に、明治のスタートアップ起業者のスゴサに学ぶ』★『「資源もない」「金もない」「情報もない」「技術もない」「学歴もない」「ないないづくし」の地方、過疎村で、独創力で真珠養殖に成功した不屈の御木本幸吉(97歳)』★『エジソンも「私もできなかった」と真珠発明を激賞した』                     

   

 

日本リーダーパワー史(972)世界史を変えた『ミキモト真珠』

2019年、私は8年前から東京ビッグサイトで開催されている国際展示会に毎週、出かけている。

経済産業、ITデジタル技術、商業、農業、生活、医療などあらゆる分野の国際展示会が開かれており、日本、世界の経済動向がよくわかり、たいへん勉強になる。日本の出展ぶりは大企業や老舗企業が多く,中小、ベンチャー企業の出展はあまり増えていない。一方、欧米各国、中国、台湾などは出展数も増えており、新興のベンチャー企業の躍進が目立つ。

日本経済がなかなか再生できない原因は「ゾンビ企業」が淘汰されず生き残り、元気なベンチャー企業が生まれないこと、いわゆるシュンペーターの「創造的破壊」が起こらないことだが、国際展示会に行くとその盛衰がよく見える。開業率の国際比較では欧米先進国が10-15%に比べて日本は半分以下の5%、中国の起業家は全人口の9%、1億2千万人といわれ日本は先進国中最下位に低迷している。

東京ビッグサイトからの帰りに神田神保町の古書店で「御木本幸吉の思い出」(御木本美隆著、1975年刊 非売品)を買って読んで、改めて明治人の気力と体力パワーに圧倒された。

御木本幸吉といえば人工真珠を作った明治の企業家としか知らなかったが、明治の初代ベンチャーとして、エジソンもできなかった「人工真珠」を発明し、日本の最高の高価な輸出特産品に育て上げた。

御木本幸吉は1858年(安政5)1月、三重県鳥羽でうどん屋の長男に生まれた。当時、鳥羽地方の海女による天然真珠の採取は乱獲で水揚げは激減していた。「このままでは志摩の名物が絶滅する」と地元漁民は危機感を募らせていた。

21歳となった御木本は、鉄道東海道線はまだ名古屋まで開通していなかったので、11日かけて歩いて上京し、文明開化の風が吹く東京、横浜の異人街などで2ヵ月間、欧米ビジネスを勉強した。ここで、天然真珠が世界の王侯貴族、金持ちが女性へ贈る最高の高額なアクセサリーであることを知り、人工真珠の養殖をがひらめいた。

30歳となった御木本はわが国最初の動物学者の東大理科・箕作佳吉博士の指導を受けながら全財産をつぎ込み、英虞湾の孤島に一家で移住して、人工真珠の養殖に取り組んだ。

「狂っている?」「大法螺吹(おおほらふき)きや!」と周囲から疎んじられながら来る日も来る日も貝やガラスなどの小破片を埋め込んだ何百というアコヤ貝を開くが、中は一向に変化はない。5年後の1893年(明治26)7月、ついに貝の中にピンクに輝く半円形の5ミリほどの真珠を発見した。

「資源もない」「金もない」「情報もない」「技術もない」の「ないないづくし」の田舎で、独力で真珠養殖にチャレンジして、成功した瞬間である。その後、この半円形真珠から完全な円形真珠を作る技術も完成し真珠養殖の一大産業化に成功した。

1905年(明治38)、明治天皇が伊勢神宮に行幸した際に、御木本は「世界中の女性の首を真珠でしめてご覧にいれます」と大見得を切ったが、その通りミキモト・パールの大部分は海外に輸出されて大いに外貨を稼いた。1927年(昭和2)にニューヨーク、次いでロンドン、パリにも出店するなど海外販売網を築き、日本企業の海外進出のさきがけ的な存在となった

1927年2月、欧米視察旅行にでかけた御木本はニューヨークでエジソンと会見、「私はダイヤモンドと真珠の発明だけはできなかった。その真珠を発明されたことは世界の驚異です」と絶賛され、70歳の御木本は大感激した。

御木本の成功の秘訣は当時の最新のメディアの新聞、電話、ラジオを活用したこと。

「ねりたくって」行え(考え抜き、練りに練って戦略を練る)

②「商売は仕入れにあり」「信用が第一」

➂「商機を逸すな」

を口癖にしていた。

「新聞のニュースは朝刊ではおそい。夕刊を早く読め」が持論で、店員を新聞社の近くで待機させ、夕刊を入手して事務所まで配達させた。電話もいち早く導入し、事務所、自宅、工場のほか毎日散歩する山の中にまで電話ボックスを設置。散歩中に考えを練って、思いついたことを山からすぐかけてきた。

ラジオは朝6時のニュースから、1日九回のニュースを必ず聞いていた。来客中でも失礼といって、ニュースの時問が来ると聞いて事業のタネにしていた。それを自分で「ねりたくつて」て戦略を立てた。

もう1つ、御木本の偉大さは、独自の健康法を編み出して、生涯現役で96歳8ヵ月の長寿を保ったことだ。

40年間を通じて毎朝5時に起床、夜は8時に就寝、主食はムギ飯1杯で若い時の腹6分に。酒、タバコは飲まず。盛夏でも腹巻を離さず腹を冷やさない。逆に冬はシャツを着ずに薄着主義。夜の宴会を好まず。一日に二回入浴した。

九十歳頃の食事は「朝は3分目、昼は2分目、夜は「うまい物は2箸残す」のダイエット。

最後に「世界史をかえたミキモト真珠」の歴史秘話を紹介する。

それまで天然真珠の産地はアラビア湾の奥のクウエ―ト沿岸に限られて、世界市場を独占していた。御木本の発明で、クウェートの真珠漁業は壊滅する。窮地に陥ったクウェート王家は、それまで拒んできた外資による石油探鉱を許可した。まもなく大規模油田が相次いで発見され、世界のエネルギー地図が塗り替えられて、「石油の世紀」が始まった。

                          

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『オンライン/真珠湾攻撃(1941)から80年目講座①』★『この失敗から米CIAは生れたが、日本は未だに情報統合本部がな<<3・11日本敗戦>を招いた』★『2021年、新型コロナ/デジタル/経済全面敗戦を喫している』(上)』

    2011/09/09 &nbsp …

no image
<裁判員研修ノート⑨> 『無実を訴えて62年』―加藤新一事件の再審で無罪判決が下る

無実を訴えて62年―加藤新一事件の再審で無罪判決            前坂 俊 …

no image
日本メルトダウン(935)『孫子の兵法』『中國100年マラソン』の中国対『軍師、戦略のない、素人女性防衛大臣を抜擢する安倍・平和日本』の対立・情報戦エスカレートの行方は!?五輪開会式の日に「尖閣へ大挙中国船」「よりにもよって今日かよ!」『中国はこのタイミングだから狙ったのがわからないのか』

 日本メルトダウン(935)  『孫子の兵法』『中國100年マラソン』の中国対 …

no image
日本リーダーパワー史(853)ー『来年(2018年)には米朝開戦か、北朝鮮を核保有国と認めて 「核シェアリング」で核抑止するかーギリギリの選択を迫られる 』(上)

  『来年(2018年)には米朝開戦か、北朝鮮を核保有国と認めて 「核シェアリン …

no image
速報(207)『日本のメルトダウン』『レヴィ・ストロースで読解くー日本にリーダーがいない理由』『ユーロ危機、三十年戦争の教訓』

速報(207)『日本のメルトダウン』 ●『レヴィ・ストロースで読み解くー日本にリ …

no image
日本リーダーパワー史(874)『日中韓、北朝鮮の関係はなぜ、かくも長くギグシャクともめ続けるのか➀』★『130年前の朝鮮をめぐる日中の対立・戦争が今回の件も含めてすべての根源にある』★『憲政の神様・尾崎行雄の名解説「本邦の朝鮮に対して施すべき 政策を諭ず」を読む』★『日本公使館を焼き打ちした壬午軍乱の賠償金40万円(現在の金に換算して約5兆8千億円)を朝鮮発展のために還付した日本政府の大英断』

日本リーダーパワー史(874) 平昌オリンピックを前に日本と韓国、北朝鮮、中国の …

no image
『日本の最先端技術「見える化」チャンネル』★「インターネットのようにドローンが世界を変える」ーー「国際ドローン展』(動画4本)と『ドローン最新情報8本」

『日本の最先端技術「見える化」チャンネル』 ★「インターネットのようにドローンが …

no image
日本リーダーパワー史(404)『安倍国難突破内閣は最強のリーダーシップを発揮せよ②『今後4ヵ月の短期国家戦略提言』

 日本リーダーパワー史(404) 『安倍国難突破内閣は最強のリーダーシ …

no image
日本メルトダウンの脱出法(550)『日中関係最悪ケース、全面戦争か局地戦争か」●『ユーチューブ最大のスター、ゲームで年収4億円」

 日本メルトダウンの脱出法(550)   ★★<チャイナリス …

no image
  『F国際ビジネスマンのワールド・メディア・ウオッチ(200)』-『マティス国防長官来日、いざとなれば、今まで通り米軍が助けるから、心配しないでくれ、トランプが何を言っても安全保障問題は俺が実行、解決するから」裂帛の気合いです。

   『F国際ビジネスマンのワールド・メディア・ウオッチ(200)』 &nbsp …