前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

知的巨人たちの百歳学(110)ー『屋敷も土地も全財産をはたいて明治の大学者/物集高見、高量父子が出版した大百科事典『群書索引』『広文庫』の奇跡の「106歳物語」②『 物集高量に匹敵する言語学者といえば、諸橋轍次(99歳)だが、この大学者も奇行、変人的なエピソードが多いが、それは誤解である』

      2018/12/04

屋敷も土地も全財産をはたいて明治の大学者/物集高見、高量父子が出版した大百科事典『群書索引』『広文庫』の奇跡の「106歳物語」②

物集翁の回想ー『百歳は折り返し地点」

わたしゃ、長い人生で死ってことを意識しなかった日は、一日だってありませんよ。ただ、意識のしかたが、人とは違っていたんでしょうねえ。

あたしゃ、若いときから、自慢じゃないけど、どこへ行っても一番チビで貧弱だったの。だから、しじゆう殴られてばかりいたんです。

でね、とにかく体が人並みじゃなかったから、「君は早死するぞ」とか「人生五十年というけど、キミはは四十まで生きればいい方だ」なんてことばかし、ハタからいわれた。

人間てのは不思議なもんで、一人二人からいわれても、何をいってるんだいって気になるけどね、何人にもいわれると、そうかなと思っちまうんですねえ。いってみりや、催眠術にかかったみたいになっちゃう。これがこわいんです。

当り前の人間なら、それだけでまいっちまうでしょうねえ。あたしも、二十歳のころは四十まで生きりゃいいって、本気で思ってましたよ。ただね、あたしの場合は、根っからの楽天家なんですねえ。クヨクヨするより、どうやってその間を楽しんでやろうかって考えたんです。で、好きな小説なんかを書いて、あとは女とバクチのし放題。

けどね、四十になっても死なない。で、こりゃちっとは真面目に生きなけりや、と思い直して、親父がやっていた『広文庫』を手伝うようになったんです。

で、五十になったとき、親父が死んだの。そのとき、あたしゃ思ったんですよ。よし、ここから後は余生だ。いつ死んでもお釣りがくるから、やりたいことを徹底的にやってやれってね。

だから、あたしの頭の中には、老後なんてこれっぽっちもなかったんです。それからは、また女とバクチにのめり込んだわけですよ。

ところが、六十になっても七十になっても、死なない。どうなっているのかと思い、われながらピッタリしたけど、やっぱりあわてましたねえ。なにしろ、生き延びようって気がないから、持ってる金は捨てるように使ってきたんですもの。で、だんだん行くところまで行くしかないって心境になってきたの。これが、八十くらいのとき。

そのうち、生活保護を受けるようになって、

文字どおり細々といった感じの生活が始まったんです。

そうなると、なにも面白くない。で、九十になったころ、毎日のように、今年死ぬか、来年死ぬか、それぼかし考えてましたよ。

すると本当に元気がなくなっちまうんですねえ。で、あるとき、ここがポイントだなって気づいたの。っまり、人間て奴ア、絶えず何かに挑戦してなきゃダメなんですねえ。ひらたくいやァ、欲をかくってことです。そいで、あたしゃ目標を二百歳において、目いっぱい欲張ってみたんです。だから、今【100歳】が折り返し点 -とか・・。

 

 物集高量に匹敵する言語学者といえば、諸橋轍次(99歳)だが、この大学者も奇人、変人的なエピソードが多いが、

筆者も70歳すぎてわかったことだが、年を取ると次のような「物忘れ」「記憶喪失」「認知低下」の行動、言語はだれでもよく出てくる老化現象の1つであることがわかってきた。若い人はこの大先生はその不規則言動、行動を奇行、変人と誤解(パーセプションギャップ)するのである。

十五年間の歳月をかけ「大漢和辞典」を完成させた言語学者の諸橋轍次(1883-1982)

https://www.google.co.jp/search?q=%E8%AB%B8%E6%A9%8B%E8%BD%8D%E6%AC%A1&rlz=1C1SQJL_jaJP810JP810&oq=%E8%AB%B8%E6%A9%8B%E8%BD%8D%E6%AC%A1&aqs=chrome..69i57j0l5.1616j0j7&sourceid=chrome&ie=UTF-8

は昭和の塙保己一であった。

「大漢和辞典は字数五十二万余語を収め漢字辞典としては中国の「康無字典」、「侃文韻府」を上回り、国語、英語で字数を上回るのはわずかに米国の「新ウェブスター」(五十五万語)のみであった。同辞典の活字は昭和二十年二月の東京大空襲で灰じんに帰したが、諸橋はわずかに残っていた薄くて、目に見えないような校正版を元に苦労しながら書き上げた。

諸橋の目は校正を始めたころから漸次悪化し、ついに盲目となった。それでも執念で弟子に漢字のつくり、へんを読ませて校正を続けて完成にこぎつけた。この世界的な大学者は日常生活はまるでダメで、ガスや電気の栓一つつけられなかった。記憶力抜群と思いきや、全く逆で〝物忘れの天才〟だった。

諸橋は研究の合間に散歩をするのが趣味だったがある時、散歩に行く途中でたまたま顔見知りの人に会った。ニコニコしてあいさつするので、こちらも答えた。その人は一緒に歩きながら、さかんに時候のあいさつや世間話をする。諸橋は何者か思い出せない。相づちを打ちながら、とうとう家の前まで来て、言わないでもいいのに「ここで失礼しますが、お宅はどちらでしたか」とたずねると、「私はお隣りですよ」とその人はゲラゲラ笑い出した。

下駄、帽子、ネクタイ、羽織まで間違えて、人のものを持ち帰ることはしばしば。先輩教授宅に届けものを持参して、降りの家に誤って持っていったり、嘉納治五郎を訪れた時、用件をすませて表に出るとどうも頭が寒い。帽子を忘れた。とって返すと、先生はまだ玄関におり「どうした」「イヤ、帽子を忘れまして」と言うと、先生は笑いながら「君、手に持っているじゃないか」

つづく

 - 人物研究, 健康長寿, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

『Z世代のための日中外交史講座』★『日中異文化摩擦―中国皇帝の謁見に「三跪九叩頭の礼」を求めて各国と対立』★『日中外交を最初に切り開いた副島種臣外務卿(外相)の外交インテリジェンス①』『米「ニューヨーク・タイムズ」は「日中の異文化対応」を比較し、中国の排他性に対して維新後の日本の革新性を高く評価』

2019/03/17/記事再録/日本リーダーパワー史(423)ー『現在進行中の米 …

「オンライン・日本史決定的瞬間講座⑨」★「日本史最大の国難・太平洋戦争敗戦からGHQ「日本占領」と「単独講和」を乗り越えて戦後日本の基礎を築いた吉田茂首相の<国難逆転突破力>④』★『76歳でこんどこそ悠々自適の生活へ』★『1963年(昭和38)10月、85歳となった吉田は政界から完全に引退したのです』★『最後までユーモア精神を忘れず』★『享年八十九歳。戦後初の国葬で送られた』』

  こんどこそ悠々自適の生活へ 1954年(昭和29)12月、「造船疑 …

『日本の運命を分けた<三国干渉>にどう対応したか、戦略的外交(外交の要諦 )の研究』㉒』『★『歴史の復習問題ー日清戦争『三国干渉』後に、 ロシアは『露清密約』(李鴻章の巨額ワイロ事件)を結び遼東半島を入手、シベリア鉄道を 建設して居座り、日露戦争の原因となった』

2016/09/19 /中北朝鮮150年戦争史(35)再録 世界一の買 …

no image
日本リーダーパワー史(947)ー『日中関係150年史』★『日中関係は友好・対立・戦争・平和・友好・対立の2度目のサイクルにある』★『日中平和友好条約締結40周年を迎えて、近くて遠い隣人と交友を振り返る」★『辛亥革命百年の連載(31回)を再録』③(16回から31回まで)

★★(再録)日中関係がギグシャクしている今だからこそ、もう1度 振り返りたいー『 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(45)記事再録/<まとめ再録>『アメリカを最もよく知った男・山本五十六連合艦隊司令長官が真珠湾攻撃を指揮した<悲劇の昭和史>

  2015/11/13 /日本リーダーパワー史(600) …

no image
重要記事再録/2012/09/05/日本リーダーパワー史(311)この国家非常時に最強のトップリーダー、山本五十六の不決断と勇気のなさ、失敗から学ぶ①

日本リーダーパワー史(311)この国家非常時に最強のトップリーダー、山本五十六の …

no image
大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を読み解く⑤ 死刑・冤罪・誤判事件ー30年変わらぬ刑事裁判の体質③

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を読み解く⑤   裁判官・検事・弁護士・ …

no image
『百歳学入門(203)』-記事再録『 文化勲章のもらい方ー文化勲章は大嫌いの「超俗の画家」熊谷守一(97歳)と〝お金がもらえますからね″といって笑った永井荷風〈当時72歳〉の『人間の品性について』

記事再録/百歳学入門(155) 「超俗の画家」の熊谷守一(97歳)と永井荷風〈当 …

no image
日本メルトダウン脱出法(865)『ついにネオコンまで、共和党からヒラリー支持続々』●『独走トランプを一喝し、震え上がらせた元CIA長官』●『ドナルド・トランプの好戦性が意味すること(英FT紙)』●『中国の恐怖政治の復活』●『すでに地対艦ミサイルも配備されていた南シナ海』

日本メルトダウン脱出法(865)   ついにネオコンまで、共和党からヒ …

no image
日本リーダーパワー史(30)インドに立つ碑・佐々井秀嶺師と山際素男先生 <増田政巳(編集者)>

日本リーダーパワー史(30)   インドに立つ碑・佐々井秀嶺師と山際素 …