渡辺幸重の原発レポート⑤『日本は本気で脱原発社会をめざせるか』
渡辺幸重(ジャーナリスト)
書店の店頭には「脱原発」をテーマにした雑誌や書籍があふれ、経済評論家さえも「原発はコスト的に合わず、新たな建設はできない」と言うようになった。再生可能エネルギーへの転換が規定方針のような論調だが、国会論議を見ていると、菅首相も谷垣自民党総裁も「安全を確保した上で原発を運転する」という方針であり、原発をエネルギー政策の柱の一つとすることは変えていない。このギャップをどう捉えたらいいのだろうか。
原発はゼロ・エミッション電源ではない
まず、原発政策について私たちは何を決めなければならないだろうか。
国のエネルギー基本計画(2010年)では、原発を2020年までに9基、2030年までに少なくとも14基以上新増設し、原発を含むゼロ・エミッション電源の比率を現在の約34%から、2020年までに約50%以上に、2030年には約70%にまで引き上げて、温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減するという国際公約を果たすとなっている。このゼロ・エミッション電源には「再生可能エネルギー由来」の電源が含まれている。管首相はエネルギー基本計画の見直しを表明しているが、私たちはこのゼロ・エミッション電源の中から原発を抜き、再生可能エネルギーだけにすることが必要だろう。原発は“環境問題の救世主”ではなく、“環境汚染源”なのだから。
次に、脱原発政策への転換方法として、いかに原発をなくしていくか、という問題がある。人によって次のように意見が分かれるだろう。
A.現在稼働中の原発、建設中の原発を設計寿命まで運転し、将来的には全廃する
(ここでの設計寿命は、原発に高経年化対策が必要だとされる30年か?)
B.建設中および計画中の原発の建設を中止し、現在稼働中の原発を設計寿命で廃炉にする
C.稼働中の原発のうち、ある基準以上の安全性が保たれる原発のみを設計寿命まで運転し、他はすべてただちに廃炉にする
D.すべての原発を定められた範囲のなるべく早い時期に廃炉にする
E.すべての原発をただちに廃炉にする
なお、国内の原発立地のほかに、外国への原発輸出およびメンテナンスという問題があるが、国内で原発政策を放棄する以上、輸出はしない、という立場を打ち出すべきだ。
これらの議論をする際の判断材料として、電力需要とコストの問題が出されるだろう。電力需要に関しては夏のピーク時の大停電が心配され、節電ブームを巻き起こしているが、「実は電力は足りている」あるいは「停電にならないようにすることができる」という意見も根強い。
現状で足りているのか、相当な努力をしなければならないのか、本当のところが知りたいところだ。個人的には大停電キャンペーンは原発政策を放棄したくない勢力が巻き返す根拠として打ち出しているような気がしている。
コストの問題は経済の専門家の多くが、すでに原子力発電のコストは合わないレベルだと言っている。ただ、いますべての原発を止めても、使用済み核燃料を管理しなければならないので、原発内で管理する限り、稼働を続けるのと同じような安全策(高い防潮堤を建設するなど)が必要であり、同じ金が必要なら少しでも発電させた方がいい、と考える人がいるかもしれない。
しかし、冷温停止に向かっている状態と臨界状態(稼働中)では危険性は大きく異なる。今回の福島第一原発事故のような事態が起きてしまったら、電力会社は対応できない。
私は、すべての原発をなくす、と宣言することが国際的な信頼を得、国民の安全を保証することになると思う。そして、なるべく早い時期にすべての原発を廃炉にする具体的な計画を作ることだ。電力需要もコストもその上で考えればよい。
エネルギー政策は環境理念で
日本人は変えてはならない原理原則を持たないか、換骨奪胎してしまう傾向があるように思う。この大災難の時代には原理原則や理念をきちんと示すことが必要だ。
私はエネルギー政策の理念として、環境理念を導入すべきだと考えている。たとえば、次のような内容である。
1.規模は小さく
(たとえば環境破壊になるので、巨大な風力発電施設を海上や森林に作るべきではない。家庭や工場でやれば全体としては相当な電力量になる。失敗した場合でも元に戻せる規模と内容で開発)
2.多様に
(太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、地熱、小規模水力などを組み合わせる。 被災地のがれきを利用して温暖化ガスが少ない火力発電ができるとも聞いた)
3.より多くの人の参加で
(電力の自由化で電力を売ったり買ったりの判断ができるように。また、地域でスマートグリッドを導入できるように)
4.製造から廃棄までの環境リスクを考慮
(システムのライフサイクルから考えたら原発はとんでもないエネルギーを消費し、汚染物質を出す)
世論に反する政府方針
6月5日の朝日新聞によると、政府の国家戦略室は原発推進姿勢を堅持した「革新的エネルギー・環境戦略」の素案をまとめ、今後、戦略の基本方針を国の原子力政策大綱やエネルギー基本計画にも反映させていく方針であることがわかった。
・アサヒドットコムhttp://www.asahi.com/special/10005/TKY201106040549.html
自説だけを主張し、排他的攻撃的になるのではなく、同じ目標に向かって信頼関係を持って議論し、それぞれができることを積み重ねていく社会にしたいものだ。
関連記事
-
-
●「H3ロケットの大失敗」(23年3月7日)ー『宇宙開発は一国の科学技術のバロメータ。H3初号機の度重なる失敗は、日本の科学技術力、イノベーション力、ものづくり力の「低落」を象徴するもので「日本経済復活」は危機的な状況にある。追い込まれているー
「H3ロケットの大失敗」-日本沈没加速 …
-
-
『Z世代への日本リーダーパワー史』『 決定的瞬間における決断突破力の研究 ②』★『 帝国ホテル・犬丸徹三は関東大震災でどう対応したか②』★『関東大震災でびくともしなかった帝国ホテルの建築』★『焼失した各国大使館、各メディアは帝国ホテルに避難して世界に大震災の情報を送り続けた』★『フランク・ロイド・ライトは世界的な名声を得た』
犬丸は語る。 「最初の晩は、火事が心配であった。次の夜は、暴徒の侵入が恐ろしかっ …
-
-
オンライン/新型コロナパンデミックの研究』-『米大統領選挙とサイバー戦争』★『強いものが生き残るのではなく、状況に適応したものが生き残る。『適者生存の原則』(ダーウイーンの法則)を見るまでもなく、米国のオープンソース・オープンシステムには復元力、状況適応力、自由多様性の組み込みソフトが内蔵されているが、3千年の歴史を自尊する中国の旧弊な秘密主義システム(中華思想)にはそれがない』(6月15日)
米大統領選挙と「サイバー戦争」 前坂 俊之(ジャーナリスト) …
-
-
『Z世代のための百歳学入門』★『「財界巨人たちの長寿・晩晴学』★『〝晩成〟はやすく〝晩晴″は難し』★『伊庭貞剛、渋沢栄一、岩崎久弥、大倉喜八郎、馬越恭平、松永安左衛門―』
2012/12/29 百歳学入門(62)記事再録 ★『 …
-
-
日本敗戦史(50)マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る 『なぜ日本は敗れたのか』②リーダー不足と力量不足
日本敗戦史(50) マスコミ人のA級戦犯指定の徳富蘇峰が語る 『な …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(210)記事再録/『晩年の達人の渋沢栄一(91歳)③』★『別に特種の健康法はないが、いかなる不幸に会おうともそれが人生なのだと達観し、決して物事に屈托せざるが(くよくよしない)私の健康法です』★『いつまでも「若々しい」人はドコが違うのか 中曽根元首相に茂木健一郎氏が聞いた秘訣』
2017/08/08 &nbs …
-
-
速報(153)『日本のメルトダウン』★<小出裕章情報>『 今、国と東電は、汚染の全体像を示さないという作戦に打って出ている』ほか
速報(153)『日本のメルトダウン』 ★<小出裕章情報> 『 今、国と東電は、汚 …
-
-
★『オンライン天才養成講座/エジソンの発明術を学ぶ』② 』★『発明発見・仕事成功10ヵ条」★『 生涯の発明特許数1000以上。死の前日まで勉強、研究、努力 を続けた』★『人生は短い。やりたいと時に徹底してやる。休むことは錆びることだ』
2014/07/16 百歳学入門 …
-
-
★<新刊予告>前坂俊之著『世界史を変えた「明治の奇跡」』(インテリジェンスの父・川上操六のスパイ大作戦~)海竜社(2200円(+税)、8月上旬刊行)★『 明治維新150年特別企画 張り巡らされるスパイ網、発揮された智謀。日清・日露戦争大勝利の背景には、川上操六の指導力があった!』
新刊予告『世界史を変えた「明治の奇跡」』 ~インテリジェンスの父・川上操六の …
-
-
『津波、地震(想定外の戦争)で原発が破壊されたらどうなる(下)』 4年前の元原発技術者の警告
『津波、地震(想定外の戦争)で原発が破壊されたらどうなる(下)』 4年前の元原発 …
