梶原英之の政治一刀両断レポート(1)「政治の売り切れ」救うのは総選挙――『敗戦』に政治ゴタゴタはつき物
梶原英之の政治一刀両断レポート(1)
「政治の売り切れ」救うのは総選挙―『敗戦』に政治ゴタゴタはつき物
梶原英之(ジャーナリスト)
日本は『敗戦』した。地震、津波、原発事故が『敗戦』そのままの事態を生んでいるのだ。そのことから国会議員とマスコミが眼を背けているから、この十日間のみっともない内閣不信任案騒動が起きたのである。
『敗戦』は戦争でなくとも起きる。ことば使いが理解を妨げるのは良くないから分かりやすく言うが、日本は宇宙人(自然)からの攻撃に弱点を突かれたのだ。と考えれば良い。通常の国家リスクと『敗戦』では規模と生活再建に要するスピードが違うのである。
そして、何事も元に戻ることはない。
法治国家、官僚国家面(づら)をしていればいるだけ、法律と憲法の破壊で、国家の危機に陥るのである。
NHKのニュースでは、被災地で講演している瀬戸内寂聴氏に小学生の女の子が「戦争を見たことがあるのですか」と聞いた。瀬戸内氏は「なぜ聞くのか」と問い返したところ、被災地はテレビでみた戦争に似ているからと答えたので、瀬戸内氏は「あなた偉いのね」と語った。
素直な眼には地震津波災害が爆撃と同じ恐怖と捉えられているのだ。
●『敗戦』は国家分裂の危機である
『敗戦』の時は国家が分裂する危機が来る。いま放射能からの避難に官房長官からの法律的説明はない。危険だからなのか、あとで国家賠償法で政府が訴訟されないためなのか。校庭で遊べる基準は20ミリシーベルトだったが、親が文部省に押しかけただけで変わってしまった。超法規的措置である。国家は何も用意していないのだ。
「実定法秩序論」といって守れない法(規制)があると、法体系は全て国民に信じられず、壊れるという法学の公理にちかい議論がある。放射能の危険を感じ、一時でさえ避難した人は、「法律難民」である。東大法学部の教授とか、法制局官僚は何を考えているのか。
立法府も行政府も責任ある決定ができない。瓦礫、区画整理、漁業権、義援金配分ーーー被災地の地方行政でも国家意思は示されていない。
今に市町村が決めてと意思決定が放棄されるだろう。それは国家の分裂なのだ。それが『敗戦』である。
責任について国家の意思を示したら縦割り行政のどこかが責任を取らねばならぬ。太平洋戦争では陸海軍が消滅した。内務省は分割された。
●原発の責任を問わない「失敗学」名誉教授
しかし六十年前の反省が足りず、今秋の大地震、原発事故に対しては「想定外」とすることにした。当面それを引き継いだ政府が、大地震、原発問題の処理に当っているのだから、責任など問いたくない。だから様子見を決め込みたいのだ。
原発事故調の委員長・畑村洋太郎東大名誉教授が第一回会合で「責任を問わない」と語り、国民が呆れた。責任者たちはいい給料とって来たエリートだ。今日も相馬市の酪農家が「原発さえなければ」の書置きを残し自殺しているのに責任は問われないのだ。国民の怒りはどこへ行く。
小失敗の研究者で「失敗学」の創始者の事故調委員長選任は、今の政治にはとっては良いキャスティングだが、歴史的に早くも大失敗だ。エリートの小失敗と『敗戦』は違うのだ。
●国力のない時に起きる大災害
『敗戦』とは国力をギリギリまで追い詰める。国力のないときに大災害が起きるのだ。民主党政権が悪いとは言える。阪神淡路大震災の時の村山社会・自民連立政権は機能したともいえる。しかし当時は国力が残っていた。多額の国債を抱えていなかったからだ。まだ自民党にも緊縮財政の発想があった国力が残っていた。
しかしリーマンショックのあとは、不景気の長屋でなりふり構わず借金しての花見酒が続いた。政権を維持したかったからである。2010、11年度と大盤振る舞い予算を作った民主党も同罪である。
財政難で国家のリーダーシップが喪失したのだが、自民も民主もそんな危機を想定せずに国債を発行しまくった。坂本竜馬とか日本をせんたくとか、黒船から明治維新まで日本の危機の巨大さと混乱を軽く見た明治維新無血革命史観の上に立っているから『敗戦』が見えないのだ。
●四回目の『敗戦』
日本に『敗戦』といえるシステムのトータルダウンは、三回あった。ペリーが来たとき(明治維新)、関東大震災、第二次大戦の敗北だ。それと今回の東日本大震災だと思う。
どれも立ち直るのに政治システムの大変革を行った。もちろん政権は倒れた。
●後藤新平の失敗の意味
今回の大震災が起きたときジャーナリズムはよく考えもせず「復旧ではなく復興だ」と言った後藤新平を持ち上げた。しかし、後藤新平は参考にならないと気付くだろう。後藤新平の残した者は昭和通り、錦糸町公園など三つの公園、それに同潤会アパートだけだ。
もちろん政友会など政党が反対したから予算が小さくなったのは事実である。
しかし、曲がりなりにも関東大震災を復興させたのは、後藤新平とは政治原理が違う政党勢力であったことにより注目すべきである。
関東大震災の復興祭りが行われたのは六年半後の昭和五年三月二十三日である。昭和恐慌も一段落し、少し景気も落ち着いて復興は格好がついた。後藤復興院総裁にした第二次山本権兵衛内閣と続く清浦内閣の二代の超然内閣は地震と国民の普通選挙要求で潰れた。
清浦政権の下の大正十三年一月末に衆議院の解散が行われた。有名な護憲三派による加藤高明内閣が出来た。震災予算を本気で組んだのは加藤内閣である。
しかも東京・横浜の生活、経済都市としての復活は、政党らしい民間のエネルギーの活用(民活)で成功したのである。最大の貢献は私鉄だった。
私鉄こそ政党のものだった。東急を作ったのは加藤に私淑した五島慶太。小田急は多摩地区の政友会系の人々の土地の上を通った。浅草~新橋までの地下鉄の地下鉄は私鉄として出来たが、貢献したのは政友会系財界人の根津嘉一郎だった。西武を作った堤康二郎は加藤高明の憲政会の政治家だった。
関東大震災の復興を成功させたのは総選挙だった。政治史では第二次大正政変と言うが、震災復興は大きなテーマで後藤新平のアイデアは生きたが、後藤は「責任」を取らざるをえない側の中心人物だった。だから後藤は失敗したといわざるをえないのだ。
●『敗戦』に近い国家危機を救うのは総選挙で民意を汲み取った政治でしかない。
六月初めから演じられている菅内閣不信任案騒動を批判せざるを得ないのは、民主、自民ともに国会議員が総選挙を避けるために仕組んだ芝居と分かっているからだ。最大の要因は小沢元代表の勢力回復運動なのは国民はよく2知っていた。だから問題にしなかった。不信任案が通れば小沢批判にもどって新政権は出来ないか、出来たとしてもすぐに倒れただろう。
それにしても新聞見出しの6月1日夕刊「不信任案、今日にも提出」、6月2日朝刊「不信任案採決へ 小沢元代表、鳩山氏賛成へ」、6月2日夕刊「菅首相退陣の意向 不信任案否決へ」の三連発はひどかった。
●原発が本当のテーマなのだ
明治維新の直前、イジャナイカ踊りが江戸市中を撹乱した。その時の張り紙には「御政治(まつりごと)売り切れもうしそうろう」とあった、そうである。昔の人はいい事をいう。国民にとって政治の売り切れほど酷いものはない。6月の政治状況はまさに、与野党とも政治をしたくなかった。なまじ政治をして解散されてはおマンマの食い上げだからである。
なぜ、総選挙をしたくないのか。フクシマ原発の事故と放射能で、電力業界も財界もどうしてよいか分からなくなったからである。総選挙になれば原発の可否がテーマになるのは確実だ。結果ドイツ、イタリアのようになる。しかし日本はドイツ、イタリアにない条件がある。まず原発政策の責任を誰かが取らなくてはならない。今後十五年くらいの経過期間の電力、原発政策を決めて選挙に臨まないと、原発はサドンデスになる。
筆者は経済ジャーナリストだから言うのだが、いま経営者も官僚も原発国家に戻るなどと考えている人はいない。難民化が起きるようなリスクは資本主義国家ではありえない。経済はリスクをどう分散するかしか考えない。ある自動車部品会社で社長が「親会社はかならず海外展開を強めるから、日本にいられるとは考えるな」とハッパをかけたそうだ。原発不安は工場の安定運転にマイナスになった。原発が新しい空洞化を起しそうなのだ。
●電力の御意向が決まってから選挙?
そうなると政党は東京電力、電力業界という選挙では恐ろしい力のある組織と政党はどんな関係を作るのか、時間がほしい。電力業界は電信柱の管理をしながら選挙区の情勢を握っている。土建屋以上の選挙マシーンなのだ。
『敗戦』情況を乗り切るには総選挙しかない。被災地は選挙どころではないという現在の議員の理屈は、秋には通らなくなるだろう。東電救済のための16%値上げに怒って国民は選挙を求めるからだ。責任を問わずに16%値上げを決めてくれた菅政権はしばらく続くだろう。『政治の売れ残り』は電力値上げだった。世界も驚くだろう。
地震・津波・放射能のあとに、選挙民の声を聞いて選出された議員でなければ復興などできるはずはない。被災地の議員定数を向こう十五年間二倍にする選挙法改正をしてでも総選挙のチャンスを窺がうのが政党政治が国家を救う道である。
(経済ジャーナリスト 梶原英之)
動画『原発と政治』をズバリ斬る①ー3人ジャーナリスト対談(6月2日)
http://www.youtube.com/watch?v=NrTt8sdNBf0
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