日本リーダーパワー史(338)◎「此の一戦」の海軍大佐・水野広徳の『日本海海戦』の勝因論①」
日本リーダーパワー史(338)
● 政治家、企業家、リーダー必読の歴史的
リーダーシップの研究『当事者が語る日露戦争編』
◎「此の一戦」の海軍大佐・水野広徳の
『日本海海戦』の勝因論①」
前坂 俊之(ジャーナリスト)
<以下は水野広徳「戦争漫談」改造(1937年9月号より)>
日本海海戦の勝因はどこにあったのか
孟子は戦を説いて、天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かずと言い、孫子も天時、地利、人和を以て戦勝の三要素として居る。然るに戦争が機械化した現代においては戦争の要素も複雑化して、艦船兵器等の物質力と将卒、知勇の精神力と天候、地理等の自然力の三つとなった。勝敗の数はこれら三要素の緩和の大小、多寡によって決するのである。
物質力が強大で、精神力が優秀で、自然力が適良であれば全勝を博することが出来、これに反する時は全敗を喫するのである。たとえ物質力が強く、精神力が優って居ても、自然力に恵まれなければ勝利を完うすることは出来ない。
日本海海戦におけるわが艦隊の如きは完全にこの三要素を兼ね有したることに依って、あの大勝を博し得たのである。
日本海海戦における日露両軍の物質的勢力を比較すると、外形の排水量においては我の七に対して彼の五であったが、備砲、艦齢、汚損等を考慮した実勢力においては、我の五に対して彼の四であった。
又精神力においては将卒の賢愚、怯勇は比較出来ぬとするも、我は数ヶ月にわたる休養と訓練とに専念せる間に、彼は熱帯下二万カイリの長航海に休養も出来ず、訓練も出来ず、心身共に殆ど疲労困憊の極に達していた。これにくわえて、我は旅順方面における幾多歴戦の精兵であるのに対し、彼の多くは訓練不足の生兵か、予備召集の老兵であったのである。
更に自然力においても、我は熟地に居て地形、風潮の案内に通じ、かつ損傷船の避難港を有せるも、彼は全然未知の敵地に入って戦ったのである。
また当日は天気晴朗にして敵を迎えるには適良の天候であって、まことに翌二十八日は残敵の追撃と捜索とにはおあつらえ向の一層の快晴であった。
もし此の両日が雨天か、又は濃霧の日であったなら、或は敵を逸したかも知れない。殊に時は既に濃霧の季節に入っていたのである。危ないかな。
日本海海戦はこれほどの好条件に恵まれたのであるから、勝算は歴然たるものがあったのである。ただ余りにも勝ち過ぎたところに問題もあれば称讃もあるのである。
そしてかかる大勝、全勝を博したことの主なる要因は、我軍が巧みに決戦の好機をとらえたことで、それは一に戦闘開始の男頭において、極めて冒険なる敵前回頭を敢行した東郷長官の勇断に帰せねばならぬ。
この敵前回頭こそはトラファルガーの海戦においてネルソンが二列斜縦陣の隊形を以て敵艦隊の中央突破を敢行したのと同工異曲の冒険であった。
欧州の軍事評論家の中にはネルソンのこの作戦を以て、戦術の何たるを知らざる無謀であると非難する者すらもある。それとは反対に近頃わが国においては東郷長官の敵前回頭を以て尋常普通の凡策であるとなし、決して大担でも冒険でもないという海軍士官もある。
時代により、人により善悪の観念さえ違うのだから、戦術上の見解が時と人とによりて異なるぐらいは不思議ではない。
東郷長官の敵前回頭が冒険であるか否かの討論は海軍大学の学生に委すとし、東郷長官も、加藤参謀長も秋山作戦参謀も、それが至大の冒険戦術であったことを承認しておるのであるから、これ等の人々はにわかに冒険と信じて行ったのである。だからこれを敢行したことは勇断であったと言はねばならぬ。
大なる成功は常に大なる冒険によって得られるとは云え、冒険は何処までも一六勝負の奇道であって、確実なる正道とはいえない。敵前回頭中、三笠に敵弾が命中しなかつたことは、敵の射撃の巧拙という問題ではなく、偶然の問題である。
その幸に中らなかったのは東郷長官の強運であり、日本帝国の好運であったのである。これを天佑といい、神助と言うのであらう。
海戦の勝敗は往々、一発の弾丸によって決することもあれば、一瞬の決断によって決することもある。そこに海戦の投機性がある。
つづく
関連記事
-
-
速報(464)『日本のメルトダウン』ビデオ座談会●『米英仏のシリア攻撃で9/8日、東京五輪開催決定はどう影響するか?』
速報(464)『日本のメルトダ …
-
-
『ニューヨーク・タイムズ』「英タイムズ」などは『ペリー米艦隊来航から日本開国をどう報道したか」★『『日本と米合衆国ー通商交渉は武力を 誇示することなく平和的に達成すべし(NYT)』
1852 年(嘉永4)2月24日付 『ニューヨーク・タイムズ』 『日本と米 …
-
-
百歳学入門(70)日本の食卓に長寿食トマトを広めた「カゴメ」・蟹江一太郎(96歳)の長寿健康・経営10訓①
百歳学入門(70) 日本の食卓に長寿食トマトを広めた「トマトの父」 ・カゴ …
-
-
『オンライン講座/ウクライナ戦争と日露戦争を比較する➂』★『『日本最強の外交官・金子堅太郎のインテリジェンス①>★『日露戦争開戦の『御前会議」の夜、伊藤博文は 腹心の金子堅太郎(農商相)を呼び、すぐ渡米し、 ルーズベルト大統領を味方につける工作を命じた。』★『ルーズベルト米大統領をいかに説得したかー 金子堅太郎の世界最強のインテジェンス(intelligence )』』
2021/09/01 『オンライン講座/日本興 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代史』(132)/記事再録★『昭和天皇による「敗戦の原因分析」①★『敗戦の結果とはいえ、わが憲法改正もできた今日において考え て見れば、国民にとって勝利の結果、極端なる軍国主義 となるよりもかえって幸福ではないだろうか。』
2015/07/01   …
-
-
日本メルトダウン脱出法(824)「外国人客が激増?超使える5つの「接客英語」ー本当に「気が利く」表現はこれだ!」●「ブルームバーグ氏が出馬したら、米大統領選はどうなる? 票が割れ、「トランプ大統領」を生んでしまう恐れ」(英FT紙)●「油価下落で最大の試練を迎えたプーチン大統領 同様にCIS資源大国も呻吟、日本にとってはチャンス到来」
日本メルトダウン脱出法(824) 外国人客が激 …
-
-
『オンライン講座/日本興亡史の研究 ⑩』★『児玉源太郎の電光石火の解決力➅』★『児玉は日露外交交渉は不成立の見通しを誤った』★『ロシア外交の常套手段である恫喝、武力行使と同時に、プロパガンダ、メディアコントロールの三枚舌外交に、みごとに騙されたれた』』
2017/05/31 日本リーダーパワー史(818)記事 …
-
-
『日本・世界最先端「見える化」チャンネル 第3回国際ドローン展(4/20)』ー『ロームの<ドローン産業の未来を支えるI0Tソリューション>』★『JUAVAC ドローン エキスパート アカデミーのドローン女子』(動画20分あり)
日本・世界最先端「見える化」チャンネル 第3回国際ドローン展(4/20)ー ●『 …
-
-
速報「日本のメルトダウン」(483)◎「すべてを台無しにする米国の不注意な政治家」「米国の政府閉鎖:こんな国家運営はあり得ない」
速報「日本のメルトダウン」(483) <米 …
-
-
速報(254)<3・11から1年―50年放射線阻止戦争の危機は続くのに・・>『冷温停止の表現は不適切と米専門家』(CNN)
速報(254)『日本のメルトダウン』 <3・11から1年―50年放 …
