『Z世代のための百歳女性学入門」★「女性芸術家の長寿/晩晴学」★『日本舞踊家の武原はん(95歳)は日本の代表的美人』★『「心で舞う」「思い出の心で舞う」『百歳まで踊りたい。舞いとすじを極めたい。踊りに完成はありません。死ぬまで厳しい稽古です』

武原はんは(1903明治36-1998、平成10年)の95歳。日本舞踊家山村流地唄舞の家元、日本舞踊協会参与など。藤間勘七郎、西川鯉三郎、尾上菊之丞らに師事、自らの芸風を確立。芸術祭賞はじめ紫綬褒章に輝く。句集「小鼓」や随筆も。徳島県身。『日本舞踊の第一人者だった武原はん(1903―1998、95歳)日本美人の代表で、最後までその優雅な女舞は輝いていた。「上方地唄舞」を東京を中心に根付かせ、その凛とした舞は『一幅の錦絵』『動く浮世絵』とまで讃えられた。
『百歳まで踊りたい。舞いとすじを極めたい。踊りに完成はありません。
死ぬまで厳しい稽古です』
“心で舞う”という武原はんの舞は、上方の座敷舞であった地唄舞を自らの厳しい修行と稽古によって舞台芸術にまで高め、「動く錦絵」「動く浮世絵」ともいわれるほど優雅で気品に満ち、美しく艶やかな世界に作り上げたものである。
武原は、徳島市の花街の裏で生まれたが、十一歳のときに両親と共に大阪に引っ越した。すぐに大阪南の宗右衛門町の大和屋芸奴学校に通わされ、そこで山村流の上方舞を習った。
昭和五年(1930)二十七歳のときに上京して六世藤間勘十郎や西川鯉三郎に師事して本格的な舞踊の修行をした。彼女は上京して間もなく青山三郎と出会い、結婚したが青山との結婚生活は三年で終わった。
武原は31歳で再び独身になると、全身全霊で踊りに打ち込むと同時に、心の癒しを求めて写経や俳句をやり始めた。戦後、両親が亡くなってから生活のすべてを舞踊の修行と稽古に打ち込み、ついに1952年(昭和27)12月、念願の第一回のリサイタルを東京・新橋演舞場で行った。演目は大和楽「師宣」と長唄「巴」であった。師匠の藤間勘十郎や西川鯉三郎もお祝いに踊ってくれた。これがその後「武原はんの舞の会」に発展した。
晩年の武原は、まさに地唄舞ひとすじであった。「舞に終わりはない」と八十代、九十代になっても厳しい稽古を続けた。稽古は、早朝からの発声練習から始まる。稽古場で毎日「トウトウ タラリ タラリラ-」と大きな声を出して発声練習する。
これが健康にすこぶるいい。そして、次は舞踊家として姿勢の美しさを保つための練習。彼女の舞は姿勢の美しさが際立っているが、それは厳しい稽古から生まれた。稽古場の正面と側面には大きな鏡が張ってあり、鏡に自分の姿を映し、その姿を見ながら美しい体の線が出るまでとことん研究する。
発声と姿勢、ともに健康長寿を支える最も大切な要件である。
「鏡は自分の舞姿も心も映ります」と鏡を「大鏡神様」と呼び、毎朝、線香とろうそくを立てて拝みながら、
80,90歳の高齢になっても、毎朝から二時間、三時間も稽古し、「芸術に完成はありません。死ぬまで稽古です」と語っていた。
美容と健康への執念は最後まで衰えず、朝起きると固いタオルにうすいノリを張って皮がむけるほど強くこすりながら頚まで丹念にマッサージです。そのあと、順次指圧も自分でしていたという。』
以下は「著名人のわたしの健康法」(社会保険新報社、昭和56年)からの転載で、武原77歳の時のインタビューである。
「私は、若いころから健康だった。しかし、芸者、料亭経営、舞踊家と、夜遅くまで働かねばならない商売がら、健康には気を配っている。特に、太平洋戦争の直後は、私も四十歳を過ぎたので、人から聞きづてに、その当時流行した電流の通じたベッドを買い込んで寝たものだった。
それは血液の循環がよくなるというふれ込みだったから。その後、さらに血行をよくする目的で、風呂の中にかくはん装置を取りつけたりもしてみた。
そうかと思えば、深川のお不動さまの行場で水を浴びるといいと聞かされて、寒中に六十杯の水を浴びる荒行も経験した。あの時は荒行のあとに入浴しても、なかなか体が温まらず全く途方に暮れたものだった。
そのほかにも、木曽の御嶽さんでの滝行にも出かけたことがある。しかし、三十八年に肋膜を患ったところからやめさせられた。
無事に退院すると、私は手持ち無沙汰で仕方なかった。それからは二日の仕事が終わって入浴したあと、家の広間で真向法と竹踏みを始めた。これは大変に爽快で、現在も毎日欠かさず続けている。
こうして寝室に入り、日記をつける。そしてお経をあげてから床に入ると午前二時である。すべてを終えた後は、実にすがすがしい気持ちになれ、眠りにつくことができる。
私の生家は、四国の徳島で、代々真言宗である。父母が大変に信心深く、そのせいで私も信仰心は厚い。毎日、お経をあげるほか、写経もしている。写経は般若心経と南無妙法蓮華経をカルタぐらいの小さな紙に二十行ぐらい書く。
これを七年間続けている。そのほか色紙や紺紙にも書き表装して保存している。というわけで、私は信仰は好きだが、いわゆる盲信家ではない。世の中には、よく信仰にこり固まって、病気になってもお祈りに励めばお医者さんにかからないでも大丈夫という人がいるが、私はそんなことはしない。
信仰というものは、精神衛生上結構だと思う。精神衛生といえば、俳句はとてもいい。戦前、大阪にいたころ、私は朝日新聞の俳句欄に投稿、それが入選してから病みつきになった。東京へ来てからは、高浜虚子先生のもとに入門した。
そんなわけで、仕事がうまくいかなかったり、何かクサクサする時でも、お経をあげて季節に合った俳句を作ったりすると、気分がほぐれてくる。私は今年、喜寿77歳を迎えた。
数年前に「寿(ことはぎ)の八十路の春は何舞わん」
という句を作ったが、私の尊敬する平櫛田中先生が百七歳になられてもお元気で制作されていたのを拝見して「負けてはならない」と思った時の句である。これから先、百歳まで舞うのが私の望みである」

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