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『Z世代への日本外交史研究講座』★『強権的・タフマンのトランプ大統領の再登場が世界を震撼させている』★『日本のトップリーダーはトランプ氏とどう交渉するのか?』★『 勝海舟の外交突破力④オランダ、イギリスとの紛争をアッという間に解決した 勝海舟の外交突破力を見習え>』

   

2014/05/23/日本リーダーパワー史(502)『 勝海舟の外交突破力④』記事再録
以下は2014年5月23日に書いた原稿です。

いま米国の一国支配構造は崩れ、中国の躍進で国際秩序は大きく変化している。そんな中で、憲法改正、集団的自衛権の論議、TPP加入問題、尖閣問題などによる日中韓との対立の長期化懸念―など外交的懸案が山積しているが、<外交力のある政治家>がいないのである。明治維新の国難で幕府側の外務大臣(実質首相兼任)の、勝海舟の外交突破力を見習え。④

< 三国干渉くらい朝飯前だよ。幕府がオランダから購入した軍艦「開陽丸」のお雇い海軍士官をめぐるオランダ、イギリスとの紛争をアッっという間に解決したタフネゴシエータぶり>

前坂俊之(ジャーナリスト)

海舟先生氷川清話」(吉本襄 撰著 大文館書店 1933)にみる勝海舟「外交談」三国干渉くらい朝飯前だよ

「そこで、そういう小さい量見(りょうけん)であるから、やれ外交が面倒だとか、これほど困難な仕事はないとかいって、はしの上げ下げにまで泣面をするが、おれにはいっさいこの人達の気が知れない。

まあ聞きなさい、御一新前(明治維新)にはこういうことがあったよ。幕府から開陽丸という軍艦を、オランダに注文した時に、榎本武揚や赤松則良(大三郎)などを、海軍伝習生として、同国に派遣したよ。

ところがそれが出来上って、いよいよ日本へ回航して来る時分には、この伝習生らも、少しは海軍の様子が解って来たものだから、自分で開陽丸を乗り回して、日本へ帰って来たのだ。
さあ、この時のことだが、改陽丸には、幕府から雇い入れたオランダ海軍士官十三名が、日本の海軍御雇師(おやといし)として便乗して来たのだ。

ところが、これが外交上のひと悶着の種となった。そなぜかというと、これより先き、イギリスの海軍士官を、日本の御雇教師として、かねて頼んでおいたので、オランダ士官が、まだまだ到着しないずつと以前に、早や日本へ来ていたのだ。

●日本海軍建設にオランダ士官、イギリス士官もを2重に招いた幕府

そこへ二重にオランダからも雇い入れたというのだから、オランダの士官も、イギリスの士官も、双方がカンカンに怒ったのさ。まづ、オランダ海軍士官は、こう言って怒り出した。

「全体われわれは、オランダ国王からの勅命をもって、幕府に雇われて来たものだ。その雇われて来るのにも、無条件ではない。日本海軍を、われわれオランダ士官の一手で、教育してもらいたいという御申出によって来たのである。それを何ぞや、われわれを差し措いて、イギリスから教師を頼むなどとは、実に以ての外の事である」と怒る。

それからまたイギリスの方で見ると、「全体幕府は、われわれイギリス海軍士官に、日本の海軍を一手に教育してくれというので、はるばるこの極東までやって来たのだ。しかるに、今更、無断でオランダ士官を雇い入れ、しかそれに、海軍教育の全部を一任するなどという約束をするとは、われわれの顔へ泥を塗るものだ。こうなった以上は、われわれに対しての約束は、どうせられるお考へか」と理くつをいう。

さー大変なことが持ち上ったというので、、幕府の外国奉行達は、かの三国干渉当時の伊藤さん(博文)や、睦奥さん(宗光)と同じく、大狼狽(おおあわて)で、「やれ今日も相談で御座る」「やれまた明日相談で御座る」と、毎日毎日、相談ばかりに日が暮れた。どうして始末を付けてよいやら、とんとまとまりが付かなかつた。

そこで、奉行達から、おれのところへこの始末を付けてくれと頼みに来た。おれは、この時分には、もはや外国語も使っているし、外国人にも幾らか名前が知れているし、外国の事情にも相応には通じていたから、それで是非に御頼み申すと泣き付いて来たのだ。

●おれはすぐに、外国奉行などが額を集めての、相談最中の席へ罷り出た。

『皆様方において、この度の一件の善後策を、勝に御頼みなさるということならば、私はあらかじめ一応申上げておかなければならないことが御座ります。

それは、別儀ではない。もしこの事件に関するいっさいの全権を私に御任せにくだされば、私は万事御引き請け申して、幕府には少しも御迷惑を相かけないよう御取り計らいいたします。しかしながら左様でなくて、ただ一部分のみを御任せになって、談判の進行中に、

私を「掣肘」(せいちゅう=わききから干渉して、人の自由な行動を妨げること)

せられるやうなことならば、私は真平御免(まつびらごめん)を蒙ります』と、こう申し

出た。そうしたところが奉行達もこの際、困り切っている最中だったから、「全権を任せて勝さんに御頼み申します」と言ってきた。それではと、おれは直ちに開陽丸へ舟を漕ぎつけて、まづオランダの方から談判に着手した。オランダ公使にも無論、立ち会はせておいて、さて、おれは、

 『幕府はいろくの入り組んだ事情が御座いまして、せっかく皆様が万里の波涛を破って、はるばるここまで来て下さいましたけれども、到底、今のところでは、この折り重なっておる事情のために、皆様を御頼み申しておくわけには参りません。その代りに、皆様方の約束の報酬三年分は、只今一時に差上げますから、一まづ帰国して下さい』と言つた。

全体この場合では、とにかく理由がなく約束を破るのだから、なかなか、やかましいのは、初めから覚悟しておったのだが、しかし向うもおれの顔に免じて、思ったほどはやかましい理くつも言わずに、とうとうおれの申出の通り承知してくれて、オランダ士官は、一同折りかへして帰国することとなった。

そこで、おれは気転を利かして、一同を築地のホテルへ連れて来て、酒肴料として金を千両くれてやった。そうしたところが、大層おれに礼を言って帰っていったよ(大笑)。」

 

つづく

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究

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