前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『リーダーシップの日本近現代史』(69 )記事再録/『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』㉚『日中韓のパーセプションギャップの研究』★「日本の中国異端視を論ず」(申報、1887年6月3日付)」★『中国人の思考形式、中華思想と西欧列強(日本も含む)のパーセプション(認識)ギャップ(思い違い)がどんなに深いかがよくわかる。』

   

 

  2014/08/02/『中国紙『申報』からみた『日中韓150年戦争史』再録

 

以下の新聞記事を読むと、中国人の思考形式、中華思想と西欧列強(日本も含む)のパーセプション(認識)ギャップ(思い違い)がどんなに深いかがよくわかる。タイトルの「日本の中国異端視を論ず」は正しく「中国の日本異端視論」、「日本敵視論」でもある。

前坂俊之(ジャーナリスト)

1887(明治20)年63日 光緒13年丁亥412日「申報」

「日本の中国異端視を論ず」

 

私は以前論説でこう述べたことがある。中国が近ごろ西洋各国と通商を始め,中国にいる西洋人は日に盛況を呈しているが,中国の法律を若干改変し.西洋と相通じさせ,その行動を規制することが現在の最も緊要なことであると。これは中国の法律が西洋を従わせるに不十分だというのではない。

 

西洋に西洋の法律があるように中国にも中国の法律があり,代々受け継いで今に至り,おおよそ完備している。中でも刑法はことごとくその公平さを備えているので再び論ずることはない。ただ.西洋の法律はだいぶ中国と違う。西洋人が中国の役人の裁判を見て大いに驚くのなら,どうしてわれわれに従わせることができよう。そこで両者をやや通融させようと考えたのだ。およそ国際間の案件については.西洋の法律を用いているが,もし西洋人が中国と西洋の刑法に大きな相違がなく,章規も相似していることを知れば,彼らも従順に中国の刑法に服するだろう。

しかしながらこの説も不完全なものであり,言うは易く行うは難い。卑見を受け入れる者がいないとしても致し方ない。

ただし,日本の新たな条約を見ると.心動かされ黙って口をつぐむことはできない。日本は近ごろ.西洋諸国と条約を改定し,西洋各国の者が皆日本の内地に入ることができ,どんなところでも自由に出入りできるようにした。ただし.日本にいる西洋人は必ず日本の法律を守らなければならず.西洋人が事件を引き起こしたら日本の役人によって処理され,さらに大金をもって西洋の弁護士を招き.西洋人が彼を招いて法廷にのぼらせ弁護させるのを認めるという。

これは2年後に始め,15年間試行し.その後再び施行するかどうかを決定する。しかし中国のみは例外であるという。

そもそも日本は中国と同じアジアに属し.西洋よりも親しくするべきである。つまり,日本は中国に対しても西洋と同じようにすべきなのにこれはなぜだろうか。中国人が日本の法を守るのを潔しとせず.ともにこのことを論じようとしないとでもいうのだろうか。それとも中国人が日本へ赴くことを日本人が欲しないのだろうか。

 

これを推し量るに,日本が中国を異端視しているのであり,中国がこの条約に参加するのを願っていないわけではない。

なぜかといえば.日本は中国を恐れているがためにねたみ.ねたむがために仇としているからだ。思うに,日本がこのように中国をねたみ仇とし,常に,事件がもちあがったら巧みな悪だくみを用い.隙に乗じで侵入しようとし,中国に対してたくらを抱くのは,中国もまた日本に対してたくらみを持っていると疑っているからだ。故に中国人をその内陸に入らせないのだ。

 

さらに,日本人で中国にいる者は少なくない。もし中国をこの条約に参加させれば.日本にいる中国人は日本の法を守り.日本の役人の処置を聞くべきであるばかりでなく.中国にいる日本人もまた中国の法を守り,中国の役人の処分を聞くべきだ。これは当然の理だが.日本が甚だ願っていないことでもある。

 

このことから.この条約に中国を加えていないのは日本の意によることがわかる。法律を時に応じて変化させ.西洋人が喜んでわれわれに従うようにすることは中国のなすべきことだが,それを中国がなさずに日本が先になした。これは中国の失敗だ。西洋各国には日本の内陸を往来するのを許し,中国のみを例外としている。日本が中国を除外しているのはまさに日本が中国を疑っているからだ。

 

しかも.ただ疑っているのみならず,実は.恐れるがためにねたみ.ねたむがために仇としているということによる。故に.新しい条約から除外されたからといって中国が日本に侮辱されたとするには当たらない。ただ日本人が同じアジア人を重視していないことがわかるだけだ。

 

とはいうものの,中国が日本に異端視されているのは法律が通い合わないためだ。ある西洋人の友人がこう言ったことがある。

「西洋の罰はただ絞首のみで,中国には絞首のほかになお斬罪があり,凌遅【手足を切断してから殺す極刑】がある。西洋の罪は軽いものは罰金刑・禁固刑・労役に過ぎない」。

中国の軽い罪は鞭打ちや流罪だ。流罪は労役に相当するが.西洋と比べて厳しいわけではない。鞭打ちは流罪より軽いのだが,西洋人はこの苦しみがよくわかっていない。これが西洋と異なっているゆえんである。しかし.調書ですでに罪ありといるとしてもその用い方は同じであり,奇異とする必要はない。

 

ただ,中国の裁判はだいぶ異なり,原告が訴え出たなら被告を法廷に召喚.して尋問するという点ではおおよそ同じだが,被告が出頭すれば原告が訴えた内容が事実か否かを問わず,被告が白状しなければこれをたたき.またそれ以前のこともする。

 

いわゆる「●(足編に危ない)錬」というのは,大きな鉄の鎖を床にぐるぐる巻きにして置き.被疑者をその上にひざまずかせ,すぐ白状しなければしばらくひざまずかせ,1日白状しなければ1日中ひざまずかせる。時間が長くなると鉄の鎖がひざにくい込み.その痛みは並たいていではない。どうして白状しないでいられよう。また.いわゆる「天平架」というのは十字形めかせの上に人をひざまずかせ.手を槙に広げさせてつなぎ,弁髪をかせに縛りつけてあお向けに体を伸ばさせ,白状するまでおろさない。甚だしくはひざを折り曲げさせて棒をその間に挟み,れんがをももの上に載せる。さらに甚だしくはその棒を踏み,その上鉄鎚でその両足をたたく。これらの厳しい刑ではどうして白状しないでいられよう。

 

これはいわゆる「三木【首・手・足にはめる3本のかせ】の下.何ぞ求めて得られざらん」というものだ。西洋ではこれらはもともとない。西洋では必ず弁護士を招き.原告・被告が互いに論じ合い,確かな証拠があって,さらに論ずべきことがなくなってからその罪を決定し.まだ罪が決定する前には刑を用いず,しかも拘禁もしない。

中国の,逮捕者の罪が決定する前に収牢されるのとは同じではない。そもそも中国がこのようにしているのは,人情が狡詐であってすぐには白状させられないので,これらの刑罪を作って実際の供述を得るのだ。また,刑は被告のみが受けるのではない。もし原告に誣告の疑いがあれば,被告と同じ方法で罰し,謹告していない者でさえ自ら謹告したと認めるぐらいだ。しかし,もし盗賊やごろつきであれば.これらの刑罰を用いても,拷問に耐えて白状しないすべを知っているのだ。そのため.中国人はこれらを見ても奇異だとは思わないが.西洋人がこれを見ると,もともと見たことのないものを見るのだから非常に異様に思うのだ。

 

西洋人がいぶかしく思うからには,どうして日本人も奇異でないと思うことができよう。中国が奇異だと思うからあえて中国に接近しようとせず,中国が西洋と異なっているように考えるのだ。

これはいったい日本人が隣国の情に乏しいのであろうか,それとも中国の刑罰や法律を他国と通じさせなければならないのだろうか。これについて中国がはっと気がついて悟り.今後卑見を採用し,国際間の案件についてはその法律を時に応じて変更したならば,西洋人もまた喜んで中国の法に従うだろう。もし西洋人が中国の法に従ったならば,日本もそれに倣うだろう。

ならばどうして日本が異端視することを恐れよう。古人いわく.「欲を以て人を従わせれば.欲に従うことになる。良い結果になろうはずがない」。

 

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究 , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
日本リーダーパワー史(115) 陸軍参謀総長・川上操六⑰こそ『帝国陸軍の最大・最後の立役者なり』-

日本リーダーパワー史(115)   陸軍参謀総長・川上操六⑰『帝国陸軍 …

no image
日本リーダーパワー史(500)近代日本興亡史は『外交連続失敗の歴史』-今こそ、勝海舟の外交突破力に学ぶ②

  日本リーダーパワー史(500)   &nbsp …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース]⑥」『開戦37日前の『米ニューヨーク・タイムズ』の報道』-『「賢明で慎重な恐怖」が「安全の母」であり,それこそが実は日本の指導者を支配している動機なのだ。彼らは自分の国が独立国として地図から抹殺されるのを見ようなどとは夢にも思っておらず,中国が外部から助力を得られるにもかかわらず,抹殺の道を進んでいるのとは異なっている』

『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争カウントダウン』㉚   …

no image
『世界が尊敬した日本人⑧地球を彫ったイサムノグチ(08,05)

地球を彫ったイサム・ノグチ 前坂 俊之                      …

no image
近著・申元東 著, 前坂俊之 監修『ソニー、パナソニックが束になってもかなわない サムスンの最強マネジメント』徳間書店 (8月27日刊行)

    近著『ソニー、パナソニックが束になってもかなわないサ …

no image
日本リーダーパワー史(789)「国難日本史の復習問題」 「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、リスク管理 、インテリジェンス⑥』★『この戸水寛人の日露戦争1年前に出版した『東亞旅行談』●『支那ハ困ッタ国デス 何処マデモ 亡國ノ兆ヲ帶ビテ居マス』★『もし日本の政治家が私の議論を用いず、兵力を用いることを止めて、ただ言論を以てロシアと争うつもりならば失敗に終る』

日本リーダーパワー史(789) 「国難日本史の復習問題」 「日清、日露戦争に勝利 …

「トランプ関税と戦う方法論⑯」★『ウィッテは逐一情報をリーク、米メディア操作を行った』★『ウィッテのトリックにひっかかった小村全権の失敗』★『最後まで日本のために奔走したルーズベルト大統領も「日本が樺太の北半分を還付したのは、捨てずに済むものをわざわざ棄てたもの』

  会議はほぼ一カ月にわたって非公式もふくめて十六回開かれた。 &nb …

no image
クイズ「坂の上の雲」ーー極秘「明石工作」は日露戦争約1年後に暴露されていた(2)

クイズ「坂の上の雲」   極秘「明石工作」は日露戦争約1年後に暴露され …

no image
日本リーダーパワー史(373)ダルビッシュの活躍と松井秀喜の国民栄誉賞の受賞> ヤンキース松井秀喜の<勝負脳>に学べ

  日本リーダーパワー史(373) <ダルビッシュの活躍と松 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(220)/「2019年の世界と日本と地球はどうなったのか」(下)『気候非常事態と日本』★『「日本は安全、安心な国」とのイメージが強いが、「紛争や災害の脅威による都市リスクランキング」(2019年版)では東京がワースト1、大阪が6位』  

いまや「巨大災害多発時代」「気候非常事態」に突入した日本 前坂 俊之(ジャーナリ …