前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『ガラパゴス国家・日本敗戦史』➁『近衛文麿、東條英機の手先をつとめたのは誰か』➁水谷長三郎(日本社会党)の国会演説

      2015/03/26

 

1年間連載開始―『ガラパゴス国家・日本敗戦史』➁

 

なぜ、米軍B29の本土空襲、原爆投下により国土は

焦土と化し、市民、子供も含めて300万以上が

犠牲になるまで戦争をやめなかったのか、

その『無条件降伏全面敗戦史』をふり返るー

 

『近衛文麿、東條英機の手先をつとめたのは誰か』➁

水谷 長三郎(日本社会党議員)による『議員の戦争責任に関する

決議案』の賛成討論(昭和2012月1日、第八十九議会)

 

 重ねていう。これがはたして協力か。それとも軍閥の、単なる手先の盲従か、三歳の童子といえども、わかりきった事実である。(拍手)近衛(文麿)が現われれば、近衛の手先となり、東条が現われれば、東条の手先となって、治安維持会の旗をふってきたのが、彼等幹部ではなかったか。ここで敗戦を機会にして、治安維持会の旗ふりどもが、責任をとるのは、これは当然のことであると、私は思うのでございます。(拍手)

自由党の提案は、<この際速かに、その責任を痛感して、自ら進退を決すべし>というように、なっているのでございますが、わが日本社会党としてはそんな生まぬるいことではダメだ、相手が悪い、自業自得とはいえ、今日軍閥、財閥などが、どんな目に遭っているか。軍閥でもない、職業軍人でもない、ハガキ一枚が生命といわれた、ただの兵隊さんでさえ、恩給までも棒にふらねばならない時期ではないか。

それなのに議会だけが、こんな生まぬるい自粛決議だけで、大事終れりとするようなことがあれは、それこそ私は、思わざる結果を招来することは、火を見るよりも明らかであろうと、思うのであります。

 わが日本社会党は、前に述べたような人は、少くとも終生公民権を停止して、ふたたび政治の場面に登場することまかりならぬと、禁止すべしと、われわれは要求する次第でございます。(拍手)

弊原内閣のごとき性格の内閣においてさえ、組閣に当り、その閣員たるべき者の資格といたしまして、過去十年間、責任の立場に立たなかった者と、限定したようでございますが、わが日本社会党といたしましては、大東亜戦争は、日支事変の延長であり、

日支事変はまた、満州事変の発展にはかならないものでありますが故に、満州事変以来、衆議院議員といたしまして、大臣をやった者、あるいはこれを補助する内閣書記官長、法制局長官、情報局総裁、および、わが国政党を解消せしめて、議会政治を骨抜きにいたしました大政翼賛会、賓壮年団の発案者、創設者、これらの人々もまた当然、責任を負わねばならないと、われわれは主張するのでございます。(拍手)

 それでは諸君、さきに述べました議会人以外の議会人は、この戦争にたいして、何等の責任もないのか。そんな卑怯な、恥知らずのことを、私は断じていうものではございませぬ。

全議員はそれぞれの立場におきまして、程度の差こそあれ、戦争にたいしまして、当然責任を負わねばならないことは、いうまでもないのでございます。しかし、議員全体は、戦争にたいして連帯責任であり、平等に責任を負わわはならぬという考え方にたいしましては、私は遺憾ながら、同意することはできないのでございます。(『恥知らず』の声、議場騒然)

さきに申しましたように、翼賛選挙推薦母体の構成員といたしましては、はたまた翼賛政治会、大日本政治会の中枢人物といたしまして、戦時議会を、翼賛会の協力会以下につき落した、そういう中枢人物と、それに指摘された一代議士、あるいは、そういう幹部に反抗いたしまして、戦時中、比較的、良心的な議会行動をしてきた者らが、同じ政治上の責任を、負わねほならぬと、われわれは考えておらないのでございます。

 さきに 〝恥知らず″という声をいただきましたが、私は断じて言う。たとえばお気の毒であるが、前田米蔵君(翼賛政治会の大幹部)と水谷長三郎とが、同じ責任を負わねほならぬと、断じてわれわれはいうものではない。(拍手)

そこに、何らかの線を引きまして、議会の責任のケジメをつけてもらいたいとは、これは偽らない国民の気拝ではないでしょうか。

もしも一部の総ざんげ論者のいうように、議会全体が責任を負うべきものであり、しかしてきたるべき総選挙において、国民の審判を受けてよいんだというようにいたしまして、軍は退き、官僚の一部も退陣し、財閥、民間の指導者もまた続々と、責任をとっている現時におきまして、ひとり議会のみ総懺悔全議員全責任の名の下におきまして、ずるずるべったりに、この議会を無為にしてすごさんか、議会政治の信任は地を払い、政治の民主主義化は、まずその第一歩において、思わざる蹉跌に到着すると、私は思うのでございます。(柏手)

 最後に、私ら議員一同といたしましては、国民諸君の納得し得べき、適当の機会におきまして、国民諸君の納得し得べき、適当の態度をとるべきものであるということは、ここにいうまでもごきいませぬ。

しかしあえていう。議員一同の責任と、先に申しましたような立場の人々の責任とは、あくまで、別個のものであるというのが、私の偽らざる、良心的確信にはかたらないのでございます。(拍手)

 以上私は、本問題にたいしまする社会党の立場を明らかにし、自由党の提出する議案に賛成し、遺憾ながら進歩党の議案のごとく、顧みて他をいう、天に向かってツバをするような、恥を知らない提案には、断固として、反対するものであります(拍手)」

  当時の衆議院の勢力分野は、日本進歩党

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%80%B2%E6%AD%A9%E5%85%9A

が圧倒的に多く、自由党、社会党の議席数は微々たるものであった。したがって、この戦争責任追及の決議案も、進歩党案が可決されたことはいうまでもない。

  この議会では、これらの戦争責任論をよそに、さっさと辞表を提出して、辞めた議員が十八人もいた。その中には蝋山政道、井野碩哉などがいた。

 水谷の演説にあるとおり、戦時中の議員の多くは、療極的に政府に協力して、戦争遂行につとめたが、一部には消極的に政府に抵抗していた議員もいた。鳩山一郎とか、水谷長三郎らは、その数少ないうちの一人であった。しかし水谷は、積極的に戦争に反対しなかったということを、たえず心になやんでいた。そのことは、たとえば、戦後十四年も過ぎ〝すでに戦後ではない″といわれる時代が来ていたのに、水谷は議員在職二十五年の表彰を受けた席上(昭和三十四年四月一日の本会議)、こうあいさつしている。

「・・…この間、わが国は革命的な激動期でございまして、満州事変、日中戦争を経て、ついに太平洋戦争に突入し、有史以来初めての、無条件降伏のうき目を見ました。私としては、およばずながら平和にして、艮心的な民主社会主義者として、終始いたしましたが、それも、しょせんは〝風にそよぐ一本の葦″に過ぎず、戦前、戦中の政治家として、たとえ戦犯、追放にならずといえども、戦争にたいする責任は、甘んじて受けなければなりません。(拍手)

われわれは断じて〝この道はいつか来た道″のあやまちを、ふたたびくり返してはなりません(拍手)……」

 衆議院の本会場で「自分も戦争の責任はある」といいきれる政治家はそんなにいない。水谷こそは、良心のある政治家の一人であった

 水谷長三郎は京都大学を出て、河上肇博士の門に、マルクス経済学を学び、弁護士を開業、昭和三年、普選第一回の選挙に、京都第一区から、労働農民党所属候補として立ち、第四位で当選した。

時に三十歳、全国最年少議員であった。後に労農大衆党、全国大衆党、社会大衆党と移り、昭和十五年、斎藤隆夫代議士の除名に反対して、社会大衆党から除名された。戦後は日本社会党の創立に関係し、片山内閣、芦田内閣の商工大臣をつとめたが、三十五年民社党の結成されるにおよんで、同党に移った。同年十一月の総選挙で、第四位で当選したが、同十二月、病のため死去した。

 彼は、日本の社会主義運動の草分けの一人であり、しかも、片山哲、西尾末広などとともに、議会主義に立脚した社会主義者であった。

<以上は中正雄(毎日新聞論説委員)『抵抗の記録』東潮社(1966年)参照 

 - 現代史研究 , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『オンライン講座/太平洋戦争の研究』★「生きて虜囚になることなかれ」の戦陣訓こそ日本軍の本質』★『「戦陣訓」をたてに、脱走事件を起こした「カウラ事件」もあまり知られていない。』

    2015/06/01 &nbsp …

「パリ・ぶらぶら散歩/ピカソ美術館編」(5/3日)③ーピカソが愛した女たち《マリ=テレーズ・ワルテル」》

    2015/06/03『F国際ビジネスマンの …

『オンライン/-『早稲田大学創立者/大隈重信(83歳)の人生訓・健康法] 『わが輩は125歳まで生きるんであ~る。人間は、死ぬるまで活動しなければならないんであ~る』

  2018/11/27 記事再録/知的巨人たちの百歳学(112)- …

no image
日本メルトダウン脱出法(589)『アベノミクスの挫折で深まる安倍政権の危機』「人口が急増する世界、日本が選ぶべき針路」

   日本メルトダウン脱出法(589)   &nb …

no image
 世界の最先端テクノロジー『見える化』チャンネルー【BBC】 人工知能が兵器に使われたら……ホーキング博士ら警告』●『ニック・ボストロム: 人工知能が人間より高い知性を持つようになったとき何が起きるか?」●『TEDのT:未来を形づくる驚嘆のテクノロジー【すごい技術】』●『マーチン・ヤクボスキー:文明の設計図をオープンソース化する試みについて』

 世界の最先端テクノロジー『見える化』チャンネル   【BBC】 人工 …

日本リーダーパワー史(634)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(27) 『川上操六参謀次長の田村怡与造の抜擢②<田村は川上の懐刀として、日清戦争時に『野外要務令』や 『兵站勤務令』『戦時動員」などを作った>

  日本リーダーパワー史(634) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 …

no image
日本メルトダウン脱出法(727)「Google、今秋にも中国市場に再参入か、しかし困難も」●「なぜ中国からはノーベル賞が出ないのか ビジネス面から見える、技術軽視国家の弱点」

日本メルトダウン脱出法(727)   http://www.itmed

no image
日本リーダーパワー史(427)<日本政治・官僚論ビデオ講義>「特定秘密保全法案」【日本版NSC】ー統帥権独立と比較

 日本リーダーパワー史(427) <誰でも30分でわかる日本政治・官僚 …

no image
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(217)/『百年前にリサイクル事業によって世界的コンチェルン(財閥)を築いた「日本セメント創業者」の浅野総一郎』★『リサイクルの先駆的巨人・浅野総一郎の猛烈経営『運は飛び込んでつかめ』★『明治時代にタダの自然水を有料販売、トイレの人糞を回収して肥料で販売、コークスからセメントを再生し、京浜海岸地区を埋め立てて一大コンビナートを築いた驚異のベンチャー王』

    2010/11/27 &nbsp …

no image
速報(232)『ピント外れだったソニー、ストリンガーの7年間』●『「日本の倒産」に賭けるヘッジファンドーとの戦い』

速報(232)『日本のメルトダウン』   『ピント外れだったソニー、ス …