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日本リーダーパワー史(278)EUの生みの親・クーデンホーフ・カレルギーの目からウロコの日本論「美の国」

   

 
日本リーダーパワー史(278)
 
『ユーロ危機、<西欧の没落>を考える日本の視点』④
 
欧州連合(EU)の生みの親クーデンホーフ・
カレルギー
の日本訪問記「美の国」

日欧の本質的な相違は日本人は美が最高の価値であり、
ヨーロッパ人は幸福が最高の価値
>④


前坂俊之(ジャーナリスト)
 
① 日本人は、その本質から見ると、決して東洋人ではなく、太平洋側へ押し流された地中海民族の1つである。
② 心理学的には日本人はヨーロッパ人種に属している。
③ 自然崇拝と英雄崇拝の精神を有する日本の神道は、古代ギリシア人の宗教に極めて近いのである。 
④ 中国で共産党が儒教を破って以来、日本こそ儒教が文化の決定的要素、すなわち道徳の基盤となっている世界で唯一の大国である。
 
 
「美の国」(クーデンホーフ・カレルギー著、1968年)②
 
 
日本は『地中海民族』であり、アジアではなく『ヨーロッパ民族』
 
日本人は、その本質から見ると、決して東洋人ではなく、太平洋側へ押し流された地中海民族の1つである。何となれば、日本の気候と風景は、地中海のそれに似ているからである。
 
日本人と地中海の諸民族との間の相違は、モーゼに源を発する三つの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)を信じており、日本人はそうでないという点にある。
もちろん、日本人は東洋的な特長も持っている。インドに生まれた仏教が日本人の心の奥深くまで影響したのである。人間に対して調和的な影響を及ぼすお茶をたしなむことも、日本人の心に深く影響したのである。
 
お茶はイギリス人を気品の高い国民にした。お茶を好む近代的イギリス人は、シェイクス
ピアの戯曲の中の乱暴者とは遠くかけ離れている。人類を東洋人と西洋人とに分類することが通例となっているが、これは間違いである。北方人と南方人のみが存在しているのである。
 
すなわち、寒さのために苦しめられ、鍛えられ、仕事をせざるを得ない北方人と、太陽と自然界の実り多いことに慣らされている南方人の二種類しか存在していないのである。前者は英雄的であり、後者は静観的である。前者は、たとえば動物に匹敵し、後者は植物に匹敵しているのである。
 
北方と南方との間のこのような対立は、東方と西方との間の、いわゆる対立と、長年にわたって混同されていた。シナと日本の存在がヨーロッパ人に知られていなかった時代には、ヨーロッパ人は自分たちのところを西洋であると考え、インドを東洋であると考えていたのである。
 
 
その当時は、地球がその軸を中心にして二十四時間で回転することは、まだ誰も知っていなかった。幾時間も経たないうちに日本人が、われわれの位置に来て、また、われわれが日本人の位置に行くとは、誰も知っていなかったのである。
 
ところが、南方人と北方人は、決してお互いの位置を取り替えないのである。スカンジナビア人とエジプト人は自分たちの場所を取り替えることは決してなく、またインド人と蒙古人の場合も、それと同じである。
 
一般的に見て、人間の性格は経度によってではなく、緯度によって決定されるのである。東洋人という場合は、大抵が南方民族のことを意味しており、西洋人という場合は、北方人を指しているのが普通である。イギリスを侵略したノルマン人は東方から来た民族であるが、イギリス人は自分たちを東方人と称することなど、思いも寄らなかったのである。
 
また、民族大移動のときには、ゲルマン民族は東方から来たのであるが、彼らを東方人と呼ぼうなどとは誰も思い及ばなかったのである。もちろん、諸国民の英雄的な考え方は、彼らの国における太陽の位置のみによって、その方向が決定されるものではない。
 
アラビア人を英雄的民族に変化せしめたのは砂であって、雪ではなかったのである。しかしながら、この土地においても自然界は苛酷にも贈り物を惜しみ、やむを得ず人間が行動せざるを得ないように仕向けたのである。
 
北方と南方が人間の性格に及ぼすいろいろな影響は、同一国の間にも現われている。たとえば南部イタリア人は、北部のイタリア人に比べると、東洋人である。したがって東洋と西洋の間の対立を、東アジアにまで適用することは無意味である。アジアの最北端の文化民族である日本は、その歴史的発展と性格の点から見ると、インド人よりもヨーロッパ人の方に近いのである。
 
 その反面において、南部フランス人は、その気性の点では、スカンジナビア人によりも日本人の方に似ている。心理学的には日本人はヨーロッパ人種に属している。ただヨーロッパと日本とを切り離しているザルマーテ族の平原(ドン側東部にすんでいたイラン系の遊牧民族)一の向う側に住んでいるだけのことである。
 
 
    日本と古代ギリシア
 
 しかしながら、日本人はキリスト教以前の地中海諸民族、すなわちギリシア人とローマ人に似ている点の方が、キリスト教時代になってからの地中海諸民族に似ている点よりも多いのである。
 
古代ギリシア人は、今日ではキリスト教を信じる隣国人を相手にするよりも、日本人を相手にした方がいっそううまくお互いに理解し合うことであろう。自然崇拝と英雄崇拝の精神を有する日本の神道は、古代ギリシア人の宗教に極めて近いのである。
 
 キリスト教を信奉する中世は、古代の英雄崇拝精神とは肌が合わなくなったのである。これは、日本の仏教が神道とうまく肌を合わせているのとは異なるところである。キリスト教は古代ギリシアの文化を根こそぎにしたのである - これと同じ例として、これより一〇〇〇年後にメキシコ文化が根こそぎにされたことを挙げることができる。日本だけには、古代ギリシアの宗教に似た宗教が保存されているのである。
 
 ヨーロッパと日本との間の相違点の主なるものは、ヨーロッパではキリスト教が異教を負かしたけれども、日本ではそうではないということにある。日本をキリスト教に改宗させようとする十六世紀におけるイエズス派の試みは成功しなかった。
 
エルサレムはローマとアテネを征服したけれども、京都と東京に対しては勝利を得ることができなかった。それゆえに、日本のみにおいて、キリスト教以前の地中海文化に似た世界が維持されることができたのである。
 
    、道徳と宗教
 
キリスト教のヨーロッパは、倫理とは神学の一節以外の何物でもないと信じている。倫理は、神から人間に課された宗教上の義務を果たすことのみを要求するものであると信じているのである。
 神を信じ、また、人間は何をなすべきか、また何をなさないままにしておくべきであるかについては、神がその予言者を通じて人間に知らしめるものであると信じている者にとっては、倫理は別に問題ではない。ましてや、神の命令を守ると自分は永遠の天国へ導かれ、その反対に、神の命令に違反したり、または従わない場合は永遠の地獄へ送られると信じている者であったら、なおさらのことである。
 
 モーゼの開基した宗教は、ユダヤ教、キリスト教およびイスラム教という三宗派に分れたが、このモーゼの宗教の基盤は前述の神学的なものに存しているのである。東アジアの広い視野から見ると、これらの三宗派はただ一つの宗教を成しているのである。なん㌃れば、これらの三宗派相互間の相違は、仏教界の二大宗派(大乗仏教と小乗仏教)の間の相違よりも大きくないからである。
 
 多くのキリスト教徒は、倫理が宗教的な基盤を必要とするものであると固く信じている。しかしながら歴史がわれわれに教えるところによれば、道徳の基盤は宗教のほかにも、別にもう一つ存在している。それは美である。古代ギリシア・ローマ時代の道徳は、中世の道徳とは異なり、神学を基盤としないで、美を基盤としていたのである。
 
 
 
 オリンピアの神々は非道徳的であったので、人間の道徳を取り締る神として認めることは困難であった。オリンボスの山は、ギリシア人の家庭生活の一つの典型に過ぎなかったのである。教養のないギリシア人たちは地獄を恐れて、びくびくしていたが、教養あるギリシア人たちは倫理の基礎を別のところに求めねばならなかった。
 
これらの教養あるギリシア人たちは、それを美の中に発見したのである。気高いものと美しいものとの組み合わせの中に、すなわち、「カロカガティー」(美しく気高くあろうとするギリシャの哲学思想)の中に発見したのである。ギリシア語で、「カロス」は「美しい」の意味であり、「アガトス」は、「気高い」の意味である。これは同等の価値を持った二つの形であった。
 
 
 
日本とヨーロッパ
 
長い間、ヨーロッパ人とアメリカ人は、人類の最高峰を実現することを考え、他の諸民族や諸人種は自分たちから学べば宜しいと考えていた。今日では西欧側は、キリスト教の勃興と民族移動の時代にも対比し得る危機に画していることを、自覚する必要がある。
 
 この危機は、どんな政治上の問題よりも大きな、私の一生涯の関心事である。
 ヨーロッパが統合され、その次には、世界を第三次世界大戦に追い込み、また文化を破壊するような国際ギャングの1群が統合されたヨーロッパの先頭に立つことになったら、ヨーロッパにとって何の役に立つだろう?
 
 半キリスト教的、またはキリスト教以後のヨーロッパがその道徳的価値を維持するか否か、さらに、ヨーロッパが道徳上の混乱状態に向って進むか、または道徳面の革新に向って進むか否かが、勝負を決定する問題である。
 
 過去の二世紀においては、東アジアはヨーロッパから多くを学んだが、現在の瞬間においてはヨーロッパは東アジアから多くを学ぶことができるのである。
 どうしてー億の日本人が今日キリスト教なしでも経済的に、かつ文化的に世界1流の国民になることができたかという問題について、ヨーロッパとしては検討すべきである。日本が敗戦後あんなに早く立ち直り、それと同時に、シナがすでに犠牲となっている共産主義の誘惑に抵抗することに成功しているのはどうしてであるかという点についても検討すべきである。
 
 中国で共産党が儒教を破って以来、日本こそ儒教が文化の決定的要素、すなわち道徳の基盤となっている世界で唯一の大国である。日本は騎士道的な武士道を否定しないで、むしろゼントルマンに対する儒教の信念の精神を体して一新したのである。
 
 この点においでも日本は、仏教、神道、儒教が、お互いを根こそぎにしないで、むしろ平和的に共存し、いっしょになって国民道徳を維持した例を、ヨーロッパに対して提供している。これと同じ精神をもってヨーロッパにおいても、ゼントルマン理想を抱いている人々は、キリスト教徒といっしょになって、この二つを脅かしている道徳上の混乱状態を征服すべきであると思う。
 
 日本とヨーロッパの本質的な相違は、日本人にとっては美が最高の価値であり、ヨーロッパ人にとっては幸福が最高の価値である点にある。しかしながら・キリスト教は、このような幸福への意志を来世へ移す術を知っていたのである。
 
 キリスト教徒の最終目標は天国である。大部分の日本人の目標は調和である。換言すれば美である。ヨーロッパ人にとっては芸術は日常生活の縁にある一つの贅沢である。日本人にとっては芸術は日常生活そのものである。
 
ヨーロッパでは少数の人々しか詩をつくらないが、日本では教養ある人はすべて詩をつくるのである。これは決して偶然ではない。毛筆による書道は、タイプライターでは代替できない一つの芸術である。これも決して偶然ではない。また茶道が日本だけで美と調和の作法となっているのも偶然ではない。
 
 これらのすべてのことが心の底から私を日本に結びつけているのである。たとえ私の生涯の政治的活動はヨーロッパのためのものではあっても。とにかく、日本は、いつまでも私の心のふるさとである。何となれば日本は美の国であるからである。
 
 
 
 

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