日中北朝鮮150年戦争史(7) 日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。日本最強の陸奥外交力で「我朝保護属邦旧例」(朝鮮は清国の属国)の矛盾を徹底して衝いた。
日中北朝鮮150年戦争史(7)
日清戦争の発端ー陸奥宗光の『蹇々録』で読む。
日本最強の陸奥外交力で「我朝保護属邦旧例」
(朝鮮は清国の属国)の矛盾を徹底して衝いた。
≪以下は『蹇々録』の第2章の現代訳である>
第二章 朝鮮に向かいて日清両国軍隊の派遣
そのため、今回の朝鮮事件が進行すると、英国政府が最初に日清調停を試みてきて、その後に日清両国政府の間でいったん破談となった共同委員説の再興を要請してきた。
これに対して、わが政府は将来はともかくも今日まで既に日本の独力で朝鮮政府に勧告し、同政府もこれに同意しいる改革事項は、最早、清国と何らの協議をする必要なしと回答した。
英国政府は朝鮮の事については、一切、日清両国の間に平衡を保つという天津条約の精神と認めていたので、この後、帝国政府の回答に対し天津条約の精神を度外視したるものなりと咎めて、在韓の日清両国軍隊が韓の南北部を共同占有し、徐々に日清両国の調和を計るべきだとも勧告してきた。
同ひ根拠で主張してきたものだが、天津条約を全く誤って解釈したもので、同条約が日清両国の朝鮮における権力平均についていかに外国政府が重視していたかを証明するものである。
余が今回の事件に対し、派兵につき互いに行文知照すべしとの規定ある外、他に何ら直接の関係のない天津条約の解釈を、ここまで詳述したのは、同条約締結後、日清両国政府が朝鮮へ出兵するに至ったのは今回の事件が初めてであり、清国政府は果してこの天津条約に従い、我が政府に行文知照するかどうかを確認することが、現在および将来に向かい、わが清国に対する外交上最も緊急の課題と考えたためだ。
このように、わが政府は、一方では、何時でも朝鮮に向かい軍隊を派遣する出兵の準備を急ぎつつ、他方では、清国政府が如何に天津条約を実行するかを注視していた時、在日清国特命全権公使・江鳳藻
http://www.maesaka-toshiyuki.com/person/16317.html
は、明治27年6月7日に、公文を以て、政府訓令として、同国が朝鮮国王の請求に対し、東学党鎮圧のため若干の軍隊を朝鮮に派出する旨を照会してきた。
出兵の行文知照としては無用の議論を費やし、その間、やや倣慢の語辞を存したれども、その書中「我朝保護属邦旧例」の一句を除くの外は、今はその文句に議論を試みる余裕はない。
わが政府は直ちにこれに照復し、清国政府が天津条約の第三項に従い、朝鮮へ軍隊を派出のため、行文知照の趣は帝国政府において直ちに承知せり、但し、その書中「保護属邦」の語があるが、帝国政府はいまだかつて朝鮮国を以て清国の属邦と認めておらず、との抗議を付言した。
今や政府は清国政府が天津条約に遵行したのを見た。最早一刻片時も待つべき必要はない。余は即夜、在北京臨時代理公使小村寿太郎に電訓し、「朝鮮国、現に変乱重大の事件あり、我が国より若干の軍隊を同国に派出すべし、天津条約の規定に従いこれを行文知照す、と伝えた。
わが政府の照会は、単に天津条約の規定に従い派兵の事を知照するに止まるものであり、これを清国政府よりわが政府にきた照会に比べれば、すこぶる簡明なものであったが、総理衛門は右照会に対し、
清国は「朝鮮の講(こい)に依り援兵を派し、その内乱を裁定するため、即ち属邦を保護する旧例に依るものなるが故に、内乱平定の上は直ちにこれを撤回するはずなり、
しかるに日本政府派兵の理由は、公使館、領事館および商民を保護すというのであれば、必ずしも多数の軍隊を派出する必要はなく、かつ朝鮮政府の請求によるものでなければ、断じて日本軍隊を朝鮮内地に入り込ませて人民を驚かせるべきではない。
また、万一清国軍隊と相遭遇した場合に、言語不通等のために、紛争が生ずることを恐れるがために、この旨、日本政府へ電達してほい旨を同代理公使に要求し、小村は直ちにこの趣旨を電報してきた。
わが政府は天津条約の規定に従い、朝鮮に出兵することを行文知照する外、清国よりくる何らの要求にも応ずべき理由はないので、更に小村を清国総理衝門に向かわせて、
第一に清国が朝鮮に軍隊を派出するは属邦を保護するためなりというが、わが政府はいまだかつて朝鮮を以て清国の属邦と認めたことはなく、また、今回わが政府が朝鮮に軍隊を派兵するのは、
済物浦条約上
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%88%E7%89%A9%E6%B5%A6%E6%9D%A1%E7%B4%84
の権利によるものだ。
また、これを派兵するについては天津条約に照準して行文知照した外、わが政府は自己の行わんと欲する所を行うのであって、その軍隊の多少および進退動止については少しも清国政府の掣肘を受けるべきものではない、
また、かりに両国の軍隊が朝鮮国内において、相対して言語不通であっても、我が国の軍隊は常に紀律節制が保たれているので、決してみだりに衝突する虞(おそれ)のないー、故に滑国政府においてもまた、その軍隊に訓令して事件が起きないようにに注意してもらいたい、と回答した。
これは単に日清両国が既定の条約により朝鮮に軍隊を派出する行文知照のみの件である。
しかし、彼よりの照会にあった『保護属邦の文字』に対しては、我は黙止することはできない。われよりの照会に対しては彼また数多のやり取りがあった。
平和いまだ破れず、干戈(かんか、戦争)はいまだ起きてはいないものの、
早くも甲争乙抗(あちこちでの対立)の状態を表している。別種の電気(カミナリ)を含める雨雲は正に相触れようとしている。一転して電撃雷轟(電気、火花が飛び交い、稲妻がとどろく)形勢になることは明らかである。
しかし、わが政府はなおこの危機一髪の間にも、なるべく現在の平和を破裂させず、国家の名誉を維持する道を求めんとして汲々としている。
つづく
関連記事
-
『オンライン鈴木大拙講話』★「東西思想の「架け橋」となった鈴木大拙(95歳)―『★『禅は「不立文字」(文字では伝えることができない)心的現象』★『「切腹、自刃、自殺、特攻精神は、単なる感傷性の行動に過ぎない。もつと合理的に物事を考へなければならぬ」
★『死を恐れるのは仕事を持たないからだ。ライフワークに没頭し続ければ死など考える …
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(196)』★『空調トラブルで2日連続引き返す、半世紀ぶりの国産旅客機、今後の受注活動に影響も』●『テスト飛行の連続失敗の原因は?- MHI(三菱重工)組織の驚くべき硬直性ー 日本企業の中でもこれほど上意下達と その履行を強制する会社は珍しいと実感!』
『F国際ビジネスマンのワールド・ニュース・ ウオッチ(196)』 『三菱MRJ …
-
速報(347)『日本のメルトダウン』自民両党首選動画の『この国のイカれた惨状!』②「尖閣問題』と「日本経済再生問題』
速報(347)『日本のメルトダウン』 ★民主、自民両党首選の『この国のイカれた惨 …
-
池田龍夫のマスコミ時評(28) 「情報公開=知る権利」目指してー「沖縄密約・文書開示」控訴審の攻防
池田龍夫のマスコミ時評(28) 「情報公開=知る権利」目指してー「 …
-
知的巨人の百歳学(149)ー人気記事再録/ 百歳学入門(30)『歴史有名人の長寿と食事①天海、御木本幸吉、鈴木大拙、西園寺公望、富岡鉄斎、大隈重信
2011/07/19百歳学入門(30) …
-
『世界戦史史上、空前絶後の完勝だった日露戦争ー山本権兵衛のリーダーパワーに学ぶ』
<2009、03,01 …
-
『オンライン講座/日本興亡史の研究⑨』★『児玉源太郎の電光石火の解決力➄』★『児玉参謀次長でさえ、元老会議や閣議から除外されることが多かったので、軍部は国策決定の成否を知り得なかった。』★『児玉参謀次長に日露外交交渉の詳細が知らされなかった日本外交の拙劣ぶり』』
2017/05/29 日本リーダーパワー史(817)記事 …
-
『2014年ー世界政治経済ウオッチ⑪』「デジタルで復活したシェ アリングエコノミー」「中国とロシア:友人で敵でもある微妙な関係」
『2014年ー世界・政治・経 …
-
日本リーダーパワー史(716)ディープ対談(動画/90分)『安倍政権にリスク管理能力はあるのか』<『財政破綻必至の消費増税再延期」「アベノミクス大失敗」『沖縄問題の影響』★『失政は「スピード不足」 「だらだら会議は踊る、されど決せず」「決しても有言不実行、前言訂正、先延ばし」の罪
日本リーダーパワー史(716) <『財政破綻必至の消費増税再延期」「アベノ …
-
『オンライン/ウクライナ戦争講座⑨』★『ウクライナ戦争勃発―第3次世界「見える化」SNS大戦へ(上)』★『植民地時代の恫喝・武力外交を相変わらず強行するロシアの無法』★『テレビ戦争からYoutube・SNS戦争へ』★『無差別都市攻撃・ジェノサイドの見える化」の衝撃』』
ウクライナ戦争―第3次世界「見える化」SNS大戦へ(上) 前坂俊之 …