前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

司法殺人との戦い に生涯をかけた正木ひろし弁護士超闘伝⑫」「八海事件真犯人は 誤判を自ら証明した稀有のケース」

   

  

◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦い

に生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑫

 

「昭和戦後の多数の冤罪事件で八海事件真犯人は

出所後に誤判を自ら証明した稀有のケース(終)」


 

前坂 俊之(ジャーナリスト) 

 

事件をあやつるカゲ

 

Y、A、Hの六つの手がしっかりと握り合わされた。

 わずか20分ほどの会見だった。

一八年の長期裁判に比べると、それはあまりに短いものだった。が、世紀の難事件といわれた八海事件は完全な誤判であったことを、Y自身があっさりと立証したのである。

 

 

 膨大な記録も、火を吐くような法廷論争も、この短い会見に優るものはなかった。事件の核心はここに尽きた。
 

 戦後、数多くの冤罪事件が起きている。帝銀事件から松川、三鷹、幸浦、二俣、白鳥、仁保、松山、島田、免田事件など実に多い。その中には、真犯人が不明のまま結着したものもあれば、刑を確定された被告が今なお無実を叫んでいるものもある。

そうした中で、八海事件のように真犯人が最後にすべてをぶちまけた例は、日本の裁判史上はじめてであった。

 会見から三日後の一〇月二八日午後一一時、TBS系の「ニュースデスク」で、Yの謝罪のニュースは約五分間の特集として全国に流された。
 

 このニュースは関係者に異様な衝撃を与えた。広島保護観察所は早速、Yを呼び、規則違反を責め、厳重に注意した。
 

 これまで隠されてきた刑務所、検察側の汚ない手口がYの口から暴露されるのを恐れている、と疑われても仕方がなかった。1111日、八海事件の弁護団として佐々木哲蔵弁護士とおしどりコンビで戦ってきた佐々木静子委員(当時、社会党の参議院議員)は、参議院法務委員会で、この不当な制限と圧力を鋭く追及した。しかし、法務省も頑強に反論した。

「弁護士が口実を設けてYを呼び出し、テレビ出演をさせたのは遺憾だ。Yの出所は極秘にするように指示した。それは第二の人生に踏み出す刑余者に対する配慮から行ったものだ」

 笛吹享三法務省保護局長のはこう答弁し、誤判の責任や保護観察所の圧力にはあくまでシラを切った。法務省は自らの非を認めようとはしなかった。事件をヤミに葬ろうとしていたのである。

 大阪で運送会社を経営しているAは、トラックを運転中、事故を起こしたことがある。肋骨三本と腰骨を折る重傷を負い、意識不明に陥ったのだ。死の淵をさまよっていた丁度この日が、法務省保護局長の答弁の日と重なった。偶然といえばそれまでだが、あまりにも象徴的な、八海裁判嵐の日であった。

 

 しかし、獄舎の鎖を解かれたYの口を封じることは、もうできなかった。彼は真実を打ち明け、心の平安を欲したのである。

 年があけた昭和四七年一月二六日。Yは、罪に陥れた他の被告へ再度の懺悔をしたいと、原田弁護士に付いてもらい旅に出かけたのである。その日は名古屋でAの実弟を訪れ、Iにも会って謝罪した。
 

 二七日には大阪に引返し、Aに会う予定だったが、Aは交通事故でまだ入院中だった。佐々木弁護士の事務所から、見舞いの電話をかけ、直接会わずにすました。一八年にわたる無実の苦しみが、一片の謝罪やおわびですむものではないにしても、かつての被告の和解は、こうして実現した。
 

 ただ、Yの背後で事件をあやつったカゲの司法腐敗構造は、依然として事件の責任にほおかぶりしたまま、という現実だけが残った。


「第一部 八海事件編」終り(文中敬称略)

 

 

 - 現代史研究 , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
速報「日本のメルトダウン」(495)「日韓関係の悪化で米国が戦略的試練に」●「韓国の幼児的ナショナリズム」

 速報「日本のメルトダウン」(495) <日中韓衝突の未来は?> &n …

no image
『1951(昭和26)年とはどんな時代だったのか』 <講和条約、日米安保締結、独立から再軍備の「逆コース」へ>

                                         …

no image
日本リーダーパワー史(172)『高橋是清の国難突破力①』『日露外債募集戦争』―奇跡的に成功したインテリジェンス(1)

 日本リーダーパワー史(172)   『高橋是清の国難突破力①』 &n …

no image
世界、日本メルトダウン(1017)ー「トランプ操縦の『エアホースワン』は離陸後2週間、目的地も定まらず、ダッチロールを繰り返す」★『仏大統領選 ルペン氏が首位 左派アモン氏低迷 世論調査』→『トランプ大火災は「パリは燃えているか」(第2次世界大戦中のヒトラーの言葉)となるのか!

  世界、日本メルトダウン(1017) トランプ操縦の『エアホースワン』は離陸後 …

日本リーダーパワー史(698)日中韓150年史の真実(4)「アジア・日本開国の父」ー福沢諭吉の「日中韓提携」はなぜ「脱亜論」に一転したか」③<日中韓のパーセプションギャップが日清戦争 へとトリガーとなる>

 日本リーダーパワー史(698) 日中韓150年史の真実(4)「アジア・日本開国 …

no image
日本リーダーパワー史(803)ー『明治裏面史』★ 『「日清、日露戦争に勝利』した明治人のリーダーパワー、 リスク管理 、インテリジェンス⑲『日露戦争開戦6ヵ月前』★『6ヵ条の日露協定書を提出、露都か、東京か、の交渉開催地でもめる』

   日本リーダーパワー史(803)ー『明治裏面史』★ 『「日清、日露戦争に勝利 …

『Z世代への戦後80年の研究講座』★「再録・終戦70年・日本敗戦史(83)記事』★「空襲はない、疎開は卑怯者のすること」と頑迷な東條首相は主張ー田中隆吉の証言➂』

   2015/06/02終戦70年・日本敗戦史( …

no image
★国際見本市「スマートエネルギーWeek 2014」(2/26-28)開幕➁「WEST HOLDINGS」「「SHARP」「XSOL」など

★国際見本市「スマートエネルギーWeek 2014」(2/26-28)開幕➁ & …

世界を変えた大谷翔平「三刀流物語/前任者たち⓼』★『2013年/MLBを制したレッドソックスの守護神・上原浩治投手の必勝法10か条ー「過去のことは過去のこと。引きずっても仕方ない。すぐ切り替え今日、明日を見た方が人生楽しい」★『 上原は74%がストライク。900球以上投げた投手で、こんなすごい投手は2000年以降いない』など

    2013/10/11記事再録   …

no image
「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など 外国紙は「日韓併合への道』をどう報道したか⑥ 「英タイムズ」<明治40年7月19日付>「朝鮮・ハーグ密使事件』

 「英タイムズ」「ニューヨーク・タイムズ」など 外国紙が報道した「日韓併合への道 …