司法殺人と戦った正木ひろし弁護士超闘伝⑪」「八海事件の真犯人は出所後に誤判を自ら証明した(下)」
◎「世界が尊敬した日本人―「司法殺人(権力悪)との戦い
に生涯をかけた正木ひろし弁護士の超闘伝⑪」
「八海事件の真犯人は出所後に誤判を自ら証明した(下)」
「月刊 ジャーナリスト」1977年12月号「懺悔する男」で掲載>
前坂 俊之(ジャーナリスト)
謝罪したYは検察からウソを強要された
Y 嘘をついて、誠に申し訳ない。なんばおわびしても許していただけないと思うけど・…・・。
A Y君が出てきた時、体の方が大丈夫なのかと思った。許すも許さんもY君の出方ひとつだ。迷惑をかけたみなさんに同じようにわびる必要があると思う。
原田 Y君はね、出所した二日目に私のところに来て、その時から、あなたに会っておわびしたいと……。
Y 中におる時から、出たらおわびしたいと思っていた。
A Y君は昔、つき合っていて、ほんとうは(うそをつくような)そういう人ではない。とにかく良心は必ず残っている。つらい立場だったと思うが、その良心を握りつぶした奴を……。
Y そういうふうな、たとえどんな理由があろうと、私がすべて悪かった。
A 一つだけ聞かしてほしいのだが……。最初に一人でやったといい、それから六人になり、われわれとやったと変わったが、これはどういうわけかな……。
Y こんなことを言っても何じゃが。なんば一人でやったと言っても聞いてくれんのじゃ。殴ったり、けったりでね一。殴った以上に背中に棒をさし込み、指にエンピツを入れ拷問して寝かしてくれん、それで五人でやったといえば、手のひらを返したよぅに菓子を食べさせてくれるし、機嫌をとる。
A …………。
佐々木 ちょうど三年前、最高裁の判決があってから、一カ月ぐらい後に、Y君はほんとうに申し訳なかったと言っていた。出てからも僕のところへ手紙をくれて、まず最初に書いてあるのがみなさんに申し訳なかった、ということだ。その点でY君がすまないという気特は心から出ていると思う。
Y みなさんに迷惑をかけたことはどんなにおわびしても許していただけないと思う。
Aさんの日記を読んで、涙が出て仕方がなかった。自分がそんな立場に立ったら、どうだろうと思うと。
A 残念なのは、それをもっと早い時期に言ってほしかった。一八年も続く前に言ってほしかった。愚痴になるかも知れないが、やむを得ない。今日はここであなたが良心からそう言うなら、許してもよい……。
Y 再びみなさんに迷惑をかけないように生きるのが、せめてものおわびだと……。
A 二審の公判の時ね。風呂に入っている時、会ったな。あの時、あんたはすまんと言ったな。あんたはその時は本心でそう育ったと思う。今も信じている。あの時も今と同じようにすまんと言ったと思う。
原田 今、Y君がこうやって全うには非常に決心がいるんですよ。
Y 一生、社会に出られないと思っていた。刑務所、検察庁のいうなりになっておけと決心した。
A 仮釈中だし、いろいろ制約もあって、いえないこともあると思う。刑務所にいて、われわれ四人を常に引きずりこんでいた毎日毎日の生活で、良心的に苦しかったのではないか。
Y 今からこう言っても信用してもらえないかも知れないが、出る気特はなかった。一生、出られないと思っていた。中で可愛いがってもらえればよいと思っていた。こうしているうちに、いろんな人から励ましや、激励の手紙がきて目が覚めた。
佐々木 一生出られないと思ったわけだね。
Y 暖かい手紙で、長い時間はかかったが、だんだん良心に目ざめました。早く本当のことを言えばよかったが……。
原田 正木弁護士の本や映画を見て、あなた方に激励の手紙を出す人もたくさんあった。中にはY君に対して、「他の者が嘘を言っているので、君は苦しいだろうと思う。がんばってくれ」という手紙を出す人もいた。その中で、ある一人のずっと暖かい手紙をくれた人の気拝に揺り動かされたんですよ。
Y 自分がA君のような立場に立つと兄弟、家族はどう思うだろうか。罪もないのに、どんなに苦しむだろうか……。
A そう思っていたが、あの中では言えなかったというわけやな。
Y 言おうと思って何度も上申書を書いた。河相裁判長の時も書いたが、出してくれないんじゃから出した、出したと嘘を言って……。
A これは本当に思うんだけれど、裁判も公正で最後には真実が勝った。これで、こうやって話ができるんだ。もし不正な裁判で通されて、そのまま僕は無実の死刑が決まっていたら、そうはいかなかったと思うよ。その点をよく考えてほしい。今だから、こうやって、話し合えて解決して、メデタシになっている。Yも心では重荷になったかも知らんが、一つの安堵を持って、晴れて仮釈放で出てきた。こうやって立場は遽うけれども…
佐々木 Y君ももっとリラックスな気持になった時にね。
A 懺悔してもらおうと思う。
Y 中の内容はふれたくないんだが、事件の真実はいつか言わないと……。
A 謎に包まれた部分が多いので、Y君が自発的に明かす時がきたら、明かしてほしい
佐々木 僕はね。Y君が決して良かったとは思わない。それよりも、嘘を見抜けなかった、嘘を押しっけた警察、検察、裁判所がもっと責任があると思う。被告としては、Y君にしっかりしてくれという気持が強かったと思う。僕らとしてはここで、Y君が本当に申し訳なかったと言ってくれたことで満足だ。八海事件は真に誤判だということがわかった。
Y 官がどうしたとしても、言い訳には
佐々木 Y君のその言葉が心から改心を表わしていると思う。
H 広島拘置所に入っている時、運動場で明日の公判では本当のことを言うからなといった。が、明くる日になるとコロッと達うんじゃ。そういう状況に置かれている時はすまんかったとは思ってると思うんじゃが、Yはどうなってるのかと思った。
原田 その通り貫くと、Y君も死刑になってたろうね。検事も控訴していたしね。
Y 世間の人は冷たいかも知らん。苦しいだろうと思うが、人に迷惑をかけないようにするのが、償いではないかと思う。
Y こうやっていると、昔のY君を思い出す。警察に逮捕され、僕たちと一緒にやったと言って、一八年間、長い裁判が続いてね。僕は死刑を一回も二回も三回も受けて、最後に勝って、Y君も出所してきた。これで八海事件も解決した。Y君のやることは、生活を築いてちゃんと生きる道を歩んで行く。みなさんにおわびするということは、真実を自発的に語ることだと思う。四人を無実の罪に陥れて申し訳ないということは誠心誠意でた。それは認めます。
Y これから先は、人に迷惑を与えないようにしたい。
A 青年時代の時を思い出す。それがあれだけ長いこと嘘を言い続けたのか。ひっかかる。
原田 彼の人間性を押しつぶした奴を……。
A その奴だ。……腹の中では思うけど、こうやって会えて良かった。Y君が真実に立ち返ってくれて、告白してくれたことはうれしい。俄悔してくれたことはうれしい。
佐々木 Y君は歳は今、四二歳か。まだまだこれからだ。
A 僕の頭が薄くなったけれど、Y君のも薄いね。
H ああ、長かったな。
原田 どうか、最後に握手だけしたら。
関連記事
-
-
「オンライン・日本史決定的瞬間講座②」★「日本史最大の国難をわずか4ヵ月で解決した救国のスーパートップリーダーは一体誰でしょうか?」★『何度も死からよみがえった不死身の大人物ですよ』
鈴木は「海戦の勇士」「不死身の貫太郎」 鈴木貫太郎(1868年(慶応3)1月―& …
-
-
『テレワーク/2020年、冬の京都観光ガイド』★『冬の三千院、比叡山延暦寺、湖西の石山寺、三井寺を周遊、『この数年ヨーロッパばかり回り、石造り建築の露骨な存在感に食傷しておりましたので、自然と一体となった日本の寺院建築の楚々とした佇まいに改めて魅了されました。
2020/04/12   …
-
-
最高に面白い人物史①人気記事再録★「日本人の知の限界値」「博覧強記」「奇想天外」「抱腹絶倒」―南方熊楠先生の書斎訪問記(酒井潔著)はめちゃ面白いよ①
2015/04/29   …
-
-
歴代首相NO1は明治維新の立役者・伊藤博文で『歴代宰相では最高の情報発信力があったと英『タイムズ』の追悼文で歴史に残る政治家と絶賛>
2010/11/26 日本リー …
-
-
日本メルトダウン脱出法(746)「安倍首相はどこに向かって矢を放っているのか?「新3本の矢」●「TPPのメリットとデメリットをあらためて整理する」
日本メルトダウン脱出法(746) 安倍首相はどこに向かって矢を放っているのか? …
-
-
日本メルトダウン脱出法(747)『単なる「貿易協定」ではないTPPー”国境”が”県境”になる」●「中国の懸念は経済ではなく政治ーエコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏」●「メルケルが“大親友”中国を見切りか!?」
日本メルトダウン脱出法(747) 単なる「貿易協定」ではないTPPーー”国境”が …
-
-
日本リーダーパワー史(756)ー映画「海賊と呼ばれた男」 のモデル/『国難突破力ナンバーワンの男 <出光佐三の最強のリーダーシップとは> 『人間尊重』★『つとめて困難を歩み、苦労人になれ』 ★★『順境にいて悲観し、逆境にいて楽観せよ』●『『利益優先」の単なる資本家ではなく「論語とソロバン」の公益資本主義を唱えた 渋沢栄一をしのぐ、戦前からの「人間尊重」「定年なし」「出勤簿なし」の出光経営は、 今、テレワークや働き方改革なんて、70年前に実践している』
「海賊と呼ばれた男」の公式サイト http://kaizoku-movie.jp …
-
-
『オンライン講座・日本リーダーパワー史研究・山県有朋とは一体何者か!』★『国葬で菅元首相が読み上げた弔辞で紹介された山県有朋が一躍トレンド入りをした』★『政党政治の父・原敬は藩閥政治の元凶・山県閥をどう倒したか』(服部之総の「原敬百歳」を読む)
日本リーダーパワー史(289)「政党政治の父・原敬は藩閥政治の元凶・山県有朋をど …
-
-
日本リーダーパワー史(924)-人気記事再録『戦時下の良心のジャーナリスト・桐生悠々の戦い①』★『関東防空大演習を嗤う」を書いて信濃毎日新聞を追われる』★『以後ミニコミ雑誌『他山の石』で言論抵抗を続けた』
年1月26日記事再録 日本リーダーパワー史(33)戦時下の良心のジャ …
