ブッシュ大統領は就任当初からイラク攻撃を指示 オニール氏が暴露本
1
<イラク戦争1年> 2004,1,16
前坂 俊之(静岡県立大学国際関係学部教授)
米国のイラク攻撃の正当性を問う暴露発言がブッシュ政権の中枢からまたまた飛び
出した。ブッシュ大統領からクビになったオニール前米財務長官が「ブッシュ政権は0
1年の発足直後から、フセイン(イラク元大統領)を取り除く必要があるという信念があ
った」とテレビで爆弾発言し、ブッシュ政権の内幕を書いた本の中でも、この事実を詳
述しており、ブッシュ政権を再び揺るがせている。
ブッシュ政権発足10日後の01年1月30日開いた最初の国家安全保障会議(NSC)
で、すでにイラクへの対処が最優先課題とされ、軍事行動を含めた対策が検討され
た。
同書によると、この日の主題は中東政策で、ブッシュ大統領はイスラエルとパレスチ
ナの対立ではクリントン前政権の政策が不均衡だったと批判して、「イスラエル寄りに
戻す」と宣言した、という。
これに対して、パウエル国務長官はシャロン・イスラエル首相が強硬路線に走り「悲
惨な結果になりかねない」と反対したが、大統領は「それが均衡を取り戻す最善の道
かもしれない」と突き放し、話題はすぐイラクに移ったという。【毎日1月14日夕刊】
さらに、中央情報局(CIA)のテネット長官がイラクの工場の空撮写真をテーブルに
広げ「化学・生物兵器用の材料を作る工場かもしれない」と報告。その根拠をオニー
ル氏が問うと、テネット長官は物資の搬入・搬出ぶりなど状況証拠を挙げたが、確証
は示せなかった。
オニール前米財務長官は「国家安全保障会議で、なぜイラクを侵略すべきなのか、だ
れも疑問を呈さないのに驚いた」として、「ブッシュ大統領は、イラク戦争を実行する方
法を探し出せ、と言っていた」とも証言している。
ブッシュ大統領は、91 年の湾岸戦争当時の軍事連合の再構築▽イラク南部・北部
への米軍投入▽イラク反体制派への軍事支援▽新たな対イラク経済制裁▽情報収
集力の改善-などの検討を担当長官に指示。
2
2 日後のNSC では「フセイン政権後のイラク危機のための政治・軍事計画」など機密
文書が討議資料に使われ、ラムズフェルド国防長官はフセイン政権除去と親米政権
樹立の必要性を力説したという。【毎日1月14日夕刊】
これに対して、ブッシュ政権は機密漏洩に当たるとして調査をする一方、13日にラム
ズフェルド長官は記者会見で、「旧フセイン政権の交代はクリントン時代から米国の政
策目標で、あらゆる選択肢を「検討」するのは当然だ」と指摘し、最初から戦争を決め
ていたという見方に反論した。
また、ブッシュ米大統領も、『政権の初期段階からイラクのフセイン大統領交代に賛成
だった』と述べ、対イラク攻撃について「上空飛行による監視を続け、その線に沿って
政策を練った」と明かし、オニール前財務長官の暴露を事実上追認した形となった。
1・・身内からの暴露相次ぐ
身内からの次々に噴出す暴露の火消しにやっきになっていると、今度はまた米空軍
国防大学教授が「イラク攻撃戦略的誤り」だとする痛烈な論文が出て、ダブルパンチ
を受けた形。ブッシュ政権のイラク戦争の戦略を批判した論文「テロとの戦いの限界」
を公表したのは米空軍国防大学教授で、国際安全保障が専門のジェフリー・レコード
氏である。
同氏は「フセイン元イラク大統領と国際テロ組織アルカイダをごっちゃにするのは戦略
的誤り」であるとして、ブッシュ大統領が脅威の程度や性格が異なるフセイン元大統
領とアルカイダを強引に結び付けたとし「イラク戦争はテロとの戦いに不可欠なもので
はなく、むしろ回り道になった。
ブッシュ政権が中東民主化からイラク復興、大量破壊兵器の破棄まで対テロ戦線を
拡大していることは非現実的で、政治・軍事両面、財政的にもとても維持できない。イ
ラクへの長期の大規模駐留で陸軍は朝鮮半島有事など他の地域の非常事態に対応
できる予備がない」と、戦争は回避すべきだったとの見解を表明した。【東京1月13日】
こうした、米国のイラク攻撃の正当性、「戦争の大義」にされた「フセイン政権が大量
破壊兵器、化学兵器を隠し持っている」点はちょうど丸1年たったが、相変わらず発見
できないどころか、密かに米調査団も捜索チームを大幅に縮小し、調査団長も辞意を
固めていることが明らかになっている。
3
こうした事実はオニール前米財務長官の発言と合わせて、イラク戦争に米国の正当
性が全くなかったこと、ブッシュ大統領の不正義の戦争であったことをより強く示して
いる。
2・・大量破壊兵器の米調査団長辞任、捜索チームを大幅に縮小へ
「イラクで大量破壊兵器(WMD)を捜索する米調査団の団長のデビッド・ケイ米中央
情報局(CIA)顧問が、1月にも辞任する意向を固めていると、複数のメディアが18日、
米政府関係者らの話として報じた。「決定的な証拠」が見つからないことに失望してい
るという。
ケイ氏は10月、「WMDの存在を示す具体的な証拠は未発見」との暫定報告をまと
めた。次の報告は来年2月の予定だが、これを待たずに辞任する意向。その理由とし
て「具体的な成果があがっていないことに、ケイ氏は失望感を強めている」とロイター
通信に語った。
ケイ氏は元国連兵器査察官。6月以降、1400人を率い、生物・化学兵器や核兵器
などを捜索している。10月の暫定報告の際、「WMD計画の全体像をつかむには6~
9カ月かかる」と述べ、来年夏から秋にも最終報告をまとめる意向を示していた。
「戦争の大義」とされた大量破壊兵器の存在を裏付けないまま、調査団のトップが
任務を投げ出せば、欧州などから米国への批判が強まる可能性がある。 (朝日2003
年12 月19 日)
また、1月8日、米ニューヨーク・タイムズ紙が「イラクの大量破壊兵器(WMD)を捜索
していた米チームの一部400人がひそかに撤収していた」と報じた。
国防総省関係者は「調査に値するものは調査し終えた」と同紙に語り、WMDを発見
する可能性が小さくなったことを示唆した。
撤収した約400人はこのチームの中で、兵器貯蔵庫やミサイル発射装置の捜索を主
に担当していたとみられる。
ホワイトハウスのマクレラン報道官は8日の会見で、撤収について否定も肯定もせず、
「捜索チームは今後も活動を続ける」とだけ述べた。
一方、シンクタンクのカーネギー国際平和財団(ワシントン)は8日、「イラクのWMD
4
は、米国や世界の安全保障に対する差し迫った脅威ではなかった」と分析する報告
書をまとめた。
「米国に気づかれることなく、数百トンの生物・化学兵器や何十発のスカッドミサイル、
関連工場などを破壊したり隠したり、国外に持ち出したりできたとは考えにくい」と指
摘している。
米政府の国家情報評価報告書(昨年10月)がWMDの脅威を強調した背景につい
て、「情報当局が政策立案者から影響を受けたからだ」と指摘。ブッシュ政権中枢の
「圧力」を批判した。 (朝日1月9日)
関連記事
-
-
『Z世代のための昭和史の謎解き』『憲法第9条と昭和天皇』ー<憲法9条(戦争・戦力放棄)の最初の発案者は一体誰なのか>「マッカーサーによって押し付けられたものだ」、「GHQだ」「いや,幣原喜重郎首相だ」「昭和天皇によるもの」―と最初の発案者をめぐっても長年論争が続き、決着はいまだついていない。
2019/09/17 『リーダーシップの日本近現代史』(3 …
-
-
『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史①』●131年前の日韓第一次戦争(1882年の京城事変、壬午軍乱)
『各国新聞からみた東アジア日中韓150年対立史①』 ● …
-
-
★『地球の未来/明日の世界どうなる』< 東アジア・メルトダウン(1079)>『米朝開戦への行方』★『「北朝鮮を完全破壊するほか選択肢ない」 トランプ大統領、国連総会で演説』●『安倍首相:北朝鮮は不拡散体制の「最も確信的な破壊者」-国連演説』★『金正恩は「側近による暗殺」を恐れ核ミサイルから手を引けない』★『核施設のみならず一瞬で北朝鮮の全焦土化狙う米国 中露の支援断ち切るには不可欠、求められる日韓の覚悟』
★『地球の未来/明日の世界どうなる』 < 東アジア・メルトダウン(1079 …
-
-
日中北朝鮮150年戦争史(23)南シナ海、尖閣諸島での紛争は戦争に発展するのか。 『中国の夢』(中華思想)対『国際法秩序』(欧米思想)との衝突の行方は!(上)
日中北朝鮮150年戦争史(23) 南シナ海、尖閣諸島での紛争は戦争に発展する …
-
-
『Z世代のための米大統領選挙連続講座⑫』★『ミネソタ州・ウォルズ知事が副大統領候補の指名受諾演説を行った。』★『心にしみる「名演説」で選挙のテーマは「自由」,「リーダーとは何か」「あなたが求める人生を自由に送るために闘う」』
米民主党の全国党大会は8月21日、3日目を迎え、ミネソタ州のティム・ウォルズ州知 …
-
-
★『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む』(4)ー「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」●『(朝鮮政略) 一定の方針なし』(「時事新報」明治27年5月3日付〕』★『朝鮮は亡国寸前だが、李鴻章は属国として自由に意のままに支配しており、他国の侵攻の危機あるが、緊急の場合の日本側の対応策、政略は定まていない』★『北朝鮮リスクとまるで同じ』
★『アジア近現代史復習問題』 ・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(4) 「 …
-
-
『日中台・Z世代のための日中近代史講座①』★『辛亥革命を孫文を助けて成功させた最大の日本人は革命浪人・宮崎滔天』★『宮崎一家は“明治の奇跡”ともいわれた稀有な「自由民権一家」で、孫文を日本で10年以上匿い『中国同盟会」を結成させ、辛亥革命を成功させた」(上)
2011/10/21 日本リーダーパワー史(201)記事再編集 前坂俊之(ジャー …
-
-
『Z世代のための日中韓三国志のキーワード<福沢諭吉の脱亜論>の研究講座①』★『福沢諭吉の「脱亜論」と時事新報の主張に全面的に賛成した』上海発行の英国紙「ノース・チャイナ・ヘラルド」1884(明治17)年5月2日』
逗子なぎさ橋通信、24/0707/am11]逗子海岸 …
-
-
『Z世代のための鈴木大拙(96歳)研究講座』★『平常心是道』『無事於心、無心於事』(心に無事で、事に無心なり)』★『すべきことに三昧になってその外は考えない。結果は死か、 生か、苦かわからんがすべき仕事をする。 これが人間の心構えの基本でなければならなぬ。』
2018/12/14 記事再録/ …
-
-
『5年前の記事を再録して、時代のスピード変化と分析ミスをチェックする』-『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか⑤』★『アベノミクスで政権100日は成功、この難題山積のナロウパス (細いつり橋)を素早く突破しなければ、日本の明日は開けない』★『スピード突破できずTimeout、釣り橋から落下の運命が迫りくる?』
★『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか ー―日本興亡150年史』⑤― < …
- PREV
- 正木ひろしの思想と行動('03.03)
- NEXT
- 「センテナリアン」の研究
