前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

世界史の中の『日露戦争』⑧「ロシアが日本側の要求を認めない限り戦争は必至」1904年1月『タイムズ』(開戦2週間前)

      2016/01/17

 『日本世界史』シリーズ

 

世界史の中の『日露戦争』⑧-英国『タイムズ』

米国「ニューヨーク・タイムズ」は「日露
戦争を

どう報道したか」を読む⑧

 

『開戦必至の情勢』―「ロシアが日本側の抑制した

要求をめない限り戦争は避けられない」1904(明治37

121日『タイムズ』<開戦2週間前>—

 

極東発の今朝のニュースは交渉によって円満な解決が達せられない場合に備えた準備に関するものばかりだ。昨日,天皇の枢密院は,緊急の際にしか公布されない勅令の草案をいつくか採択した。

これは日本の海上防衛,鉄道による兵員輸送、野戦郵便業務の組織化に関するものだ。内債を募集する措置が講じられているが,自発的な寄付金がすでに国庫に流入するほど愛国心が高まっているので,内債も迅速にさばけるに違いない。ヨーロッパ大陸から絶えず流される融和的な報道を日本人がほとんど真に受けていないことが,これで十分に示される。

 

朝鮮と中国では,それほど心強い見通しは立っていない。朝鮮政府が「再建された」という情報があるが,ともかくどの方向で再建が達成されたのかが分かるまでは,この情報から得られるものはたいしてない。朝鮮政府は「ミコーバーのように」楽天的だと言われている。

 

だが,朝鮮の兵士がもめごとを起こしているというロシアの抗議に対して勇気を奮い起こして与えた回答から見て,朝鮮政府は,「何かを起こす」のはロシアの側ではないと予想しているようだ。

ロシアには朝鮮の辺境問題に干渉する権利はないと,一朝鮮政府はパブロフ氏に率直に通告した。このような自己主張がなされたので,この熱烈な朝鮮独立の旗手はびっくりしたはずだ。これが再建の結果ならば,これは日本の政策に不利なものではなかったと見ることができよう。

地方がますます動揺しているため日本人は不安になっているが,朝鮮の新しい支配者の能力または無力さが早くもこれで試練にかけられるだろう。中国も日本と同様に,情勢が平和な結末に至るとは信じていないようだ。

 

そして.緊急事態への準備を独自に進めている。袁世凱は直隷と満州との境を防備する措置を講じる決意をしたという。また,南京と武昌の総督たちは精鋭部隊を表の指揮下に組み入れているという。袁の兵士はヨーロッパ人に訓練を受けており,公使館の解放の際に連合軍をあれほど悩ませた馬将軍の兵士よりも優秀だという評判だ。彼が26000のこの部隊を境界地帯に配したと言われているので,万一の場合にロシア軍はこの部隊を監視するためにかなりの兵力を割かざるを得ないかもしれない。

ロシア皇帝の側近の中の「大物」たちの見解と言われているものが,親露的なアメリカ紙の通信員から伝わってくるが,その報道をどのくらい信用したらよいのか判断しがたい。

しかし,実際にこの報道がペテルプルグの有力者たちの意見を示しているのなら,われわれは外交的な解決に絶望せざるを得ない。戦争か平和かの鍵を握るその人々が,「ロシアは満州を自国の領土として必要とし,要求する」ことに決めて,「朝鮮の中のロシアの利益圏(とでも言うべきもの)における日本の支配や優位をロシアは認めることができない」という結論に達しているのなら,話合いの余地はあまり残されていない。

さらに,満州の「門戸開放」に関する日本とアメリカの各条約が批准された後でも,ロシアはまだ最終的な見解を表明していないことをこの報道が示しているのなら,われわれはニューヨーク・トリビューン紙の警句的な意見に同意する。

この件では「不愉快な紛争」が持ち上がりそうだというのが,他のどの新聞よりもルーズヴェルト政府の考えをよく反映していると見られているこの新聞の

意見だ。伝えられるところでは,アレクセーエフ提督はこの対米条約によって「自分の立つ瀬はなくなる」と述べている。

 

 実際そうであるにせよ,ないにせよ,われわれが合衆国を誤解していない限り,合衆国は,ロシアが他の列強と同様に合衆国にも与えた約束に従ってこの条約が厳格に履行されるものと考えている。

 本紙は今日,消息に通じた通信員が送ってきた,ロシア皇帝が専制権力を行使する方法に関する興味深く有意義な記事を掲載する。本紙通信員は,モーリー氏が称賛を込めて引用した生き生きした逸話,想像力に富む無知の所産に過ぎないと一蹴する。

この最近の逸話は,皇帝陛下は平和のために自らの意思を頑固な官僚に押しつけようとむだな試みをしているというものだ。また,ニコライ2世は重要問題について十分な報告を受けていないことがよくあるという,それほど疑わしくはない説も否定した。

同通信員によれば,皇帝は非公式な数々の情報源を握っているので,大臣が計画的に欺こうとしても必ずばれるはずだと言う。これは,ロシア皇帝が他国の君主同様じきじきに細心の注意を払っている外務当局について特にあてはまるという。

ロシア皇帝は,その広大な領土で唯一の立法者であると同時に行政機関の首長でもある。十分に強い性格と仕事の能力があれば,帝国の立法と行政の両方を効果的に管理することができる。皇帝の同意なしに着手できる立法処置は1つとしてないが,立法は彼の職務の中でいちばんやさしいもののようだ。

 

だが行政はずっと難しい仕事に違いない。なぜなら,「通常の行政運営の中で,現在の法律や規則に例外を設けるのが望ましいと見なされると」,その件は必ず

皇帝の指示を仰がなければならないが「通常の行政運営の中で」ロシアの官僚が法律や規則に例外を設けたいと思うことは周知のようにきわめて多いからだ。皇帝はどんな問題についても,閣僚の助言や自分で選んだ者の助言を求めることができる。

あるいは「独断で」行動することもできる。しかし,決定権は彼にあり,彼にしかない。この決りは対外問題でも同様だ。ロシアにかかわるすべての問題は覚書の形で皇帝へ報告される。

覚書の中で外務省は,ロシアの利益がどのような影響を受けるかを念入りに説明して,採用すべき方針を提案する。皇帝は大臣に助言を求めることもあれば,覚書の傍注の形で大臣に命令を与えることもある。

だがいずれにせよ,「拝聴するのは従うこと」なのだ。それが決りだ。

 現在の危機が始まって以来,例外が設けられたが,この例外が有効かどうかは見たところ疑わしい。「極東総督」は,外務省を飛び越えて皇帝と直接連絡する権限を得ている。また,中国,朝鮮,日本駐在のロシアの外交代表を配下に置いている。

 - 戦争報道 , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
『難民・移民問題を考える』 ウィリアム・レイシー・スウィング国際移住機関(IOM)事務局長の日本記者クラブ会見動画(60分)(2016.2.25)

『難民・移民問題を考える』 ウィリアム・レイシー・スウィング国際移住機関(IOM …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(169)記事再録/『亀岡市レジ袋禁止条例ガンンバレ』★「30年間カヤック釣りバカ老人の鎌倉海定点観測」-『海を汚染、魚を死滅させる有毒マイクロプラスチックが食物連鎖で最終的に魚食民族・日本の食卓を直撃する』★『プラスチックを規制し、1人年40 枚にレジ袋を減らす規制をしたEU対1人が年300枚のレジ袋を使う日本はいまだ規制なし』

    2018/06/22 / 記事再 …

no image
終戦70年・日本敗戦史(143)陸軍参謀総長の栄光と悲惨ー日清戦争の川上操六、日露戦争の児玉源太郎と比べて東条英機のインテリ ジェンスは10分の1ー辻政信参謀の「無謀・横暴・乱暴」

終戦70年・日本敗戦史(143) <世田谷市民大学2015> 戦後70年  7月 …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(314)★『戦略眼からみた世界サッカー戦国史』①ー『W杯ロシア大会と日露戦争(1904)の戦略を比較する。西野監督は名将か、凡将か➀-8回連載公開

                   前坂 俊之(ジャーナリスト) & …

『Z世代のための昭和100年、戦後80 年の戦争史講座』★『日本の戦略思想不在の歴史⑴」★『日本で最初の対外戦争「元寇の役」はなぜ起きたか①』

  2017年11月13日、『リーダーシップの日本近現代史』(66)記 …

『Z世代のためのオープン講座』★『2022年の世界情勢はどう変化したのか(上)』★『米中間選挙の結果は?下院は共和党、上院は民主党が維持へ』★『トランプ氏が機先を制して出馬表明』

  前坂俊之(静岡県立大学国際関係学部名誉教授)   202 …

no image
日本メディア(出版、新聞、映画など)への検閲実態史➀『世界、日本の検閲史』★『徳川時代の検閲制度』★『「明治初期の言論恐怖時代″』★『大正の大阪朝日新聞「白虹事件」』★『出版警察の核心・検閲は発売頒布禁止で』 

日本メディア(出版、新聞、映画など)の検閲史 ➀    20 …

no image
『2018年「日本の死」を避ける道・日本興亡150年史』⑤『アベノミクスで政権百日は大成功、このナロウパスを突破せよ』(上)

★『2018年「日本の死」を避ける道はあるのか ー―日本興亡150年史』⑤― < …

no image
『リーダーシップの日本近現代史』(103)記事再録/『日露戦争の勝利に驚愕したヨーロッパ各国』★『ナポレオンも負けた強国ロシアに勝った日本とはいったい何者か、パリで最高にモテた日本人』★『「あの強い日本人か」「記念にワイフにキスしください」と金髪の美女を客席まできてキスを求めたかと思うと、店内の全女性から次々にキスの総攻撃にあい、最後には胴上げされて、「ビーブ・ル・ジャポン」(日本バンザイ)の大合唱となった、これ本当の話だよ』

2017/06/16  /日本リーダーパワー史(826)『明 …

日本リーダーパワー史(652) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(45)日清戦争勝利、『三国干渉』後の川上操六の戦略➡『日英同盟締結に向けての情報収集に福島安正大佐をアジア、中近東、アフリカに1年半に及ぶ長期秘密偵察旅行に派遣した』

  日本リーダーパワー史(652) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(45)  …