片野勧の衝撃レポート(32)太平洋戦争とフクシマ⑤悲劇はなぜ繰り返されるのか▶ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」❺
太平洋戦争とフクシマ⑤
≪悲劇はなぜ繰り返されるのかー
★「ヒロシマ・ナガサキからフクシマへ」❺
片野勧(ジャーナリスト)
福島から江東区の東雲住宅に避難
福島第1原発の事故で福島県から県外に避難した人は6万2736人(復興庁調べ、2012年4月5日現在)。うち3割は東京周辺の1都3県。東京都江東区の国家公務員宿舎・東雲住宅では、全国で最も多い約1200人が慣れない生活を送っている。
その公務員宿舎を訪ねたのは2012年3月13日。1年が過ぎていた。個人情報保護法で個人的には中に入れないので、東京都の建設課を通して取材を申し込んだ。
浪江町加倉下から避難してきた豊島力さん(76)は息子さんと暮らす。福島第1原発から12キロ圏内。彼に話を聞いた。
――福島第1原発が水素爆発してすぐ避難したのですか。
「そうだ。避難先は浪江町津島のJA津島支店の会議室。ところが、津島は放射線量が最も高いところと知ってびっくりした。俺もきっと内部被曝しているかもしれない」
――いつ、江東区の高層住宅に来たのですか。
「震災から約1カ月後の2011年4月19日だ。浪江では田んぼと畑をやっていたけども、それもできないのが悔しい。米や野菜を兄弟に送っていたけども、それも送れない」
――戦争体験はありますか。
「小学4年だったから、記憶にない。ただ、満州から引き揚げてきて、浪江に開拓団として入ってきた人は多くいた。でも、その開拓地も放射能でダメになっちまった。これが俺として一番、情けない。涙が出てくるよ」
三澤宏造さん(70)は南相馬市小高区から避難。居酒屋を営んでいた。彼にも話を聞いた。
――戦争体験は?
「当時、3歳だったけれども、子供心に覚えています。原町にも飛行場があって、そこへ艦載機が爆撃をしてきました。防空壕の中へ逃げましたよ」
――南相馬市は20キロ圏内ですか。
「うちは16キロぐらいかな。すぐに避難ですよ。避難したあと一度、店に戻ったが、グチャグチャ。足の踏み場もない状態。片付けもしないでそのまま避難したから、冷蔵庫の中は腐った匂いでいっぱい。電気を落としているから、ものすごい匂いですよ」
東電の悪口ばかり言うのもおかしい
――政府や東電にどんな思いをお持ちですか。
「東電、東電というけど、やっぱし政府だな、悪いのは。国策でつくったのだから。いつまで住めるかもわからない。法律では2年ぐらいしか住めないとか言って、規制が厳しい。それならば、原発に対する新しい法律をつくればいい。原発事故は初めてのことなんだから。自分の家があるのに、なぜ帰れないのか、悔しいよ」
――原子力はクリーンなエネルギーで絶対安全と言い続けてきた政府が、まず問題ですか。
「想定外とか言って東電ばかりを責めているけど、『絶対安全』と言ってきたのは自民党だ。たまたま民主党になって事故が起きたわけだから、与党とか野党とかは問題ではない。みんな一緒になってやってもらわないと困るんだよ
。何かあると東電が悪い。東電いじめばかり。もちろん、東電も悪いのだけども、町は原発で支えられてきた部分もある。原発があるおかげで働く場所もできて、雇用が生まれたということもあるよな。それで事故が起きると、掌を返したように東電の悪口ばかり言うのも問題だよ」
――原発事故は被害者であると同時に加害者でもあるわけですね。
「東電を認めてきたわけですからね。我々も反省しなければならないけれど、絶対安全だということに洗脳されてきた。まさか、こんな事故が起きるとは誰も想像していなかった。だから、確かに東電は悪いが、政府も自治体も悪い」
――ほかの原発についても同じことが言えそうですね。
「原発事故はたまたま東電で起こったが、どこでも地震が起き、津波が来れば、原発事故は起こり得る。今回と同じ規模の地震が来れば、福井県や新潟県で原発事故は起こる可能性はある。だから、国になんとかしてもらわないと困るのだよ」
三澤さんに対するインタビューは延々と続く。
――仕事もなく、どうして生活しているのですか。
「貯金を切り崩しているだけ。東電にはまだ請求していない。3回、請求してくださいと言ってきたけど、たかだか慰謝料一律10万円と、その決め方に問題があると思うから。慰謝料は個人差があってしかるべきなのに、一律10万円なんて納得できないよ」
三澤さんの場合、原発事故が起こってからの避難先は転々とした。地震当日は南相馬市小高区の中学校に一晩。次の日の午後、水素爆発が起こると、危ないから北へ逃げなさいといわれ、原町の石上第一小学校に3日間。屋内退避で外出は禁止だった。
さらに、そこも危ないということから廃校になっていた旧相馬女子校に3日間、避難生活を送る。三澤さんの奥さんは松葉杖をついていて、洋式トイレがないから、仮設トイレには入れない。皆、それぞれ生活スタイルも違い、千差万別。だから、慰謝料一律には納得できないのだという。国がある程度、基準を示してくれなければ……。
国家の嘘、国家の隠蔽
さらに国の対応についても怒りを込めて、こう語る。
「国はメルトダウンしているのを知っていながら、発表しなかった。相当危機的状況になっていたにもかかわらず、政府はお首にも出さないで、2011年11月に収束宣言を出すなんて、この国はおかしいよ」
国家の嘘。国家の隠蔽。私は三澤さんの話を聞いていて、沖縄の普天間移設問題を思い出した。「最低でも県外」「移設先の腹案がある」。だが、それは虚言だった。
「沖縄の人々にお詫び申し上げないといけない。すべてを県外に、というのはなかなか難しい」
2010年5月4日。当時の鳩山由紀夫首相は沖縄を訪問し、「国外、最低でも県外」という持論を撤回した。そして移設先は事実上、名護市の辺野古に戻ってしまったのである。
私は2年数カ月、沖縄に住んで、何度か辺野古の海辺で座り込みを続け、反対運動の先頭に立っている人たちを取材したことがある。彼らは異口同音に語っていた。
「辺野古を撤回させるまで、座り込みは絶対にやめない。沖縄にだけ負担を押し付けて、政府はいったい何を考えているのか」
この取材時はまだ自公政権で、民主党政権が誕生していないころだった。ところが、民主党に政権が移り、鳩山内閣が誕生すると、「最低でも県外」という甘い言葉を投げかけたのである。
もちろん、住民は鳩山首相を信じたに違いない。しかし、それはウソだったのだから県民の怒りは収まらない。那覇市に住んでいる友人・真栄里泰山さん(67)はこう伝えてきた。真栄里さんとは、かつて「空襲・戦災を記録する会」全国連絡会議でよく話し合った仲である。
「こんなウソで県民を騙すなんて、政治家として恥ずかしくないのかね」
これは3・11「東日本大震災」にもいえる。原発事故直後から重要な情報を隠蔽し、矮小化する。福島第1原発は次々と爆発しているのに、政府は「ただちに健康に影響はない」と繰り返した。この言葉は枝野幸男官房長官(当時)によって繰り返し使われ、「2011年新語・流行語大賞」にノミネートされた。
片野 勧
1943年、新潟県生まれ。フリージャーナリスト。主な著書に『マスコミ裁判―戦後編』『メディアは日本を救えるか―権力スキャンダルと報道の実態』『捏造報道 言論の犯罪』『戦後マスコミ裁判と名誉棄損』『日本の空襲』(第二巻、編著)。『明治お雇い外国人とその弟子たち』(新人物往来社)。
続く
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