前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

『オープン歴史講座』・なぜ日本は21世紀のAIデジタル世界で後進国に転落中なのか』★『「桜田義孝五輪相のお笑い国会答弁とゾッとするサイバーセキュリティーリスク』★『国家も企業も個人も死命を分けるのは経済力、軍事力、ソフトパワーではなく『情報力』である』★『サイバー戦争で勝利した日露戦争、逆にサイバー戦争で完敗した日米戦争』』

   

   2018/12/03世界/日本リーダーパワー史(956)記事転載

★『サイバー戦争で勝利した日露戦争、逆にサイバー戦争で完敗した日米戦争』

あと1年半後に迫ってきた東京五輪・パラリンピックでサイバーセキュリティ基本法改正案を担当する桜田義孝五輪相(68)が国会答弁で11月14日、「自分でパソコン(㍶)を打つことはありません!私の事務所や国が総力を挙げて総合的にやることだ。落ち度はないと自信を持っている」」と胸を張って断言したのが、メディアで大きな話題となった。

日本メディアも野党も鬼の首でも取ったように一斉批判し、海外のメディアのバッシング報道をいつものように大きく伝えている。

「コンピューターを使わない人も多いが、その多くは国家のサイバーセキュリティーを担当してはいない。でも、日本ではそういう人が実際にいるのだ」(ニューヨーク・タイムズ紙)、ロイター通信は「桜田大臣はパソコンを使っていないので、ハッカーが標的にしても、情報を盗むことはできないだろう」と皮肉をこめて報じた。

そうかと言えば、「経団連会長に中西宏明氏(日立製作所会長)が就任した5月、経団連会館の会長室に初めてPCが設置された」との読売(10/24朝刊)にも驚きの声が広がった。会長就任した中西氏が会長執務室に初めてPCを持ち込んで、これからはPCで事務局の役員、職員に施策の進展などを問い合わせる。過去にこの部屋でPCを操る会長はいなかったので職員が「最初は本当に驚いた。これが中西さん流だ。主に紙でやり取りしてきた職員の働き方を変えようとしている」とう言う内容だ。

メディアもSNSも「ウソ―!?、トンデモない」との反応だが、私は驚かない。

すでに20年以上も前から日本のIT国際競争力は低下の一途で、先進国では最低レベル、アジア各国にも負けていることは新聞では大きく報じているではないか。

いずれにしても、現在、急進中の21世紀のAIデジタル・スマホ時代に、この国の「ガラパゴスジャパンシステム」は100年前からアナログ時代から脱皮できず、情報原始人のままで右往左往している情けない実態が見えてくる。

現在の政治の貧困も、経済の停滞も国民の知的レベル、ITリテラシーレベルの総和である。国家も企業も個人の命運を分けるものは経済力、軍事力、ソフトパワーではない。『情報力』こそが死命を決する。

今年は明治維新から150年だが、日本は約70年おきに勝利と敗北のサイクルを繰り返してきた。日露戦争の勝利、太平洋戦争の敗北、日米貿易戦争の勝利と敗北の興亡サイクルである。

明治の日露戦争の勝利は「二〇三高地」の攻防戦、「奉天会戦」などの大陸での白兵戦以上に日英同盟とその秘密協定の日英軍事協商、情報・諜報の全面協力体制であり、その通信網と海底ケーブル敷設を児玉源太郎参謀総長が全面整備したことだ。

また、連合艦隊三十二艦すべてに当時、最新鋭の無線電信機を配備し,いまでいうなら、IT技術者の無線電信技士も急きょ40人養成し各艦に配置した。一方、ロシア側の通信技術は英米よりも大幅に遅れており、日本側の通信妨害も全くできなかった。この日本海周辺の無線通信体制の整備によってバルチック艦隊の航行位置をスピーディに把握して世界の海戦史上に輝くパーフェクトな勝利を収めた。いわば日露サイバー戦争の勝利といえる。

「100年に一度の軍事的天才」と日本陸軍を作ったドイツ・メッケル大佐が折り紙を付けた児玉源太郎の「インテリジェンス」の勝利であった。

一方、太平洋戦争は日露戦争の真逆のケースで日米サイバー戦争の完敗である。

日本海軍の暗号は1936年(昭和9)、ドイツから暗号機械エニグマを買い入れ、改良して作ったものだが、米軍は「暗号の天才」フリードマンらが1940昭和15年)8月に、この暗号を解読する九七式印字機の模造機制作に成功した。ルーズヴエルト大統領は、解読された日本の外交電報に常に目を通しながら戦略を練っていた。ニミッツ米海軍太平洋艦隊司令長官も、この暗号解読で得た日本側の作戦情報を分析、日本側の裏をかく「待ち伏せ作戦」を展開し、高性能のレーダーで日本の機動部隊の位置を確認して、先制攻撃を加えた。これによってミッドウエー作戦で日本海軍の虎の子の空母4隻を撃沈した。

1943年(昭和18)1月、伊一号潜水艦がガダルカナル沖で座礁した。中には艦船・基地の呼出符号一覧表や古い暗号書が残された。米海軍はこれを回収、日本海軍の最新の編成や配置を読み解いた。4月18日、山本五十六長官の前線視察日程を知った米海軍は、ブーゲンビル島上空で陸軍P38戦闘機隊を待ち伏せさせて、山本長官機を撃墜し、暗号解読がバレないように様々な偽装工作を行った。結局、暗号システムの基本が解読されると、乱数表をいくら取り替えても、すぐに解読されてしまうことに日本側は無知であった。

山本長官撃墜事件(海軍甲事件)を調査した海軍委員会は、「この撃墜は山本長官行動予定の電報を解読せねば不可能。しかし、この電報の解読は強度最高のD暗号を使用しているので理論的には不可能。偶然に遭遇したと判断せられる」と結論した。

ITサイバー技術、情報戦の完敗である。敗戦末期、米軍の本土上陸に備えて日本軍の防衛戦術は時代錯誤の「特攻機」と「竹やり戦術」(荒木貞夫陸軍大臣が竹槍が300万本あれば日本の防衛は可能とする主張)だった。

今、働き方改革、過労死、長時間労働が国会で論議されているが、一番重要なのは「IT,サイバー技術による情報力の強化と知的武装」であろう。

 - 人物研究, 戦争報道, 現代史研究, IT・マスコミ論

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

日本リーダーパワー史(633)日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(26) 『川上操六参謀次長の田村怡与造の抜擢①<田村と森鴎外にクラウゼヴィッツ兵書の研究を命じた。これが日露戦争の勝利の秘訣となった>

 日本リーダーパワー史(633) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』(26)   …

スクープ!?材木座海岸沖に謎の「大クルーザー?」か、(2019/11/10pm3)『世界第129番目のロシアの大富豪所有の世界最大の超豪華クルーザー(建造費350億円)が逗子マリーナ沖に突然出現!』

この豪華モーターヨットはロシアの大富豪 アンドレイ・メルニチェンコ氏の所有するメ …

no image
世界が尊敬した日本人②ハリウッドでトップに立った国際スター・早川雪洲

1 2004、12,1 世界が尊敬した日本人②ハリウッドでトップに立った国際スタ …

no image
日本リーダーパワー史(150)空前絶後の名将・川上操六(24)ーインテリジェンスの父・川上の決断力のすごさ

 日本リーダーパワー史(150) 空前絶後の名将・川上操六(24)   …

no image
日本メルトダウンの脱出法(546)「防衛を巡り同盟国が米国を非難リスク」(英FT紙)「国益を毀損させ続けてきた東大の重罪軍事」

   日本メルトダウンの脱出法(546)   <2 …

no image
速報(192)『日本のメルトダウン』世界軽蔑劇場―<オリンパス、大王製紙、巨人内紛、50年福島原発騒動>日本沈没上演中!

速報(192)『日本のメルトダウン』 世界軽蔑劇場―<オリンパス、大王製紙、巨人 …

no image
速報(83)『日本のメルトダウン』●小出裕章『全国原発で使用済み燃料を密に詰めなおし余裕を切る』など2本

速報(83)『日本のメルトダウン』 ●小出裕章(情報2本)『全国原発で使用済み燃 …

no image
<まとめ>金子堅太郎について―日本最強の外交官はルーズベルト米大統領をいかに説得して日露戦争を有利に進めたか

<まとめ>金子堅太郎について ―日本最強の外交官・金子堅太郎はルーズベルト米大統 …

日米野球史「ベーブ・ルースを超えた二投流・大谷翔平」と「日本の野球の神様・川上哲治監督の「巨人9連覇達成」

  エンゼルスの大谷翔平選手のペースがますます上がってきた。6月は月間 …

no image
日本リーダーパワー史(864)ー『トランプ政権迷走の丸1年―通信簿はマイナス50点』★『歴史上、重大な役割を演じてきたのは、狂人、妄想家、幻覚者、精神病者である。瞬時にして権力の絶頂に登りつめた神経症患者や偏執狂者や精神病者の名は、歴史の至るところにあらわれるが、彼らは大体、登りついたのと同じくらいの速さで没落した』

日本リーダーパワー史(864) トランプ政権迷走の丸1年―1918年世界はどうな …