日本リーダーパワー史(789)「国難日本史の復習問題」 「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、リスク管理 、インテリジェンス⑥』★『この戸水寛人の日露戦争1年前に出版した『東亞旅行談』●『支那ハ困ッタ国デス 何処マデモ 亡國ノ兆ヲ帶ビテ居マス』★『もし日本の政治家が私の議論を用いず、兵力を用いることを止めて、ただ言論を以てロシアと争うつもりならば失敗に終る』
2017/03/26
日本リーダーパワー史(789)
「国難日本史の復習問題」
「日清、日露戦争に勝利」した明治人のリーダーパワー、
リスク管理 、インテリジェンス⑤』
この「7博士の意見書」に対しては、以下のような批判が出ている。
➀遼東還付条約は下関条約では認められた割地を取り下げる約束を三国にしていたので,遼東半島不割譲を清国に認めさせることはできない。
②日本軍がドイツの膠州湾の占領、租借を阻止した場合、ロシアがドイツと共同して参戦する可能性があり、日本にイギリスが賛同するかどうか疑わしい。
③軍事力で日本はロシアに明白に劣っており、陸海とも、ヨーロッパからの援兵が即時あれば、日露戦争の不利は免れない。
④日本政府の妥協案「満韓交換論」をロシアが拒否し朝鮮半島全域にこだわったことについては博士側は無知で、当時の学問レベルでも法理を十分に理解していないーーーなどなどで政府の外交にくちばしを入れるなと批判をしている。
しかし、三国干渉以来のロシアや西欧列強の強圧的、満州、朝鮮、日本への侵攻を詳細見ていくと、7博士の指摘した日本外交、日本政治の現在にまで延々と引き継がれている問題点とその底にある
日本人の行動形式、対外交渉、コミュニケーションの「弱点」「宿病」が見えてくる。
➀自分の考え、国益を大声で、発言、主張しない弱さ。相手がどう思うかをまず考える「察する文化」「KY文化」、無言、沈黙の控えめ文化。ケンカや口論をしてはいけない、仲良くしなさいという友好親善掛け声文化の偽善、『強硬決断論を嫌い、すべて先送りする優柔不断の文化』が自滅につながる。
②周りを見ながら他律的に行動する。事態の対応に逡巡し、迷ってなかなか決断しない。このため事態の解決への決断を先の延ばしする。
③会議、会議で話し合い時間を潰す。会議は踊るされど決せず。根回し主義、全員一致主義、対応のスピード、変化のスピードが決定的に遅い。
④そのため機会(チャンス)を逸して、後手後手にまわる。ピンチをチャンスにできない。
最後にはどうしょうもなくて追い詰められ誤った決断をしてしまう。
⑤結局、最初に徹底した情報収集と分析ができておらず、『熟慮断行』のインテリジェンスの欠如。
⑥総合的なインテリジェンス機関のない(頭脳)のない珍しい国、企業群。国も企業も個人もオレオレ詐欺に一番引っかかりやすい「甘い国」。激変する世界で、政府も国民のんびりしたもので、危機意識はなく、その国民意識の反映が「情報感度ゼロ」になる。
明治史をふりかえると、朝鮮をめぐっての「征韓論」の対応で、西郷隆盛、大久保利通の2大巨頭による国内分裂、内戦の「西南戦争」に発展し、明治10年以降、日清戦争(同27年)勝利、日露戦争(同37年)勝利と、30年かけて、やっと朝鮮、中国、ロシアとの対外紛争に一応の決着をつけたが、この間,約40年の歳月を費やし多数の人的犠牲、経済的損失を出した。
「7博士の建白書」や若手軍人の湖月会の『早期開戦論』のつき上げや世論の盛り上がりがなければ、伊藤博文、山県有朋、政府首脳、メディアの「恐露病患者」「非戦論者」らとの綱引きで、この日本病によって時機をつぎつぎに疾していった可能性は高いと思う。
『帝大七博士事件」をめぐる輿論 と世論 メディアと学者 の 相利共生 の 事例 と し て
(宮 武 実 知 子 関西大 学非常勤 講師)」
「7博士の建白書」のリーダーの戸水寛人はロシアの侵攻に対して『強硬論』を唱えた人物として「バイカル博士」とあだ名された。日露戦争で勝利し、バイカル湖以東のシベリアを占領せよとまで主張したので、この飛んでも人間として「バイカル博士」の名がついた。
戸水寛人
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%B8%E6%B0%B4%E5%AF%9B%E4%BA%BA
この戸水の危機意識はどこから来たのか。それは日露戦争1年前に書いた『東亞旅行談』(有斐閣書房・東京堂 明治36年)に示されている。
愛知大学現代中国学科教授・樋泉克夫氏がブログ「知道中国」で、この本の内容を詳しく紹介されているのを発見して、目から
ウロコが落ちた。
【知道中国 1534回】
――「支那ハ困リタ國デス何處マデモ亡國ノ兆ヲ帶ビテ居マス」
で知った。戸水の早期開戦論の定義の理由がこの中で述べられており、大変参考になった。この書の内容を紹介しているので、以下で引用させていただく。
戸水の旅行は明治35(1902)年9月から11月の間、滿州、蒙古、北清、朝鮮を漫遊した。敦賀からウラジオストック、グロデコフ、ハルピン、旅順、「ダルニー」、旅順、芝罘、牛荘、錦州、山海関、秦皇島、山海関、天津、北京、張家口、「ハノルパ」、「トウタイ」、「チャーカントラハイ」、張家口、北京、天津、芝罘、仁川、京城、仁川、釜山、長崎に帰国した。
「若し日本の政治家が私の議論を用いずして、兵力を用いることを止めて、ただ言論を以てロシア争うつもりならば失敗に終るでしょう」。「若し日本の政治家が兵力を用いる積りならば、旅順の裁判權問題はまことに小問題です」と書いている。
戸水は現地をしっかり見ることで、中国、朝鮮、ロシアとは外交交渉を何年続けても、らちがあかず、武力による決着しかないと見たのである。当時も今もロシアとの北方領土交渉を延々と続けているが「ロシアと争う積りならば」、「ただ言論を以て」するだけでは事態は解決に向って動かないと断定したのだ。
この見通しが、正しかったのか、間違っていたのかは、今振り返ると明らかであろう。
➀「強盗がたくさん居る」というウラジオストックでは「初から人を殺」すその手口から、「卑怯と殘忍はロシア人の性質でありませうかしらぬ」
②ロシア人が賄賂を好むことは支那人と違わない。上流社会も下流社会も同じ、税関の役人でも警察官でも賄賂を与えれば大抵の小惡は見逃して呉る。じつは「日本人中には恐露病者も多いが、ロシア内部の腐敗は甚しい。内部の腐敗したロシアを恐るに足らず、という。
③ウラジオストック経由で「滿州に入ろうとする日本人に対しては時として甚しき侮辱を加へ、乘車に防害を加へこれを監禁して平然たり」。ロシア政府が日本に対して「無法の解釋」を加えるのは「よく日本人民の鬪志がないことを看破するため」であり、それを甘受する「日本人民の意氣地なさとロシアの無法、無遠慮は天下の好一對である」と憤っている。
――これに関しては、昨年12月のプーチン来日に関して、山口でプーチン大統領機が1時間以上も遅れる無礼をして、北方領土返還に関してはびた一文譲らなかった安倍・プーチン会談のギャップを厳しく批判する日本メディアは全くなかったというのは、戸水の指摘がズバリであることを示していると思う。
④当時のウラジオストックの人口は1901(明治34)年1月1日段階の調査では37,597人。翌年に上陸した支那人はですら4万人以上。支那の出稼人が多く、「大抵は山東から來ている。居留日本人は三千人余。「日本の女て支那人の妾となっているものは三百人位と書いている。
⑤ロシア側にも最近、恐日病者が見られるようになった。日清戦爭で日本人は甚しき武勇をあらわし、北清事変でも連合軍中無類の武勇を表した」だけでなく、日本人が持つ地図が極めて正確だという評判であり、日露戰爭が起る時、日本人はこの地図を用いるから今から防禦が必要。日本人が滿州に入ることを妨害する」「特に軍事探偵を恐れ」、「?ば日本人を捕へる」。
⑥「若しも日本の陸軍が弱小であるならばロシア人は日本人を恐れない」。だから「日本が陸軍を弱小にすることは得策ではない」と主張している。
⑦「日本のある政治家がロシアの蔵相にあった時、『滿州で日本人を歡迎するからたくさんくる樣にして下さい』と言つたさうで其で日本の政治家は大いに悦んで「『だから戰爭などせなくても善い』と人に吹聽したさうです」。かくて戸水は「(ロシアの)蔵相のずるさ加減と日本の政治家の馬鹿さ加減はちよつと測量が出來ませぬ」と続けた。
以下は愛知大学現代中国学科教授・樋泉克夫氏の言である。まさしくこの通り。
「(ロシア)蔵相のずるさ加減」対「日本の政治家の馬鹿さ加減」という図式は、大東亜戦争最末期にソ連が見せた卑怯・卑劣千万な振る舞いのみならず、延々と続く北方領土交渉においても数限りなく、イヤというほどに見せつけられてきた。にもかかわらず、昨年末には蔵相ならぬ「元工作員の大統領」に3000億円である。一国民としては戸水ならずとも、「日本の政治家の馬鹿さ加減はちよつと測量が出來ませぬ」と嘆きたくもなる。
つづく
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