前坂俊之オフィシャルウェブサイト

地球の中の日本、世界史の中の日本人を考える

*

日本一の「徳川時代日本史」授業⑥ 福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の差別構造」(旧藩情)を読む⑥  

   

 日本一の「徳川時代の日本史」授業 ⑥

 

「門閥制度は親の仇でござる」と明治維新の立役者・

福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の

差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く

 

前坂俊之(ジャーナリスト)

 

徳川封建時代の武士はどのような社会、政治。経済環境の中で、

生活をしていたのか、福沢諭吉の「旧藩情」を読み解く⑥

「旧藩情」⑥

 

 これ等の事情をよって、下士の者は常に不平で満腹だが、かつてこの不平を洩すべき機会がなかった。その仲間の中にも、往々才能、実力に富み、品行のすぐれた者がなくはなかったが、このような人物は、必ず会計書記等の役職に採用さされるため、一身の利害に忙しくて、同類一般の事を顧みるひまがない。

非役の者はもとより智力もなく、かつ生計の内職に追われて、衣食以上のことに考える余裕もなく日一日を送るだけなので、二、三十年続けていると、下士の内ものだんだん繁盛して、最初はただ杉檜(すぎひのき)の指物、膳箱などを製造し、元結(もとゆい)の紙糸をひねるだけのものが、

次第にその仕事の種類を増し、下駄傘(げた・かさ)を作る者あり、提灯(ちょうちん)を張る者あり、或は、白木の指物細工に漆(うるし)を塗って品質を高めるものが増えた、或は、戸障子等を作って本職の大工より巧くなる者あり、それだけではなく、近年になっては手業(手工業)の外に商売を兼ねて、船を造って荷物を仕入れて大阪に海を渡る者あり、或は自からその船に乗る者もでてきた。


 もとより下士の輩が全員、商工に従事するものではないが、その一部分に行われれば仲間中の資本は間接に借りて、タンス預金などもでてきて、金の流通もはじまり、利潤もまた少なくなかった。藩中で商業が行われれば、上士もこれを傍観することなく、往々ひそかに資本を出す者でてくるが、如何せん生来の教育、算筆(そろばん勘定)に疎くて理財(経済・生計)に詳しくないため、下士に依頼して商法を行っても、空しく資本を失うかわずかな利潤を得るのみ。

 下士の輩はだんだん財産を増やして、衣食の足りるものが多くなる。すでに衣食を得て時間ができれば、上士の教育を羨むことになる。ここで、剣術の道場を開いて少年を教える者が出てくる(旧来、徒士以下の者は、居合い、柔術、足軽は、弓、鉄砲、棒の芸を勉強するだけで、槍術、剣術を学ぶ者は稀だった)。子弟を学塾に入れたり、他国に遊学させる者があって、文武の「風儀」
http://kotobank.jp/word/%E9%A2%A8%E5%84%80

がにわかに活発となり、また先きの算筆のみに満足しないものが増えた。ただし、その品行の厳格さと風流・品行では、未だ昔日の上士に及ばない者も少なくなかったが、概してこれを見れば品行方正の士といってよい。


 これに反して上士は、古より藩中無敵の好地位を占るがために、次第に堕落、衰弱するのは必然的な勢いで、二、三十年以来、酒を飲み宴を開く風習を生じ(元来、飲酒・会宴の事は下士に多くして、上士は質素であった)、

まことに徳川の末年、諸侯の妻子を解放して国元に帰えす命令が出だされたときは、江戸定府とて古来江戸の中津藩邸に住居する藩士も中津に移住し、この時は天下多事(重大事件)が続いて、藩地の士族もしきりに都会の地に往来してその風俗に慣れ、その物品を携えて帰り、中津へ移住する江戸の定府藩士は妻子と共に大都会の近代的で軽薄な生活タイルを田舎藩地の中心に持ち帰ったので、

すでに惰弱なる田舎の士族は、これに眩惑(げんわく)=めがくらんで、ますます華美軽薄の風に流れ、およそ中津にて酒宴遊興の盛んになったのは、古来、特にこの時が最高であった。故に中津の上等士族は、天下多事のために士気を鼓舞すべき時に、かえってこれがために懶惰不行儀(怠惰堕落不品行)の傾向を進める結果となった。


 このように、上士の気風はだんだん衰えるていき、逆に下士の力はしばらく進歩していった。一方に釁(きんー隙間)

http://kotobank.jp/word/%E9%87%81

ののできれば、他の一方においてこれを見逃さないのも自然の勢で、如何ともしようもない。この時に、下士の壮年にして非役なる者(全く非役ではなかったが、藩政の要路に関っていないもの)数十名っがひそかに相議して、当時の執権の家老を害そうとの企てがあった。中津藩においては古来未曾有の大事件で、もしこの事が三十年の前にあったならば、即日にその連中を捕縛して遺類

http://kotobank.jp/word/%E9%81%BA%E9%A1%9E

なきは(一網打尽)にしたことだろうが、如何せん(どうしようもない)、この時の事勢においてはこれを
抑制することができなかった。ついに姑息(こそくー一時しのぎ)
http://gogen-allguide.com/ko/kosoku.html

の策に出で、その執政を黜(しりぞけー罷免)
http://www.geocities.jp/growth_dic/honbun/zoukan-7359.html

て、一時の人心を慰めた。

 

二百五十余年、一定不変で続いてきた権力が平均を失い、その失墜が明らかになったのはこの事件が始めてであった。(事は文久三癸亥の年(1863)であった)
http://meiji.sakanouenokumo.jp/1863.html

 

 この事情によって維新の際になり、ますます下士族の権力を逞(たくましくー拡張され)

http://kotobank.jp/word/%E9%80%9E

 

れば、或は人物を黜陟(ちっちょく、罷免、登用すること)

http://kotobank.jp/word/%E9%BB%9C%E9%99%9F

、或は禄制(給与改定)を変革し、なお甚しきはいわゆる要路の因循吏(古いしきたりに固執する官吏)

http://kotobank.jp/word/%E5%9B%A0%E5%BE%AA

を首にして、当時流行の青面書生

http://kotobank.jp/word/%E9%9D%92%E6%9B%B8%E7%94%9F

が家老や参事の地位を占めて得意満面といった奇談をも出現することもあるのに、中津藩に限ってこのような変化はおきなかった。なぜなら、下等士族の輩が、数年以来、教育に熱心になったが、

その教育はことごとくみんな上等士族のやり方を真似たものだったのでその範囲を脱することができなかった。剣術の巧拙を争ったが、上士の内に剣客がはなはだだ多くいて、ちっとも下士にまけず。漢学の深浅を論じた場合も、下士の勤学は日浅くして、もとより上士の文学識に及ばなかった。

●<日本一の「徳川時代日本史」授業福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の差別構造」(旧藩情)を読む
http://maesaka-toshiyuki.com/top/detail/2407

 

 

 

 

 

 

 - 人物研究 , , , , , , , , , , , ,

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

長寿学入門(218)★人気リクエスト記事再録『2025年問題の解決に向けて「団塊世代は元気な百歳をめざそう』★『長生きの秘訣は若い医者や研究者よりも百寿者(センテナリアン)にこそ聴け』★『「おじいちゃん、おばあちゃんの口癖こそ長寿の秘訣の宝箱ですよ』

100歳現役学入門―団塊世代は元気な百歳をめざそう,<健康長寿の秘訣はこれじゃ> …

no image
日本リーダーパワー史 (23) 『ノーベル賞を超えた』ーエコロジーの先駆者・南方熊楠はすごいぞ・・尊敬!(中)

日本リーダーパワー史 (23) 『ノーベル賞を超えた』ーエコロジーの先駆者・南方 …

『オンライン/明治維新講義★『明治維新の元勲・大久保利通の性格は典型的な武士気質の「寡黙不言・決断断固実行型」★『ほとんど口をきかない。いつも葉巻タバコをふかし、全く寡黙で、周囲から恐れられた。』

    2016/11/09/ 日本リー …

「世界・日本リーダーパワー史(1700)『米国一のフェイクニュース戦争と韓国の内乱騒動(上)(25/01/15まで)』★『フェイクニュース戦争―英独仏首脳が憤怒』★『ウクライナ戦争について』★『トランプ氏の脅迫外交がエスカレート』

米国一のフェイクニュース戦争と韓国の内乱騒動(上) 世界一の覇権国家アメリカのト …

『オンライン講座/日本興亡史の研究⑧』★『児玉源太郎の電光石火の解決力④』★『明治32年1月、山本権兵衛海相は『陸主海従』の大本営条例の改正を申し出た』★『この「大本営条例改正」めぐって陸海軍対立が続いたが、児玉参謀次長は即座に解決した』

 2017/06/01  日本リーダーパワー史(8 …

『Z世代のための米大統領選連続講座⑭』9月10日(日本時間11日)討論会前までのハリス氏対トランプ氏の熱戦経過について

11月の米大統領選挙を前に9月10日、共和党のトランプ前大統領と民主党のハリス副 …

『オンライン講座/作家・宇野千代(98歳)研究』★『明治の女性ながら、何ものにもとらわれず、自主独立の精神で、いつまでも美しく自由奔放に恋愛に文学に精一杯生きた華麗なる作家人生』『可愛らしく生きぬいた私の長寿文学10訓』

    2019/12/06 記事再録  …

「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース]④」『開戦32日前の「英タイムズ」―『日英同盟から英国は日本が抹殺されるのを座視しない』●『極東の支配がロシアに奪われるなら、日英同盟から英国は 日本が抹殺されたり,永久に二流国の地位に下げられる のを座視しない』

    2017/01/12  『日本戦 …

no image
『オンライン/伊藤博文による明治維新講義』★『なぜ、ワシは攘夷論から開国論へ転換したのかその理由は?ーわしがイギリスに鎖国の禁を破って密航し、ロンドン大学留学中に 「英タイムズ」で下関戦争(長州(山口)対英国戦争))の勃発を知り、超大国イギリスと戦争すれば日本は必ず敗れると思い、切腹覚悟で帰国したのである』★『1897年(明治30)3月20日に経済学協会での『書生の境遇』講演録から採録する』

  再録/ 2011/07/03/世界一の授業をみにいこう(3)初代総 …

no image
知的巨人の百歳学(114)徳富蘇峰(94歳)の長寿人生論「体力養成は品性養成とともに人生の第一義。一日一時間でも多く働ける体力者は一日中の勝利者となり、継続すれば年中の勝利者、人生の勝利者となる』★『世界的作家の執筆量ベスト1は一体だれか。『近世日本国民史』(百巻)の徳冨蘇峰か?!』

 知的巨人の百歳学(114) 体力養成は品性養成とともに人生の第一義。 …