日本一の「徳川時代の日本史」授業⑨福沢諭吉の語る「中津藩での差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑨ 終
2021/05/02
日本一の「徳川時代の日本史」授業 ⑨
「門閥制度は親の仇でござる」と明治維新の立役者・
福沢諭吉の語る「中津藩で体験した封建日本の
差別構造の実態」(「旧藩情」)を読み解く⑨
前坂俊之(ジャーナリスト)
徳川封建時代の武士はどのような社会、政治。経済環境の中で、
生活をしていたのか、福沢諭吉の「旧藩情」を読み解く⑨
「旧藩情」⑨おわり
地理本を見れば、中津の外に日本があり、日本の外に西洋諸国あることがわかる。なお進んで、天文学の、地球学の論を聞くと、大宇宙では、太陽の周り地球もまわっている自転の定則あることがわかる。
地層の層々は幾千万年(億の間違い)に地球ができて、その物質の位置や順序の紊(みだれ)てはない。歴史を読めば、中津藩もまたただ徳川時代三百藩の一つ。徳川はただ日本一島の政権を執った者にすぎない。
日本の外にはアジア諸国、西欧諸国の歴史がほとんど無数にあり、その間には古今、英雄豪傑の事跡を見ることができる。アレキサンダー大王、ナポレオンの功業を察し、ニュートン、ワット、アダム・スミスの学識を想像すれば、海外にも豊太閤(豊臣秀吉)のような英雄がいるのである、荻生徂徠も誠に東海の一小先生にすぎない。
わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに徳川の旧体制を脱却して、もっと気持ち大きな気持ちになる。いわんやかの西洋諸大家の理論書を読んで、有形の物理から無形の人物伝に至るまで、逐一これを比較、考察し、事々物々の原因と結果とを考察してみるとどうなるか。
読んでその奥に至れば、心事恍爾(こうじー 目前にありありと現われるさま)としてほとんど天外(世界)にあるような思いになる。そこからかえりみて世上の事相を観れば、政府も人事の一小区に過ぎず、戦争も子供のたわむれに異ならず、中津旧藩のごとき、何ぞこれを問題にするものでもない。
かの御広間の敷居の内外を争い、御目付部屋の御記録に思をこがし、 怒り、笑った有様を回想すれば、正にこれは火打箱
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%81%AB%E3%81%86%E3%81%A1%E7%AE%B1
の隅に屈伸して一場の夢を見たようなものだ。しかし、今日に至ては、その御広間もすでに湯屋(風呂)の薪となり、御記録もことごとく紙屑屋(かみくずや、ごみ回収屋)の手に渡ったその後において、なお何物に恋々(恋々―未練を残す)のか。
また、今の旧下士族が旧上士族に向い、旧時の門閥虚威を咎めて、その停滞を今日に洩らすことは、空屋の門に立て案内を乞うようなもので、蛇の脱殻(ぬけがら)を見て、捕えようとする者のようだ。
いたずらに自から愚(おろかさ)を表して、他の嘲(あざけり)を買うに過ぎず。すべて今の士族はその身分を落したとして悲しむ者が多いけれども、落すにも揚るにも結局物の本位を定めない論である。平民と同格なるのは、すなわち下落であるといえども、旧主人なる華族と同席して平伏しないのは昇進である。
下落を嫌えば平民から遠ざかる、これを止める者はない。昇進を願えば華族に交るべし、またこれを妨る者はない。これに遠ざかるも、これに交るも、果してその身に何の軽重があるのか。
これを知らずして自からの心を悩ますは、間違いの多いもの者である。故に有形なる身分の下落昇進に関心を持たず、無形なる士族固有の品行を維持すること、私の強く希望するところである。ただこの際において心機一転ずること肝心で、その機会は、特に学校が有力なものとなるため、ことさらに藩の徳望のある立派な人に求め、共に尽力して学校を盛にすることを願っている。
中津の旧藩にて、上下の士族が互に結婚しなかったのは、藩士社会の一大欠陥であり、その弊害はほとんど人々の心の底に確固として残った。今日に至っては稀に上下結婚する者も出てきたが、今後ますますこれが増えるようでもない。
上士の残夢が未だ醒めず、陰にこれを忌むものがあれば、下士はかえってこれを懇望しないのみでなく、士女の別なく、上等の家に育てられた者は実用に適さず、これと結婚しても後日の生計の見込がないとして、一概に排斥する者もある。
一方は結婚を以って恩徳のごとく心得、一方はその徳を徳とせずこれを賤しむ勢なれば、出入の差が甚だ大きく、とても結婚が盛になる見込はない。
そうはいっても、世の中の事物はことごとくみな先例に傚(なら)うものなので、有力の士は勉めてその魁(さきがけ)をしてきた。
結婚はもとより当人の意に従って適不適もあり、また後日の生計の見込もない者と強いて結婚すべきではないが、これが先入観となって良縁を失う例も少なくない。
親戚、友人の注意すべきことである。一度び互に結婚すれば、ただ双方両家の良いことだけではなく、親戚の親戚に達して同時に幾家の歓を共にすることになる。
いわんや子を生み、孫を生むと、祖父を共にする者あり、曾祖父を共にする者あり、祖先の言い伝えをともにして、旧藩社会とは別に一種のよい家族血縁関係(コミュニティー)が生じ、その功能は学校教育の成果にも万々劣るものではない。
おわり
関連記事
-
-
『オンライン講座/日本興亡史の研究②』★『明治大発展の影のキーマンは誰か?①』★『インテリジェンスの父・川上操六参謀総長ー田村 怡与造ー児玉源太郎の3人の殉職⓵』★『「インテリジェンスの父・川上操六参謀総長(50)の急死とその影響ー陸軍での川上の存在がいかに大きかったか』
2016/02/21 日本リーダーパワー史(670)日本国 …
-
-
日本メルトダウン( 986)-『トランプ次期米大統領の波紋』 ●『トランプ次期大統領「就任初日にTPP離脱通告」 2国間協定交渉へ』★『【社説】浮上するトランプ政権の全容 次期閣僚への打診を本格化、意外な名前も』●『オピニオン:トランプ不安、日本の「改憲」後押し=エモット氏』●『尖閣で日米同盟が試される…米メディア』▼『ポピュリストの波、メルケル独首相も飲み込むか』◎『コラム:トランプノミクスは日本経済に追い風か=河野龍太郎氏』
日本メルトダウン( 986)—トランプ次期米大統領の波紋 …
-
-
『リーダーシップの日本近現代興亡史』(224)/★『世界天才老人NO1・エジソン(84)<天才長寿脳>の作り方』ー発明発見・健康長寿・研究実験、仕事成功の11ヵ条」(下)『私たちは失敗から多くを学ぶ。特にその失敗が私たちの 全知全能力を傾けた努力の結果であるならば」』
』 2018/11/23 百歳学入 …
-
-
『人気記事リクエスト再録』ー<2003年、イラク戦争から1年>『戦争報道を検証する』★『戦争は謀略、ウソの発表、プロパガンダによって起こされる』●『戦争の最初の犠牲者は真実(メディア)である。メディアは戦争 を美化せよ、戦争美談が捏造される』●『戦争報道への提言を次に掲げる』
<イラク戦争から1年>―『戦争報道を検証する』 2003年 12月 …
-
-
晩年長寿の知的巨人たちの百歳学(111)戦後の高度経済成長の立役者・財界の巨人「電力の鬼」 の松永安左衛門(95歳)の長寿10ヵ条ー「80歳の青年もおれば、20歳の老人もおる、年齢など気にするな」
晩年長寿の知的巨人たちの百歳学(111) 戦後の高度経済成長の立役 …
-
-
『Z世代のための日中韓三国志の<福沢諭吉の脱亜論>の研究講座②』★『 福沢諭吉はなぜ「日清朝の提携」から「脱亜論」に180度転換したのか②』
2019/08/09日本リーダーパワー史(765)記事再録 今回の …
-
-
日本リーダーパワー史⑫ 東條英機が総理大臣になった理由と経過とは・・日米開戦へ
日本史を変えた大事件前夜・組閣前夜の東條英機 …
-
-
「Z世代のためのウクライナ戦争講座」★「ウクライナ戦争は120年前の日露戦争と全く同じというニュース]④」『開戦32日前の「英タイムズ」―『日英同盟から英国は日本が抹殺されるのを座視しない』●『極東の支配がロシアに奪われるなら、日英同盟から英国は 日本が抹殺されたり,永久に二流国の地位に下げられる のを座視しない』
2017/01/12 『日本戦 …
-
-
★『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(2)ー「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」★『脱亜論によりアジア差別主義者の汚名をきた福沢の時事新報での「清国・朝鮮論」の社説を読み直す』★『金玉均暗殺につき清韓政府の処置』 「時事新報」明治27/4/13〕』
『アジア近現代史復習問題』 ・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(2)ー 「北 …
