書評・『朝日新聞創刊に政府が資本金1万円補助の密約のスクープ』
2015/01/02
2008、 11月 週刊 「読書人」掲載
書評・有山輝雄著『「中立」新聞の形成』世界思想社(08年5月刊、246P)
朝日新聞創刊に政府が資本金1万円の補助の密約のスクープ
前坂 俊之
(静岡県律大学国際関係学部教授)
いつの時代でもジャーナリズム批判はたえないが、現在のジャーナリズム批判は一層きびしさを増している。このところ『ご臨終メディア』(森達也共著)「新聞社」(河内孝))「組織ジャーナリズムの敗北」(柴田鉄治共著)、「ジャーナリズム崩壊」(上杉隆)などでは、新聞の病状は深刻度を増しており、恐竜化した新聞はジャーナリズム面・経営両面から崩壊が近づきつつあることがうかがえる。
仲良し記者クラブで、発表記事を質問もせず書くかと思えば、メモを他社の記者と互いに見せ合って同じ記事を書く談合体質。トップは、いずれもマネージメント経験のない記者が座る、なぜか、「政府によって手厚く保護されており、経営者の最も大切な仕事は政府・与党の政治家、高官との親密な関係の維持だからだ」と元毎日常務・河内孝氏いう。
地球環境を守れとキャンペーンしながら、公称部数保持のため押し紙による大量の新聞紙の無駄遣いーなどなど。日本の読者にとってはさして目新しい事実ではないが、グローバル化した世界の目からみると非常識な世界に写るのは当たり前であろう。
本来、ジャーナリズムは「多事争論」をモットに、事実に徹底して迫り、喧々諤々(けんけんがくがく)と議論、論争する媒体だったはずだが、なぜ、日本の新聞はかくもおとなしく、衰弱してしまったのだろうか。
本書は、このルーツをもとめて、明治期にさかのぼり、新聞誕生から『中立新聞』が形成される過程の中に、そのカギを探り、政府と「朝日新聞」との間の「御用新聞の密約」に焦点を当てている。新聞史研究で隠された資料の発掘とその鋭い分析、論考で知られる著者がこのスクープ研究していたことは知っていたが、今回はじめて熟読して驚いた。正に朝日誕生の心臓部を射抜く衝撃のスクープである。
著者が三井文庫所蔵資料から新発掘したもので、「大阪朝日」は創刊当時の1882年(明治15)に
①朝日の借金1万5千円の返済の肩代わりする
② 資本金1万円を補助するー
との2項目の密約を政府と交わしていた。
社内向けには「公平無私、勧善懲悪」の編集方針を示して、対外的には中立的に装っていた。過激な反政府的な言論が横行した時代に、小新聞として出発した朝日はこの政府の支援で発展し、政府も朝日が反政府ではない「中立的な言論」になることを期待しての取引であった。
朝日は政事新聞をさけて、通俗新聞として活動、外面的には中立新聞を標榜し、反政府の言動には論説で攻撃を加えて、政府と立場が相違する場合は沈黙するーなどとの密約内規の写しもあり、村山龍平ら2人の経営者以外は社内外に一切極秘裏にされていた。
明治27年の内閣機密費に2万4千円の朝日からの入金[返済]記録が残っており、この時、政府、朝日の密約は解消したものと見られ翌年朝日は合名会社に改組した。この間、朝日は東京にまで進出して営業的に大成功を収め、政府も自由民権派の反政府の言論を抑え込むメディアコントロールに成功し、相互に大きな利益を受けた。ところが、この論文の後に刊行された「朝日社史」(1990年刊)には、この間のいきさつについてはほとんど説明されていない。
これは読者をあざむく政府と新聞の共同謀議だが、太平洋戦争中の大本営発表という1時期だけのものではなく、「民は知らしむべからず」という政府と新聞の同調・共同正犯行為が「中立・公正・客観メディア」という名のもとに、朝日ケースから今も一貫して続いていることを痛感させられるショッキングな1冊である。
関連記事
-
-
世界、日本メルトダウン(1027)ー 「トランプ大統領の暴走/暴言/ひとり芝居で 『エアーホースワンはダッチロールをくり返し、墜落寸前! 世界の大波乱より前に,覇権国米国の没落が 毎日のように報じられている、オーノー」④『トランプは張り子の虎、オバマケア廃止撤回までの最悪の一週間』★『「アメリカは70年間、衰退し続けている」——チョムスキーの視点』
世界、日本メルトダウン(1027)ー 「トランプ大統領の暴走/暴言/ひとり芝居で …
-
-
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉘『開戦1ゕ月前の「独フランクフルター・ツワイトゥング」の報道』ー「ドイツの日露戦争の見方』●『露日間の朝鮮をめぐる争いがさらに大きな火をおこしてはいけない』●『ヨーロッパ列強のダブルスタンダードー自国のアジアでの利権(植民地の権益)に関係なければ、他国の戦争には関与せず』★『フランスは80年代の中東に,中国に対する軍事行動を公式の宣戦布告なしで行ったし,ヨーロッパのすべての列強は,3年前,中国の首都北京を占領したとき(北支事変)に,一緒に同じことをしてきた』
『日本戦争外交史の研究』/『世界史の中の日露戦争』㉘『開戦1ゕ月前の …
-
-
<サーファーズ・パラダイス・KAMAKURA・ZUSHI動画>台風16号一過の逗子大崎・マリーナ沖サーフィン(2021/10/2/am730)-青空のもと小波と戯れていこうサーファーたち、マリーナ内を大型クルーザーがゆっくりスタートする。
-
-
日本の最先端技術「見える化』チャンネル>『ITproEXPO2017』ー「Panasonicの『実践!働き方改革、見える化ステージ」のプレゼン』★『ユニアデックスの「IT基盤の壁を取っ払え」のプレゼン』
日本の最先端技術「見える化』チャンネル ITproEXPO201 …
-
-
『Z世代のための日韓国交正常化60年(2025)前史の研究講座④」★『井上が書いた「華兵凶暴」の記事に支那側(李鴻章)か猛反発、井上の暗殺指令を出し、『漢城旬報』の販売差し止めを命じたので井上は辞任1884年(明治17)5月に帰国した』
「華兵凶暴」の記事が支那側から激しい抗議があり、辞職、帰国のやむな …
-
-
『Z世代への百歳学入門』★『知的巨人たちの百歳学(126)『野上弥生子』(99歳)「私から見るとまだ子供みたいな人が、その能力が発揮できる年なのに老いを楽しむ方に回っていてね」
2015/09/25 知的巨人たちの百歳学(126) 『 …
-
-
『オープン講座/ウクライナ戦争と日露戦争①』★『ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がウクライナ軍の対艦ミサイル「ネプチューン」によって撃沈された事件は「日露戦争以来の大衝撃」をプーチン政権に与えた』★『児玉源太郎が指揮した日露戦争勝利の秘訣は軍事力以上に外交力・インテリジェンス・無線通信技術力・デジタルIT技術にあった』
ウクライナ戦争でロシア侵攻作戦の要であるロシア黒海艦隊の旗艦・ミサ …
-
-
『鎌倉釣りバカ人生30年/回想動画録』⑳★『『コロナパニックなど吹き飛ばせ』★『10年前の鎌倉沖は豊饒の海だった』★『海楽人の天然・自給自足生活をしよう!>『シーラが海上を大乱舞、イナダ、ソーダガツオと カヤック・フィッシングは大漁じゃ』
2011年8月10日/『『百歳学入門(19 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・カメラ・ウオッチ(105)』 「パリ・ぶらぶら散歩/オルセー美術館編(5/2日)④
ホーム > 湘南海山ぶらぶら日記 > …
-
-
『アジア近現代史復習問題』・福沢諭吉の「日清戦争開戦論」を読む(1)ー「北朝鮮による金正男暗殺事件をみていると、約120年前の日清戦争の原因がよくわかる」★『脱亜論によりアジア差別主義者の汚名をきた福沢の時事新報での「清国・朝鮮論」の社説を読み通す』
『アジア近現代史復習問題』 福沢諭吉の『金玉均惨殺』から日清戦争開戦までの論説 …
