池田龍夫のマスコミ時評⑤ 「沖縄密約」文書開示訴訟、核心へ
ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
1972年の沖縄返還の際、日米政府が交わしたとされる「密約文書」開示訴訟・第2回口頭弁論は2009年8月25日、東京地裁で開かれた。6月16日の第1回弁論で杉原則彦裁判長が、原告・被告(国側)双方に「次回までに、もっと具体的な準備書面を提出してほしい」と指示しており、第2回弁論が注目されていた。傍聴者100人を収容できる103号法廷に移し、緊張感ただよう中で審理が進められた。
「BYのイニシャルは私が署名、文書の写しもとったと思う」
この文書は、米軍が使用していた土地について補償するためにかかる費用として400万㌦を日本が負担するというものです」と、明快に述べている。
そもそも、大蔵省の主導で決まっていた沖縄返還に伴う日本側の負担のうち、返還協定に盛り込まれることが決まっていた日本のアメリカに対する支払額は3億2000万㌦でしたが、そのうち7000万㌦は核撤去費用でした。核撤去のためにそんなに費用がかかるはずがなく、これはアメリカが自由に使えるものでした。したがって、その7000万㌦の一部を補償費の400万㌦に充てることは予算面では何の問題もないことだったのです。
つまり、日本が渡した3億2000万㌦の一部400万㌦をアメリカが沖縄の市民への補償費に充てればよいのです。したがって、大蔵省が負担をしてよいというなら外務省としては反対する理由はありませんでした。こうして、日本政府が対内的には3億2000万㌦には補償費は入っていないと説明しつつ、アメリカは、アメリカ議会を秘密会にして開催し、実際には、日本が負担することを説明するということになりました」と、補償費負担の〝密約〟が大蔵省主導で決まっていたことを暴露したものだ。
福田赳夫蔵相(当時)が補償交渉の〝仕掛け人〟的役割を担っており、その指示によって柏木・ジューリック両国財務担当官が「密約」への道筋をつけたことを、吉野陳述書が明示した意味は大きい。大蔵省主導だったことは従来から指摘さてはいたが、今回〝証拠採用〟されたことで、国側は厳しい局面に立たされたと言えよう。
この文書については、局長室で署名したのですから、写しはとったと思います。ただし、その写しをどのように保管したのかは分かりません。ⅤОA移転に関しての合意文書についても局長室で署名しました。写しもとったと思います」との経緯を明らかにしている。
我部教授は1990年末から米国公文書館に足を運び、米政府が公開した「沖縄返還」関連文書の発掘を精力的に行ってきた第一人者。2000年発掘の「密約文書」報道が、密約解明への大きな契機となった。その後、西山太吉氏の「国家賠償請求訴訟」(2005年4月)、吉野文六氏の各メディアへの「密約証言」(2006年2月)へと発展し、現在の「密約文書開示訴訟」につながった。吉野氏が知り得なかった財政・予算措置のナゾに挑んだ「我部陳述書」が、今後の審理に影響を及ぼすと思われる。
確かに民訴法第191条(公務員の尋問)は、「①公務員又は公務員であった者を証人として職務上の秘密について尋問する場合には、裁判所は、当該監督官庁(衆議院若しくは参議院又はその職にあった者については、その院、内閣総理大臣その他の国務大臣又はその職にあった者については内閣)の承認を得なければならない。②前項の承認は、公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合を除き、拒むことができない」と規定している。従って、吉野氏尋問につき外務大臣の承認は必要だが、第2項の規定を素直に読む限りでは、今回の尋問要請を拒否できるとは考えにくい。
6月の第1回口頭弁論に続き、裁判長の訴訟指揮は明快で、「事実関係の枠組をきちんとしたい」との姿勢が感じられた。
外交交渉は場合によっては秘密裏に行われることが多く、その交渉が継続している間、そして、それ以後何年かは、秘密にする必要があることもあります。それがすべて密約といえば、いえるわけです。しかし、秘密交渉も一定期間を過ぎれば、原則として公開するべきだと考えます。もちろん、秘密にする必要が大きいものがあり、それらについては公開することはできないでしょう。
アメリカでも公開されていないものはあると思われます。しかし、少なくとも、相手国が公開したような文書まで秘密にする必要はない、そう考えて事実をお話ししています」。――91歳の外交官ОBが情報公開の必要性を訴える言葉は重く、説得力に富む。
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