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 池田龍夫のマスコミ時評⑩ 「沖縄密約」情報開示訴訟  吉野文六氏らの証人尋問、12月1日に正式決定

   

  池田龍夫のマスコミ時評⑩「沖縄密約」情報開示訴訟

 吉野文六氏らの証人尋問、正式決定(121日)

      民主党政権の〝情報公開〟でチェンジを期待
 
              
                                                                                              ジャーナリスト 池田龍夫(元毎日新聞記者)
 
 
 1972年の沖縄返還に伴って日米間で交わされたとみられる「密約文書」につき、西山太吉・元毎日新聞記者らが起こした情報開示訴訟第3回口頭弁論が2009年10月27日、東京地裁第103号法廷で開かれた。
 
 冒頭、杉原則彦裁判長は「吉野文六・元外務省アメリカ局長の証人喚問につき外務大臣の許諾を求めたところ、外務省から承認の回答があった」と、報告した。これで、次回口頭弁論(12月1日)での、吉野氏と我部政明・琉球大学教授の証人喚問が正式に決まった。

裁判長の裁断により、吉野尋問40分・反対尋問40分、我部尋問40分・反対尋問40分との審理時間も原告・被告側双方によって確認された。

 
      「柏木・ジューリック会談での『密約』はあった」

 このあと裁判長は、「被告(国)側が今回提出した準備書面のうち、大蔵省(現財務省)関係につき、もっと具体的に示してほしい」と再度要請した。「会談の記録はあるはずだが、本当に不明なのか? 過去には保管していたのか?」など、国側に対して回答を迫った。
 
 この「大蔵省関係の文書」こそ、「密約・情報開示訴訟」の最も重要な〝証拠〟になるもので、裁判長の積極的な訴訟指揮の現われと言えよう。従って、次回の証人尋問が注目されるわけだが、吉野氏が既に陳述書で次の通り明快に述べている。
 
 「佐藤栄作首相が『沖縄は無償で返ってくる』と発言していましたので、日本がアメリカに代わって支払うということは、難しかったのです。ところが、予算を出す大蔵省の柏木雄介財務官から、日本側が負担することで処理をしてほしいと要請されたのです。そもそも、大蔵省の主導で決まっていた日本のアメリカに対する支払額は3億2000万㌦でしたが、そのうち7000万㌦は核撤去費用でした。

核撤去のためにそんな費用がかかるはずがなく、これはアメリカが自由に使えるものでした。したがって、その7000万㌦の一部を

補償費の400万㌦に充てることは予算面では何の問題もないことだったのです。
つまり、日本が渡した3億2000万㌦の一部400万㌦をアメリカが沖縄の市民への補償費に充てればよいのです。したがって、大蔵省が負担をしてよいというなら外務省としては反対する理由はありませんでした。

こうして、日本政府が対内的には3億2000万㌦には補償費は入っていないと説明しつつ、アメリカは、アメリカ議会を秘密会にして開催し、実際には日本が負担することを説明することになりました」。

 
      原告弁護団の精緻な「準備書面」が本質に迫る

 清水英夫氏ら原告弁護団は、公開された米国公文書を精査して綿密な「準備書面」を作成、10月20日付で東京地裁に提出した。
「財務・経済問題を担当するグループ」が「密約訴訟」の核心部分を担っており、日本側責任者は福田赳夫蔵相だった。

柏木大蔵省財務官とジューリック財務長官特別補佐官が実務的交渉に当たり、1969年12月2日、沖縄返還に関する費用負担(金銭支払い)の了解覚書が交わされたのである。この点につき原告弁護団提出の「準備書面」が参考になるので、その根幹部分を引用しておきたい。

 
 「返還協定6条・7条は総額3億2000万㌦の支払約束のみであった。返還協定は、日本のアメリカに対する金銭支払について、概要、次のとおり規定している。
 
    アメリカ政府の財産の日本への移転(返還協定6条)
 
 琉球電力会社、琉球水道公社及び琉球開発金融公社の財産その他合衆国政府の財産で、沖縄に存在するもの(ただし本件協定第3条により合衆国に提供される施設及び区域の外にあるもの)は、日本国政府に移転する(1項・2項)。これらの財産のある土地について加えられた変更について、アメリカは補償する義務を負わない(4項)。

合衆国政府が沖縄において埋め立てた土地及び取得した埋立地で、本件協定の効力発生日前に合衆国政府が保有しているものは、日本国政府に移転する(3項)。
 

    日本国政府のアメリカ合衆国政府に対する金銭支払い(返還協定7条)
 
 日本国政府は、合衆国の資産が第6条の規定に従って移転されること、沖縄返還が佐藤・ニクソン共同声明第8項にいう日本国政府の政策に背馳しないよう実施されるようにすること(核兵器の撤去を指す)、合衆国政府が復帰後の雇用の分野等において余分の費用を負担することなどを考慮し、本件協定の効力発生の日から5年間にわたり、合衆国政府に対し、総額3億2000万㌦を支払う。
 
 すなわち、返還協定上は、日本がアメリカに対して支払う財政負担の合計は3億2000万㌦(当時の為替レートで1152億円)であり、この財政負担の理由は、日本に移転されたアメリカの資産の買収費用、核兵器の撤去費用及び返還後に増大する基地従業員にかかる年金・社会補償費などの労務費用に限定されていた。
 
    しかし、1969年12月2日、柏木雄介大蔵省財務官とアンソニー・J・ジューリック財務長官特別補佐官が、それぞれのイニシャルである「YK」と「AJJ」で署名をした了解覚書は、次の通り。日本が、アメリカに対し、3億2000万㌦をはるかに超える金額を負担することを約束していた。

①民政用・共同使用資産の買い取り    1億7500万㌦

        ②基地移転その他の費用         2億㌦
      (物品及び役務で準備し5年以内に引き渡す)
         ③通貨交換後に行われるドル換金     1億1200万㌦
      (ただしこれは日本政府が沖縄県内で通貨交換して取得したドルを連邦準銀行に25年間無利息で預け入れることによる利息節約分を含む。預け入れ金額は6000万㌦又は現に通貨換算した額のいずれか大きい額とされた)
       ④基地従業員の社会補償費等       3000万㌦ 
 
 アメリカ側からすれば、日本との財政・経済取り決めによって、上記の了解覚書に明記してある合計5億1700万㌦に加え、アメリカ側が所有する琉球銀行の株式と石油油脂施設の売却益と、返還の結果、その後5年間に得るであろうアメリカ政府の予算節約分の合計1億6800万㌦を加えた総額6億8500万㌦の財政・経済利益を得る見込みになった」。
 
 吉野文六氏が外務省アメリカ局長に任命されたのは1971年1月。「佐藤・ニクソン共同声明」(1969年11月)を受けて、沖縄返還の実務責任者として尽力、沖縄返還後の1972年6月外務審議官に転じている。ところが、上記の返還に伴う財政・経済交渉は1969年6月から大蔵省主導で進み、12月に日本側負担額などの日米合意が密かに取り決めらて
いたのだ。吉野氏がアメリカ局長当時、柏木財務官の要請を受けて初めて知ったと言っている通りで、極秘事項だったことは紛れもない事実と言えよう。
 
       戦後の〝負の遺産〟解消への一里塚

 米国側が、これら柏木・ジューリック了解事項を記した「公文書」をきちんと保管しているのに、日本国側は「外務省にその様な文書は残っていない。交渉経過のメモとの認識だったとも考えられる」との弁明に終始するばかりだ。これだけ重要な外交文書が保管されていないとしたら、そのこと自体、外務当局の重大責任だ。裁判長の訴訟指揮に応えて、今後国側から明確な回答はあるだろうか。もし文書を廃棄していたとすれば、国家の政治的隠蔽工作の疑惑が浮上しかねない大問題である。
 
 鳩山由紀夫・民主党政権の岡田克也外相は9月16日の就任直後、「核持ち込み密約などに関し外務省に『調査チーム』を設置、11月末までに調査結果を公表したい」と表明している。村田良平・元外務事務次官の「核持ち込み密約はあった」との証言が大きな反響を呼んだが、今後さらに〝新証拠〟が発掘されれば、自民党政権が「密約は存在しない」と言い続けた〝ウソ〟のベールが次々剥がされていくような気がする。

戦後60数年疑惑に包まれてきた日米間の〝負の遺産〟解消への一里塚となるに違いなく、それだけに12月1日の「吉野、我部両氏の証人尋問」の結果が極めて注目される。

                                                                                                                   (2009年11月3日 記)
 

 - IT・マスコミ論

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