『最悪の国難(大津波)を想定して逆転突破力を発揮した偉人たちの研究講座』★『本物のリーダーとは、この人をみよ』★『大津波を予想して私財を投じて大堤防を築いて見事に防いだ濱口悟陵のインテリジェンス②』★『野口恒の震災ウオッチ』東日本大震災の復興策にも生きる「浜口梧陵」の業績ーー復興策の生きた教材-』
2011/08/26 『野口恒の震災ウオッチ』記事再録
野口恒(経済評論家)
安政の大地震・津波から村民を救った偉人として、「濱口梧陵」についてはすでにNHKテレビ番組で放送されたり、多くの出版物にも紹介されています。前坂俊之さんのホ-ムペ-ジでも「日本リ-ダ-パ-ワ-史(142)『大津波を私財を投じた堤防で防いだ濱口梧陵-国難リ-ダ-はかくあれ』」でも紹介されています。
濱口梧陵についての解説はそちらに譲るとして、私は濱口梧陵が当時なした業績は、今度の東日本大震災の復興策にも十分生きているのではないかと思います。とくに、私は彼が成し遂げた業績において、今日でも“生きた教訓”として高く評価するのは、次の4点についてです。
(1) 高台避難:海岸付近で地震を感じたら、津波に注意して何をさておき高台に非難することを彼は知らせたのです。それが梧陵の稲むらに火を放つ行動につながったのだと思います。刈り取った稲むらに火をつけて紀州・広村(現在の和歌山県広川町)の村人たちに津波の到来を知らせ、ともかく高台にある広八幡神社に避難するように誘導したという、有名な「稲むらの火」の話が伝えられています。
江戸時代の安政大地震(1854年12月24日午後4時頃)は、それ以前に起こった慶長大地震(1605)や宝永大地震(1707)よりも大きな巨大地震であった(マグニチュ-ド8.4 震源域は紀伊半島から四国沖)。巨大地震に伴う大津波の到来はきわめて速く、被害は壮絶だった。
記録によると、津波は房総半島から九州にまで押し寄せ、その高さは5~6mに及び、全半壊家屋 約60000棟、流失家屋 約21000棟、死者 約3000人だったと言われています。
梧陵は、津波から逃れるには一目散に高台に避難することが大切だと考え、稲むらに火を放って津波にのまれた村人に避難地の場所を知らせたのです。「地震・津波を感じたら真っ先に高台避難」は、東日本大地震の復興策を考える「復興構想会議」でも高台非難が指摘されていますが、今から160年以上も前に梧陵がこれを行っていたことは非常に重要な先人の智恵だと思います。
(2) 海岸林(防潮林): 大震災・大津波に襲われた後、梧陵が村人のために復興策として行ったのでか「防潮林の植林」と「防潮堤の建設」でした。今度の東日本大震災でも三陸海岸に植えられた海岸林(防潮林)がほとんど根こそぎ流されたり、破壊されていまいました。
梧陵は、もともと紀州・和歌山から安房・銚子に移り、家業の醤油醸造業「ヤマサ醤油」を起こした先祖・初代濱口儀兵衛の分家の長男に生まれ、自らも34歳の時に本家の養子となって七代目濱口儀兵衛(梧陵は号名)を継ぎ、家業のヤマサ醤油を発展させた豪商でした。
彼は、莫大な私財を投じて防災用の「防潮林」「防潮堤」の建設に乗り出しました。たびたび地震や津波に襲われた広村の村民は、もうこんなところには住めないと離村を次々に申し出てきました。
そこで、梧陵は何とかして村民が安心して住める村にしようとまず、津波対策として海岸沿いに松並木を植林しました。防潮林だけでも、第一波の津波の被害をかなり防ぐことができます。次に梧陵が取り掛かったのが、防潮堤の建設です。
(3) 防潮堤(広川堤防):梧陵は、村人と一緒になって植林した津波対策用の防潮林の背後に、村民を津波から守る堤防造築に乗り出しました。「広川堤防」と呼ばれる防潮堤は、高さ 5~6m、幅 20m、長さ 600mに及びました。梧陵は自ら莫大な私財を投ずると共に、村の豪商たちにも出資を募り、また村人には老若男女を問わず、堤防建設への参加を頼みました。
堤防造築に参加した者には日当を与えて、農具や漁具を無料で与えたといいます。この堤防建設には、工期 3年10か月、参加した延べ人員 約57000人、総工費 約銀94貫を要したといわれ、1858年に完成しました。
和歌山県広川町出身の元気象庁地震火山部長・津村健四朗氏の調査によれば、この広川堤防は、1946年12月21日に起こった昭和南海地震(マグニチュ-ド8.0)でも広川町の人々や居住地の大部分を守り、津波から人々の命を救ったとのことです。
(4) 高台移住:政府の「復興構想会議」でも、住民の高台移住が指摘されていますが、梧陵は、より安全な高台に移住して新たな家を建て、生活をしていこうと希望する村民には私財を投げ打って財政的な支援を行いました。具体的には、被災した農民には必要な土地(耕地)や農機具、被災した漁民には漁船や漁具を貸し与えて当面の生活が何とかできるように彼らの暮らしを支えていきました。今の民主党政府の遅々として進まない震災復興策を見ていると、梧陵の迅速かつ的確な復興策には頭が下がる思いがします。
濱口梧陵の紹介では、津波から村民を救い、高台に避難した「稲むらの火」の話が有名であり、そればかりに偏っている面がありますが、彼の残した業績で特筆されるのは、大震災・大津波後に成し遂げた業績である「震災復興策」にあります。
今日から考えても、「まず高台避難、次に防潮林・防潮堤の建設、そして高台移住」へと成し遂げていったその復興策の取り組みは、そのまま今日でも地震・大津波対策のお手本として通用するものであり、まさに生きた教材であると思います。
幕末から明治にかけて生きた濱口梧陵の人生は、まさに波瀾万丈であります。その紹介は前坂さんのレポ-トに譲りますが、梧陵は幕末には開国・開明論者として、佐久間象山、勝海舟、福沢諭吉らと幅広い交友関係を結び、とくに近代日本を担う人材教育に重視して、海外に目を向けた英語教育に力を入れ、教育者として福沢諭吉を尊敬して深い交友関係を築いています。当時にあってきわめて先進的な彼の教育論も非常に興味深いテ-マであり、研究に値すると思います。福沢諭吉は、梧陵を「博識の士」とさえ評しています。
濱口梧陵の成し遂げた業績や彼の人生は、東日本大震災・大津波の被害を経験した今日の日本において、もっと本格的に、専門的にも研究・調査されてもいいと思っています。
関連記事
-
-
日本リーダーパワー必読史(742)『歴史復習応用編』ー近代日本興亡史は『外交連続失敗の歴史』でもある。明治維新の国難で幕府側の外務大臣(実質首相兼任)役の勝海舟の外交突破力こそ見習え➊『各国の貧富強弱により判断せず、公平無私の眼でみよ』●『三国干渉くらい朝飯前だよ』』●『政治には学問や知識は二の次、八方美人主義はだめだよ』●『国難突破力NO1―勝海舟(75)の健康・長寿・ 修行・鍛錬10ヵ条」』
2016年10月28日/ 日本リーダーパワー必読史(742) 明治維新 …
-
-
「2022年コロナ・デルタ株終息後のパクスなき世界へ(上)」(2021/9/15 )★『デルタ株が世界的に猛威を振るう』★『デルタ株感染の45%は20歳以下に集中』★『地球環境異変が世界中に猛威』★『菅首相辞任から自民党総裁選、政治の季節へ』
2022年コロナ・デルタ株終息後のパクスなき世界へ 前坂俊之(ジャーナリスト) …
-
-
★『大爆笑、メチャおもろい日本文学史』⑤『アイヌ「ユーカラ」研究の金田一京助はメチャおもろい』講義は人の3倍の情熱、純情一直線の金田一先生』
★『大爆笑、メチャおもろい日本文学史』⑤ 「言語学者・金田一京助」 …
-
-
日本リーダーパワー史(621) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑮ 『川上操六参謀本部次長がドイツ参謀本部・モルトケ参謀総長に弟子入り、 ドイツを統一し、フランスに勝利したモルトケ戦略を学ぶ①
日本リーダーパワー史(621) 日本国難史にみる『戦略思考の欠落』 ⑮ 『川 …
-
-
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉟』「最終期限まで田中投手にとって多くの選択肢が残る“」ニューヨーク・タイムズ(1/19)
『F国際ビジネスマンのワールド・ウオッチ㉟』 …
-
-
「オンライン/『習近平の中国の夢とは』講座」★『南シナ海、尖閣諸島の紛争は戦争に発展するのか』★『中国の夢』(中華思想)対『国際法秩序』 (欧米思想)との衝突の行方は!』★「 2049年に『中国の夢』が実現したならば、正しく『世界の悪夢』となるでだろう』★『「China2049―秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略」(マイケル・ビルズベリー著、2015年刊)を読む』
2016/08/17 &nbs …
-
-
世界/日本リーダーパワー史(954)ー米中間選挙(11/6)の結果、上下院議会の“ねじれ現象”はトランプの国内、対外政策にどう響くか、暴走は一層エスカレートするのか(上)
世界/日本リーダーパワー史(954) 米中間選挙後のトランプの暴走はブレーキがか …
-
-
日本リーダーパワー史(91)日露戦争でサハリン攻撃を主張した長岡外史・児玉源太郎,「ないない参謀本部」のリーダーシップの実態
日本リーダーパワー史(91) 日露戦争でサハリン攻撃を主張した長岡外史・児玉源太 …
-
-
『オンライン講座/真珠湾攻撃から80年➅』★『 国難突破法の研究➅』★『真珠湾攻撃から70年―『山本五十六のリーダーシップ』ー★『最もよく知る最後の海軍大将・井上成美が語るその人間像』★『山本五十六追悼』(2010年 新人物文庫)』★『きわめて日本的な人情大将で、勝つための戦略ではなく元帥のためならたとえ火の中、水の中、死んでもいいという特攻、玉砕、戦陣訓の「死のヒロイズム」である』
2011/09/27<日本リーダーパワー史(195)記事再録 以下は前坂俊之監修 …
-
-
日本メルトダウン脱出法(592)「東南アジアへの投資:日本マネーが大量流入」『円安は時間をかけて輸出を押し上げる=クルーグマン氏
日本メルトダウン脱出法(592)   …
