『リーダーシップの日本近現代史』(335)-「日本の深刻化する高齢者問題―大阪を中心にその貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本の格差/高齢者/若者/総貧困列島化を考える」(上)
2016年(平成28)3月24日 講演会全記録
「大阪の高齢者問題―貧困率、年金破綻と生活保護、介護殺人、日本貧困列島へ」(上)
一般社団法人大阪自由大学理事長 池田知隆(元毎日新聞論説委員、 元大阪市教育委員長)
今日は高齢者の問題について語りたいと思います。
これから高齢化を迎える中で、いまの社会をどういう風に受け止め
て行ったらいいのか。いまの日本の社会は一体どういう問題を抱えているのか。私なりに整理して、皆さんの参考にして頂ければいいなと思った次第です。
いま、子供の保育所問題がクローズアップされていますけれども、子供だけではなく、お年寄りの問題を含めて、なんかすべてがおかしくなっています。日本の社会の倫理観や、責任感が崩れつつあるような気がします。いま、ベストセラーで『老人地獄』(笑)といぅ本が出ています。老後はブラックで、いわゆるブラック企業、ブラックバイトと同じイメージととらえられ、高齢化社会における施設、社会福祉法人を巡っての問題が書かれています。これから団塊の世代の高齢化がすすみますので、稼ぎ時とばかりにいろんな企業が参入し、社会福祉法人の売り買いなど、私たちの知らないところでお金が動いています。
その一方、困窮を窮めるお年寄りの方が沢山いらっしゃいます。いま、お年寄りの問題はどういう風になっているのだろうか、お話しいたします。
新幹線での焼身自殺― 高齢者の抗議
2015年6月、新幹線の先頭車両でお年寄りの方が焼身自殺を図りました。車内で煙が起き、緊急停車して、乗客が避難する騒ぎだったので、てっきり過激派のテロではないか、日本もいよいよ新幹線がテロを受ける時代になったのか、と思われた方も沢山いらっしゃるでしょぅ。
実際は、テロではなく、お年寄りの抗議の自殺だったのです。日本の新幹線という科学技術の先端車両で抗議を示した老人というのは、ある意味で日本の現在を象徴する事件でした。
日本は安心、安全な社会を築いているといわれています。しかし、戦争はありませんが、いろんな人の心の中では戦争が起きている。「心の内戦」状態にあるともいわれています。対外的に人を殺す事はしていないけれども、自殺は多いのです。この1998年から年間
3万人を越す自殺者がいましたが、2、3年は3万人を切って、2万5、6千人まで減りました。1日7、80人もの人たちが自ら命を絶つというのは、ある意味では戦争状態です。シリアの内戦で沢山の人が死んでいると言っても、死者は5年で大体20数万人です。日本
では心の中でいろんな葛藤を持ちながら自らの命を絶っているというのは、ある意味で、日本の中では「見えない戦争」が起きているではないか、といえなくもありません。
新幹線をストップさせたAさん(71歳)の方は、真面目に鉄工所を中心に勤め上げて、年金を貰おうとしたら月額12万円しかない。家賃を月4万円払って、住民税や健康保険料を払うと、手持ちの金は4、5万円しか残らない。
35年間コツコツ真面目に年金を納めたのにそんな現状はたまらない。生活保護を受ければ国民健康保険、住民税とか免除されて少しは暮らしは楽になるかも知れませんけれど、基準が若干合わないとの理由で生活保護を受けられなかった。このAさんは新幹線の車内から「生活ができないから最後のお金をもって新幹線に乗っている。区長と議員にお伝えください」と区役所に電話をしている。そのあと、ガソリンをかぶって自殺を図ろたのです。もちろん、これは犯罪であり、煙に巻き込まれて女性が亡くなっています。しかし、これは高齢者がいまの日本の社会に対して「俺は真面目に生きてきたのに報われないのはなぜだ。おかしい」と訴えた事件です。
高齢者の孤立と介護人材不足
お年寄りの人たちというのは孤立し、一人暮らしの方が沢山いらっしゃいます。一人暮らしの高齢者は6百万人というすごい数です。みなさんの中にはまだ深刻な状況に追い詰められておられる方はいらっしゃらないかも知れませんが、私たちが見えない世界で非常に苦しい日々を送られている方も少なくありません。
最近のデータを見ると、2009年から2014年の6年間で貧困率がも.の凄く高くなっている。特に男の単独世帯で貧困率が4%上がり、人数的には30万人近く増え、この6年間も急激に貧困率が高まっているのです。
結局、日本の現実は65歳の高齢者が大体3300万人おり、そのうち6百万人だから、大体5人に1人が一人暮らしです。65歳の人口は男性3に対して女性は4。平均寿命は男性が80,21歳で女性が86、61歳。いま、百歳以上の人は6万人を数え、本当にみんな長生きする時代になりました。私の九州の田舎の町の人口と全く同じ数字なのでよく覚えています。
これが50年後の2060年ごろには、人口は8600万人まで減り、2.5人に1人が65歳以上と、2人位で1人のお年寄りを担いで暮らしていかなくちやいけない時代になるわけです。労働世代から言えば1.3人に1人と、とにかく1人がl人で養うような時代になります。その頃の平均寿命が、だいたい男性は墾84,19歳で女性は90歳に伸びるだろうと推定されています。
人口は減り、非常に長寿化していく中で、日本はどのような社会を築いていけばいいのか。日本は世界の中でも先端を走って高齢化が進んでいます。
この後、中国や韓国の高齢化が進んでいきますが、日本がどのような社会を築いていくのかを見ているのでしょう。一人っ子政策をとってきた中国も高齢社会に直面し、いまの日本の介護保険制度のゆくえや介護の人材育成に、中国の企業は熱い眼差しを注いでいます。しかし、介護の人の確保は難しくなっています。数年前まではインドネシアとかフィリピンの若い人に日本に来て貰い、日本語を学んでお年寄りの世話をして貰おうという施策をとってきましたが、日本語の習得が難しいことや、インドネシアなどでの生活水準も上がり、今後は日本に来て世話する人はあまり期待できなくなるのではないでしょうか。
例えばシンガポールでは、富裕層の人たちがフィリピンやインドネシアからの若いメイドさんを何人もかかえて洗濯や掃除をさせ、ロビーなんかに寝かせながら使ってきましたが、もはやそういう時代ではありません。
アジア全体が豊かになっていく中で、介護の人材を低賃金で確保するのは非常に難しい。日本も他の国にあまり期待せず日本国内でお互いに支えあっていく社会を築いていかなくてはならないのです。貧しい国の人に老後の世話をしてもらうという考え方は通用しなくなります。
ブラックな老後、年金破綻と生活保護
最近、話題になったのは「無届介護施設」の問題です。先日、NHKスペシャルの『介護危機』の番組を見て、ビックリしました。ラブホテルに介護用ベッドをたくさん詰め込み、潰れた町工場にベッドを並べ、「介護ハゥス」にしていました。特別養護老人ホームは少なくて、今54万人が入所しているそうですが、入所を希望している待機者もまた同じ54万人だそうです。
有料老人ホームの方は、入所費用が高くて富裕層でないと入れない。そういう中で、体が弱くなって困っている人たちをどこで治療するかということになったらとにかく賃貸住宅や古い空き家を借りたり、町工場にベッドを詰め込んだりして無届の介護ハウスが全国的に広がっているという報告がありました。そこでは、十分な世話は出来ずにほったらかしにされているという様な現実があるようです。
そういう中で一人暮らしの高齢者がどんどん増えていって、いまは6百万人に達しています。生活保護を受けている人もどんどん増え、かつては傷病者とか障害者の人たちが生活保護を受けていましたが、いまは高齢者の人たちが多くを占めています。昨年9月に8010万世帯を超えてしまいました。結局、生活保護費はいま、約3兆5千億円にのぼっています。
日本の防衛予算が大体5兆2千億円ですから、もう後5、6年経てば日本の防衛予算と同じくらいかそれを超える生活保護費を負担しなくちやいけない時代になっていきます。そこで生活保護を貰いながらパチンコに行く人たちに対して、あいつは怪しからん、人の税金で遊んでいるのは解せないと厳しい眼差しが注がれています。
最近問題になったのは別府市でした。温泉地の別府で25年間にわたって、市の職員が生活保護を支給した後、掌?いうふうに使われているかとパチンコ店内を視察したり、競輪場に職員を派遣して生活保護を受けている人を見かけたら注意したりしていました。
それでもパチンコや競輪を止めなかったら、医療費を除いて支給を打ち切るということをしてきました。しかしながら、そういう人たちが生活保護費を貰いながら遊んでいるといっても、生活保護費は与えられた人が自由に使えるお金なのですから、そこでいちいち注文をつけるわけにはいかないと厚生労働省が「待った」をかけ、結局、別府市はそのような措置を止めたのです。
生活保護は、最低の生活をする権利です。それを受け取って、自らの生活を立て直そうとする人たちを支えるお金なのですが、貰っている人に対する眼差しがどんどんきつくなっています。
年金についていえば、支給された年金だけで暮らそう思っても、なかなか暮らすことができません。皆さん方が、このことは深刻な問題としてご存知でしょう。年金がかつて設計された時には、家族と一緒に暮らしながら、老後の生活をしていくことを前提にしていて、支給額ですべて生活するようになっていません。
家族の一員として高齢者もこれくらいの額は必要でしょうという形で支給されてきた訳です。それがどんどん単身の生活をする人が増え、年金だけで生活しなくちやいけないという人たちも増えてきました。そこでどうしても生活費が足りないという問題が出てきます。
辛うじて暮らしていても一旦病気になったら、年金だけでは生活できない。「下流老人」というのが流行語になりましたけれども、いろんな人が都会の中では孤立してなかなか助けてと言えないような時代になってきた。認知症の人に対しても、とにかく精神科に依頼するほかない、という対応になってきています。10数年程前でしたら、それなりに会社勤めをして、それなりに少ない年金でもなんとか暮らしていけるかなというイメージを抱いて、人生設計を描いてきた人も多いかと思います。
しかし、いまではそれはとても無理です。さらに寿命が伸び、その中でまた病気になったら、もうどうしようもないほど厳しい生活に追い込まれていく。かつて長寿には良いイメージがありましたが、いまや長生きすればするほど生活が厳しくなり、「老後はブラック」というように受け止められています。
つづく
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